亡国の王女は押しかけ女房になって愛する人と結婚します

今井杏美

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マクガイア王国の終焉

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 私は今ランシアの南端の海岸沿いにある王家の別荘に滞在している。
 バルコニーに出ると冬の海風が冷たく、凍てついた波音が聞こえる。
 たまに海鳥が手すりに留まるのが楽しみだ。

 ティリティアも海沿いの国だったけど私はまだ海を見たことが無くて、ここで初めて見たその雄大な景観には本当に感動した。
 ソーハンは海を見たことがあるだろうか。
 
 ただ、こんな素晴らしい場所で匿ってくれるとは、ずっと小さな家で暮らしてきた私には分不相応に感じることもある。
 
 最初ランシア国王は王宮に滞在させようと思っていたらしい。
 でもどこにマクガイア王国と繋がっている輩がいるとも限らない。
 私を匿っていることがばれたら余計な警戒心を抱かせる。
 ということで、この別荘になった。


 部屋の扉をノックする音が聞こえたので部屋に入ると、メイドが温かい紅茶を持って来てくれた。
 王宮から派遣された私と同い年くらいの女性だ。
 
「ねえ、ランシアの兵士って東方のクレーン王国に勝ったくらいだから強いのよね」
「はい。我が国の兵士たちはとても強いですよ。私の兄も兵士なんですが、訓練がそれはもう厳しいらしくて、近衛や国王軍は選りすぐりの兵士の集まりだと聞いております」

 この会話は今日が初めてではない。
 とにかく安心したくて何度も聞いてしまうのだけど、彼女は私の同じ質問にいつも快く答えてくれてなんだか申し訳ない。

 ソーハン、お兄様、仲間の人たち。
 どうか無事でいて。
 
 それからしばらくしてマクガイアとの戦いの結果が私の耳に届いた。


 ***

 雪の降る深夜。
 決行の日は、エリス王女がルシオ――フィルベールを寝所に呼んだ日だった。

 エリス王女は逆にフィルベールに押さえつけられて、乗り込んできた仲間に拘束された。
 王太子は婚約者がいるにもかかわらず多くの女性を寝室に侍らせみだらな行為を行っている所を拘束された。

 こういう行為を行う時、王女と王太子は護衛の騎士の数を減らしているのをフィルベールは前もって分かっていたため、あっけなく片付けることができた。

 女性関係の派手な王太子はエクシオ侯爵家の騎士たちにとても雑に扱われ、侯爵令嬢の恨みを晴らすかのように、処刑されるまで裸のまま冷たい牢に入れられた。

 国王夫妻は異変に気付くとすぐに王宮から脱出した。
 王宮内外での戦いは王太子らを捕縛する時より苦戦したが、ランシア国軍の援護があったこと、そして急襲だったこともあって、マクガイア兵士は態勢を整える間もなく破れた。

 逃走中の国王夫妻を捕らえることに成功したのはソーハンと仲間たちだ。
 近衛騎士との戦いは熾烈を極めたが、後ろからアーロンや侯爵の騎士らも駆けつけなんとかソーハンが勝利した。
 
 そうして王宮は占拠され、王族を人質に取られた残りの近衛騎士団はなすすべもなく降伏した。

 数日後、マクガイアの民衆の前で国王夫妻、王太子、エリス王女は断頭台に上がった。
 その時エリス王女がフィルベールを見て叫んだ。

「ルシオ! あなたにはとても良くしてやったのにどうしてこんなことするの! 裏切り者! 恩知らず!」
「良くしてやっただと? 王女、俺はいつもお前を殺したいほど憎んでいた。お前の変態趣味に合わせるのは苦痛以外の何ものでもなかった!」
「なっ」
「いいことを教えてやろう。国王も良く聞け。俺はルシオではなく、ティリティアの王子、フィルベールだ」

 国王一家は驚愕の目でフィルベールを見た。

 民衆はティリティアの王子がマクガイア王家を倒したことに怒るどころか熱狂して喜んだ。
 戦争に勝ってもほとんどの民は相変わらず貧しい暮らしを送っており、家族を戦争に駆り出されて奪われただけでその補償もないことに我慢の限界が来ていたのだ。

 また、全てが王城内で完結して自分たちに被害が及ばなかったこと、マクガイアの国民はそのままランシアの国民としての処遇を受けることが確約され、民衆たちは歓喜した。
 
 国王派の貴族たちは逃げ出す前に邸が襲撃され、処刑もしくは奴隷の身分に落とされた。

 前もってエクシオ侯爵の働き掛けでこの計画に加担していた貴族たちはランシア国王に忠誠を誓えば治めていた領地を引き続き任されることになる。

 ランシア国王は最小限の血を流すことで容易に大国マクガイアを手に入れた。
 そしてマクガイアの領土を統治するため新たな支配制度を確立する際、フィルベール王子とソフィア王女を助けた者――エクシア侯爵とソーハン――を優遇して褒賞を与えた。


 ***

 ソーハンが無事だった!
 お兄様や他の仲間たちもみな無事だったと聞いて一安心だ。

 私はランシア国王からソーハンに男爵位を与えたと教えてもらった。
 とんでもなくびっくりしたけど、きっと彼は意気揚々と私を迎えに来るだろうと思うと、その日が来るのを毎日夢見心地で待っていた。


 
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