274 / 462
274 獣人という存在
しおりを挟む「あ?獣人と魔獣は違うだろう?」
ファルが意味がわからないと言ってきた。
違和感はあったのに、私は今まで気づくことができなかったから、わからないというのもわかる。
鳥はいるんだよ。この世界に。だけど、昨日のルディの言葉で思い返してみると、獣という動物を見たことがないのだ。それは教会で監視生活を送っていて、自由がほとんど無かったというのもある。聖騎士団でもほとんど自由がないものある。
でも第13部隊のぽつんと一軒家の詰め所は、森の中にあるのだから、小動物を見かけてもよさそうなのに、一度も見たことが無かったのだ。
しかし魔物はいる。ネズミと言うには大きな魔ネズミという人を襲う魔物はいる。角が生えて蹴りの威力が強い魔兎もいる。だけど、普通の動物と言われるものがいない。
騎獣はいるだけどあれも元々は魔獣を調教したものに過ぎない。
私は動物型の魔物はその動物が魔物化したものだと思っていた……そう、思い込んでいた。
しかし、ここで魔物は他の世界からやってきたものだと証明されてしまった。そうすると動物が魔物化した説は消え、代わりに獣人という存在が元々は獣だったのではないのかという説が出てきた。動物という種が進化して獣人となった説が浮上してくる。
「獣人は外見上でも獣の特性を残しているから、第2形態として獣化できるんじゃないのかな?」
「それは獣人が魔獣になるということですか?それは危険ですね」
神父様が私の言葉を再確認してきた。そう獣人が獣に変化する。これが本当であれば、人々の怯えようもわかるというもの。
でも、危険ってなに?獣人が獣化したからって、誰も彼もを無差別に襲わないと思うけど?
「アンジュ様。話が噛み合っていないように思えます」
「え?」
茨木、話が噛み合ってないってどういうこと?私は獣人が獣化する話をしているだけ。
「昨日、犬の話をされたときと同じです。彼らの中で犬は魔狼です」
はっ!犬=魔狼かと言われれば、犬は魔狼のように有無を言わずに襲ってはこない。
「そう言われると説明しにくい」
存在しないものを説明しろと言われるほど難しいことはない。それに今は魔術が使えないので、魔術で見せることもできない。
「まぁ、あれだ。黒狐が四つ足の獣になったからといって、人は襲わねーだろう?」
「理性は残りますからね」
鬼の二人がフォローしてくれた。朧が獣化しても、人を襲うことは無いだろう。仕事なら別だろうけど、彼らは王族の意に反する行動はできないのだから。
……朧って狐の姿になれるってこと!
「もふもふ!」
「アンジュ様が頼めば黒狐の姿になってくれると思いますよ」
私の言葉を拾った茨木がクスクスと笑いながら教えてくれた。よし、一度頼んでみよう。だって私のペットはヘビしかいないのだから。
「アンジュ。それは人々を抑えつけるために、獣人はジュウカという姿になって脅していたということか?」
「そうだね。反撃に出ているのが、あの銀髪の人だけだから、普通の人には獣の姿は思考能力を低下させる程のことなんだろうね」
ルディの言葉に肯定した私は、眼下に視線を向ける。彼は今までの戦いで戦い方を実践で学んできたのだろう。火の魔術以外を使うようになっていた。
しかし、彼一人で全ての人々を守れるかといえば、無理だ。漆黒の常闇から次々に魔物は溢れ出てくるのだ。
「こうなってしまえば、どうするかなぁ」
ただ一人戦う事ができる銀髪の男性。その周りでは抵抗力を持たない人々が魔物の餌食となっている。恐怖で動けない者も、逃げれても魔物に追いつかれ背後から襲われる者も、魔術を使おうとして平常心が保てず術が発動しない者も、地に倒れていくのだ。
そして、私達はそれを見せつけられている。お前たちはそこで、指でも咥えて見ていろと言わんばかりに。
だから、私は考える。自分自身がこのような立場になったらどうするかを。でも、考えても、私ならこれぐらい瞬殺だ。たとえ、聖痕か魔術のどちらかを封じられても可能だ。考えるのは無駄だった。
ああ……胸糞悪い。
「逃げの一手ですね」
神父様が私のどうでもいい話に乗ってきた。私達は何もできない。この阿鼻叫喚の血生臭い惨劇を見るしかできないのだ。
「しかし、リュミエール神父。これだけの人数を逃がすのは無理です」
ファルも話に乗ってきた。そして、神父様の案を否定する。既に街と称していいほどの人々が集まってきている。逃がすといっても戦力が足りない。人々を扇動する者と殿が幾人か必要だ。既に詰んでいる。
「ファルークス。月の聖女だけ抱えて逃げればいい」
ルディが究極の選択肢を言ってきた。月の聖女以外をすべて切り捨てると。でも、この状況では助けられる命は二つ。戦える彼ともう一人だけ。
そう月の聖女か緑の手を持つ女性のどちらかしか、この状況では助けられない。
20
あなたにおすすめの小説
【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした
楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。
仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。
◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪
◇全三話予約投稿済みです
【完結】すり替わられた小間使い令嬢は、元婚約者に恋をする
白雨 音
恋愛
公爵令嬢オーロラの罪は、雇われのエバが罰を受ける、
12歳の時からの日常だった。
恨みを持つエバは、オーロラの14歳の誕生日、魔力を使い入れ換わりを果たす。
それ以来、オーロラはエバ、エバはオーロラとして暮らす事に…。
ガッカリな婚約者と思っていたオーロラの婚約者は、《エバ》には何故か優しい。
『自分を許してくれれば、元の姿に戻してくれる』と信じて待つが、
魔法学校に上がっても、入れ換わったままで___
(※転生ものではありません) ※完結しました
【完結】小公爵様の裏の顔をわたしだけが知っている
おのまとぺ
恋愛
公爵令息ルシアン・ド・ラ・パウルはいつだって王国の令嬢たちの噂の的。見目麗しさもさることながら、その立ち居振る舞いの上品さ、物腰の穏やかさに女たちは熱い眼差しを向ける。
しかし、彼の裏の顔を知る者は居ない。
男爵家の次女マリベルを除いて。
◇素直になれない男女のすったもんだ
◇腐った令嬢が登場したりします
◇50話完結予定
2025.2.14
タイトルを変更しました。(完結済みなのにすみません、ずっとモヤモヤしていたので……!)
転生貧乏令嬢メイドは見なかった!
seo
恋愛
血筋だけ特殊なファニー・イエッセル・クリスタラーは、名前や身元を偽りメイド業に勤しんでいた。何もないただ広いだけの領地はそれだけでお金がかかり、古い屋敷も修繕費がいくらあっても足りない。
いつものようにお茶会の給仕に携わった彼女は、令息たちの会話に耳を疑う。ある女性を誰が口説き落とせるかの賭けをしていた。その対象は彼女だった。絶対こいつらに関わらない。そんな決意は虚しく、親しくなれるように手筈を整えろと脅され断りきれなかった。抵抗はしたものの身分の壁は高く、メイドとしても令嬢としても賭けの舞台に上がることに。
これは前世の記憶を持つ貧乏な令嬢が、見なかったことにしたかったのに巻き込まれ、自分の存在を見なかったことにしない人たちと出会った物語。
#逆ハー風なところあり
#他サイトさまでも掲載しています(作者名2文字違いもあり)
嫌われていると思って彼を避けていたら、おもいっきり愛されていました
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のアメリナは、幼馴染の侯爵令息、ルドルフが大好き。ルドルフと少しでも一緒にいたくて、日々奮闘中だ。ただ、以前から自分に冷たいルドルフの態度を気にしていた。
そんなある日、友人たちと話しているルドルフを見つけ、近づこうとしたアメリナだったが
“俺はあんなうるさい女、大嫌いだ。あの女と婚約させられるくらいなら、一生独身の方がいい!”
いつもクールなルドルフが、珍しく声を荒げていた。
うるさい女って、私の事よね。以前から私に冷たかったのは、ずっと嫌われていたからなの?
いつもルドルフに付きまとっていたアメリナは、完全に自分が嫌われていると勘違いし、彼を諦める事を決意する。
一方ルドルフは、今までいつも自分の傍にいたアメリナが急に冷たくなったことで、完全に動揺していた。実はルドルフは、誰よりもアメリナを愛していたのだ。アメリナに冷たく当たっていたのも、アメリナのある言葉を信じたため。
お互い思い合っているのにすれ違う2人。
さらなる勘違いから、焦りと不安を募らせていくルドルフは、次第に心が病んでいき…
※すれ違いからのハッピーエンドを目指していたのですが、なぜかヒーローが病んでしまいました汗
こんな感じの作品ですが、どうぞよろしくお願いしますm(__)m
[完結]私を巻き込まないで下さい
シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。
魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。
でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。
その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。
ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。
え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。
平凡で普通の生活がしたいの。
私を巻き込まないで下さい!
恋愛要素は、中盤以降から出てきます
9月28日 本編完結
10月4日 番外編完結
長い間、お付き合い頂きありがとうございました。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
「結婚しよう」
まひる
恋愛
私はメルシャ。16歳。黒茶髪、赤茶の瞳。153㎝。マヌサワの貧乏農村出身。朝から夜まで食事処で働いていた特別特徴も特長もない女の子です。でもある日、無駄に見目の良い男性に求婚されました。何でしょうか、これ。
一人の男性との出会いを切っ掛けに、彼女を取り巻く世界が動き出します。様々な体験を経て、彼女達は何処へ辿り着くのでしょうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる