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フィルベールの希望
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「お気に入りって……」
それ以上その男は何も言わず、自分の食事を取っていくとさっさとテーブルに着いた。
お気に入りとは先輩が言っていた夜のあれのことだろうか。
そんなことをさせられているとは信じたくないが、お兄様は私の目から見てもすらっとしていてとても美しくかっこいい男になっていた。
品もあるし、王女が気に入るのも頷ける。
でもそれはお兄様の苦しみあっての事だ。
私は居た堪れなくなって、彼のいないこの食堂を足早に後にした。
それから昼食の時間が来て再び棟へ食事を持っていくと、お兄様の姿を見つけた。
なんとなく声をかけ辛い。
でもお兄様の方から私の手を取って廊下に出てくれたのでよかった。
「何か言いたいことがあるような感じだな。どうしたんだ?」
「ん……。お兄様に言わなくちゃいけないことがあるんだけど」
昨日の事を話した。
喜ぶかと思ったけど案外落ち着いて聞いている。
「え? アーロンは生きていたのか。そうか、それは良かった。でも運よく俺を助け出す事が出来たとしても、兵の数が雲泥の差だ。マクガイアを倒すなんて、一網打尽にされるのが落ちだろうな」
「ランシアが派兵してくれるそうよ。それにランシア国王も密かに私たちを捜していたんですって」
ティリティアとマクガイアが戦争をしている時、ランシアは東方のクレーン王国と交戦中だった。
ティリティアの同盟国だったランシアが、ティリティアを支援する余裕がなかったことは想像に難くない。
その後、戦いに勝利してクレーン王国を併合したランシアは、この大陸の二大大国の一つとして君臨することになった。
もうひとつがマクガイア王国だ。
アーロンによると、ランシアからティリティアに嫁いだ妹を溺愛していた兄のランシア国王は、妹の子どもたち二人をずっと捜索していたと言う。
その捜索隊とアーロンが接触することが出来た。
そして王子と王女が無事であり、再興したティリティアの国王としてフィルベールを擁立するのであれば、兵を派遣しマクガイアを倒すことに協力するつもりだと伝えられた。
ただ、勝利した場合、マクガイア王国の領土は全てランシアが掌握するということだった。
彼がその約束を取り付けた時、私とお兄様の消息はまだ分かっていなかった。
だからだろうか、昨日のアーロンと騎士たちはこれでランシアの協力が得られるとあって、その喜びは尋常ではなかった。
でも、それとは対照的にソーハンや盗賊団の仲間の表情が曇っていたことが私は少し気がかりだった。
「ランシアが派兵してくれるのか! それなら……!」
お兄様の表情は打って変わって明るくなった。
「ソフィア、もしかしたらこの国でも協力してくれるかもしれない貴族がいる。手紙を書きたいから紙とペンを用意してくれないか」
「うん、わかった」
昼食の食器を取りに来る時に渡したかったので、私は急いで部屋に戻って封筒と便箋、ペンを用意した。
「持って来たわよ」
他の奴隷たちの目を盗んでお兄様と廊下の突き当たりの角を曲がった所に来た。
ここなら誰も見ていない。
徐にスカートを捲り上げると、お兄様がびっくりして目を逸らした。
「何をしているんだ!」
「太腿に便箋とか括り付けて来たのよ。入口の兵士に見つかったらまずいから」
「だからって、淑女が平気でスカートを捲るなんて、いくら俺の前だからって、一体どういう育ち方をしたんだ!」
「あら、生き抜く知恵が付くくらい立派に、大切に育てられたわ」
ソーハンの事を悪く言うのはお兄様だからって許せない。
私はお兄様の驚き様に笑いながら太腿の紐を解いて便箋、封筒、ペンを渡した。
そして夕食を運んで帰る時、お兄様が書いたアーロン宛の手紙を再び太腿に括り付け、目視だけの簡単な持ち物検査を通過して持ち出すことに成功する。
お兄様はアーロン以外にエクシオ侯爵宛の手紙も書いていた。お兄様を奴隷として買った侯爵だ。
でも私がエクシオ侯爵家にその手紙を持っていっても受け取ってはもらえないだろう。
どうするのかと思っていたら、髪の染粉を定期的に届けてくれる侯爵家の従者に自分で渡すから心配ないと言われた。
それ以降、何度かアーロンとお兄様の手紙を取り持ったけど、その間、見張りの兵士は赤鼻のおじさん一人だけだったのでたやすいことだった。
それ以上その男は何も言わず、自分の食事を取っていくとさっさとテーブルに着いた。
お気に入りとは先輩が言っていた夜のあれのことだろうか。
そんなことをさせられているとは信じたくないが、お兄様は私の目から見てもすらっとしていてとても美しくかっこいい男になっていた。
品もあるし、王女が気に入るのも頷ける。
でもそれはお兄様の苦しみあっての事だ。
私は居た堪れなくなって、彼のいないこの食堂を足早に後にした。
それから昼食の時間が来て再び棟へ食事を持っていくと、お兄様の姿を見つけた。
なんとなく声をかけ辛い。
でもお兄様の方から私の手を取って廊下に出てくれたのでよかった。
「何か言いたいことがあるような感じだな。どうしたんだ?」
「ん……。お兄様に言わなくちゃいけないことがあるんだけど」
昨日の事を話した。
喜ぶかと思ったけど案外落ち着いて聞いている。
「え? アーロンは生きていたのか。そうか、それは良かった。でも運よく俺を助け出す事が出来たとしても、兵の数が雲泥の差だ。マクガイアを倒すなんて、一網打尽にされるのが落ちだろうな」
「ランシアが派兵してくれるそうよ。それにランシア国王も密かに私たちを捜していたんですって」
ティリティアとマクガイアが戦争をしている時、ランシアは東方のクレーン王国と交戦中だった。
ティリティアの同盟国だったランシアが、ティリティアを支援する余裕がなかったことは想像に難くない。
その後、戦いに勝利してクレーン王国を併合したランシアは、この大陸の二大大国の一つとして君臨することになった。
もうひとつがマクガイア王国だ。
アーロンによると、ランシアからティリティアに嫁いだ妹を溺愛していた兄のランシア国王は、妹の子どもたち二人をずっと捜索していたと言う。
その捜索隊とアーロンが接触することが出来た。
そして王子と王女が無事であり、再興したティリティアの国王としてフィルベールを擁立するのであれば、兵を派遣しマクガイアを倒すことに協力するつもりだと伝えられた。
ただ、勝利した場合、マクガイア王国の領土は全てランシアが掌握するということだった。
彼がその約束を取り付けた時、私とお兄様の消息はまだ分かっていなかった。
だからだろうか、昨日のアーロンと騎士たちはこれでランシアの協力が得られるとあって、その喜びは尋常ではなかった。
でも、それとは対照的にソーハンや盗賊団の仲間の表情が曇っていたことが私は少し気がかりだった。
「ランシアが派兵してくれるのか! それなら……!」
お兄様の表情は打って変わって明るくなった。
「ソフィア、もしかしたらこの国でも協力してくれるかもしれない貴族がいる。手紙を書きたいから紙とペンを用意してくれないか」
「うん、わかった」
昼食の食器を取りに来る時に渡したかったので、私は急いで部屋に戻って封筒と便箋、ペンを用意した。
「持って来たわよ」
他の奴隷たちの目を盗んでお兄様と廊下の突き当たりの角を曲がった所に来た。
ここなら誰も見ていない。
徐にスカートを捲り上げると、お兄様がびっくりして目を逸らした。
「何をしているんだ!」
「太腿に便箋とか括り付けて来たのよ。入口の兵士に見つかったらまずいから」
「だからって、淑女が平気でスカートを捲るなんて、いくら俺の前だからって、一体どういう育ち方をしたんだ!」
「あら、生き抜く知恵が付くくらい立派に、大切に育てられたわ」
ソーハンの事を悪く言うのはお兄様だからって許せない。
私はお兄様の驚き様に笑いながら太腿の紐を解いて便箋、封筒、ペンを渡した。
そして夕食を運んで帰る時、お兄様が書いたアーロン宛の手紙を再び太腿に括り付け、目視だけの簡単な持ち物検査を通過して持ち出すことに成功する。
お兄様はアーロン以外にエクシオ侯爵宛の手紙も書いていた。お兄様を奴隷として買った侯爵だ。
でも私がエクシオ侯爵家にその手紙を持っていっても受け取ってはもらえないだろう。
どうするのかと思っていたら、髪の染粉を定期的に届けてくれる侯爵家の従者に自分で渡すから心配ないと言われた。
それ以降、何度かアーロンとお兄様の手紙を取り持ったけど、その間、見張りの兵士は赤鼻のおじさん一人だけだったのでたやすいことだった。
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