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第13話 聖質持ちの特性

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「何ですか! あれは!」

 私は戻って来た早々にお姫様から、怒られてしまった。何故怒られるのだろうか?
 意味が分からずに首をひねってしまう。

「ボス。何故、私は地面に座らされて怒られているんだ?」

 そう、私はテントの地面に座るように言われ座らされている。ここは立ち飲みバーみたいな感じの場所だったので、テントの地面は普通に土だ。微妙に小石が足に当たって痛い。

「途中で死にかけの帝国の軍人も治療して拾ってきたのに?」

 あの古代魔道具は使用範囲があったらしく、範囲外に命からがら逃げた帝国軍人が数人いたので治療して、転移で戻ってきたのだ。この仕打ちは酷くないだろうか。

「わたくしはそのようなことで怒っておりません! その力があれば我が国を助けられたのではないのですかと言っているのです」
「あ、それはないよ」
「つっ―――! なぜですか!」

 何故って言われても……あれ? もしかしてこのお姫様は、ミルガレッド国が何をしたか知らない? 
 そう言えば、私は教えていないな。ボスもわざわざそんなことを教えるタイプじゃない。

「ミルガレッド国は帝国に対して二回、神器を使おうとした。これが皇帝の逆鱗にふれた。だから見せしめに滅ぼされたんだ。まぁ、未遂だったけど」
「え? 神器を使用したのですか?」
「ほら、皇帝の前に引きずり出されたときに、誰かが何かを叫んで、首を吹き飛ばされた時があったよね。それが二回目のときで、一回目は講和条約を結ぶ風を装った王太子が使ったんだよ」
「お父様が……」

 そう呟いたお姫様は土の地面に倒れ込んでしまった。
 流石に情報量が多かったかな?

「流石、魔王だな。ミルガレッド国の神器を使われて無事だったんだな」
「ボス。一度目のヤバい方は私が阻害したよ」

 何? その目は?

「やっぱり帝国に逆らうってことは、魔王と悪魔を敵に回すってことだよな」
「その地獄に叩き落されるみたいな言い方やめて欲しいな」
「は? 何を言っているんだ? これを見て地獄じゃねぇって言うやつがいるのか?」

 ボスはテントの入り口をめくって、白銀の世界を私に見せた。うん。まぁ……あれだ。

「極寒地獄だね」
「だろう?」

 得意げな顔して言わないで欲しいな。ボス。




「は? なにそれ?」

 私は耳を疑ってしまった。ちょっと待って欲しいな。
 ここは夫人に待ってもらっていた戦場から遠く離れたクモンドールの街だ。そこそこ大きく、物資の流通量が豊富なので、拠点にするにはいい場所だ。因みに物資の流通が滞手いないのは、ボスのいくつか持つ顔の一つの食料調達の隊商が出入りしているからだ。

 一旦そこまで戻って来た私は、ボスに呼び出されて、地下の拠点でボスと対峙していた。
 長椅子に偉そうに足を組んで座って煙草を吹かしているボスの向かい側に、椅子の上に片足を上げて行儀悪く座っているのが私だ。因みに夫人は私の後ろに立っている。

「流石に古代魔道具を出されてはどうにもならねぇ。この事業から一旦手を引く」
「まぁ、そうだろうね。そこはいいよ。その後の話だよ」

 はっきり言って戦いも激化していくのは目に見えている。後方もいつまでたっても安全とは限らない。

「ああ、それで問題になるのは女たちの処遇だ。それで本人たちの意見を聞いて振り分けた」
「うん。それは良いことだ」
「その内何人かが、てめぇについていきたいと言っている」

 ボスの言葉に私は頭を抱えた。私は何人も面倒を見る余裕はないよ。お金は夫人の辺境領からいくらかもらっているけど、言うほど多くない。

「悪いけど、そこまでの余裕はないよ。いろいろとね」
「そうだろうな。勿論、人を押し付けるだけじゃねぇ。使っていたテントをやろう。あと移動手段の荷馬車を二台だ」

 それはありがたい。ありがたいが、それ以外にも問題がある。

「はっきり言って、私がやっていることは過酷だ。泣き言を言うやつは要らないよ」
「半分ほどはてめぇが海賊から助けたやつらだ。もう半分はあそこで助けた奴らだ。そして、おひぃさんだ」

 私は最後の言葉に項垂れる。彼女が一番問題だ。
 やっていけるのか?

「まぁ、てめぇの側だと助けてもらえるという打算もあるだろう。だが、あいつらは戦場で一人さまよっているてめぇを見ているんだ」
「いや、普通は見えないよ。だって私は戦地の一番中心にいるのだから」

 すると、ボスは私を指さしてきた。なに?

「てめぇみたいな聖質持ちは暗闇で光って目立つんだよ」
「知っているよ。だから常時結界を張っているんじゃないか」
「幽霊みたいだからな。戦場に現れる幽霊って噂されているぐらいだしな」
「それも知っている」

 最近は幽霊の噂が流れているから、攻撃されなくなってきたぐらいだしね。
 まぁ、私程光るのも珍しい。聖質の量が普通の人とは違うと、じぃが言っていたからね。

「ということで入って来い」
「いや、私は了承してはいない」

 ボスは、振り向いて人を呼びつけた。すると、20人ほどの女性が薄暗い地下室にはいってきたのだ。

「あとは、お前たちでこいつを説得しろ」

 ボスはやることはやったと言わんばかりに、この場を去っていった。
 いや、これは実質押し付けじゃないのか?

「先生、皆さん覚悟をされている顔をされていますよ。最初は戸惑うこともあると思うと思いますが、ご自分の足で歩こうとされています」
「はぁ」

 夫人の言うこともわかる。彼女たちは行き場がないのだ。元々奴隷でボスに借金をしているのであれば、どこかで働かざる得ない。しかし、私は彼女たちに給金は支払うことはできない。できることは最低限の生活の保障だけだ。そう食べることと、身に着けるもの、そして雨風を防げる最低限の居場所。

「言っておくけど、私は君たちを養うことはできない。給金も払えない。だけど、働くことを求める最低な奴だ」
「先生。言い方が悪いです」
「いや、実際そうだ。戦地で治療してもお金を請求することはできない。移動途中の村々で僅かばかりの食事やお金と引き換えに治療を行って賄っている。そして、やってもらうことはとても過酷だ。きれいごとなんてありはしない。それでも私についてくるというのか?」

 私は、雇い主としては最低なことを言った。普通であれば、私の下で働きたくないという条件だ。お金は払わないのに、仕事はしろと言っているのだ。まるで奴隷のようにだ。

「わかっているよ。あたいなんて弟の薬代のために身売りしたんだ。いろんな仕事したさ。あたいの弟よりちっさいあんたができて、あたいができないことはないだろう?」
「そうさねぇ。誰かに養ってもらえるんなら、それが一番いいさねぇ。でもうちらはお前さんに助けられてボスに助けられた。その恩を返させてくれないかい?」
「そうよ! わたくしを助けたのなら、その責任を取りなさい! あなたの言う通りわたくしのことはわたくしで、できるようになりましたわ」

 お姫様。その『わたくし』は直らないのだろうか。それは追い追い直していくしかないか。まぁ、泣き言を言うのならボスのところに送り返せばいいか。

「わかった。じゃ、君たちは何ができるか見てみようか」

 そう、夫人は治療ができない。聖魔法を使える素質がないからだ。その代わり水魔法に特化している。だから、患者の身を清めたり、水を与えてもらっている。

 私についていきたいと言ってきた女性たちは何ができて、何をしてもらうか決めなければならない。


「ははははは。流石ボス、その辺りにぬかりは無かったということか」

 私は20人の女性たちの前で、頭を抱えていた。マジで、私に面倒を見さす気だ。
 そう、ボスはきっちりと人選をしてきたのだ。ただ単に余ってきた人を送ってきたわけじゃなかった。

「まさか全員が聖質持ちだったなんて」

 いや、お姫様は聖質持ちだとわかっていた。カルアに連行されている地下道の映像の端に、聖質特有の光が映り込んでいたからだ。だから、私は彼女を攫っていこうと提案したんだ。
 そして、お姫様を除いた19人の女性たち。お姫様ほど体の外に漏れ出るほどの聖質は持ってはいないけど、簡単な治癒ができるほどの素質はあった。人手が欲しいと言っていたから、これだけの人を集めてくれたのだろう。

 なんだかんだと口は悪いがボスは優しい。

「いいだろう。次の戦場はカタルーラだ。開戦までは時間がある。それまできっちり叩き込んでやるから、弱音は吐くなよ」
「「「はい」」」
「先生。アランバルトの戦場は引き上げるのですか?」

 夫人がここを立ち去るのかと聞いてきた。ここ数日戦場に出向いていないから薄々は気が付いていただろうけど、念のため確認してきたのだろう。

「あそこはもう駄目だ。皇帝と皇帝の犬どもが動くことが決定された。戦争じゃなくなるところには私は手を出さないよ」
「わかりました。カタルーラまでの道を確認しておきます」

 夫人はこういうところも気がきく。途中で立ち寄れそうな町や村を調べてくれるのだ。そこで、小銭を稼がないといけない。人が多くなると資金面が苦しくなるのが困るな。

「どういうことだい? 戦争じゃなくなるって?」

 それは気になるよね。今までアランバルトとの戦いの戦場にいたのだから。

「ああ、そうだね。皇帝は私と同じように力の暴力を奮うって言えばわかるか? それは戦争じゃない。ただの虐殺だ。そうだろう? お姫様」

 レオンの力をまじかで触れたお姫様に聞く。彼女は私が皇帝と皇帝の犬の言葉を出したことで、がたがたと震えていた。

「と、いう感じになるってことだね。さて、質問は終わりでいいかな?」

 私は場所を移動するために、立ち上がった。

「あの? なんとお呼びすればよろしいのですか?」

 一人の女性から声が上がった。まぁ、私は雇用主になるから呼び名は必要だよね。賃金を払わない雇用主だけど。

「先生と呼ぶように」

 こうして私は突然の大所帯で移動することになったのだ。




「いやぁ、助かりました。この辺りには治療師の方が来られることもありませんからのぅ」

 安全にテントを張らせてもらう場所の確保と少々のお金を稼ぐために、小さな村に立ち寄ったのだ。山間部の小さな村なので、わざわざ治療師が来ることもないだろう。

「お礼はこれでいいかのぅ?」

 腰痛が改善したご老人は何かの動物の足を一本差し出してきた。

「ありがとうございます」

 そう言って受け取る金髪の美少女。まぁ、こんな辺鄙なとこではお金など使用するところなどなく、物々交換が当たり前だ。食料の確保も大事なことだ。有り難くもらっておく。イリアがだ。

 今は私についてくると決めた彼女たちに実践をさせている。私は背後で偉そうに指示を飛ばすだけで、ダメなときは手を出すぐらいにしている。

 こういう風に村や町を回っている間に治癒を完璧にできるようになっておかないと、いざというときに手が震えてできないとなってしまう。いや、きっとなるだろう。だから、患者がいれば治療する。その意識づけをしているところだ。

 そして、一番治癒ができるようになったのがお姫様のイリアだ。
 今は彼女を鍛えることを中心にしている。まずは一人だけでも完璧に治癒ができるようになって欲しい。
 ただ、問題は私がいくら教えても、魔法陣を使った治癒ができなかった。魔法陣の治癒ははっきり言ってチート級だ。無くなった四肢も再生するぐらいだ。

 だが、彼女たちは詠唱術式しか使えなかった。
 あれだ。女神うんちゃらかんちゃらの慈悲を願いとか言わなければならないやつだ。詠唱破棄も使えなかった。

 詠唱破棄ぐらい使えるようになれと言ったら、普通はできないと夫人に諭されてしまった。
 マジか……。

「しかし女子おなごばかりじゃが、護衛はやとわんかったのか?」

 お爺さんがイリアに聞いてきた。確かに心もとないが、男手を入れると面倒なのだ。
 いいか? ここにいるほとんどの女性たちは、ボスに戦場の後方に駆り出された人たちだ。そう見た目がいい。そして、一番見た目がいいのがお姫様のイリアだ。

 男女の問題が出てくるに決まっているじゃないか! 惚れたはれたとか言って、二人の愛の逃避行だなんてされてみろ。ボスに消えた理由をなんていうんだ?
 絶対に私の管理の行き届き不備をぐちぐちと言われるに決まっている。

 これ以上ボスに借りを作るのはだめだ。

「護衛を雇う余裕がないのです」

 イリア。正直に言い過ぎだ。資金がないもあるが、もう少し言い方というものがあるだろう。

「それは……最近はこの辺りに物取りが現れると聞いておってのぅ。気をつけるがよい」

 ほら、凄くお爺さんに同情的な視線を向けられているじゃないか。
 しかし、物取りか……盗賊のたぐいか? 一応、気を付けておこうか。


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