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27章 魔人と神人
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エリザベートはテーブルの上に赤い鞄を置き、ベルトのように四角い赤い鞄に巻き付いている二本の革の留め具を外す。
そして、魔女の秘密が込められた赤い革の旅行鞄が大きく口を開けるように、片側を上に持ち上げられ、中身が顕になった。
「ミニチュアドールハウス?」
シェリーは目にした物をそのまま口にした。四角い鞄の底には、明かりが灯った二階建ての小さな家があった。
ツタが巻き付く玄関扉に、色ガラスがはめられ、中からの光が漏れ出ている。赤いレンガの外壁に黒い屋根から煙突がでており、そこからは煙がでている。まるで今でも小さな人が住んでいるようだ。
そして、小さな家の周りには、色とりどりの花が咲き乱れる庭に、その庭を横切るように小川が流れている。本物の水のように清らかな水が一定方向に流れているのだ。
まるで空間を鞄の中に切り取って入れたようだ。
「ドールハウス。いい響きね。昔は欲しかったわね。可愛いお人形」
そう言ってエリザベートはパチンと指を鳴らした。その瞬間、景色が変わった。
素朴な室内から、草の匂いが鼻腔をくすぐる空間に変わった。いや、中央に大きな釜があるのには変わりはない。
淡いランプの光に照らされた壁は、赤レンガの壁になり、吹き抜けの天井から乾燥した草が吊るされている。中央の大釜は何を煮詰めているのかわからないが、火が付いた竈門の上にある大釜からはボコボコと水面が湧き立っていた。
シェリーたちが座っている場所は、素朴な木のダイニングテーブルに付随する木の椅子だったが、座り心地の良いソファーに変わり、白い石造りのローテーブルに変わっていた。座り心地の良いと言ってもシェリーはカイルの膝の上に抱えられているので、何も変わらない状態ではあった。
「ようこそ。私の魔女の家に。ここには人を招いたことがないから、あなた達が初めての人よ」
「それはラフテリア様も招いたことがないということでしょうか?」
仲がいいように思えたラフテリアでさえも、この魔女の家に招いたことがなかったということだろうか。しかし、エリザベートはシェリーの言葉に首を傾げている。
「ラフテリアは人かしら?」
最もな疑問を投げかけられてしまった。ラフテリアが人かどうかと言われれば、元は人であった魔人だ。そしてロビンは一度死んだ生きた首だった。首だけで生きていた男を人と定義するかと言われれば、魔人ラフテリアに生かされた人だった者という定義になるだろう。
「ルティーは人かしら?」
エリザベートから誰か知らない名前が出てきた。どうも人とは言えないルティーという者がいるようだ。
「誰のことですか?」
「ああ、ラフテリアに首だけにされた者と言えばわかる?」
ラフテリアに首だけにされた者。そのように言われる者はただ一人しかいない。
「エフィアルティス殿下のことですか?」
「そうそう、首をねじ切られた可哀想な王子」
シェリーは理解を示したが、シェリーを抱えたカイルは話についていけず、誰のことを指しているのかわらなかった。
「すまないが、誰のことを言っているのかわからないのだが?聞いたことがある名前のようにも聞こえるが、どこの誰のことだ?」
殿下とか王子と言っているのであれば、どこかの国の王族という立場の人物ということは理解できるが、名前を言われただけでは思い当たることはなかったのだ。
「「死の国の王。ルナティーノ・トールモルテ」です」
シェリーとエリザベートの声が重なる。その名に玉座に座る異様な雰囲気をまとった黒い王の姿が思い出される。あの者を人と定義するのであれば、人とは人の形を姿を取っていれば、人と呼ぶことになるだろう。
「う……うん。人じゃないね」
死の王を人と言うには、いささか問題があった。吸血鬼の民の王である不死の王。
「そう言えば、死の王はエリザベート様と懇意にされていたと聞きました。長く生きているぐらいしか共通点はみられないのですが、どういう関係だったのですか?」
シェリーはふと気になったことを聞いてみた。死の王はあのアーク族に喧嘩を売って呪われていたのだ。普通であれば、アーク族と関わり合うことなんてない。ただ、アーク族と関わりがあるエリザベートが一枚噛んでいたとすれば、喧嘩をふっかける理由はできてくるだろう。
「ルティーとの関係ねぇ。私の浅はかな考えが引き起こしたことね」
関係と問われて、己が引き起こしたことだと口にしたエリザベート。問いの答えではないということだ。
「もう一度あの教会に行ってみたかったのよ」
エリザベートは遠い目をして話をしだした。
「私が殺された教会にね。あの後どうなったか気になっただけだったのよ」
殺された教会。ラフテリアに殺された教会といえば、ラフテリアがロビンの死を目の当たりにし、魔人と成り人々を虐殺し、目の前のエリザベートの一度目の死を与えられた場所のことだった。
そして、魔女の秘密が込められた赤い革の旅行鞄が大きく口を開けるように、片側を上に持ち上げられ、中身が顕になった。
「ミニチュアドールハウス?」
シェリーは目にした物をそのまま口にした。四角い鞄の底には、明かりが灯った二階建ての小さな家があった。
ツタが巻き付く玄関扉に、色ガラスがはめられ、中からの光が漏れ出ている。赤いレンガの外壁に黒い屋根から煙突がでており、そこからは煙がでている。まるで今でも小さな人が住んでいるようだ。
そして、小さな家の周りには、色とりどりの花が咲き乱れる庭に、その庭を横切るように小川が流れている。本物の水のように清らかな水が一定方向に流れているのだ。
まるで空間を鞄の中に切り取って入れたようだ。
「ドールハウス。いい響きね。昔は欲しかったわね。可愛いお人形」
そう言ってエリザベートはパチンと指を鳴らした。その瞬間、景色が変わった。
素朴な室内から、草の匂いが鼻腔をくすぐる空間に変わった。いや、中央に大きな釜があるのには変わりはない。
淡いランプの光に照らされた壁は、赤レンガの壁になり、吹き抜けの天井から乾燥した草が吊るされている。中央の大釜は何を煮詰めているのかわからないが、火が付いた竈門の上にある大釜からはボコボコと水面が湧き立っていた。
シェリーたちが座っている場所は、素朴な木のダイニングテーブルに付随する木の椅子だったが、座り心地の良いソファーに変わり、白い石造りのローテーブルに変わっていた。座り心地の良いと言ってもシェリーはカイルの膝の上に抱えられているので、何も変わらない状態ではあった。
「ようこそ。私の魔女の家に。ここには人を招いたことがないから、あなた達が初めての人よ」
「それはラフテリア様も招いたことがないということでしょうか?」
仲がいいように思えたラフテリアでさえも、この魔女の家に招いたことがなかったということだろうか。しかし、エリザベートはシェリーの言葉に首を傾げている。
「ラフテリアは人かしら?」
最もな疑問を投げかけられてしまった。ラフテリアが人かどうかと言われれば、元は人であった魔人だ。そしてロビンは一度死んだ生きた首だった。首だけで生きていた男を人と定義するかと言われれば、魔人ラフテリアに生かされた人だった者という定義になるだろう。
「ルティーは人かしら?」
エリザベートから誰か知らない名前が出てきた。どうも人とは言えないルティーという者がいるようだ。
「誰のことですか?」
「ああ、ラフテリアに首だけにされた者と言えばわかる?」
ラフテリアに首だけにされた者。そのように言われる者はただ一人しかいない。
「エフィアルティス殿下のことですか?」
「そうそう、首をねじ切られた可哀想な王子」
シェリーは理解を示したが、シェリーを抱えたカイルは話についていけず、誰のことを指しているのかわらなかった。
「すまないが、誰のことを言っているのかわからないのだが?聞いたことがある名前のようにも聞こえるが、どこの誰のことだ?」
殿下とか王子と言っているのであれば、どこかの国の王族という立場の人物ということは理解できるが、名前を言われただけでは思い当たることはなかったのだ。
「「死の国の王。ルナティーノ・トールモルテ」です」
シェリーとエリザベートの声が重なる。その名に玉座に座る異様な雰囲気をまとった黒い王の姿が思い出される。あの者を人と定義するのであれば、人とは人の形を姿を取っていれば、人と呼ぶことになるだろう。
「う……うん。人じゃないね」
死の王を人と言うには、いささか問題があった。吸血鬼の民の王である不死の王。
「そう言えば、死の王はエリザベート様と懇意にされていたと聞きました。長く生きているぐらいしか共通点はみられないのですが、どういう関係だったのですか?」
シェリーはふと気になったことを聞いてみた。死の王はあのアーク族に喧嘩を売って呪われていたのだ。普通であれば、アーク族と関わり合うことなんてない。ただ、アーク族と関わりがあるエリザベートが一枚噛んでいたとすれば、喧嘩をふっかける理由はできてくるだろう。
「ルティーとの関係ねぇ。私の浅はかな考えが引き起こしたことね」
関係と問われて、己が引き起こしたことだと口にしたエリザベート。問いの答えではないということだ。
「もう一度あの教会に行ってみたかったのよ」
エリザベートは遠い目をして話をしだした。
「私が殺された教会にね。あの後どうなったか気になっただけだったのよ」
殺された教会。ラフテリアに殺された教会といえば、ラフテリアがロビンの死を目の当たりにし、魔人と成り人々を虐殺し、目の前のエリザベートの一度目の死を与えられた場所のことだった。
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