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27章 魔人と神人

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 空島の映像から解放されたシェリーの目に映ったものは、真っ白な空間だった。壁も床も天井も何もかもが白く、その白く見える部屋全体が光源のように光っているのだ。 

 その不思議な部屋の中央には円柱状の柱が立っており、その奥には何やらガラクタが積み重なっているのだった。

「ここはもしかして空島の残骸なのですか?それもまだ機能している」

 シェリーはカイルに抱えられたまま白く光っている部屋全体を眺めていた。どう見てもこの世界の建築水準から逸脱しており、黒狼クロードから聞いていた空島の内部構造のように異界の水準が用いられているように見受けられる。

「そうなんだけどね。僕たちではここまでしか入れないのだよ。エリザベートが頑張って壁や床を調べて次の部屋に続く扉を探してはいたのだけど、見つからなくてね」

 ロビンは大戦時には空に浮かんでいた空島であることを認めたものの、大魔女であっても、この先に進むことができなかったという。
 周りを見渡しても白一色であり、扉があるようには見えない。

「それってエレベーターではないのですか?」

 シェリーは中央に天井を支えるように存在する巨大な柱を指して言った。

「え……れべたー?」

 聞き慣れない言葉にロビンは首を傾げ、カイルはまたシェリーがおかしな言葉を言いだしたと苦笑いを浮かべている。

「ここって崖の下ですよね。その崖の上層に行ける移動手段?魔道具?ではないのですか?」

 そう言っているシェリーの目には円柱状の柱に三角のボタンが映っているのだ。まるで上行きに乗りますよという印のようだ。

「あの?そもそもここに入るための扉に鍵は掛かっていなかったのですか?」

 黒狼クロード曰く、黒いカード型の魔力記憶装置があるはずだ。いや、空島が同じ機構とは限らないが、空島の内部構造をシュロスという者が手掛けたというのであれば、同じである可能性が高い。

「あ、そこの扉のことだね。リアが触ったら壊れたんだよ」

「壊れた?」

 ラフテリアが触っただけで、壊れるようなものなのだろうか。

「エリザベートが言うには、この空島の稼働する原理が人の心を力としているらしいんだよね。だから、人の悪の心の塊と言って良いリアが触ったことで、壊れたんじゃないのかって言っていた」

 まただ。ここでも、人の心をエネルギーとしていると。人の心をエネルギー体として使用できる技術が空島にはあったと?いや、これが変革者シュロスの力だとすれば、納得はできる。
 そして、人という存在が在る限り、心というものは存在し続ける。有限なエネルギーではなく、無限大のエネルギーとなるのだ。

 空島に人が存在し続けるのであれば、空島は稼働し続けられると。

 ただ、問題がラフテリアが触ると壊れたという点だ。黒狼クロードも浄化システムが稼働しなくなったために、上水の魔道具以外使えなくなったと言っていた。

 人の穢れた心はその魔道具はエネルギーとしては粗悪であり、壊れる元になったのだろう。

「だから、ラフテリアには手当たり次第触るなとエリザベートに注意されていたね。まぁ、今になっては僕も触ることができなくなったけれど」

 ロビンの身体の元は魔人マリートゥヴァであるため、ロビンも空島の機構に触るともちろん壊れる。

「まぁ、先にあそこにある残骸を見てよ。これが知りたかった魔導兵だよ」

 部屋の奥に積み重なっているガラクタを指していった。
 近づいて見てみると、鎧のような硬い外装に手足に銃口な物が取り付けられた、四足歩行の物だ。背中には突起があるもののそれで空を飛べるとは思えない。
 しかしカイルは空を飛んでいたと言っていたことから、部品が足りないだけなのだろうか。

「これの何処が壊れているのですか?」

 見た目には壊れているようには見えない一体の魔導兵をシェリーは指し示した。

「それは、他の魔人が触ったからだね」

「これもまた心を力の動力源にしていると言うのですか?」

「そうだよ」

 シェリーの言葉にロビンは同意する。

「カイルさん下ろしてもらえますか?」

 未だにカイルに抱えられたシェリーは、いい加減に下ろして欲しいとカイルに訴える。いや、もう少し近くで観察したいと思ったのだ。そして、壊れているというなら、オリバーの手土産にいいのではと内心シェリーは考えていた。

 何かとオリバーに文句を言っているシェリーだが、家族と認めているオリバーには、喜んでもらえるものなら、それを手土産とする優しさはある。ただ、オリバーが本気でこれを直そうとするのであれば、きっとシェリーは叩き壊すだろう。

 下ろされたシェリーは、間近で問題の魔導兵を観察する。

「安定性を持たすための四足歩行に、手が自由になる人形ひとがたをくっつけた。まるでケンタウロスみたい。馬じゃないけど」

 シェリーはブツブツと言って、外装を観察し、頭部部分に手を掛ける。恐らくここか下腹部に、この魔導兵を動かす何か仕掛けがあるはずだと、シェリーは当たりを付けたのだ。
 その時、パシッと鎧の空洞になった目の部分が放電した。
 シェリーはすぐさま距離を取り、そのシェリーの前にカイルがシェリーを守るように立つ。

「え?動くの?」

 ロビンの声と共に銃口になった手から、エネルギーの塊と言って良い、レーザービームが放たれたのだった。

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