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心の転落
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ソフィアが頑固だったことを忘れていた。
でも彼女に兄と言われると、自分で突き放したにも拘わらず心の隅でがっかりしてしまう自分がいるんだから嫌になる。
本当はもうとっくにソフィアに完敗しているのだ。
随所に彼女への愛が漏れ溢れてしまっている。
そんな風だから彼女はまだ自分を受け入れてくれる余地があると無意識に感じ取って、駄々をこねる子どものように、押し通せばなんとかなると思ってしまうのだろう。
しかしここで折れてはいけない。心を鬼にしなければ。
「お前がいると安心して事を進められないんだ。王子との連絡を今までしてくれたことには感謝している。でももう手紙を届ける様な危険をお前がわざわざ冒さなくてもよくなった。ランシアで待っていてくれれば必ずいい知らせを伝えるから。信じて待っていてくれ」
「信じることなんてできない」
「信じることができないなら好きだっていうのもただの勘違いに過ぎないな。執着、愛着、どちらも本当の恋愛感情とは違う」
「そういう意味で言ったんじゃないわ。話をすり替えないで」
「じゃあ信じて待っていてくれ」
「待っていたら結婚してくれるの?」
「誰と」
「私と」
「さっき俺に結婚相手を探してくれるって言わなかったか?」
ニヤッとしてそう言うと、ソフィアがムッとした顔をしたがそんな顔も可愛い。
「言ったけど、やっぱりソーハンと結婚するのは私以外にいないことに気付いたの」
「っ……」
可愛い……可愛すぎる!
お願いだから俺の気持ちをかき乱さないでくれと言いたい。
どうにかなりそうだ。
頭の中で数を数えて意識を逸らした。
そうこうしているうちにソフィアの帰る時間が来ていつも通り送る段になったら彼女がとんでもないことを言い出した。
「ねえ、今日は一緒にいたい。泊まっていい?」
「駄目に決まっているだろ! 仕事はどうする」
「ここから行く。今日泊まらせてくれたらランシアへ行ってあげる」
「お前なー」
「妹と思っているんでしょう? だったらいいじゃない」
彼女は勝ち誇ったような顔をして腰に手を当てた。
「わかった」
「やったー! 有難う……って、ちょ、ちょっと、どこ行くの!?」
「俺は下で寝る」
「そんな!」
「鍵はかけていく。危ないから誰が来ても開けるなよ。下にいるから何かあったら大声で叫べ。まぁ大丈夫だとは思うが」
呆気にとられている彼女を残して俺は足早に出て行った。
階下の酒場には客がまばらにいて、その中にアーロンがいた。
折角のいい気分が一気に台無しになって軽くため息が出た。
変に誤解されたくないのでソフィアが来ていることを言うつもりはない。
「おう、ソーハン」
「おう」
「もうすぐだな。きっと成功させてみせる。これは俺の悲願なんだ」
アーロンは遠くを見つめるようにして言った。
ティリティア王国を再興させることが悲願だとは大袈裟だと思うが貴族とはそういうものなのか。
それとも両親を殺されたことへの復讐か。
いずれにせよ貴族の問題などどうでもいい。
俺はオーナーにビールを注文した。
「そうそう、王女殿下があんなに美しく成長していたなんて俺はついている」
ついている?
「昔から天使のように可愛らしかったけど」
俺はアーロンが苦手だ。自信に満ちた様子も、ソフィアと釣り合いが取れた年齢も外見も、自分の知らないソフィアを知っていることも全て気に食わない。
でも俺の方が圧倒的に彼女と過ごした時間が長いんだ。
天使のように可愛らしかったなんて、俺だって知っている。
彼女から好きだと言われているにも拘わらず、嫉妬してしまうなんて馬鹿らしいと頭ではわかっているが、込み上げてくる苛立ちを抑えることができない。
ビールジョッキをテーブルに置く手につい力が入ってしまい、自己嫌悪に陥る。
アーロンと目が合うと、彼は薄っすらと笑みを浮かべた。
「割れなくて良かったな」
「手が滑ってしまった」
「ソーハン。私とソフィア王女殿下は子どもの頃婚約してたんだ。だから今回の計画が成功したら私は王女殿下と結婚するだろう。王子殿下も了承してくれている」
親代わりと思っての報告のつもりか。
動揺するな。気付かれてはいけない。いや、とっくに気付いているのかもしれない。
激しく脈打つ鼓動を誤魔化す様に、マスターにもう一杯と大声で注文した。
そしてなんとも思っていないように応えた。
「そうか」
冷静に、淀みなく、淡々と言えただろうか。
酒が不味い。
彼女の気持ちも考えないで堂々と結婚すると言い切ることができる彼が、腹立たしくも……羨ましい。
俺は自分の立場を思い知らされた。
でも彼女に兄と言われると、自分で突き放したにも拘わらず心の隅でがっかりしてしまう自分がいるんだから嫌になる。
本当はもうとっくにソフィアに完敗しているのだ。
随所に彼女への愛が漏れ溢れてしまっている。
そんな風だから彼女はまだ自分を受け入れてくれる余地があると無意識に感じ取って、駄々をこねる子どものように、押し通せばなんとかなると思ってしまうのだろう。
しかしここで折れてはいけない。心を鬼にしなければ。
「お前がいると安心して事を進められないんだ。王子との連絡を今までしてくれたことには感謝している。でももう手紙を届ける様な危険をお前がわざわざ冒さなくてもよくなった。ランシアで待っていてくれれば必ずいい知らせを伝えるから。信じて待っていてくれ」
「信じることなんてできない」
「信じることができないなら好きだっていうのもただの勘違いに過ぎないな。執着、愛着、どちらも本当の恋愛感情とは違う」
「そういう意味で言ったんじゃないわ。話をすり替えないで」
「じゃあ信じて待っていてくれ」
「待っていたら結婚してくれるの?」
「誰と」
「私と」
「さっき俺に結婚相手を探してくれるって言わなかったか?」
ニヤッとしてそう言うと、ソフィアがムッとした顔をしたがそんな顔も可愛い。
「言ったけど、やっぱりソーハンと結婚するのは私以外にいないことに気付いたの」
「っ……」
可愛い……可愛すぎる!
お願いだから俺の気持ちをかき乱さないでくれと言いたい。
どうにかなりそうだ。
頭の中で数を数えて意識を逸らした。
そうこうしているうちにソフィアの帰る時間が来ていつも通り送る段になったら彼女がとんでもないことを言い出した。
「ねえ、今日は一緒にいたい。泊まっていい?」
「駄目に決まっているだろ! 仕事はどうする」
「ここから行く。今日泊まらせてくれたらランシアへ行ってあげる」
「お前なー」
「妹と思っているんでしょう? だったらいいじゃない」
彼女は勝ち誇ったような顔をして腰に手を当てた。
「わかった」
「やったー! 有難う……って、ちょ、ちょっと、どこ行くの!?」
「俺は下で寝る」
「そんな!」
「鍵はかけていく。危ないから誰が来ても開けるなよ。下にいるから何かあったら大声で叫べ。まぁ大丈夫だとは思うが」
呆気にとられている彼女を残して俺は足早に出て行った。
階下の酒場には客がまばらにいて、その中にアーロンがいた。
折角のいい気分が一気に台無しになって軽くため息が出た。
変に誤解されたくないのでソフィアが来ていることを言うつもりはない。
「おう、ソーハン」
「おう」
「もうすぐだな。きっと成功させてみせる。これは俺の悲願なんだ」
アーロンは遠くを見つめるようにして言った。
ティリティア王国を再興させることが悲願だとは大袈裟だと思うが貴族とはそういうものなのか。
それとも両親を殺されたことへの復讐か。
いずれにせよ貴族の問題などどうでもいい。
俺はオーナーにビールを注文した。
「そうそう、王女殿下があんなに美しく成長していたなんて俺はついている」
ついている?
「昔から天使のように可愛らしかったけど」
俺はアーロンが苦手だ。自信に満ちた様子も、ソフィアと釣り合いが取れた年齢も外見も、自分の知らないソフィアを知っていることも全て気に食わない。
でも俺の方が圧倒的に彼女と過ごした時間が長いんだ。
天使のように可愛らしかったなんて、俺だって知っている。
彼女から好きだと言われているにも拘わらず、嫉妬してしまうなんて馬鹿らしいと頭ではわかっているが、込み上げてくる苛立ちを抑えることができない。
ビールジョッキをテーブルに置く手につい力が入ってしまい、自己嫌悪に陥る。
アーロンと目が合うと、彼は薄っすらと笑みを浮かべた。
「割れなくて良かったな」
「手が滑ってしまった」
「ソーハン。私とソフィア王女殿下は子どもの頃婚約してたんだ。だから今回の計画が成功したら私は王女殿下と結婚するだろう。王子殿下も了承してくれている」
親代わりと思っての報告のつもりか。
動揺するな。気付かれてはいけない。いや、とっくに気付いているのかもしれない。
激しく脈打つ鼓動を誤魔化す様に、マスターにもう一杯と大声で注文した。
そしてなんとも思っていないように応えた。
「そうか」
冷静に、淀みなく、淡々と言えただろうか。
酒が不味い。
彼女の気持ちも考えないで堂々と結婚すると言い切ることができる彼が、腹立たしくも……羨ましい。
俺は自分の立場を思い知らされた。
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