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第一章 「占拠された花園」
八章 メッセンジャー(6)
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「……」
「……」
「平和部楽しみです。何をするのでしょうか」
「んーきっと正義も悪も関係なく平和になればそれでいいと割り切ったことをするかもしれません」
俺のブレザーの右手首の袖を右手で摘まむフリアエを後ろに、隣では両手のひらで皐に持ち上げられているミーザが楽しく皐と喋っている。
相変わらずの漆黒の布の目隠し。これでフリアエが周りを認識出来ているというのだから凄い。
「なぁ、フリアエ」
「……」
「……なんでもない」
一応袖をギュッと強く握られたが、俺の呼び掛けに声で返事をしないということは、これはアイザの人格ではないだろうか。
今日はアイザが多く出ているような気がする。アイザの言うようにフリアエとエリニュスが休んでいたとしても長いのだ。
昨日からエリニュスと会えていない。フリアエとエリニュスはアイザの中で一体なにをしているのだろう……?
「……フリアエ、大したお願いじゃないんだが、聞いてくれるか?」
「……」
事情を知らない人の前では『アイザ』と言えなかった。
「遊びに行かないか、俺と」
「……」
「休日、遊園地が開かれるらしい。……『二人』で行こう」
「……」
「思い出を一緒に作りたいんだ」
「……いいよ」
手の甲に小さな指先が当てられ、なにで表せばいいのやら、なんとも言い難いこそばゆさを感じる。
「……誰がいいか言って」
喋り方が変ではない。これはフリアエだ。
俺の意図を汲み取って選択を問いだしてきたのは、もう覚悟があるということだ。
この誘いは軽い気持ちで誘っているものではない。男と女の二人で、しかも思い出を作りたいなどとそれらしいことは言っているのである。
済ませるものを早く済ませたい。俺は彼女だけを意識する自信が無いのだから。
「……フリアエだよ」
「そう。……そう」
フリアエは納得できているのかできていないのか、曖昧に了承した。
俺も同じような心境なのだが、似たもの同士ということだろうか?
……食堂で昼食を終えた俺達四人は三階の平和部部室を目指していた。渡り廊下には生徒がほとんどおらず、帰るか部活動見学かをしていると思われる。俺達は行動が遅かったということだ。
さて、平和部についてだ。
俺は皐に平和部へ入るためにこの学園を選んでいると話しているはずなので、俺の意向に反することは今のところしていない。
「皐は平和部に入ってやっていけるか……?」
「……ふふ、いきなりどうしました?」
予想外なのか、皐は笑う。
それは今更になって心配してきたことに対してなのか、もしくは俺がマヌケ顔をしていたからなのか、俺には判断ができなかった。
「……平和部は犯罪防止に貢献する学生活動だ。危険のあるところに危険を犯す危ない部活だ、皐を傷つけてしまうかもしれない。そう思うと急に怖くて……」
「そんなに考えなくとも大丈夫ですよ」
俺があまりに情けなくなってしまっていたのか、皐は次に微笑みを向けてくれる。
「私は私を最強だと思っています。争いで負けることはありません」
見れば、見れば、だ。見ればである。見ればなのである。見ればこそなのだ。皐のその言葉、気を一番解き放つその表情、気遣いも嘘も見当たらない。
こんな小さなことで、たった少しのイベントで、ちょいと心配したおかげで見れたものは、一瞬の狂気であった。
「古代さんは精々人質にとられないようにした方がいいと思います。私への気遣いよりも」
「……ああ」
喉と身体が狂気にあてられてかたまっている。
これは俺にしか分からないものだ。フリアエ、ミーザにはきっと感じられない。
歪んでいるとか、黒いなにかが強大になっているとか、そんな不細工な代物でもなく、孤高さを放ち美しさすら感じる狂気なのだ。
俺以外には分からない。説明しても伝わらない。
一瞬だったのだから。
「……」
「平和部楽しみです。何をするのでしょうか」
「んーきっと正義も悪も関係なく平和になればそれでいいと割り切ったことをするかもしれません」
俺のブレザーの右手首の袖を右手で摘まむフリアエを後ろに、隣では両手のひらで皐に持ち上げられているミーザが楽しく皐と喋っている。
相変わらずの漆黒の布の目隠し。これでフリアエが周りを認識出来ているというのだから凄い。
「なぁ、フリアエ」
「……」
「……なんでもない」
一応袖をギュッと強く握られたが、俺の呼び掛けに声で返事をしないということは、これはアイザの人格ではないだろうか。
今日はアイザが多く出ているような気がする。アイザの言うようにフリアエとエリニュスが休んでいたとしても長いのだ。
昨日からエリニュスと会えていない。フリアエとエリニュスはアイザの中で一体なにをしているのだろう……?
「……フリアエ、大したお願いじゃないんだが、聞いてくれるか?」
「……」
事情を知らない人の前では『アイザ』と言えなかった。
「遊びに行かないか、俺と」
「……」
「休日、遊園地が開かれるらしい。……『二人』で行こう」
「……」
「思い出を一緒に作りたいんだ」
「……いいよ」
手の甲に小さな指先が当てられ、なにで表せばいいのやら、なんとも言い難いこそばゆさを感じる。
「……誰がいいか言って」
喋り方が変ではない。これはフリアエだ。
俺の意図を汲み取って選択を問いだしてきたのは、もう覚悟があるということだ。
この誘いは軽い気持ちで誘っているものではない。男と女の二人で、しかも思い出を作りたいなどとそれらしいことは言っているのである。
済ませるものを早く済ませたい。俺は彼女だけを意識する自信が無いのだから。
「……フリアエだよ」
「そう。……そう」
フリアエは納得できているのかできていないのか、曖昧に了承した。
俺も同じような心境なのだが、似たもの同士ということだろうか?
……食堂で昼食を終えた俺達四人は三階の平和部部室を目指していた。渡り廊下には生徒がほとんどおらず、帰るか部活動見学かをしていると思われる。俺達は行動が遅かったということだ。
さて、平和部についてだ。
俺は皐に平和部へ入るためにこの学園を選んでいると話しているはずなので、俺の意向に反することは今のところしていない。
「皐は平和部に入ってやっていけるか……?」
「……ふふ、いきなりどうしました?」
予想外なのか、皐は笑う。
それは今更になって心配してきたことに対してなのか、もしくは俺がマヌケ顔をしていたからなのか、俺には判断ができなかった。
「……平和部は犯罪防止に貢献する学生活動だ。危険のあるところに危険を犯す危ない部活だ、皐を傷つけてしまうかもしれない。そう思うと急に怖くて……」
「そんなに考えなくとも大丈夫ですよ」
俺があまりに情けなくなってしまっていたのか、皐は次に微笑みを向けてくれる。
「私は私を最強だと思っています。争いで負けることはありません」
見れば、見れば、だ。見ればである。見ればなのである。見ればこそなのだ。皐のその言葉、気を一番解き放つその表情、気遣いも嘘も見当たらない。
こんな小さなことで、たった少しのイベントで、ちょいと心配したおかげで見れたものは、一瞬の狂気であった。
「古代さんは精々人質にとられないようにした方がいいと思います。私への気遣いよりも」
「……ああ」
喉と身体が狂気にあてられてかたまっている。
これは俺にしか分からないものだ。フリアエ、ミーザにはきっと感じられない。
歪んでいるとか、黒いなにかが強大になっているとか、そんな不細工な代物でもなく、孤高さを放ち美しさすら感じる狂気なのだ。
俺以外には分からない。説明しても伝わらない。
一瞬だったのだから。
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