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27章 魔人と神人
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シェリーは自分で言っておきながら、これはないなという心境に陥っていた。
そんなシェリーとは対象的にカイルは満面笑みを浮かべて両手を広げている。
しかし、カークス家では行ってはいないが、ハグが挨拶だという意味があることもシェリーは知っている。いや、知らなかったが、その昔オーウィルデイアが屋敷に滞在した時、別れの挨拶でオーウィルデイアの巨体にルーク共々絞め殺されかけたので、理解したにすぎない。
だからシェリーは自分自身に言い聞かせる。これは挨拶のようなものだと。この間10秒ほどかかったが、シェリーはスッとカイルに一歩近づき、触れるようなハグをして、離れようとしたところで、カイルに捕獲されてしまった。
いや、抱きかかえられてしまった。
「シェリー。このままキスして欲しいなぁ」
抱きかかえられてしまったシェリーは死んだ魚の目をしながら反論する。
「お願いは一つです」
「じゃ、このまま何処かに行こうか」
「行きませんよ。ラフテリア様とロビン様が待っているので向かってください……間違えました下ろしてください」
シェリーは慌てて言い直した。まるでシェリーを抱えたまま向かって欲しいと言っているようだと。
「うん。このまま行こうか」
「間違えたと言いましたよね」
「幸せだなぁ」
カイルはお願い事ということであっても、シェリーから来てくれたことが嬉しいようだ。こんな些細なことでも、幸せと言葉が出るなど、今までのシェリーの態度が如何にツガイに対して理不尽だったかということだ。
カイルに抱えられたままシェリーがたどり着いたところは、倉庫というよりも、自然の洞窟という感じで、切り立った崖にポッカリと口を開けた横穴だった。
「ここが倉庫だよ」
ロビンは先が見えないポッカリと空いた洞窟に向けて指を差した。やはり、ここが倉庫という名の不用品置き場なのだろう。
「あー。いいなぁ。ロビン、私も抱っこして欲しい」
カイルに抱えられたシェリーを見て、ラフテリアが羨ましいとロビンに抱っこを要求した。その頼まれたロビンは、シェリーとカイルの姿を見てクスクスと笑って、ラフテリアに向かって両手を差し出す。
ロビンがクスクスと笑っているのは、二人の表情の乖離が酷いからだ。カイルは満面の笑みを浮かべているもののシェリーは死んだ魚の目をして虚空を見ていたのだった。
ロビンから両手を差し出されたラフテリアは飛びつくようにロビンに向かっていき、抱きかかえられた。ラフテリアはとても満足そうにケラケラと笑っており、ロビンもそんなラフテリアを微笑ましく見ている。
番同士と番であった者同士の表情の差が酷い。
しかし、死んだ魚の目をしているシェリーはいつものことなので、カイルが気にすることではない。
「暗いけど、この先にあるんだよ」
ただ光を灯す『光魔法』を使ってロビンは先に進んでいき、その後にカイルが続いていく。
「空島?」
シェリーが突然洞窟内で言葉を発した。
「空島がある。火を上げて落ちていく。翼がある人たちと共に……これはなに?大戦時の記録?」
そんな言葉を発するシェリーは焦点が合っておらず、虚空を見ていた。
「あ、珍しいね。幻影灯に干渉されちゃったみたいだね」
ロビンはそんなこともあるだろうという感じでいうが、カイルは己の目にはないモノを見ているシェリーに焦りを感じている。シェリーは時々自分たちには見えないモノを見ている。それがカイルにとっては不安でしかない。
「綺麗だよねー。キラキラお星さまが降って来るんだよ」
そこにシェリーの言葉に反応したラフテリアが言葉を返す。どうやらラフテリアも同じものを見ているようだ。
「エリーがよくここに来てね。これを見ていると空島が何処に落ちたかわかるって」
どうやら、これは空の覇権を争ったときの記録をこの場に残したようだ。この戦いを後世に伝えなければならないと思った者がここに記録したものを残したのだろう。
「実はこの洞窟は入口が塞がれていて、エリザベートが見つけたんだ。僕には見えないけど、ラフテリアは綺麗だと気に入って、エリザベートは映像を文字に書き起こしていたね」
恐らくその記録を元に大陸の南側でアーク族の遺産を探り当てていたのだろう。
ロビンは綺麗だとはしゃぐラフテリアを抱えて、そのまま進み出す。カイルも足を進めるも、シェリーの様子が気になって仕方がないのだろう。
「人形兵器。オリバーが作った鎧に近いけど、まるで無尽蔵に魔術を連発している。動力源はなに?」
シェリーは上を見上げたまま、魔導兵というモノが気になっている。
「それは今からわかるよ」
ロビンが答えると、光が視界を支配した。いや、どうやら突き当りの扉を開けたのだろう。その先からまばゆい光が放たれていたのだった。
そんなシェリーとは対象的にカイルは満面笑みを浮かべて両手を広げている。
しかし、カークス家では行ってはいないが、ハグが挨拶だという意味があることもシェリーは知っている。いや、知らなかったが、その昔オーウィルデイアが屋敷に滞在した時、別れの挨拶でオーウィルデイアの巨体にルーク共々絞め殺されかけたので、理解したにすぎない。
だからシェリーは自分自身に言い聞かせる。これは挨拶のようなものだと。この間10秒ほどかかったが、シェリーはスッとカイルに一歩近づき、触れるようなハグをして、離れようとしたところで、カイルに捕獲されてしまった。
いや、抱きかかえられてしまった。
「シェリー。このままキスして欲しいなぁ」
抱きかかえられてしまったシェリーは死んだ魚の目をしながら反論する。
「お願いは一つです」
「じゃ、このまま何処かに行こうか」
「行きませんよ。ラフテリア様とロビン様が待っているので向かってください……間違えました下ろしてください」
シェリーは慌てて言い直した。まるでシェリーを抱えたまま向かって欲しいと言っているようだと。
「うん。このまま行こうか」
「間違えたと言いましたよね」
「幸せだなぁ」
カイルはお願い事ということであっても、シェリーから来てくれたことが嬉しいようだ。こんな些細なことでも、幸せと言葉が出るなど、今までのシェリーの態度が如何にツガイに対して理不尽だったかということだ。
カイルに抱えられたままシェリーがたどり着いたところは、倉庫というよりも、自然の洞窟という感じで、切り立った崖にポッカリと口を開けた横穴だった。
「ここが倉庫だよ」
ロビンは先が見えないポッカリと空いた洞窟に向けて指を差した。やはり、ここが倉庫という名の不用品置き場なのだろう。
「あー。いいなぁ。ロビン、私も抱っこして欲しい」
カイルに抱えられたシェリーを見て、ラフテリアが羨ましいとロビンに抱っこを要求した。その頼まれたロビンは、シェリーとカイルの姿を見てクスクスと笑って、ラフテリアに向かって両手を差し出す。
ロビンがクスクスと笑っているのは、二人の表情の乖離が酷いからだ。カイルは満面の笑みを浮かべているもののシェリーは死んだ魚の目をして虚空を見ていたのだった。
ロビンから両手を差し出されたラフテリアは飛びつくようにロビンに向かっていき、抱きかかえられた。ラフテリアはとても満足そうにケラケラと笑っており、ロビンもそんなラフテリアを微笑ましく見ている。
番同士と番であった者同士の表情の差が酷い。
しかし、死んだ魚の目をしているシェリーはいつものことなので、カイルが気にすることではない。
「暗いけど、この先にあるんだよ」
ただ光を灯す『光魔法』を使ってロビンは先に進んでいき、その後にカイルが続いていく。
「空島?」
シェリーが突然洞窟内で言葉を発した。
「空島がある。火を上げて落ちていく。翼がある人たちと共に……これはなに?大戦時の記録?」
そんな言葉を発するシェリーは焦点が合っておらず、虚空を見ていた。
「あ、珍しいね。幻影灯に干渉されちゃったみたいだね」
ロビンはそんなこともあるだろうという感じでいうが、カイルは己の目にはないモノを見ているシェリーに焦りを感じている。シェリーは時々自分たちには見えないモノを見ている。それがカイルにとっては不安でしかない。
「綺麗だよねー。キラキラお星さまが降って来るんだよ」
そこにシェリーの言葉に反応したラフテリアが言葉を返す。どうやらラフテリアも同じものを見ているようだ。
「エリーがよくここに来てね。これを見ていると空島が何処に落ちたかわかるって」
どうやら、これは空の覇権を争ったときの記録をこの場に残したようだ。この戦いを後世に伝えなければならないと思った者がここに記録したものを残したのだろう。
「実はこの洞窟は入口が塞がれていて、エリザベートが見つけたんだ。僕には見えないけど、ラフテリアは綺麗だと気に入って、エリザベートは映像を文字に書き起こしていたね」
恐らくその記録を元に大陸の南側でアーク族の遺産を探り当てていたのだろう。
ロビンは綺麗だとはしゃぐラフテリアを抱えて、そのまま進み出す。カイルも足を進めるも、シェリーの様子が気になって仕方がないのだろう。
「人形兵器。オリバーが作った鎧に近いけど、まるで無尽蔵に魔術を連発している。動力源はなに?」
シェリーは上を見上げたまま、魔導兵というモノが気になっている。
「それは今からわかるよ」
ロビンが答えると、光が視界を支配した。いや、どうやら突き当りの扉を開けたのだろう。その先からまばゆい光が放たれていたのだった。
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