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26章 建国祭

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「そうですね。これは帝国としては動いてはいない。ただの実験の一端でしょう」

「シェリー。君は先ほども実験と言っていたな。こんな大規模な実験であれば自国でやればいい」

 シェリーの言葉にリベラは魔武器の実験を行うのであれば、自分の国で試し打ちでもなんでもすればいいと、憤っている。しかし、それはシェリーに否定された。

「リベラ大佐。恐らく帝国は一方的な虐殺だけでは意味がないと考えたのでしょう」

 20年に渡り帝国は密かに実験という名の虐殺を行ってきた。まるで邪神に生贄を捧げるような虐殺を。

「そもそも帝国の民は軍に立てつこうとはしませんので、帝国で実験を行う意味がありません。言う成れば、泥沼の戦争を引き起こしたかったのではないのでしょうか?」

「泥沼の戦争?何故だ?帝国にとって何の利益がある?魔武器を売り出すためか?」

 普通であればリベラの意見が真っ当だろう。帝国は外貨を稼ぐために、魔武器を他国に売りつけるべく他国同士で戦わせ、自国は高みの見物の如く、戦争を悪化させる武器を売りつける。それにより帝国は何一つ傷つくことなく、一人勝ちができると。

「神の慈悲を乞えるかどうか」
「は?」

 リベラは理解不能な言葉を言われ、シェリーを呆然と見ているが、クストはというとまたそんなくだらないことなのかと言わんばかりに、横を向いてため息を吐いていた。

「だから、人が集まる建国祭の時期を狙って、人が密集している第三層を狙ったのです。第9師団が担当した虐殺の跡が発見された事件は耳に入っていませんか?」

「いや、報告は受けている。受けているが、謎の怪事件と結論づけられたはずだ」

 リベラの言葉にシェリーはクストに視線を向ける。そのときには分からなかったが、後にナヴァル公爵家で、イーリスクロムに直接シェリーは説明したはずだ。ユーフィアの言葉と炎国の事件から帝国の意図がわかったと。
 これはイーリスクロムから軍に内容が説明されていないことが示唆された。

「第6師団長さん。どういうことでしょうか?」

「俺に聞かれてもなぁ。恐らく第4師団に陛下から直接話がいっているんじゃないのか?」

 シェリーが国王であるイーリスクロムに直接言ったにも関わらず、それは軍で共有されずに、一部の者たちだけに情報をもたらされた。このことにシェリーの中では『あのクソ狐何を考えている!』と憤っていた。

「確かに話の流れでは筋は通っているがな。あまりにも突拍子もない話だ。その話を信用するには何かしらの証拠が必要だ。嬢ちゃんが言っていることは、川が逆流しているからなんとかしてくれと言っているようなものなんだ」

 普通は神と関わることはない。そこに神の慈悲を乞いたいからと言っても、“なんだそれは?”となるのは必然的だ。
 そこに何かしらの信用できる証拠がなければ、帝国が虐殺を行ったとはいえない。今現在帝国がシーラン王国で行った暴挙は一つの街を制御石で操った事件のことのみ。

 ナヴァル邸に次元の悪魔を送り込んだ証拠もなければ、今回の王都襲撃の証拠もない。
 ただ状況的に帝国が行ったのであろうという予想が出来ただけだったのだ。

 だから一定の距離を置いている軍部と騎士団にイーリスクロムは確固たる証拠もないので、言い出せないのであった。

「ちっ!」

 思わずシェリーは舌打ちをする。脳筋うさぎ共のように突っ走られるのも困るが、イーリスクロムのように考えを巡らしすぎるもの問題だ。

「今回のことの私の結論は、魔武器の性能テストと他国同士の戦争の口火を切らし、人々の憎悪が混じった戦いの場で神が動くかという実験だったということです」

 シェリーは自分の意見を押し付けるように言った。国という組織は簡単には変わらないと。ただ、第0師団が本格的に稼働すれば、これも変わってくるのかもしれない。

「もう、ここには用はないので帰ります。それからユーフィアさんに伝言をお願いします。馬車バスの上部に機関銃は必要ありません。取り外してください。観光用であれば、あの大きさでも良いですが、あの大きさだと列車と同じルートしか通れません。第三層で運用するにしろ、第二層で運用するにしろ、もう少し小型化しないと、人が通行する道は通ることができません……とお伝え下さい」
「ん?き……キカン…ジュー?観光用?聞き慣れない言葉をいっぺんに言われても意味が分からなさすぎる」

 クストはシェリーが何が言いたいのかさっぱりわかっていなかった。
 実はあの馬車バスの屋根の部分には上部開閉扉がついており、シェリーが見るに機関銃に似たものが取り付けてあったのだ。

 ユーフィアの武器に対する向上心は誰もが認めるものだが、街の中を走行するようの乗り物に取り付ける理由はどこにあったのだろうか。
 これは何かに襲撃されることを見越して取り付けられたのだろうか。いや、どう見てもユーフィアの趣味だった。

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