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26章 建国祭

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「ただ気になるのは、ユールクスのダンジョンで生まれた完全体の悪魔か。どうも過去の記憶とは合わないな」

 炎王は戦った悪魔とも話に聞いてた悪魔とも違う印象があると首を捻っている。

「ユールクスさんも逃げるとは思わなかったと言っていましたので、個体差なのかもしれませんね。まぁ、今考えても仕方がないことです」

 シェリーは性格の違いを考えて予想をつけるのは、無駄なこととぶった切る。そして、シェリーは思い切って炎王に尋ねた。

「炎王。今回の火種は世界中に撒かれたのですが、炎国としてはどのような対応をされるつもりですか?」

 シェリーとしては、この世界中の者たちの中でも超越者として名を馳せる炎王を巻き込みたいと思っている。
 いや、シェリーが頼めば力を貸してくれるだろうとは予想している。しかし、個人で動くのと国という組織で動くのとでは、今後の対応が変わって来るのだ。

「国として動くということを決めるのは俺じゃない。五代目の炎王だ」

 最もな答えが返ってきた。国の事まで隠居している初代王が口出ししてくるのは、些か問題があると。

「俺個人としては護るべき者たちがいるから、勝手に動くだろうな」

 多種族の長でもある炎王はその者たちの為に刀を奮うと言葉にした。

「そうですか。まぁ、炎国の参戦は無いと思っていますので、いいですよ」
「だったら聞くなよ」
「一応確認です。今回の魔王は頭がいいようなので、こちらもそれ相応の対策をしなければならないと考えていたのですが……」

 シェリーはため息を吐いて愚痴を言った。

「はぁ。以前の討伐戦より圧倒的に戦える者たちが少ないではないですか。確かに私は魔王を倒すと決めていますが、ここまで大陸全土に次元の悪魔で宣戦布告されたのなら、私一人ではまかないきれないではないですか」
「佐々木さん。完璧に周りにいる彼らを置いて行っただろう」

 シェリーはツガイである彼らを戦力としては数えず、単独で行動しているような言い方に炎王が突っ込む。

「初めから数には入れていません」
「リオン。サボったツケが出てしまっているな」

 自分の血族であるリオンに、己は言っていたはずだぞという視線を向ける炎王。その視線をリオンは苦笑いを浮かべながら受け止めている。
 己の腕の中にはシェリーがいるというのに、全く戦力として数えられていない己に対してのあざ笑う笑みだ。

「しかし、まだ本格的には向こうも動かないだろう」

 炎王は魔王はまだ本格的に仕掛けてはこないとみているようだ。

「何故ですか?」
「冬はひとときの休息ね。なぜだかわからないけれど、悪魔共は冬になると鳴りを潜めるのよ。流石に年中無休で戦い続けていれば私達の方が負けていたわね」

 どうやらオーウィルディアが言うには、冬の襲撃はなかったらしい。

「だから、今回の襲撃は予想外も予想外。年明け早々に次元の悪魔がふってくるなんて、思いもよらなかったことよ」
「その情報はありませんでしたね」
「ああ、オリバーから?彼は性格が悪いもの。知っていることも敢えて聞かないと教えてくれなかったわ」

 女性同士の彼の愚痴を聞いて欲しいみたいな話の内容だが、首を横に振って可愛らしく肩をすくめても、オーウィルディアはガタイのよい中年のおっさんである。

「知っていますよ。何年一緒に暮らしていると思っているのですか」

 同棲している彼女の言い分のようだが、相手は義理の父親である。しかし、シェリーの側にいるツガイたちにとって、オリバーは面白くない存在であることに間違いはない。

「そこ、イライラするな。鬱陶しい。恨むなら弱い自分を恨め。それからさっさと魔眼の耐性をつけろ。時間がないぞ。このままだと数カ月後には戦いが本格的になるだろうからな」
「そうよねー。ナオフミでも一ヶ月は耐性を得るのにかかったのだから、あなた達……竜人の王子さまとグレイシャル以外は結構ギリギリかもしれないわね」
「これでは本当に佐々木さんに置いていかれるぞ」

 暖かくなる春まで3ヶ月。勇者の称号を得ている勇者ナオフミが一ヶ月かかったということは、それ以外の者たちは数ヶ月加算されるだろう。
 以前シェリーが言っていたように最低三ヶ月かかるとすれば、ギリギリの期間と言ってよかった。それは女神ナディアが催促するはずだ。

「だったら今から来ればいいわ」

 一人がけのソファーに悠然と足を組んで座っている赤髪の女性が存在していた。先程まで誰も居なかったはずだが、忽然と姿を現したのだ。

「これは女神ナディア様。その美しい姿を拝見出来るとは、恐縮でございます。今からということは、わざわざ女神ナディア様が迎えに来てくださったのでしょうか?」

 女神ナディアが顕れた瞬間にミゲルロディアは立ち上がり、頭を深々と下げる。

 これが国を守護する女神ナディアに対する敬意の現れなのだ。しかし、シェリーといえば、女神の出現に固まってしまったリオンの膝の上から、視線を向けるだけに留めたのだった。

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