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本編

ロベルト・ウォルスの苦悩 1

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 俺、ロベルト・ウォルスは舞台上に立たされ、多くの人間たちの視線に晒されていた。舞台の端にいる人物がベルを鳴らした途端、会場にどよめきが広がった。俺の運命が決まってしまった瞬間だ。
 どうしてこのようなことに、なってしまったのか。すべては、あの女のせいだ。

 あの女、ユーフィア・コルバートというコルバートの魔女と言われている女だ。

 その名前を初めて聞いたのは帝国アールミア学園の学生時代のときだ。そこは軍人幹部を育成するための学園で人の扱い方、戦術、魔武器の扱い方などを教育するところだ。
 魔武器 、これは身体能力が獣人と比べ劣る人族のために発明された魔術式が組み込まれた武器のことだ。
 最近、コルバート領で次々といろんな物が発明されていることに興味を持ちコルバート辺境伯爵の嫡男であるアランフィル・コルバートに話かけた時のことだった。

「魔武器?残念だけど俺はよく分からないなぁ。作っているのは一番下の妹だ。」

「妹?複数の魔術を物に定着させるなんて、魔導師なのか?俺たちよりも年下で、魔導師なんて凄いじゃないか。」

「あれを見ていると得体のしれない何かだと思えてくるよ。ユーフィアは3歳の時に作物が魔物に食い荒らされて、どうにかならないかという領民の苦情に対し、魔道網を作り出したのだ。」

「最近、魔物が多発する地域の石壁がない村や町を囲うのに使われているな。」

「今年で10歳になるけど、試し撃ちっと言いながら狂暴なイアール山脈の魔物を狩ってくる子供なんて気味が悪過ぎだろ?」

「面白い話をしているね。」

 俺達の話に割り込んできた声がした。声の先を目線で追うとそこにはこの国の第二皇子である、サヴァンコスタ・マルス殿下がいた。これが俺達3人の出会いでもあり、親友と呼ぶ存在を得た瞬間でもあったのだ。

 2回目にその名前を聞いたのは王都の屋敷で謹慎中のときだ。
 なぜ、謹慎をさせられているかといえば、事の発端はアランがサウザール公爵家の令嬢であるエルフィーア嬢に一目惚れした事を相談されたのだ。
 エルフィーア嬢には番がいて結婚をすることも決まっていたはずだ。番がいてはいくら辺境伯爵の嫡男であっても無理な話だ。
 それでも、一度でいいから会って自分の思いを伝えたいとアランがいうので、サヴァンコスタ殿下がわたしの名を使って城に呼び出せばいいと言ったのをアランはそれを実行してしまったのだ。
 
 お茶席を設け、番がいる令嬢に告白するなど誰かの耳に入れば醜聞にしかならないため、エルフィーア嬢の連れて来た侍女は殿下の名で別室で待機してもらい、令嬢一人に対しこちらは男三人だ。
 普通ならアランが話をして終わりなのだが、アランのヤツが令嬢の前に置いてあるお茶に一服盛っていたのだ。
 エルフィーア嬢の様子がおかしいことからアランを問いただすと皇都の路地にある怪しい店に、飲ますと目の前の人物が好きになるというモノだった。
 どう見てもこれは媚薬だろう。こちらも若い男三人だ。後はなし崩しに事に及んでしまった。

 その後、隣国と戦争かというところまで行ったみたいだが、この世界情勢で話し合いの結果無くなり、個人的な制裁で済ますことになったのだが 、極刑を言い渡されたことで父親であるウォルス侯爵が掛け合ってくれたおかげで、己の首は未だに繋がったままだが、ユーフィア・コルバートを娶らなければならなくなった。
 アラン曰く、歳上にも手を上げる狂暴でしつけがなっていない女。(兄が勝手に魔武器を持ち出そうとしたので、殴り簀巻きの刑で地下牢行きにしたユーフィア。)
 笑いながら山脈を駆け抜け、魔物を蹂躙する女。(新しい魔武器の性能に満足しているユーフィア。)
 魔物を笑いながら切り裂いていく狂った女。(いい魔物の素材に巡り逢えたことに喜んでいるユーフィア。)

 そんな恐ろしい女が俺の妻になるなんて、俺は生きて行けるのか?

 結婚式の当日になってしまった。俺は軍の施設にある執務室にこもっていた。部下が今日は結婚式ではないのですか?と問いかけてくるが、恐ろしい女との結婚式なんて出来るはずないだろ!バカか。
 引きこもっていたら、サウザール公爵家の立会人の遣いだという人物が訪ねてきた。俺は絶対に行かない。部下に誓約書にサインだけすればいいのだから、それを取ってこいと命令した。これで、式には出なくて済んだ。明日の昼には第5次討伐隊の出立式があるので、会わなくてすむだろう。

 式が無くなったのだろう。部下とサウザール公爵家の立会人という人物が執務室に入って来た。誓約書にサインをし、それを手渡したときに立会人の人物がサウザール公爵の伝言を言い渡してきた。

「『お前は必ず生きて帰って来い、そして、死ぬまでユーフィア嬢と籍を共にしろ。そうすれば、それ以外は好きに生きる事を許そう。』」

 なんだ?どういう意味だ?それはユーフィア嬢と正式な夫婦でなくても形だけでいいからウォルス侯爵家に置いておけということか。それでいいのなら、俺の好きに生きていいのなら、幾分か気分が晴れた。

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