6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった

白雲八鈴

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炎国への旅路編

17話 なんの話ですか?ホラー?

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 シェリー・カークス!
 あの少女ですか?でも確かに私の知らない今は使われていない転移門のことも知っていましたから、何か知っているかもしれません。これは炎国から帰った時に聞いて見なければなりません。

 そして、傭兵団の建物を後にし、シドさんに言われた西の港町エルトに向けて出発しました。首都ミレーテを出たところで、重力から解放され、魔道馬車は騎獣に引かれながら空へ飛び立ちます。
 やはり、地道の凹凸から振動がなく快適な走行です。

「奥様は天才です。この魔道馬車は馬車の革命です。」

 セーラがそんなことを言ってきましたが、私は天才ではないですよ。

「セーラ。私は私の作りたい物を作っているだけよ。」

「いいえ。普通は作れないですし、考えもしないでしょう。」

 セーラ。考えついたのは私ではないわ。シェリー・カークス。彼女は本当に不思議な少女ね。何もかも見通すようなあのピンクの目、恐ろしく感じた時もあるけれどまさか魔眼だったなんて・・・でも、人族で魔眼なんてありえるのでしょうか?

「しかし、港町に着いてもどれぐらいで船が運行するのでしょうか。天候によって出発できないとも聞きましたし、周りを水に囲まれた乗り物なんて恐ろしいです。」

 そう言えば、この世界の海運事情はどのような感じなのでしょう。大航海時代ぐらいなのでしょうか。もしかして、手漕ぎなのでしょうか。それはそれで大変そうです。

「奥様。今日はこの辺りで泊まりましょう。」

 2刻4時間程進んだところで、御者席にいるマリアが声をかけてきました。この魔道馬車の欠点と言えるものが一つありまして、騎獣に魔道馬車を引いてもらっていることで、騎獣への負担が通常より掛かってしまうと言うことです。
 通常、騎獣の一回の飛行は人を乗せて100キロメルkm飛べる騎獣が、魔道馬車だと半分の50キロメルkmしか飛べないのです。しかし、それでも地道を走るよりは距離を稼ぐことができるので、これで良しとしました。
 王都内の地道と郊外で空を飛行する馬車を併用するにはこの辺りが妥協点でした。まぁ。休憩を取ればまた飛行が可能になりますので、問題はありません。


 そして、2日かけて港町エルトが見えて来ました。久しぶりの海の匂いです。この世界では初めての海の匂いです。浮遊する馬車の窓を開け、空から遠くにある町を眺めます。
 空と海の境界線が遠くに見え、傾斜地に家々が建ち並び、開けた海側にも多くの建物が建っています。そして、半円状になった湾内には桟橋があり、漁船だと思われる小さな船から、商船と思われる大きな船も海に浮かんでいるのが見られます。

 しかし、商船だと思われる船は私が想像していた物と少し違うようで、キャラック船かそれより小さなガレオン船を想像していたのですが、帆船ではなさそうです。

「アレが海ですか!あれが全部水なのですか!」

 セーラは海を見るのが初めてのようです。確かシーラン王国は東側から南側にかけて海に面していたはずですが、セーラはそちらには行ったことがなかったのでしょうか?

「あの水は塩辛いから飲むなよ。」

「駄犬。それぐらいは愚兄に聞いて知っています。あの水に近づくと水の中に引きずり込まれるのですよね。」

 なんの話ですか?ホラーですか?

「長いウネウネした手に絡まれたら、燃やして焼いて食べろと教えられました。」

 長いウネウネ?タコかイカですか?それを焼いて食べる・・・?

「セーラ、お前それを信じたのか?」

 クストがセーラに尋ねます。

「え?嘘なのですか!また、からかわれたのですか?炎国へ行くための役にたつ情報を教えろと言いましたのに!あの愚兄!許しません!」

「はぁ。考えたらおかしいことがわかるだろ?そもそも海に近づいただけで、引きずり込まれるなんてホラーでしかないだろ?漁船にすら乗ることができん。」

「ぐっ。」

「焼いて食べるって・・・ぷっ。焼き切るだけで十分だ。くくく。」

 クストは私を膝の上に乗せたまま前のめりになって笑い始めました。後ろで笑われるとこそばゆいのですが。
 セーラは顔を真っ赤にしてプルプルしています。

「セーラ、私の為にわざわざ聞いてくれていたのね。ありがとう。」

「お、奥様。だ、大丈夫です。お姉様から教えてもらった情報もありますので、こっちの情報は大丈夫なはずです。美味しいお菓子とか美味しい料理が出るお店とか美味しいお肉が売っているお店とか。」

 全部食べ物のお店の情報ですか。

「それ王妃様からの情報だろ?食べ物ばかりのその情報。」

 王妃様からの情報が美味しい情報ですか。一度お茶会でお話しをしたことがありますが、そんなに食いしん坊には見えなかったですよ。

「くっ。これではセーラは駄犬より、役立たずです。」
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