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27章 魔人と神人
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しおりを挟む「言われてみればそうか……ラ◯ュタも城と庭園ぐらいの大きさだったな」
「それは飛◯石の問題でしょう」
残念なことに、このシュロス王とシェリーの言葉に突っ込む者が誰もいない。せめて、炎王か陽子が居ればそういう問題ではないと言っていたことだろう。
「飛◯石の問題か……街一つ分ならどうだ?」
「上空1万メートルなら問題ないのでは?」
「高度1万……それって空気が薄いし、寒いじゃないか」
誰か、この二人にそういうことではないと、言う者はいないのだろうか。しかし、残念なことにこの場には、シェリーとシュロス王しかいない。
だが、シュロス王が言うように、この空島が浮かんでいる高度はかなり低い。だから余計に巨大に見えるのだ。
「積乱雲の中でも、大丈夫な物を作ればいいではないですか」
「うーん。それはかなり改良がいるな……そう言えば佐々木さん。俺のことをおかしな風に呼んでいたな」
シュロス王はうなりながら、宙を見ていた視線を、シェリーに向けて聞いてきた。シュロス王として呼んだことに対して、おかしな風と表現したのだ。
「何ですか?シュロス王ではないのですか?」
「いや、俺に与えられた名前はシュロスだが、王ではない」
これまたおかしなことをシュロス王は言っている。王ではない。それはどういうことなのだろうか。
「貴方は先程、国を創ったと言ったではないですか。それは王ではないのですか?」
「あ?これは虚無の国だぞ」
虚無の国。この言葉が意味することはここには住人がいないということだ。
この言葉にシェリーは、クソ虫でも見るような視線をシュロスに向けた。本当にゲーム感覚だけで、これを創り上げたのだと。
「なんだよ!何もミッションを出さないのが悪いんだ!民が必要ならそう言えよ!」
シュロスは未だにここをゲームの世界だと思っているようだ。それも国を作る系のゲームと認識している。
「何がエンディングを迎えるのに必要な要素か今のうちに言えよ!あと半年でセンター試験なんだ……ここで何年も過ごしているから終わっているかもしれないが」
センター試験というこの世界では聞くことがない言葉を耳にしたシェリーは、頭が痛いと言わんばかりに、額に手を当てた。
因みにセンター試験は2020年1月で最後となっているため、彼がいた年代がわかるというものだ。
「はぁ。私は言いましたよ。帰れませんよと」
「ああ?そんなはずはないだろう!まだフルダイブ式はアニメの世界だけだぞ!」
彼はどこまで行ってもゲーム脳だった。帰れないイコール、アニメの影響を受けてゲームの世界から出られない設定を構築してしまっていた。
「はぁ……」
そんなシュロスにシェリーのため息が止まらなくなっている。まさかこんなに融通が利かない馬鹿だったとは。
「貴方のあの世界での最後の記憶は何ですか?」
「お前には関係ないだろう!」
「私には関係なくても、貴方にはありますよね」
シェリーの言葉に、渋々口を開くシュロス。
「親父と進路のことで、喧嘩になって殴られたんだよ」
親と子。何度かぶつかり合う中の一つに、進学というものがある。親が望むものと子が望むもの。それは必ず同じとは限らない。
それが元となり、彼はあの世界を去ることになったと考えられる。しかし、それもまた彼が帰りたがっている理由になるのだろう。
「俺の未来は俺のものだろう!」
これは反骨精神から来るものだった。己が言っていたことが正しいと証明するには、その道を進み続けて、成功という結果を残さないといけない。
その言葉にシェリーはシュロスに理解してもらうことは諦めた。そもそも、なぜ自分はこれを見せつけられて、ゲーム脳のシュロスと話をしなければならないのか、理解できないでいた。
「確かに貴方には、貴方にしか出来ない役目を与えられています」
「それはなんだ!」
答えを急くシュロスにシェリーは首を横に振る。この答えは自分自身で見つけるものだ。天津も炎王もクロードも陽子もユーフィアも、自ずと世界が望む道に進んでいった。いや、世界がそのような人物を招いたと言ってよかった。
だからシュロスは、このままゲーム脳でいるべきなのだろう。
「私は白き神から聖女の役目を与えられました。貴方も神の声を聞き、神の望む事を成せば、元の世界に行くことはできるかもしれません」
シェリーは帰れるとは言わない。白き神はこの世界で生きて骨を埋める事を望んでいる。
「おっ!それはイベントだな!どこに行けば神の声を聞くことができるんだ?」
「どこでも……ただ他の神々もいますから、貴方をこの世界に呼んだ白き神に尋ねるのです」
「くわぁー!神の声を聞き分ける無茶ゲーか!」
この残念過ぎるシュロスの姿にシェリーは、先程からクソ虫を見る視線を投げ続けているのだった。
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