亡国の王女は押しかけ女房になって愛する人と結婚します

今井杏美

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抑えられない気持ち

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 アーロンが爵位を取り戻したらそれこそソフィアの相手にぴったりではないかと、そう思いはするが、湧き起こってくるこの男に対するどす黒い感情をかき消すことができない。
 
 自分の中に相反する気持ちがあるのは分かっている。
 自分から家を出て行ったくせに、会いたくて仕方が無かった。
 誘拐された時も、ソフィアの事を考えていたら丁度彼女の声が聞こえてきたのだ。
 それなのに受け入れることから逃げ続けている。

 本当にどうしようもない。
 
 そんな俺の葛藤も知らず、アーロンはあたかもソフィアが自分に属する人間かのように言った。

「君には本当に感謝しているんだ」
「……俺には関係ない」
「そう言わずに」
「……」

 
 生意気だ。
 ずっと年下のくせに最初から自分の方が上のような偉そうな言い方をしやがる。
 国に通報すればすぐにでも処刑される身でありながら貴族気分が抜けないのはちゃんちゃらおかしい。
 
 決していい雰囲気ではない空気を壊してくれたのは、後から店に入って来た俺の仲間だった。
 命を失うかもしれない仲間。
 仕事が終わったらたんまりと報酬を貰って、二度と関わるのはよそうと心に誓った。

 あと二時間で日付が変わるという時刻になって、盗賊仲間がこれからカトレア通りに繰り出そうぜと言い出した。
 カトレア通りとは娼館が立ち並ぶ風俗街だ。

「アーロンの旦那も一緒にどうですかい」
「私はそんな所にはいかない」
「けっ、気取りなさんな。お頭がお気に入りの娼婦がいる店は別嬪揃いだからきっと気に入る娘もおりますぜ」
「……ソーハンは娼館通いをしているのか」

 アーロンから意味ありげな目を向けられて俺は目を逸らした。
 今俺はどんな顔をしているのだろうか。

「お頭のお気に入りは金髪碧眼の色白美人だ」
「おい! 余計なこと言うな!」
「ははは。どっちにしろ私は行かないよ。それじゃ」

 アーロンは席を立つ際俺の肩をポンと軽く叩いて酒場から出て行った。
 
 ガヤガヤと店を出て、ふと自分の部屋の窓を見上げるとソフィアが見ていた。
 彼女には下にいると言ったが、鍵をかけているから大丈夫だろう。
 他の奴らに彼女が俺の部屋にいることを気付かれないようすぐに顔を逸らした。

 彼女の事はこれまでずっと黙っていたが、王女が見つかったことをみんなに報告した時に言わざるを得なくなった。
 昔からソフィアと暮らしていることを知っていたのは俺の片腕であるマリオだけだ。
 他の奴らを信頼していないわけじゃないが、知っている人数はできるだけ少ない方がいい。

 さんざん水臭いと言われたが、俺の気持ちも分かってくれたのか、その後、特に不満を言われることは無かった。
 なんだかんだ言っても付き合いも長く、気の置けない仲間だ。
 そう言う意味では俺は彼らから信頼されているんだろう。

 むしゃくしゃする気分を変えるため仲間とカトレア通りへと向かった。
 その途中、仲間の一人が言いにくそうに切り出した。

「なあ、お頭。俺らどうなるんです?」
「なんのことだ」
「ランシアから兵が派遣されるなら、俺らいらなくないですか?」
「……今からでも手を引きたい奴は引いてもいいぞ」
「俺らが加わらなくてもあいつらだけでこの国、倒せそうじゃね?」
「だな。報酬はたんまり頂けてもよぉ、貴重な戦力として扱われないとやる気が失せるってもんだよな」

 同調する意見が次々と出てくる。
 盗賊稼業でも十分稼げていたのだから、こんな仕事いつでも放りだせるのだ。
 ここに来て仲間の決意が崩れ始めてきた。
 一度仲間の意志を再確認する必要があると思い、マリオにその日時を汲ませることにした。

「マリオ、お前も抜けたくなったら抜けてもいいんだぞ」
「俺はお頭についていくって決めているんで。それにこの話を持って来たのは俺なんで」


 皆ぶつくさ言いながらも娼館が見えてくるとぱったりとその話をしなくなった。


 店に入る前、アーロンに肩を叩かれたのが思い出された。
 なんだか気が削げてやっぱり帰ろうと思っていたら、ノナに見つかった。

「ソーハン! やっと来てくれたのね! 長いこと来なかったからどうしちゃったのかと思ってた」

 この色白で胸の大きい金髪碧眼の女性が俺のお気に入りと思われている娼婦、ノナだ。
 仕方ない。この店では食事や酒、賭けも楽しむことが出来るから、今日は酒だけにして帰ろうと思った。

「相変わらずいい男だね。随分日焼けして増々男らしくなっちゃってさ」
「ノナ。俺は今日限りもうここには来ない」
「え! 他にいい女でもできたの?」
「あー……。家に帰るのさ」
「家? 確かマグネ山が見える村って言ってたよね。ねえ、あたしも連れて行って!」
「ふざけるな」
「だってあたしのこと好きだろう?」
「どうしてそうなる」
「この娼館ではあたししか指名しないじゃないか」

 この娼館で金髪碧眼はノナだけなのでたまたまそうしただけだ。

「お前が好みに近かったからな。だが好きって訳じゃない」
「好みならいいじゃないか、あたしと結婚しよう?」
「馬鹿言え」
「……まさか、この数か月で好きな女ができたとか……」

 俺は首を横に振った。
 
「じゃあ!」
「できたんじゃなくて、昔から好きだったのさ……」


 酒場に帰る道すがら、俺はこれ以上自分の気持ちを抑えられない事に気付き、ソフィアへの気持ちを初めて言葉にした。

「俺はソフィアを愛している」


 
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