6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった

白雲八鈴

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炎国への旅路編

31話 その視線には耐えられません

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 丁度朝食が終わった頃にザックさんが首根っこを掴んだキョウさんを引きずって、泊まっている旅館に来てくださいました。

「キョウを置いていくから、買い物を楽しんでくれ。くれぐれも、今日行く商業区以外には絶対に行くなよ。特に奥様はキョウの言うことを聞くように。」

「ザック!俺は嫌だと言っただろ!」

 叫んでいるキョウさんは今度はマリアに首根っこを掴まれています。

「キョウ。例の物はいらないのですか。」

 そう、マリアがキョウさんに尋ねますとピタリと騒ぐのをやめした。あのサラさんから預かった袋の中身は一体何が入っているのか気になってしまいます。

 問題を起こさないようにしてくれれば、後は楽しんでくれたらいいと言ってザックさんは仕事に戻って行きました。そして、キョウさんはため息を吐きながら私の方を見ました。

「はぁ。奥様ちょっとそこでジッとしててくれるか?」

「あ゛?ユーフィアに何をするつもりだ?」

 クスト。案内をしてくれるのを納得してくれたキョウさんに威嚇しないでください。案内をしてもらえなくなってしまったら困ります。

「先見をするんだよ。事前に問題がわかっていれば、回避することができる。」

 それは素晴らしいです。先にわかっていればそこに近づかなければいいのですよね。

「クラーケンを回避出来なかったくせにか?」

 クスト。先見はできるできないがあるとザックさんが言っていたではありませんか。

「この時期の航海はクラーケンに襲われることが前提だ。そのために戦闘員を多めに乗せてはいたが、何匹に襲われるなんて細かいことは先見ではわからん。先見の上位の未来視ならわかるかもしれないけどな。」

 そうして、私の前にキョウさんが座ります。私を見る金色の瞳が魔眼を持っている方と同じように魔力で揺らめいています。
 何かが見えたのか頭を抱えこんでしまいました。

「これってどういう意味だ?意味がわからない。どうしてそうなるのか理解できない。」

「おい、何が見えたんだ。」

 ブツブツ言っているキョウさんにクストが問いかけます。

「まずは、一人で行動しないこと、気になることがあるなら誰かに相談して一緒に行くこと、大通りから路地に行かないこと。そこを気をつけてくれ。はぁ。一人で勝手にウロウロしないと約束してくれ。」

 それぐらいなら出来そうです。一人で行動しなければいいのですよね。大抵クストが隣にいますから、大丈夫でしょう。

「ユーフィアは俺と一緒にいるから一人になることなんてない。」

 そうクストも言ってくれているので大丈夫でしょう。
 ・・・大丈夫のはずだったのです。はずだったのですが、只今、私は建物の壁と壁の間の人が一人分通れる路地に立っております。
 先程までクストが手を繋いで隣に歩いていましたよ。そのクストがいきなり『アレは爺様が使っていた剣と同じものじゃないのか!』と言って走って行ってしまいました。え?と思って周りを見ますと、マリアもセーラも案内人のキョウさんの姿も見えません。
 どうして皆いないのでしょうと周りを見渡していますと、気がついてしまいました。

 今まで、町の雰囲気、人々の活気のあるざわめき、店の前に並んでいる商品の数々を見て、歩きながら楽しんでいました。だから、気が付かなかったのです。町の人の突き刺すような視線が向けられていることに。

 黒い髪を持った赤い瞳が金色の瞳がとても痛いのです。否定的であり敵視しているかのように睨んでいるのです。店の暖簾先で私を見ながらコソコソ話をしている人達もいます。

 その視線に耐えられず思わず、近くの路地に駆け込んでしまいました。こういうことだったのですか、外の国の人にはあまりいい感情をこの国の人達は持っていないと聞いていましたが、こんな視線を向けられるものなのですか?
 でも、ここは商業区です。旅館の人が唯一外からの人でも安心して買い物ができると言っていたではありませんか。確かに、攻撃はされてはいませんが、あの否定的な視線の前に出たいとも思いません。
 ここに居ればクストが見つけてくれるでしょうか。

「シクシク」

「シクシク」

 何処からか子供がすすり泣いている声が聞こえてきます。この路地の奥からのようです。気になりますが、キョウさんから言われているので、これ以上進むのは躊躇してしまいます。

「シクシク」

 ・・・。

「シクシク」

 ああ、ダメです。ごめんなさい。また、約束を破ります。路地の奥に進んでいきます。その奥は広く開けた場所でした。
 一番奥に平屋の大きな建物があり、そこから「ハッ」とか「ヤッ」とか掛け声が聞こえます。手前の広い広場には木の棒が幾つも地面に立てられています。道場でしょうか?そして、声の持ち主は路地の出口のすぐ脇でしゃがみ込んで泣いていました。
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