6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった

白雲八鈴

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閑話

日常 1

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 はじめに、更新ができていないにも関わらず読んでいただきました読者様に感謝申し上げます。

 今回は続きのようで、特に読まなくてもいい話となっております。長めの話(1万文字程)となっておりますので、お時間がある時にどうぞ。

_____________

ユーフィアの日常
   (列車の線路はどうしましょうか)




「ユーフィア!デートに行こう!」

 クストが突然そんな事を言ってきました。しかし、おかしいですね。確か3日前も同じ言葉を聞きました。その時は手が離せなくて、後日にして欲しいと言いましたけど。もしかして、今日が後日の休暇にしたのでしょうか?

「クスト。3日前も休暇でしたよね。ということは、今日は休暇ではないはずですよね」

 クストは第6師団長のため、なかなか休暇は取れず、週に一度休暇を取れればいい方でしたのに、これは流石におかしいです。

「大丈夫だ。休暇にした」

 休暇にしたですか。
 はぁ。これはルジオーネさんに許可を貰わずに勝手に休暇にしたのでしょう。ルジオーネさんはクストの従兄弟であり第6副師団長を担っているので、クストが休むとルジオーネさんがクストの仕事を代わりにしていると聞いています。

「旦那様。休暇にしたということは、今日はお仕事の日だということですね。さっさと師団の詰め所に行ってくださいませ」

 私の後ろに控えているマリアからの厳しい視線がクストに向けられています。

「俺はユーフィアとデートをすると約束をしたんだ!」

 え?そんな約束はしていませんよ。今は線路をどこに通して、線路の素材をどうしようかと思案しているところですのに。

 そう、私は列車を作ることになったのです。別に列車本体は作りませんよ。そんな大物は私個人では作れませんので、設計をして馬車を作っている業者に頼んでいるところです。

「奥様は手が離せない状況なので、今日は大人しく仕事に行ってくださいませ」

 マリアが私の今の状況を説明してくれています。今の私は外の倉庫で石畳の石の種類を比較して調べているところなのです。
 マリアはクストを倉庫から追い出そうと木の棒を持っていますが···。マリア、それは犯罪者撃退用の電気を発する警棒もどきです。クストは犯罪者ではないですよ。

「団長。遅刻ですよ。いい加減に私が迎えに行かなくても、師団の方に来てほしいものですね」

 クストの後ろからルジオーネさんが現れました。外からの光を浴びて、青い髪の青さが際立っています。やはり並んでも同じ青狼族とは思えないですね。

「あ?今日は休みだ!ユーフィアとデートするんだ!」

 子供の駄々ですか!はぁ。これは頷かないと休みをとり続けるのでしょうね。それは師団の皆様に御迷惑をおかけしてしまいます。

 手に持っていた石のサンプルを置いて、砂埃を払って立ち上がります。そうですね····。

「クスト。今から線路を通すところを下見に行こうかと思うのですが、一緒にどうですか?」

 これなら、街の治安維持のためにクストが見回りをしているという大義名分が立つのではないのでしょうか?線路は王都の一番外側の第3層に通す予定ですので、王都をぐるっと回るので丁度いいと思います。

 すると、クストは青黒い尻尾を勢いよく振り出した。

「行こう!一緒にデートをしよう」

 デートではないのですが。しかし、喜んでいたクストがハタっと動きを止めて、ルジオーネさんの方に振り向きました。そのルジオーネさんは毎回のことだけど、一応仕事の内に入るかと、何やらメモを書いています。

「ルジオーネ!第3層の大掃除だ!ユーフィアにゴミどもを目にさせるわけにはいかない!師団全員で大掃除だ!」

 え?クスト、何を言っているのですか?

「団長。それは無理です。各要員は各自仕事についているので、やるなら団長一人でヤッてください」

「わかった!」

「クスト!待ってください!そんな事をしなくていいです」

 思わずクストに駆け寄る。何をするかわからないですけど、嫌な予感がします。

「ユーフィア。ちょっと待っていろ。直ぐに掃除をしてくるからな」

 クストは私の頭を撫でて、外に駆けて出ていってしまいました。
 え?掃除って何の掃除!
 ルジオーネさんを見てみると、ため息を吐きながら出ていこうとしているところです。
 クストをあのまま放置して行かないでください!



「マリア、どうしましょう!」

「駄ケ···旦那様は放置で構わないと思います。それで、奥様どれにされるか決まりましたか?」

 放置って、本当にいいのでしょうか?

 それにしても肝心の素材がピンと来るものがないですね。やはり一度は列車を走らせる場所に行かないとわからないですね。

「奥様!お茶の用意ができました!休憩にしましょう!」

 狐獣人のセーラが勢いよく倉庫に入ってきました。そうですね。なんだか疲れましたから、休憩にしましょう。

「そう言えば、先程ルジオーネ様が疲れた顔をされて戻っていらしてましたが、何かあったのですか?私が居ない間に面白いことでもありました?」

 面白いことなんて、無かったですよ。いつものクストの我儘なんて、ため息しか出てきません。










 私はお茶を飲みながらお行儀悪く、王都の地図を眺めています。

 確かに東西南北の教会を繋ぐように円状の道はあります。しかし、私は第3層に行ったことがあるのは、東地区の技術者ギルドだけですので、この道がどのように使われているかは知りません。
 それに人々が往来している中に列車を走らすということは、路面電車のように歩行者と列車を隔てる物が何も無いと言うことです。これは事故に繋がりかねません。

「マリア、どうすれば歩いている人に列車が走っていることを認識させられるかしら?絶対に列車と人とが接触する事故が起こると思うの」

 地図を見ていても教会の横を通さないといけないようですし、普通に道沿いにお店もあるようですから、人々が普段の生活に使っている道でしょう。そんなところに列車を走らせるとなると、必ず事故は起きてしまいます。

「奥様が作られた物にぶつかってくる人が悪いのです」

 マリア。その人は悪くありませんよ。

「奥様!道を全て列車が通るところにすれば良いのです!人がいるからいけないのですよね!」

 セーラ!それでは普通に生活がおくれなくなる人が出てくるではないですか!
 やはり列車というものを知らないのですから、返答も困ってしまいますよね。

 はっ!列車の事を知っている人がいるではないですか!彼女に相談してみましょう!

「マリア!出かける準備をしてもらえる?」

「かしこまりました。駄犬は置いて行きましょう」

 はっ!そうでした。クストを待っていなければ···。いいえ、彼女のところに一緒に連れて行くと問題が起こりそうです。
 うーん。どうすれば···。

「奥様。何かお困りでしょうか?」

 セーラがお茶のお代わりを注ぎながら尋ねて来ました。色々困っているわ。

「旦那様のことなら放置していても問題ありません。仕事をさぼる駄犬が悪いのです」

 マリアが私の外出着を用意しながら言っていますが、最近クストの駄犬呼びが定着していません?

「クストのこともそうなのだけど、私は西区のカークスさんのお屋敷を訪ねたいの···あ、でもアポイントメントを取っていないわ。いきなり訪ねるとご迷惑よね」

「問題ありません。ナヴァル公爵夫人が訪ねるのです。それは平伏して迎え入れるべきです」

 平伏はやり過ぎと思うわ。マリアはそう言いながらも私の服装を着替えさせてくれています。
 飾り気のないシンプルでいて締め付けない動きやすい服装です。それに外套を掛けられ、ツバの広めの帽子を被らされました。

「お気をつけて、いってらっしゃいませ」

 セーラが頭を下げて送り出してくれていますが、そのまま行く感じですか?アポイントメントは取っていませんよ。大丈夫ですか?

 マリアに促され、私は部屋を出ていきます。あー。色々心配だわ。クストに何も言わずに出かけて良かったのかしら?













 ナヴァル家の家紋がないシンプルな馬車に乗り込み、西区第2層に向かっています。これはマリア曰く、門兵対策だそうです。

 ナヴァル家の家紋の馬車が第2層門を通るとなぜかクストの耳に入るようになっているらしく、お忍びという感じで通るとクストには連絡がいかないという、謎の暗黙のルールがあるそうです。

 そうですよね。何かと師団長が私事で抜け出すのはいけないことです。


「奥様。少々ここでお待ち下さいませ」

 馬車が止まったのでカークス邸に着いたのでしょう。マリアが馬車の中で待つように言って、外に出ていきました。
 本当にアポイントメントを取ってないですけど大丈夫でしょうか?



マリア side

 毎回毎回、奥様のお仕事を邪魔をするクスト・ナヴァルという馬鹿狼獣人はなんとかならないものでしょうか。

 それに、あの奥様に問題ごとしか持ってこない小娘がどういう力を使ったかはわかりませんが、国から正式に依頼が参りました。

『王都メイルーンに列車を通すように』

 と。それも教会と連名でです。
 小娘が怪し過ぎると思って調べてみると、思わぬところから回答が得られました。ギラン共和国の父からです。

 あの勇者と聖女の子供だというではありませんか。しかし、見た目は全く似ていません。似ているとすればピンクの目ぐらいでしょうか。しかも、無気力な目です。

 その無気力なピンクの目が私を捉えています。忌々しい。なぜ、ユーフィア様がこのような小娘を頼りになさるのか。このマリアには理解できません。

「で?公爵家の方が何の用ですか?今から出かける予定なのですけど?」

「奥様がお前に用があるというのです。用があろうがなかろうが、平伏して迎え入れなさい」

「今から出かけると言っていますよね。それもこんな朝早くに、前もって連絡もなく来られてもこちらも対応できません」

 ちっ!ナヴァル公爵家の方からわざわざて向いて来てやっているというのに、小娘のくせに生意気な!

「時間は取らせません。こちらも予定が詰まっておりますので、お前がさっさと答えればすむ話です」

「玄関先でいいのなら」

「奥様に立って話をしろと!」

「直ぐに済むのですよね。うだうだ話をして第6師団長さんに来られても困りますので」

 くっ。確かにあの駄ケ···旦那様の耳に入る前に移動したほうが良さそうですね。



ユーフィア side

 マリアが戻って来て、扉を開けてくれました。どうやら、問題なく話が通ったようですね。

「奥様。旦那様の耳に入る前に事を済ませていただけますでしょうか?そして、小むsu···シェリー・カークスが玄関先でならいいと申しております。本当になんてしつけのなっていない子供なのでしょう」

 無理を言っているのはこちらの方なのです。玄関先でも話ができるのなら、何かヒントを貰えるかもしれないです。

 門を抜けて玄関に向かいますと金髪にピンクの瞳をした少女が扉の前に立っています。

「こんにちは。今日は無理を言ってごめんなさい」

「ユーフィアさん。まだ4刻半9時です。おはようございますの方が適切では?それから、5刻10時に南地区までいかないといけないので手短にお願いします」

 あら?用事があったのですね。それでは単刀直入に

「線路をどうするべきか困っているの」

「それはユーフィアさんが考えるべきことで、私が考えることではないのでは?」

 あ、ちょっと言葉足らずだったわ。

「列車を街の中で走らすとすれば、路面電車のように歩く人との間に柵がない状態じゃない?それって列車に轢かれる人が出てくると思うの。何かいい案はないか相談をしにきたの」

 私が困っている事を話すと少女から盛大なため息が漏れてきました。

「武器に関しては向上心があるのに、防御の事は考えつかないのですか?」

 防御!!

「小娘!奥様になんていう暴言を!」

「本当のことではないですか。列車の動力に魔石を使うとすれば、その魔石に反応して列車が通る数分前に人が入り込まないように結界でも張ればいいのではないのですか?」

 結界!!

 石版に結界の陣も入れ込む?でもそれだと石版自体が列車を浮遊させる力と結界の力に耐えきれないかもしれない。
 そう、列車はリニアのように浮かせて走らせようとしているのです。

 どう考えても、今まで見てきた石版では二つの力に耐えきれないわ。

「魔力に耐えきれる頑丈な良い石畳に使える石を知らないかしら?」

 ナヴァル家の力を使って集められるだけ集めた石の素材の中では、めぼしい石はなかったのです。彼女なら何か知っているでしょうか?

 すると、少女は少し待つように言って屋敷の中に入って行きました。何か心当たりでもあったのでしょう。


 しばし待つと、白く美しい大理石のような石を持って来てくれました。

「私はこういう物は使わないのでわかりませんが、この辺りで取れる石材の中では一番質のいい岩石だそうです」

 す、素晴らしい!素晴らしいです!このきらめくような光沢も美しいですが、この石自体に魔力を帯びて、魔石を言っても遜色がないほどです。しかし、魔石ほどの魔力量はないので、魔石ならクズと称される物でしょう。
 そして、岩石ということは大量にあると言うことです!

「これはどこに行けば、あるのですか!」

「西の森のダンジョンの中にある泉の岩盤です」

 ダンジョン産!それはこの魔力量を纏った石材だとということもわかります!素晴らしい!

「ありがとうございます!早速行ってきます!」

「そうですか。次は前日に連絡をもらいたいものです」

 ああ、やっぱり彼女に相談して良かったです。困っていた事が2つも解決してしました。

 カークス邸を後にして、馬車に乗って一旦ナヴァル家に戻ります。ふふふ。
 美しい白い石を眺めます。この世界は素晴らしいです。私の知らない事がまだまだあるのです。












 ナヴァル家に着きましたが、外が騒がしいです。マリアが扉から離れるようにと私を背中で隠して、スカートの下から二つの剣を取り出しました。
 なんですか!屋敷が何者かに襲われているのですか?

 ミシッと馬車が軋みます。何が起こっているのでしょう。

「駄犬!待ちなさい」

 セーラの叫び声が聞こえます。デジャヴュです。

 クストが帰って来たのですか。私が居ないからといって馬車を襲撃するのはやめて欲しいです。

 バキッという音が馬車の内側に響き、馬車の扉が外されました。馬車を壊すのはダメです。

「ユーフィア!!」
「この狼藉者が!!」

 クストの声が聞こえたかと思えば、マリアが両手に剣を持ってクストに向かって行きました。

「この駄犬が!ユーフィア様を不安にさせるなど言語道断!このマリアが成敗してやる!」

「マリアさん!頑張ってください!」

 セーラ。マリアを煽らないであげて。
 マリアの剣がクストの首を狙いますが、クストは体を傾け剣を避けています。

 クストが腰に佩いている剣を抜き、別の方向から向かってくる剣を受け止めています。

「おい!俺が居ない間にどこに行っていた!直ぐに終わらすと言っていただろう!」

 受け止められた剣を軸にマリアは体を捻り蹴りをクストにくらわします。この動きは流石狼獣人ということでしょうか?

「奥様の仕事を邪魔をする駄犬に文句をいう資格はない!」

 クストはマリアの蹴りを片腕で往なし、剣を引きマリアの喉笛に向かって突きを放ちます。

「デートする資格は俺にはある!」

 え?それは今日でなくてもいいことですよね。

「奥様。お手をどうぞ」

 馬車の御者をしてくれているウルが手を差し出してくれています。

「今のうちに屋敷に入りましょう!」

 セーラも馬車の側に来たようです。でも、あの二人が暴れているのですよ。

 じゃれているだけだから大丈夫?
 アレがじゃれているだなんて、流石獣人ということなのでしょう。私はセーラに促され、屋敷の中に入って行きましたが、外では今も剣がぶつかる音が響いています。

 クストの襲撃対策もいい加減考えなければなりませんね。本当に馬車を武装させましょうか。


 そんな事を考えて屋敷の中を進んでいると、突然窓ガラスが割れて、何かが目の前に転がり込んできました。

「ユーフィア!デートをするって約束をしたよな!」

 窓ガラスを蹴破って入って来たのはクストでした。そんなに嬉しそうに尻尾を振られてもガラスの粉が沢山ついていますよ。痛くないのでしょうか?

「駄犬!窓は出入り口ではありませんと何度言えばいいのですか!」

 そういうマリアもガラスが砕けた窓枠に足がかかっていますよ。

「クスト。ガラスが付いていますので払って来てください。それからきちんと今日のことはルジオーネさんに謝ってくださ····」

 私の言葉を最後まで聞かずにクストは『着替えてくる』と言って去っていきました。本当に後でルジオーネさんに謝っておかないといけません。














 私は地図を見ながら、道を歩いています。その横にはニコニコとしたクストが歩いています。そして、何故か周りには人の姿が見られません。どういうことでしょうか?

 今はお昼を過ぎた頃だといいますのに人っ子一人居ないだなんておかしいです。

「クスト。何をしたのですか?」

「ユーフィア、何処に行きたい?」

 答えではなく質問が返ってきました。後ろを振り向き、マリアに視線を送ります。

 すると、マリアは近寄って来て斜め後ろから声をかけてくれました。

「奥様。如何なさいましたでしょうか?」

「人の姿が見当たらないのだけど、どうしたのかと思ったの」

 するとマリアは呆れながら答えてくれます。

「そこの駄ケ···旦那様が周りに威圧を放っているからです。普通の人は近づくこともできないでしょう」

 なんですって!!

「クスト!威圧をやめてください。街の人の生活を阻害することはダメだと思うわ」

「でも、ユーフィアと一緒にデートを楽しむのなら、邪魔が入らなくていい」

 そういうことじゃないのに。私はここの生活している人が、どのようなところに行ったり、どの道を使っているのかとか知りたいの!
 駅を作るならどの辺りがいいとか、線路を引くには道の真ん中がいいのか端の方がいいのとかが知りたいの!

「クスト。私は普段の街の姿を知りたいの」

「旦那様。奥様は下々の生活がどのようにしているのか調査に来ているのです。駄犬にとってデートかもしれませんが、奥様にとってはお仕事なのです。邪魔をするなら、師団の詰め所に帰ってくださいませ」

 マリア。往来の中で駄犬呼びはいけないと思うわ。

「師団に戻るのは嫌だ。ユーフィアと二人っきりのデートは諦める」

 え?二人っきりって他の人がいることがダメなのかしら?
 今までも二人っきりではなかったけれど?必ず、マリアかルジオーネさんが付いてきていたけど、それは良かったのかしら?

 クストが威圧をやめてくれたのか、徐々に人々の姿を見るようになりました。
 その姿にほっとため息が出ました。

 立ち止まって人々のその姿を見ます。

 教会に入っていく人。
 お店に入っていく人。
 足早に通り抜ける人。クストが悪さをしてごめんなさい。

 そして、止めていた足を動かして歩き始める。

 人のざわめき。店に呼び込む声。街に音が戻ってきた。

 ふと、記憶が蘇る。
 足早に、出来上がった企画をカバンに詰め込んで、会社を出ていき、街の喧騒の中を駆けていき、電車に乗って顧客先へと向かっていく。
 とてもとても古い記憶。

 もしかして、私ってこんな都会を歩いたのって初めてじゃないかしら?コルバートの領地は辺境で、こんなに賑やかじゃなかった。
 炎国は恐ろしいだけだった。

 この賑やかな感じは懐かしいような、寂しいような。

「ユーフィア?どうかしたか?」

「何も。何もないですよ。人々の暮らしが豊かになればいいですね。あ、でもクストが街を護っているのなら、何も心配はないですね」

 そう、何も心配をすることはない。脳裏にちらつく帝国の影にも怯えることはない。私はここクストの側にいるのだから。














数日後


「なぜ、私がここにいなければならないのか、説明していただきたいのですが?」

 不機嫌な雰囲気を纏ったルジオーネさんが、クストに向かって説明を求めています。

「デートだ!」

 クストは胸を張って言い切ります。

「ですから、なぜ、デート先がダンジョンなのですか!まだ、先日の街の見聞の方が健全でしたよね」

 街の見聞···確かに見聞だったかもしれません。クストが途中で飽きてしまって、屋台で食べ物を買ってきたり、武器屋に入って行ってしまったり、物取り騒動があったと聞けば駆け出していったり···あ、これはお仕事ですね。
 取り調べをすると言って途中からクストが居なくなったので、私とマリアで順調に東地区と北地区を調べることはできました。西地区と南地区は時間が足りず後日となってしまいましたが、大まかな調査はすることはできました。


「ルジオーネさん。ごめんなさい。私がダンジョン産の石材が欲しいと言ったばかりに」

 そう、私は彼女に教えてもらった西の森のダンジョンに来ているのです。泉の岩盤ということは、泉の主を倒さないといけないということなのです。ですから、クストはルジオーネさんについて来てもらったのでしょう。

「お詫びにと言ってはなんですが、これをお納めください」

 そう言って私はルジオーネさんに手の平サイズの箱を渡します。
 受け取った箱を開けたルジオーネさんが不思議そうな顔をしています。箱から取り出された物は手の平サイズの黒い石版です。

「これは?」

「メモ帳と言えばいいでしょうか?」

 先日、ルジオーネさんがクストの急な予定変更にメモ帳に何を書いていましたので、きっと隊員の業務変更などを記していたのだと思ったのです。こう何度も何度もクストが迷惑をかける度に、ルジオーネさんにご迷惑を掛けていますので、その管理が少しでも楽になればと思ったのです。

「ここの小さな魔石を押し込むと画面が立ち上がります」

 そう言って黒い石版の横にある突起のような魔石を押し込むとカチッと魔石がハマり、画面が明るくなりました。

「これが専用のペンになります。このペンで『メモ』というアプリっじゃなくって、ところを触るとメモができるようになります」

「キューン」

「『Excel』を触ると表が作れるようになります」

「キューン」

 ····

「もう少し、使い勝手がいいと思うのであれば、入力専用のキーボードというものもおつけします。詳しくは箱の底にある説明書を読んでいただければ」

「キューーーン」

「クスト、うるさいです」

 私の説明を聞きながら、画面をガン見していたルジオーネさんは画面のある部分を差しながら聞いてきました。

「この数字はなんですか?」

 画面の上の左端にある数字のことです。

「時間です」

 デジタル表記の時計を内蔵してみました。スマホと言えればいいのですが、メモ機能と表機能と時計しかありませんので、デジタルのメモ帳という位置づけでしょうか。

「凄いですね。しかし、使いこなすには時間がかかりそうですね」

 最初はそのようなものです。

「わからない事があれば、聞いてもらってかまいません。終わるときは魔石を再度押すと元の状態に戻ります。クスト、地面を寝床にしないでください」

 地面に横たわっているクストを注意します。本当にこんなことで、いじけないでください。

「行きますよ」

 そう言って、私はスクーターを取り出して、乗り込み出力全開で森の中を疾走します。

「ユーフィア!待ってくれ!」

 後方から聞こえるクストの声を無視をして、突撃銃を取り出し前方に立ちふさがる魔物に標準を合わせて引き金を引きます。

 何度か来ているダンジョンなので、慣れたものです。ダンジョンの最深部を目指さすに南に進路を変えます。それはもちろんダンジョンの南に泉があるからです。

 前方にいる魔物だけを倒していると、泉の端が見えてきました。銃をしまって、一つの武器を取り出します。
 今回のために作ったものです。


 戦鎚ウォーハンマー


 今回作った物は柄の先を平らにした片口ともう片方は円錐状にした形状にしました。これは勿論、岩盤をから石を採掘するためです。
 それに地属性の魔石を鎚の部分に練り込み、強度を高めてみました。


 泉からここの主である水龍が姿を現しました。スクーターの勢いは全開のまま、水龍に突っ込んで行きます。後ろでクストが何かを言っていますが、聞こえません。

 戦鎚を思いっきり水龍に向かって振るいます。頭部に直撃です。
 これで主を倒したら、採取です!

 水龍が倒れていこうとしているときに、戦鎚から衝撃がほとばしります。崩れ去る水龍がバラバラに朽ちていき、水面から波が立ちのぼり、地面にヒビが入って行きます。

 これは何が起こったのでしょう。

 泉の水が引いていき、底にある白い岩盤が顕になりました。かなりヒビが入っていますが、結果オーライでしょう。

「ユーフィア!無事か!」

 クストがやっと追いついてきました。その隣で、ルジオーネさんがため息を吐きながら『やはり必要無かったですよね』なんて言っていますが、石の採取は手伝ってくださいよ。



 こんな感じで私の日常が過ぎて行くのでした。


_______________

 ここまで読んでいただきましてありがとうございました。

 

 あと、誤字脱字はいつもどおりすみませんm(_ _)m

 楽しんでいただけたのなら嬉しいかぎりです。
 数ある小説の中からこの作品を読んでいただきまして、本当にありがとうございました(>ω<)


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