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第一章 「占拠された花園」
九章 character(6)
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中学校に通っていた三年生の時、俺はクラスメートからいじめを受けていた。
俺は人と人の間から産まれた純人間の多いちょっと裕福な学校に通っており、親の影響で親の人造人間への差別を直に浴びて親に染められた子供は人造人間と人の間から産まれたハーフヒューマンを差別するのだが、それに俺が巻き込まれたのだ。
うっかり美人な母親が授業参観に来てしまったものだから人造人間がバレて、酷すぎるいじめの対象となった赤の他人を放っておけなくなって助けたのが駄目だった。
俺が純人間だったのならまだ救いはあったが、そもそも俺はハーフヒューマンだ。それがバレてしまってはいつも通り平和に過ごしていた学校生活は苦痛に塗り替えられても仕方がない。
かと言っていいようにはされていない。やられた分は必ずやり返し、友達も僅かながら作っていった。ただ友達よりもいじめの方が多いので友達付き合いは中々出来なかった。
教師は大丈夫であった。人造人間の教師がいたりするが、純人間ももちろんいる。その純人間が俺に対しとても教師とは思えない酷すぎる行為に及んだ場合、俺の親の権力で地獄を味わわせたからだ。
最後の日まで俺は純人間と和解は出来ずじまいで終わった。人は変われなかったのだ、簡単なレールが目の前で当然のように敷かれる人生では特に。
俺はそもそも変わりたくない。俺は俺を一番誇りに思っているから。
学校の玄関で自分のロッカーを開け、外靴に履き替えるともうひとっ走りする。
半分開いてある校門を通り過ぎ、左へ方向を変えて真っ直ぐ走る。
遠くの方で右手を目に当てている女の子の背を見つけると、ペースを上げてさっさと追いつこうと急ぐ。
紺色のブレザーと紺色のスカートは見覚えがあり、薄い茶色の後ろ髪には見覚えがある。あの薄さはそこらにいるような一般的なものではない。
……ああ、知っている子か。
「お、どうしたんだ?」
「え……わっ!」
隣に立つくらいまで近付いてから、疲れを見せないようにしながら声を掛けると女の子は驚いて一歩離れた。
瞳の色だって薄茶色だ。目をかっぴらいているので色が良くわかる。
きちんと食べているのかと心配するくらいに華奢で可愛くて、いたずらしたくなるくらいに小動物。性格は良くわからない。
「ふ、古代先輩……? どうして……」
「え? 何だって?」
「あの……わ、私……」
「え? 聞こえないぞ?」
「あ……の、どうしてここに……?」
上目遣いで言われても声が小さいので聞き取れないのだが、ようやく聞こえた質問に数秒の思考を交えながら答えた。
「あー、ここ俺の学校の近くで、たまたま通りかかった君を見掛けてね」
「あの……あの……!」
「なに?」
「去年、学校で助けてくれてありがとうございました……」
「いやもういいよ。気にしないで」
腫れた瞼にまた涙が溜まる。前にいじめられていたので助けたことはあるが、そんなの一回だけだ。偶然なのである。
「君は二年の来田だよな」
「は、はい……今は三年ですが……」
「泣いてたけれど、何かあったのか?」
「……な、なんでもありません……」
気張る来田だが、流れる涙は止まらなく、いちいち手で拭っている。
とても傷ついているように見えた。嬉し涙のようには到底思えない。
ポケットから黄色のハンカチを取り出して、彼女の目の下に当ててあげた。
「なんだよ、汚れてるじゃねえか。拭いてやるよ」
「……ぇっく。ありがとう、ございます……」
若干俯いて泣いているところを見られないようにされるが、俺は彼女の涙が止まるまで、地面に泣いたなんてあからさまな証拠を残さないように、涙を奪った。
事情は聴かないことにする。俺が彼女を助けられるとは限らないし、助けを求められなければ動けない。彼女なりに頑張っているのなら、俺は適当に手出ししては失礼なのだ。
涙は中々止まらなかった。ずっと、何時間も流れ続け、日は落ちていく。
「来田、泣くなよ」
「ご、ごめんなさい……わ、私……先輩に会えたのが嬉しくて、と、止められないんです……」
「俺が? なんで俺なんか……」
来田は自分が言ったことを改めて認識したのか、はっ、と泣いているのとは違った赤面をすると、俺から離れるように一歩下がった。
「わ、私ったらうっかり……」
「え? なんて言った?」
こういうのは必ず聞き逃さない自信があるが、来田だけはあまりに声が小さいのでどうしてもこうなる。
来田はいつの間にか涙を止めて顔を真っ赤にすると、ぺこっと頭を下げ、
「古代先輩、し、失礼します!」
なんとも言えないふにゃっとした大声で言うと、背を向けて走り出した。だがかなり遅いので、姿が見えなくなるまで少し長かった。
「……はぁ。……ん?」
ため息を吐いて首を下に向けると、そこには生徒手帳が落ちていた。
拾って確かめると、やはり来田のものだ。
「相樺学園中等校三年二組、来田月見ちゃんか……。たまに会うけれど、下の名前知らなかったんだよな……」
今更追いかけられない。いつか会った時に返そう。
俺は寮に帰ることにした。
俺は人と人の間から産まれた純人間の多いちょっと裕福な学校に通っており、親の影響で親の人造人間への差別を直に浴びて親に染められた子供は人造人間と人の間から産まれたハーフヒューマンを差別するのだが、それに俺が巻き込まれたのだ。
うっかり美人な母親が授業参観に来てしまったものだから人造人間がバレて、酷すぎるいじめの対象となった赤の他人を放っておけなくなって助けたのが駄目だった。
俺が純人間だったのならまだ救いはあったが、そもそも俺はハーフヒューマンだ。それがバレてしまってはいつも通り平和に過ごしていた学校生活は苦痛に塗り替えられても仕方がない。
かと言っていいようにはされていない。やられた分は必ずやり返し、友達も僅かながら作っていった。ただ友達よりもいじめの方が多いので友達付き合いは中々出来なかった。
教師は大丈夫であった。人造人間の教師がいたりするが、純人間ももちろんいる。その純人間が俺に対しとても教師とは思えない酷すぎる行為に及んだ場合、俺の親の権力で地獄を味わわせたからだ。
最後の日まで俺は純人間と和解は出来ずじまいで終わった。人は変われなかったのだ、簡単なレールが目の前で当然のように敷かれる人生では特に。
俺はそもそも変わりたくない。俺は俺を一番誇りに思っているから。
学校の玄関で自分のロッカーを開け、外靴に履き替えるともうひとっ走りする。
半分開いてある校門を通り過ぎ、左へ方向を変えて真っ直ぐ走る。
遠くの方で右手を目に当てている女の子の背を見つけると、ペースを上げてさっさと追いつこうと急ぐ。
紺色のブレザーと紺色のスカートは見覚えがあり、薄い茶色の後ろ髪には見覚えがある。あの薄さはそこらにいるような一般的なものではない。
……ああ、知っている子か。
「お、どうしたんだ?」
「え……わっ!」
隣に立つくらいまで近付いてから、疲れを見せないようにしながら声を掛けると女の子は驚いて一歩離れた。
瞳の色だって薄茶色だ。目をかっぴらいているので色が良くわかる。
きちんと食べているのかと心配するくらいに華奢で可愛くて、いたずらしたくなるくらいに小動物。性格は良くわからない。
「ふ、古代先輩……? どうして……」
「え? 何だって?」
「あの……わ、私……」
「え? 聞こえないぞ?」
「あ……の、どうしてここに……?」
上目遣いで言われても声が小さいので聞き取れないのだが、ようやく聞こえた質問に数秒の思考を交えながら答えた。
「あー、ここ俺の学校の近くで、たまたま通りかかった君を見掛けてね」
「あの……あの……!」
「なに?」
「去年、学校で助けてくれてありがとうございました……」
「いやもういいよ。気にしないで」
腫れた瞼にまた涙が溜まる。前にいじめられていたので助けたことはあるが、そんなの一回だけだ。偶然なのである。
「君は二年の来田だよな」
「は、はい……今は三年ですが……」
「泣いてたけれど、何かあったのか?」
「……な、なんでもありません……」
気張る来田だが、流れる涙は止まらなく、いちいち手で拭っている。
とても傷ついているように見えた。嬉し涙のようには到底思えない。
ポケットから黄色のハンカチを取り出して、彼女の目の下に当ててあげた。
「なんだよ、汚れてるじゃねえか。拭いてやるよ」
「……ぇっく。ありがとう、ございます……」
若干俯いて泣いているところを見られないようにされるが、俺は彼女の涙が止まるまで、地面に泣いたなんてあからさまな証拠を残さないように、涙を奪った。
事情は聴かないことにする。俺が彼女を助けられるとは限らないし、助けを求められなければ動けない。彼女なりに頑張っているのなら、俺は適当に手出ししては失礼なのだ。
涙は中々止まらなかった。ずっと、何時間も流れ続け、日は落ちていく。
「来田、泣くなよ」
「ご、ごめんなさい……わ、私……先輩に会えたのが嬉しくて、と、止められないんです……」
「俺が? なんで俺なんか……」
来田は自分が言ったことを改めて認識したのか、はっ、と泣いているのとは違った赤面をすると、俺から離れるように一歩下がった。
「わ、私ったらうっかり……」
「え? なんて言った?」
こういうのは必ず聞き逃さない自信があるが、来田だけはあまりに声が小さいのでどうしてもこうなる。
来田はいつの間にか涙を止めて顔を真っ赤にすると、ぺこっと頭を下げ、
「古代先輩、し、失礼します!」
なんとも言えないふにゃっとした大声で言うと、背を向けて走り出した。だがかなり遅いので、姿が見えなくなるまで少し長かった。
「……はぁ。……ん?」
ため息を吐いて首を下に向けると、そこには生徒手帳が落ちていた。
拾って確かめると、やはり来田のものだ。
「相樺学園中等校三年二組、来田月見ちゃんか……。たまに会うけれど、下の名前知らなかったんだよな……」
今更追いかけられない。いつか会った時に返そう。
俺は寮に帰ることにした。
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