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三十九、グロリアの十四年
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学園を卒業し、成人した私は夜会での社交を始めた。今までは同年代の方達とお茶会をしていたが、これからはもっと幅広い年代の方達との交流も増えていく。
クレメッティ兄様とレベッカ様は結婚されて、魔法と魔道具の研究に力を入れられている。姉も今年結婚する事になり、私もまだ先の事だが結婚に向けて準備をするのでキルッカ家はますます忙しくなる
自室で幼少期に着ていたドレスなどを整頓していれば、マリタが私を訪ねてきた。
「失礼します。アマリアお嬢様、少しよろしいでしょうか?」
「マリタ、どうしたのかしら?」
「はい。グロリアお嬢様がお話があると」
「グロリアが?」
どうしたのだろう?グロリアがと言っているが、それはアンノさんの事なのだろうか?
「アンノさんではなく、グロリアお嬢様ご本人です」
「え? わかったわ。いつもの部屋に向かえばいいのね」
「はい。お願いします」
今は日中の明るい時間帯。あの寝る前の夜の時間ではないのに、グロリアは表に出て来られたというのだろうか。逸る心を落ち着かせながらメーリ達と一緒に向かう事にした。扉の前で待っていたマリタに案内されて部屋に入れば、そこにはグロリアが立っている。
「グロリア?」
「そうだぞ、アマリア」
「でも、今は夜ではないよ……」
「うん。その事を説明していかないとな。そして、これからの事も……」
何かを決意したかのように目には力強い光が灯っている。
ソファーに座ってお茶を飲みながら彼女が話し出すのを待っていた。グロリアは緊張しているのか膝の上にある手を握っている。
そうしていれば姉が現れて最後に父と母が部屋に入って来た。姉もグロリアを見て驚いていたが、父母は今の状況をすでに理解しているようだ。
「グロリア、今日集まったのは決心がついたからなのかな?」
「はい、お父様」
何を決めたのだろうか。父はそれもわかっているようで今から説明してくれるみたいだが、先程から心臓がドキドキとうるさいのは何かが変わっていこうとしているからなのか。
「今からわたくしのこの状態、そしてこれからしようと考えている事をお話したいと思っています」
わたくしは、あの倒れた日からの十四年間を振り返っていた。
表に出られるのはアンノさんが眠っている夜のわずかな時間。その短い時間で家族と交流し、情報を集めて<ユウゴウシャ>になる事だけを目指していた。でもそれは、わたくしが一方的にそう考えていただけでアンノさんの意思ではない。どんなに中から語りかけても彼女にはわたくしの声も想いも届かなかった。それなのに彼女の声も思考もわたくしには届いている。この状態を打破するにはどうすればいいのかと頭を悩まされていた。
彼女の妄想は年々酷くなっていく。一番許せないのはアマリアの事を酷く言う時だった。彼女には世界がどう見えているのか不思議なくらい、わたくしが見ている現実とは違っていた。
アマリアにはあの日記帳に書かれた彼女の妄想小説の事くらいしか伝えていない。実際に中にいて聞こえてくるあの酷い妄想は、わたくしの大切な半身アマリアを傷つけるようなものばかり。父と母には報告していたが、姉にもこれらは伝えられなかった。
学園に入学してからは他の<ヒョウイシャ>を観察していたが、とんでもない令嬢が二人いた。アンノさんは大人しく過ごしているが、いつかあの人達のように豹変してアマリアを傷つけてしまうのではないか?そう、わたくしの身体を使って……。
それだけは嫌だ!
そう強く思った時からわたくしは<ユウゴウシャ>を目指すのではなく、自分が表に出る方法を考え出した。
わたくしは魔力が少ないがアンノさんも魔力はそう多くない。だが、わたくしには術があった。幼少期に無意識に開花していた『吸収』という術が使えるのだ。これはアマリアが魔力過多で熱を出して倒れるのを何とかしたいと願って得たものだった。だからアマリアからしか魔力は吸収できなかった。でももし、アンノさんの魔力を吸収する事ができたなら彼女に何か影響を与えられるのではないか。そう考えれば試してみるしかない。今のわたくしにはそう長い時間がないのだ。タイムリミットが近づいて来ている今は、どんなささいな事にでも縋りたかった。
まずはアマリア以外から本当に魔力が吸収できるのかを試す。そのために術についてを詳しく学ばなければならない。父に相談して、学園で魔法の授業を受けられるようにしてもらった。直接わたくしが受けられないがアンノさんを通して学んでいく。彼女は先生の話など聞かずに妄想の世界に入っているので、まわりから見れば大人しく授業を受けているように見えるだろう。
そして、夜は『魔術』を研究している術士の方に見てもらいながら実践していく。最初は上手くいかなかったが、続けていくうちに徐々にアンノさんの魔力を吸収できるようになった。とはいえ、微々たるもの。なんの効果もないこれに落ち込んでいたが、だんだんとアンノさんの睡眠時間が増えていくのがわかった。
魔力は魂に宿るもの。そこから少しずつ吸収していけば彼女にも影響が出てくる。魂を消したいまでは思っていない。ただ、わたくしの中で眠っていて欲しい。そしてわたくしに身体を、自由を返して欲しい。
彼女が眠りにつき、わたくしが長く外に出られるようになった。あとはどうやって彼女を完全に眠らせて、いつか輪廻に帰るその時までわたくしの中に封ずるかが問題だ。
そしてこの実験は王家や<ユウゴウシャ>の研究者などを巻き込んだ一大プロジェクトにいつの間にかなっていた。
クレメッティ兄様とレベッカ様は結婚されて、魔法と魔道具の研究に力を入れられている。姉も今年結婚する事になり、私もまだ先の事だが結婚に向けて準備をするのでキルッカ家はますます忙しくなる
自室で幼少期に着ていたドレスなどを整頓していれば、マリタが私を訪ねてきた。
「失礼します。アマリアお嬢様、少しよろしいでしょうか?」
「マリタ、どうしたのかしら?」
「はい。グロリアお嬢様がお話があると」
「グロリアが?」
どうしたのだろう?グロリアがと言っているが、それはアンノさんの事なのだろうか?
「アンノさんではなく、グロリアお嬢様ご本人です」
「え? わかったわ。いつもの部屋に向かえばいいのね」
「はい。お願いします」
今は日中の明るい時間帯。あの寝る前の夜の時間ではないのに、グロリアは表に出て来られたというのだろうか。逸る心を落ち着かせながらメーリ達と一緒に向かう事にした。扉の前で待っていたマリタに案内されて部屋に入れば、そこにはグロリアが立っている。
「グロリア?」
「そうだぞ、アマリア」
「でも、今は夜ではないよ……」
「うん。その事を説明していかないとな。そして、これからの事も……」
何かを決意したかのように目には力強い光が灯っている。
ソファーに座ってお茶を飲みながら彼女が話し出すのを待っていた。グロリアは緊張しているのか膝の上にある手を握っている。
そうしていれば姉が現れて最後に父と母が部屋に入って来た。姉もグロリアを見て驚いていたが、父母は今の状況をすでに理解しているようだ。
「グロリア、今日集まったのは決心がついたからなのかな?」
「はい、お父様」
何を決めたのだろうか。父はそれもわかっているようで今から説明してくれるみたいだが、先程から心臓がドキドキとうるさいのは何かが変わっていこうとしているからなのか。
「今からわたくしのこの状態、そしてこれからしようと考えている事をお話したいと思っています」
わたくしは、あの倒れた日からの十四年間を振り返っていた。
表に出られるのはアンノさんが眠っている夜のわずかな時間。その短い時間で家族と交流し、情報を集めて<ユウゴウシャ>になる事だけを目指していた。でもそれは、わたくしが一方的にそう考えていただけでアンノさんの意思ではない。どんなに中から語りかけても彼女にはわたくしの声も想いも届かなかった。それなのに彼女の声も思考もわたくしには届いている。この状態を打破するにはどうすればいいのかと頭を悩まされていた。
彼女の妄想は年々酷くなっていく。一番許せないのはアマリアの事を酷く言う時だった。彼女には世界がどう見えているのか不思議なくらい、わたくしが見ている現実とは違っていた。
アマリアにはあの日記帳に書かれた彼女の妄想小説の事くらいしか伝えていない。実際に中にいて聞こえてくるあの酷い妄想は、わたくしの大切な半身アマリアを傷つけるようなものばかり。父と母には報告していたが、姉にもこれらは伝えられなかった。
学園に入学してからは他の<ヒョウイシャ>を観察していたが、とんでもない令嬢が二人いた。アンノさんは大人しく過ごしているが、いつかあの人達のように豹変してアマリアを傷つけてしまうのではないか?そう、わたくしの身体を使って……。
それだけは嫌だ!
そう強く思った時からわたくしは<ユウゴウシャ>を目指すのではなく、自分が表に出る方法を考え出した。
わたくしは魔力が少ないがアンノさんも魔力はそう多くない。だが、わたくしには術があった。幼少期に無意識に開花していた『吸収』という術が使えるのだ。これはアマリアが魔力過多で熱を出して倒れるのを何とかしたいと願って得たものだった。だからアマリアからしか魔力は吸収できなかった。でももし、アンノさんの魔力を吸収する事ができたなら彼女に何か影響を与えられるのではないか。そう考えれば試してみるしかない。今のわたくしにはそう長い時間がないのだ。タイムリミットが近づいて来ている今は、どんなささいな事にでも縋りたかった。
まずはアマリア以外から本当に魔力が吸収できるのかを試す。そのために術についてを詳しく学ばなければならない。父に相談して、学園で魔法の授業を受けられるようにしてもらった。直接わたくしが受けられないがアンノさんを通して学んでいく。彼女は先生の話など聞かずに妄想の世界に入っているので、まわりから見れば大人しく授業を受けているように見えるだろう。
そして、夜は『魔術』を研究している術士の方に見てもらいながら実践していく。最初は上手くいかなかったが、続けていくうちに徐々にアンノさんの魔力を吸収できるようになった。とはいえ、微々たるもの。なんの効果もないこれに落ち込んでいたが、だんだんとアンノさんの睡眠時間が増えていくのがわかった。
魔力は魂に宿るもの。そこから少しずつ吸収していけば彼女にも影響が出てくる。魂を消したいまでは思っていない。ただ、わたくしの中で眠っていて欲しい。そしてわたくしに身体を、自由を返して欲しい。
彼女が眠りにつき、わたくしが長く外に出られるようになった。あとはどうやって彼女を完全に眠らせて、いつか輪廻に帰るその時までわたくしの中に封ずるかが問題だ。
そしてこの実験は王家や<ユウゴウシャ>の研究者などを巻き込んだ一大プロジェクトにいつの間にかなっていた。
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