公爵令嬢の幸せな夢

IROHANI

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二十八、嬉しさと不安

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 来年に学園への入学を控え、これから私は王都で暮らす事になった。昨年はフェルン家へ行き来して、領内の事や次期辺境伯夫人としての事をヒルダ様に教わっていた。学園を卒業されたエドヴァルド様も変わらずエルネスティ様に付いて学んでいらっしゃる。時間が合えばお茶をしたり、一緒に領内をまわったりと共に過ごしていた。私の愛馬も連れて行って薬草採取に共に行ったのだが、私の行動力に驚かれていた。

「これならフェルンでも暮らしていけそうだ」
「じゃじゃ馬と思われましたか? 淑女らしくなくて私……」
「ここではそんなもの役に立たない。アマリアは今のままでいいんだよ」

 そうやって私の行動を優しく見守ってくださった。領民の方達もフェルン家のみな様も、ここは本当に温かい人達ばかりだ。ようやく祖母から許可がおりて私も回復術士として活動できるようになった。この力もフェルンの方々の役に立てばいいなと思っていた。



 『転移の門』をくぐった先はいつもの王宮の部屋だが、そこにはエドヴァルド様が待っていた。

「エドヴァルド様、お久しぶりですわ」
「あぁ、久しぶり。と言っても、最近にも会っていたが……会いたかったよ」
「私もです!」

 簡単に挨拶をして一緒に離宮へ向かう馬車に乗る。当たり前のように手を差し出され、それを当たり前のように私も手を置く。ようやく慣れてきた彼とのあれこれだが、胸が高鳴るのは今でも変わらない。
 意見のくい違いではケンカになる前に彼がそうならないよう誘導してくれる。ケンカをして険悪な雰囲気のまま過ごしたくないのと、お喋りができなくなるのが嫌だそうだ。お互いにどうしてこう思ったのか、ゆっくりと話し合って違う意見でもお互いを尊重する。彼と一緒にいて流れる時間はとても尊いものだった。今も馬車の中で隣り合って座り、緊張している私の手を握ってくれている。

「これからグロリアと一緒に過ごせるのは嬉しいのですが、あの人とも一緒という事になりますから……」

 避けられるなら避けたいが、そうもいかない時があるのかもしれない。あの人に会った時、私は何か言ってしまわないだろうか。アンノさんを刺激してしまうような何かを言ってグロリアが消えてしまったらどうしようと不安ばかりが積もっていく。

「大丈夫だ。グロリア嬢は強いだろう。消えたりなどしない」
「そうですね。グロリアとも約束しました。信じて待っているのだと……」

 それでもモヤモヤするのは、もうひとつ理由がある。アンノさんの鍵付き日記帳に書かれていた『最愛の人』の事。それは北の辺境伯と書かれていたが、もちろんエルネスティ様の事ではないだろう。きっとエドヴァルド様の事だ。あの人の中では愛し合う二人となっており、その事については不快な気持ちが勝る。
 彼の手をきゅっと握り返せば笑顔で返してくれる。私を安心させてくれる青紫の目に映っているのは自分なのだと言い聞かせ、微笑み返した。
 この自分たちの世界に入り込んでいる間、同席していた祖母は微笑ましく見守っており祖父は寂しそうに拗ねていた。気づいた時には恥ずかしくなったが、そのおかげか悩みは吹っ飛んでいったようだ。悩んでいても仕方がないのだから一歩一歩進んでいく。ただそれだけなのだ。



 玄関の扉前では家族が待っていてくれた。エドヴァルド様と一緒に進んで挨拶をしながら少し話をする。いつまでもここにいるわけにはいかないので中へ入れば、使用人一同に迎えられた。改めてここもまた私の大切な家なのだと思って嬉しくなる。
 ふと感じた視線を階段上に向ければ、あの人が立っていた。一瞬息が詰まりそうになったが何とか表情には出さないように努める。ただ、あの人は私の事など見ていないようだ。その視線が向かっている先はエドヴァルド様で、咄嗟に彼の服を掴んでしまった。彼もあの人の視線には気づいていたのだろう。それは昔見せていたグロリアに対するものとは違い、冷え切った鋭い目だった。

「おねえさま……」

 あの人をグロリアとは呼びたくなくてそう呼べば、聞こえていたのかどうなのかはわからないが、こちらには興味もなさそうに去っていった。
 何だか気まずい雰囲気の中、応接室へ移動する事となりみんなで向かう。さりげなく頭を撫でてくれたエドヴァルド様に、先程の不安も消えていく。あの人と直接会うのは十年ぶりだっただろうか。グロリアとは何度も会っているのに、あの人は私が今まで一度もこちらへ戻ってきていないと思っている。
 今夜、グロリアに会えるだろうか。これからは毎日でも会える。もちろん、彼女の体調を一番に考えて今までと同じように寝る前の短時間だが、それでも大切な半身とようやく一緒に暮らせる事が嬉しかった。



 夜のいつもの時間、グロリアは何だか嬉しそうにしている。どうしたのと聞けばニコニコと笑って抱き着いてきた。

「今日からはアマリアとまた一緒に暮らせるからな! だから嬉しくてつい興奮してしまった」
「私も今日がくるのを楽しみにしていたんだよ!」

 照れているグロリアをぎゅっと抱きしめ返して嬉しさを伝えれば、彼女もぎゅっと抱きしめ返してくれる。溶けてひとつになるかのようなこの感覚は、私達が双子だからだろうか。エドヴァルド様にも感じた事のないこれはグロリアとしか起こらない。

「今日もあの人の中から覗いていたが、二人は仲が良さそうで安心したぞ。アマリアの結婚式には絶対にわたくしが出席して見せる!」
「ふふっ、私の前にユリアナお姉様が結婚式をあげるわ」
「そうだったな。よし、新たな目標もできた。わたくしは負けないぞ!」

 お互いに高揚していたのか今夜はいつもより長く話をしていた。夜更かしするわけにはいかないので、眠くなってくる頃には「おやすみ」と言って別れた。
 ベッドの中で意識が沈んでいく。明日もこの先もグロリアとは会える。それでも不安に襲われるのは<ヒョウイシャ>にはタイムリミットがあるからだ。二十歳を超える頃、二つの魂は融合するのか消えるのかどちらかの道を必ず選ばねばならないらしい。わざと憑依したわけではないだろうアンノさんが悪いわけではないのだから、できれば二人にとっていい道があれば良いと思う。共存できる道があれば……。

 月がカーテン越しに光を注いでいる。誰かが言った物語の始まりは確実に近づいていた。

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