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四十、グロリアの決意
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グロリアの話を静かに聞いて彼女のこの十四年間の想いが伝わった。私はあの時に約束したように、ただ信じて待っていただけだった。もっと何かグロリアにしてあげられる事はなかったのだろうか。
「アマリア泣かないでくれ!」
「だって、私……グロリアに何もできなくて……ひとりで頑張らせてた」
隣に座った姉が背中をさすってくれているが、姉も何もできなかった自分が許せないのだろう。唇を噛んで泣くのを我慢している。
「そんな事はないぞ! いつだって信じて待ってくれていただろう? そばにいてくれた……」
グロリアも泣きそうになっている。それでも我慢して息を整えて私達に伝えてくれている。
「この『吸収』という術があるから活路が開けたのだ。これはアマリアがくれたものでもあるのだから」
昔、祖母が言っていた。グロリアは私を助けるために無意識に術を開花させたのだと。いつだってグロリアは私を助けてくれる。
「アンノさんの魔力はこの先も吸収してく。そしてその魔力とわたくしの魔力で彼女の魂を包み込んでわたくしの中で永遠に眠ってもらう。まぁ、彼女には申し訳ないのだが……」
アンノさんも故意に憑依したわけではないのでグロリアは申し訳ないと思っているのかもしれない。でも、そろそろ開放して欲しい。その身体も自由もグロリアのものなのだから。
「無事にこれができたら、わたくしはヴォワザン王国に行こうと思っている」
「ヴォワザン王国……もしかして、シャンドル殿下の所?」
「うん。彼らは<ヒョウイシャ>の研究をしているだろう? わたくしもそこで彼らに協力したいのだ。<ヒョウイシャ>がその家族が悩まなくていいように、手助けをしていきたい」
「そっか……それがグロリアが決めた事なんだね」
「そうだ」
黙って聞いていた父が頷いて、グロリアの新しい目標にむけての話し合いを始める。
「今年の満月の日にある夜会の日から、彼女の物語が始まるのだったかな?」
「そうです。彼女は何度もその事を言っていますし、日記帳にも書かれていました」
「あの妄想小説の事ですの? はぁ、彼女は小説家でも目指せばまだ建設的ですわね。まぁ、売れるとは思いませんけど」
姉はアンノさんに対しては毒を吐く。正確には私達家族以外に対してはなのだろうけど。
「まだ時間はあるね。グロリア、私達はおまえの意思を尊重するよ。でも、自分の中に溜め込んでしまわないように。きちんと相談しなさい」
「そうよ。あなたは私達の大切な娘なの」
「私も姉なのだからもっと頼ってちょうだいね」
「私だって頼りないかもしれないけど、できる事はなんでもしてあげたいんだからね!」
私達の言葉に涙が出たのかそれを隠すように目を擦っている。少し赤くなった目元で「ありがとう」と伝えて、あの快活な笑顔を浮かべてくれた。
「そういえば、あの卒業パーティーには実はわたくしが参加していたのだ」
「え、そうだったの?」
「あぁ。まわりにばれないようにアンノさんのフリをしていたからな。食事も美味しかったし、アマリアのダンスも見たぞ。二人で踊っているのが幸せそうで良かった」
「あ、ありがとう。なんだか恥ずかしいね」
グロリアが楽しめていたのなら良かった。そばにはいられなかったが一緒に学園を卒業できたのは嬉しかった。
グロリアの活動時間が増えるにつれてアンノさんは部屋に籠る日が増えていった。前までは散歩をするようにフラフラと歩いていたがそれも無くなっていた。
「代わりにわたくしが動いているからなのかな?」
「グロリアは体調に変化はない?」
「絶好調だぞ!」
今日は姉の結婚式。キルッカの教会で婚姻の儀をおこない、その後に披露宴になる。グロリアは披露宴には出られないが婚姻の儀には参加している。姉の結婚式に絶対に参加すると言っていたあの言葉どおりにそれを叶えた。
「今度はアマリアの結婚式だ。絶対に参加するからな!」
「ふふっ、ありがとう。そうだね、その次は……」
こそっと耳に内緒話のように囁けば、珍しく顔を赤く染めて慌てている。
「アマリア!? それはまだまだ先だ! でも、応援していてくれ」
「もちろん!」
姉の幸せな笑顔を二人で見つめ、私達も幸せをお裾分けしてもらう。
お揃いのドレスをきた双子の姉妹の仲が良い姿を、キルッカの民達はきっと初めて目にしただろう。
彼女が語った、物語の始まりは近づいている。
物語が始まる満月の夜まであと――。
「アマリア泣かないでくれ!」
「だって、私……グロリアに何もできなくて……ひとりで頑張らせてた」
隣に座った姉が背中をさすってくれているが、姉も何もできなかった自分が許せないのだろう。唇を噛んで泣くのを我慢している。
「そんな事はないぞ! いつだって信じて待ってくれていただろう? そばにいてくれた……」
グロリアも泣きそうになっている。それでも我慢して息を整えて私達に伝えてくれている。
「この『吸収』という術があるから活路が開けたのだ。これはアマリアがくれたものでもあるのだから」
昔、祖母が言っていた。グロリアは私を助けるために無意識に術を開花させたのだと。いつだってグロリアは私を助けてくれる。
「アンノさんの魔力はこの先も吸収してく。そしてその魔力とわたくしの魔力で彼女の魂を包み込んでわたくしの中で永遠に眠ってもらう。まぁ、彼女には申し訳ないのだが……」
アンノさんも故意に憑依したわけではないのでグロリアは申し訳ないと思っているのかもしれない。でも、そろそろ開放して欲しい。その身体も自由もグロリアのものなのだから。
「無事にこれができたら、わたくしはヴォワザン王国に行こうと思っている」
「ヴォワザン王国……もしかして、シャンドル殿下の所?」
「うん。彼らは<ヒョウイシャ>の研究をしているだろう? わたくしもそこで彼らに協力したいのだ。<ヒョウイシャ>がその家族が悩まなくていいように、手助けをしていきたい」
「そっか……それがグロリアが決めた事なんだね」
「そうだ」
黙って聞いていた父が頷いて、グロリアの新しい目標にむけての話し合いを始める。
「今年の満月の日にある夜会の日から、彼女の物語が始まるのだったかな?」
「そうです。彼女は何度もその事を言っていますし、日記帳にも書かれていました」
「あの妄想小説の事ですの? はぁ、彼女は小説家でも目指せばまだ建設的ですわね。まぁ、売れるとは思いませんけど」
姉はアンノさんに対しては毒を吐く。正確には私達家族以外に対してはなのだろうけど。
「まだ時間はあるね。グロリア、私達はおまえの意思を尊重するよ。でも、自分の中に溜め込んでしまわないように。きちんと相談しなさい」
「そうよ。あなたは私達の大切な娘なの」
「私も姉なのだからもっと頼ってちょうだいね」
「私だって頼りないかもしれないけど、できる事はなんでもしてあげたいんだからね!」
私達の言葉に涙が出たのかそれを隠すように目を擦っている。少し赤くなった目元で「ありがとう」と伝えて、あの快活な笑顔を浮かべてくれた。
「そういえば、あの卒業パーティーには実はわたくしが参加していたのだ」
「え、そうだったの?」
「あぁ。まわりにばれないようにアンノさんのフリをしていたからな。食事も美味しかったし、アマリアのダンスも見たぞ。二人で踊っているのが幸せそうで良かった」
「あ、ありがとう。なんだか恥ずかしいね」
グロリアが楽しめていたのなら良かった。そばにはいられなかったが一緒に学園を卒業できたのは嬉しかった。
グロリアの活動時間が増えるにつれてアンノさんは部屋に籠る日が増えていった。前までは散歩をするようにフラフラと歩いていたがそれも無くなっていた。
「代わりにわたくしが動いているからなのかな?」
「グロリアは体調に変化はない?」
「絶好調だぞ!」
今日は姉の結婚式。キルッカの教会で婚姻の儀をおこない、その後に披露宴になる。グロリアは披露宴には出られないが婚姻の儀には参加している。姉の結婚式に絶対に参加すると言っていたあの言葉どおりにそれを叶えた。
「今度はアマリアの結婚式だ。絶対に参加するからな!」
「ふふっ、ありがとう。そうだね、その次は……」
こそっと耳に内緒話のように囁けば、珍しく顔を赤く染めて慌てている。
「アマリア!? それはまだまだ先だ! でも、応援していてくれ」
「もちろん!」
姉の幸せな笑顔を二人で見つめ、私達も幸せをお裾分けしてもらう。
お揃いのドレスをきた双子の姉妹の仲が良い姿を、キルッカの民達はきっと初めて目にしただろう。
彼女が語った、物語の始まりは近づいている。
物語が始まる満月の夜まであと――。
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