6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった

白雲八鈴

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炎国への旅路編

5話 襲撃!!

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 少女の屋敷を後にした私は早速、浮遊の魔導術を施した馬車を作ろうと決めました。なぜなら、年に1度はナヴァル領を訪れるのですが、馬車を使って領地に向かうのです。

 2日程の旅になるのですが、振動が体に響くのです。この王都の整備された路面でも石畳のため多少の凹凸があり、ガタガタと振動があるのです。
 それが、地道になるというなら言わずもがな、いくらクッション性がいい座席でも、クストの膝の上でも振動は響くのです。

 個人的には転移でも、スクーターでも、騎獣に乗って移動するのでもいいのですが、貴族の威厳というものが、それでは駄目だと言うのです。仕方がなく一年に一度のことと我慢をするのですが、それから解放されるなんて素晴らしいです。流石転生者だけのことはあります。

 振動が止み、馬車が止まったようです。御者が馬車の扉を開けてくれるのを待っていると、何やら外が騒がしいくなってきました。

「奥様、扉から離れてください。」

 マリアに言われ、なるべく扉から距離をとります。遠くの方からセーラが『この駄犬、待ちなさい!』と言う声が聞こえますので、クストが戻ってきているのでしょう。ですが、まだお昼の時間にもなっていません、どうしたのでしょう?

 馬車の扉のノブがガチャガチャと外から動かされています。開かないのですか?あ、どうやらマリアが内側の鍵を掛けているようです。
 今度は外から扉を割れんばかりに叩かれています。セーラの声が聞こえなければ、襲撃と勘違いしそうな程の恐ろしさです。

「おい!開けろ。中にいるんだろ!」

 掛け声と共に叩かれる振動は大きくなっていき、馬車自身が揺れだしました。
 これは考えさせられることですね。馬車の中にいて襲撃されても対処ができる防衛機能も付けた方がいいと言うことでしょうか。

「何故、出てこない!俺に言えない事があるのか!ユーフィア!」

 なんのことでしょう?

「出ていかないのは、御者の方を押しのけた方から、襲撃されているからです。」

「襲撃・・・。」

 その言葉と共にドサリという音が響き、馬車の揺れも収まりました。

「奥様、お待たせしました。」

 御者の方の声が扉の外から聞こえ、マリアが内鍵を開けます。外から扉が開かれ、先にマリアが降り、続いて私がマリアに手を取られ外に出ました。

 屋敷の玄関前には屋敷の人達が出迎えの為に並び『おかえりなさいませ』と皆一様に頭を下げていますが、クストはどこでしょうか?先程まで馬車を襲撃していたはずですが、どこにも見当たりません。

「マリア。クストが見当たらないのですが、何処に行ったのでしょう?」

「旦那様は足元に転がっていらしゃいます。」

 下を見ますと、シクシクと泣いているクストがいますが、一体どうしたのでしょう?先程は凄い勢いで馬車を叩いていたと言うのに、何が泣くことがあったのでしょう?

「クスト。お仕事はどうしたのですか?まだ、お昼にもなっていませんよ。」

 クストはシクシクと泣きながら

「ユーフィアが・・・。」

「私が?」

「ユーフィアが出ていったと聞いたから?」

「私が出ていった?出掛けることはよくあることですが、それの何処に問題がありましたか?」

 技術者ギルドに行くこともありますし、貴族の付き合いというものもありますから、出掛けることはよくあります。

「西第一層門を通ったと聞いた。西地区に行くことなんてなかったのに。」

 確かに第一層門を通って行くのは東地区の技術者ギルドぐらいです。もしかして、私が門を通る度にクストに報告が行っているのですか?それはちょっとプライバシーの侵害の域にありませんか?

「それのどこに問題がありますか?クストの長期休暇が取れるように相談をしに行ってきただけですよ。」

「何!」

 クストは素早く立ち上がり、私を抱きしめながら

「長期休暇が取れるのか?」

「それはクスト次第ですが、お仕事は行かなくていいのですか?」

「かまいません。その話を伺ってもよろしいでしょうか?」

 振り向くとルジオーネさんがいらしてました。きっとクストを迎えに来たのでしょうが、長期休暇の話をするのですか?

 ゆっくりと話ができるように場所を室内に移動し、セーラにお茶を入れてもらいました。クストの膝の上に座らされ、お茶を一口飲みます。やはり、いつもの紅茶の香りと味です。あの少し甘みのある花の香りと果実の香りのする紅茶はどうやって手に入れたのでしょう。

「奥様。私の入れた紅茶に何か問題がありましたか?」

 おかしな表情でもしてしまったのでしょうか?セーラを困らせてしまいました。

「いいえ。いつも通り美味しいわ。ただ、今日いただいた紅茶が普通では手に入らない物だったので、どうしたら手に入るのかと思ったのよ。」

「ユーフィアが望む物なら何でも手にいてれやる。先程は何処に行っていたんだ?」

 クストが私に尋ねます。

「西地区第二層にお住いのカークスさんです。」

「カークス?」

 クストは心当たりがないのか首を傾げています。しかし、ルジオーネさんは思い当たったのか

「もしかして、シェリー・カークスの事ですか?」

「ええ。」
「何だと!」

 私が答えるのとクストが叫ぶのが同時でした。耳元で叫ぶと耳が痛いので、やめてほしいです。

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