12 / 16
12
しおりを挟む
「君には本当に感謝しているんだ」
「俺には関係ない」
「そう言わずに」
「……」
(生意気だ。ずっと年下の癖に最初から自分の方が上のような言い方をしやがる。通報すればすぐにでも処刑される身でありながら貴族気分が抜けないのはお笑いだ。ソフィアのことがなければすぐにでも身ぐるみはがして殺してやるのに)
二人の間に重苦しい空気が流れる。
少しして店の扉が開きガヤガヤと盗賊仲間が入って来てその空気を壊してくれた。
ソーハンの大切な仲間たち。そしてこれから命を失うかもしれない仲間。
仕事が終わったらたんまりと報酬を貰って二度と関わるのはよそうと心に誓った。
夜も更けて盗賊仲間がこれからカトレア通りに繰り出そうぜと言いだした。
カトレア通りとは風俗街だ。
「アーロンの旦那も一緒にどうですかい。貴族も通う高級娼館もあるんですぜ」
「私はそんな所には行かない。お前たちだけで行け」
「けっ、そんなに気取りなさんな。頭がお気に入りの娼婦がいる店は別嬪揃いだから気にいる娘も必ずおりますぜ」
「ほう、ソーハンは娼館通いをしているのか」
意味ありげな目を向けられてソーハンは苦虫を噛み潰したような顔になる。
「頭のお気に入りは金髪碧眼の色白美人だ」
「おい! 余計なこと言うな」
「はは。どっちにしろ私は行かないよ。それじゃ」
アーロンは席を立つ際ソーハンの肩をポンと軽く叩いて酒場を後にした。
(……腹が立つ……)
ソーハンは拳をぎゅっと握りしめた。
「ちぇ、若いのに面白味のない奴だ。さ、行こうぜ、お頭」
「……」
何もかもが気に入らない。
ふと自分の部屋の窓を見るとソフィアがこちらを見ているのがわかった。
(そういえば下にいると言ったが……鍵かけてるから大丈夫だろう)
ソーハンはむしゃくしゃする気分を変えるため仲間と共にカトレア通りへと向かった。
歩いている途中で仲間の一人が言いにくそうに切り出した。
「なあ頭」
「なんだ」
「俺らどうなるんです?」
「なんのことだ」
「ランシアから兵が派遣されるなら俺らいらなくないですか?」
「……今からでも手を引きたい奴は引いてもいいぞ」
「俺らが加わらなくてもあいつらだけでマクガイアを倒せそうじゃね?」
「報酬はたんまり貰えるだろうがよぉ……貴重な戦力として扱われないとやる気が失せるってもんだよな」
同調する意見が次々と出てくる。
ソーハンとは違って盗賊仲間の動機は報酬とマクガイアを倒せるということだ。
盗賊稼業でも十分稼げていたのだからそんなのはいつでも放り出せる。
ここに来て仲間の決意が崩れ始めてきた。
ソーハンは一度盗賊仲間を全員集めて意志を確認する必要があると思い、彼の片腕の男、マリオにその日時を組ませることにした。
「お前も抜けたくなったら抜けてもいいんだぞ」
「俺はお頭についてくって決めているんで。それにこの話を持ってきたのは俺なんで」
皆思い思いにぶつくさ言いながらも娼館が見えてくるとぱったりとその話をしなくなった。
「ソーハン! やっと来てくれたのね! もう長いこと来なかったからどうしちゃったのかと思ってた」
この色白で胸の大きい金髪碧眼の女性がソーハンのお気に入りと思われている娼婦だ。
彼女、ノナはソーハンを慕っている。
客にそのような感情を抱くのは良くないが、彼は結構モテるのだ。
ワルだが女性には優しく、背が高くて日焼けした肌。適度に筋肉質で顔も悪くない。筋張った腕は女性をときめかせるには十分な男らしさを感じさせる。
この娼館でも娼婦たちに人気があるのだが、彼がノナしか指名しないからノナはソーハンが自分の事を本気で好きだと勘違いしている。
勘違いさせるほどソーハンがここに通って彼女を抱いていたとも言えるが、彼はただ有り余る肉体の欲望を発散させていただけで気持ちはこれっぽっちもない。
ソフィアと再会してからはぴたっと来ることがなくなっていたのだが今日は久しぶりにノナを抱きに来た。
しかし、いざ事に及ぼうとしてもなかなか体が反応しない。
おかしい。
頑張ったが結局無理だった。
「疲れているんじゃない? あたしがしてあげるから座っていて」
ノナのテクニックでもソーハンは元気にならなかった。
「んー。何か精神的な問題でもあるとか」
「精神的か。そうかもな」
思い当たる節がありすぎる。
「そうだ、ノナ。俺は今日限りもうここには来れないと思う」
「え! どうして!? 他にいい女でもできたの?」
「あー、家に帰るのさ」
「家……確かネグマ山の近くの村って言ってたよね。ねえ、あたしも連れて行って! お願い!」
「あ? なんで連れて行かなきゃいけないんだよ」
「だってあたしのこと……好きだろう?」
「ちょ、ばか、どうしてそうなる」
「この娼館ではあたししか指名しないじゃないか」
この娼館で金髪碧眼はノナだけなのでたまたまそうしただけだ。
ソーハンは昔から金髪碧眼が好きだった。そしてソフィアもたまたまそうだった。
「ここではお前が一番好みに近かったからな。だが好きってわけじゃない」
「好みならいいじゃないか、あたしと結婚しよう?」
「無理だ」
「なんだい、ここに足しげく通っていたくらいだから付き合っている女もいないんだろう?」
「……」
「この数か月で好きな女ができたとか……」
「いや」
「じゃあ!」
「……できたんじゃなくて……昔から好きだったのさ……」
娼館を出て酒場に帰る道すがら、ソーハンはこれ以上自分の気持ちを押さえられない事に気付き、今まで蓋をしていたソフィアへの気持ちを始めて具体的に言葉にした。
「ソフィアを愛している」
「俺には関係ない」
「そう言わずに」
「……」
(生意気だ。ずっと年下の癖に最初から自分の方が上のような言い方をしやがる。通報すればすぐにでも処刑される身でありながら貴族気分が抜けないのはお笑いだ。ソフィアのことがなければすぐにでも身ぐるみはがして殺してやるのに)
二人の間に重苦しい空気が流れる。
少しして店の扉が開きガヤガヤと盗賊仲間が入って来てその空気を壊してくれた。
ソーハンの大切な仲間たち。そしてこれから命を失うかもしれない仲間。
仕事が終わったらたんまりと報酬を貰って二度と関わるのはよそうと心に誓った。
夜も更けて盗賊仲間がこれからカトレア通りに繰り出そうぜと言いだした。
カトレア通りとは風俗街だ。
「アーロンの旦那も一緒にどうですかい。貴族も通う高級娼館もあるんですぜ」
「私はそんな所には行かない。お前たちだけで行け」
「けっ、そんなに気取りなさんな。頭がお気に入りの娼婦がいる店は別嬪揃いだから気にいる娘も必ずおりますぜ」
「ほう、ソーハンは娼館通いをしているのか」
意味ありげな目を向けられてソーハンは苦虫を噛み潰したような顔になる。
「頭のお気に入りは金髪碧眼の色白美人だ」
「おい! 余計なこと言うな」
「はは。どっちにしろ私は行かないよ。それじゃ」
アーロンは席を立つ際ソーハンの肩をポンと軽く叩いて酒場を後にした。
(……腹が立つ……)
ソーハンは拳をぎゅっと握りしめた。
「ちぇ、若いのに面白味のない奴だ。さ、行こうぜ、お頭」
「……」
何もかもが気に入らない。
ふと自分の部屋の窓を見るとソフィアがこちらを見ているのがわかった。
(そういえば下にいると言ったが……鍵かけてるから大丈夫だろう)
ソーハンはむしゃくしゃする気分を変えるため仲間と共にカトレア通りへと向かった。
歩いている途中で仲間の一人が言いにくそうに切り出した。
「なあ頭」
「なんだ」
「俺らどうなるんです?」
「なんのことだ」
「ランシアから兵が派遣されるなら俺らいらなくないですか?」
「……今からでも手を引きたい奴は引いてもいいぞ」
「俺らが加わらなくてもあいつらだけでマクガイアを倒せそうじゃね?」
「報酬はたんまり貰えるだろうがよぉ……貴重な戦力として扱われないとやる気が失せるってもんだよな」
同調する意見が次々と出てくる。
ソーハンとは違って盗賊仲間の動機は報酬とマクガイアを倒せるということだ。
盗賊稼業でも十分稼げていたのだからそんなのはいつでも放り出せる。
ここに来て仲間の決意が崩れ始めてきた。
ソーハンは一度盗賊仲間を全員集めて意志を確認する必要があると思い、彼の片腕の男、マリオにその日時を組ませることにした。
「お前も抜けたくなったら抜けてもいいんだぞ」
「俺はお頭についてくって決めているんで。それにこの話を持ってきたのは俺なんで」
皆思い思いにぶつくさ言いながらも娼館が見えてくるとぱったりとその話をしなくなった。
「ソーハン! やっと来てくれたのね! もう長いこと来なかったからどうしちゃったのかと思ってた」
この色白で胸の大きい金髪碧眼の女性がソーハンのお気に入りと思われている娼婦だ。
彼女、ノナはソーハンを慕っている。
客にそのような感情を抱くのは良くないが、彼は結構モテるのだ。
ワルだが女性には優しく、背が高くて日焼けした肌。適度に筋肉質で顔も悪くない。筋張った腕は女性をときめかせるには十分な男らしさを感じさせる。
この娼館でも娼婦たちに人気があるのだが、彼がノナしか指名しないからノナはソーハンが自分の事を本気で好きだと勘違いしている。
勘違いさせるほどソーハンがここに通って彼女を抱いていたとも言えるが、彼はただ有り余る肉体の欲望を発散させていただけで気持ちはこれっぽっちもない。
ソフィアと再会してからはぴたっと来ることがなくなっていたのだが今日は久しぶりにノナを抱きに来た。
しかし、いざ事に及ぼうとしてもなかなか体が反応しない。
おかしい。
頑張ったが結局無理だった。
「疲れているんじゃない? あたしがしてあげるから座っていて」
ノナのテクニックでもソーハンは元気にならなかった。
「んー。何か精神的な問題でもあるとか」
「精神的か。そうかもな」
思い当たる節がありすぎる。
「そうだ、ノナ。俺は今日限りもうここには来れないと思う」
「え! どうして!? 他にいい女でもできたの?」
「あー、家に帰るのさ」
「家……確かネグマ山の近くの村って言ってたよね。ねえ、あたしも連れて行って! お願い!」
「あ? なんで連れて行かなきゃいけないんだよ」
「だってあたしのこと……好きだろう?」
「ちょ、ばか、どうしてそうなる」
「この娼館ではあたししか指名しないじゃないか」
この娼館で金髪碧眼はノナだけなのでたまたまそうしただけだ。
ソーハンは昔から金髪碧眼が好きだった。そしてソフィアもたまたまそうだった。
「ここではお前が一番好みに近かったからな。だが好きってわけじゃない」
「好みならいいじゃないか、あたしと結婚しよう?」
「無理だ」
「なんだい、ここに足しげく通っていたくらいだから付き合っている女もいないんだろう?」
「……」
「この数か月で好きな女ができたとか……」
「いや」
「じゃあ!」
「……できたんじゃなくて……昔から好きだったのさ……」
娼館を出て酒場に帰る道すがら、ソーハンはこれ以上自分の気持ちを押さえられない事に気付き、今まで蓋をしていたソフィアへの気持ちを始めて具体的に言葉にした。
「ソフィアを愛している」
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
62
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる