亡国の王女は押しかけ女房になって愛する人と結婚します

今井杏美

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募る不安

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 マクガイアが滅びた後、いくら待ってもソーハンは私を迎えに来ない。

 まさかまた何も言わずに自分から去ろうとしているのではないかと疑心暗鬼に駆られる。

 でも約束したのだ。
 彼は私を愛していると言って、私たちは両想いになった。
 信じて待っていてくれと言ったのだ。
 疑うのはやめよう。

 きっと男爵としての慣れない仕事に忙しくて迎えに来る暇がないのだ。
 そうよ、あの人が男爵なんて、頭を掻きながら机に向かっている姿を想像すると、似合わなくって笑っちゃう。

 だったら自分の方から彼の所へ行って驚かせよう! と思ったが、入れ違いになるかもしれず、やっぱり待つことにした。

 しかしその我慢もそう長くは続かず、やっぱり行くことにした時、お兄様の戴冠式とランシアの王女との結婚式が同時に執り行われることになって、私はランシアの王女と共にティリティアに行くこととなった。


 ***

 二つ年下の王女は小鳥のような穏やかな顔をしたとても可愛らしい女性だ。
 私と同じ金髪碧眼で、私より背が低いのに胸は大きい。
 なんだろう、そんな所に目がいくとは。
 私の胸だって小さくはないのに、きっと子どもの頃からのコンプレックスが染みついているんだと、一人でくすっと笑ってしまった。

 ティリティアに向かう同じ馬車に乗った王女が可愛らしい声で言った。

「ソファイア様? どうかなさいましたか?」
「なんでもありません。ちょっと昔を思い出して」 
「フィルベール様も、ソフィア様も、苦労なさったと聞いております。これからは、私もティリティアのために全力を尽くしますわ」

 こんな若いのに国の事を考えてくれるなんて、さすが王女。しっかりしている。私の従妹とは思えない。
 でもお兄様との相性は良さそうだ。

 
 大陸の西側の海に面したティリティア。
 その東側に、山に囲まれた内陸の旧マクガイアがあって、ランシアはさらにその東側にある。
 しかし旧マクガイアの南にはランシアの土地が逆L字型に入り込んでいるため、ティリティアとはネグマ山を挟んで隣りどうしとも言える。
 ランシアの首都は逆L字型の角の部分に位置する。

 馬車は一週間も経たずにティリティアの首都に到着した。

 十数年ぶりに足を踏み入れた祖国、どれだけ感慨深いだろうと思ったけど、意外となんとも思わなかった。
 私の故郷はもうソーハンと過ごしたマクガイアのあの村なのだ。


 そして無事に戴冠式と結婚式も終わった。
 王妃となった王女が終始にこやかで機嫌良く見えたのは、きっとお兄様が素敵だったから嬉しかったのだろう。
 お兄様には本当に幸せになって欲しい。

 次はようやく私の番だ。


 ***
 
 ……と、意気込んだはいいが、私も王女としての役割を務めなければならなくなって、ソーハンの所へ行く時間を作ることが出来ない。

 お兄様やアーロンたちは統治体制を軌道に乗せるため多忙を極めている。

 ティリティアの民の生活はマクガイアの民よりも悲惨だったので、彼らの生活の再建の支援もしなくてはならない。
 乗っ取られた王城や宮殿、貴族の屋敷など修復するのも時間がかかる。

 こんな状態で、私だけここをほっぽり出して彼の所に行くことはできない。

 実はティリティアに来てから私の居場所を知らせるため彼に手紙を書いたのだが返事が来なくて、やきもきしながら毎日を送っている。


 あっという間に一年が過ぎて、更に半年が経とうとする頃、私の部屋にお兄様が訪ねて来た。
 告げられたのは、アーロンとの結婚の話だった。

「アーロンは昔からお前と婚約していた。王族には王族としての役割がある。彼と結婚してこの国を支えるんだ」
「嫌よ。私はソーハンと結婚するのよ」

 お兄様は首を横に振りながら呆れたように軽くため息を吐いた。

「彼は今やランシア王国の男爵だし、身分が違い過ぎる。彼らの力を借りたのは恩に着るし、その報酬も十分に与えた。これ以上接点を持つ必要は無いだろう。その方がお互いの為だ」
「なんてこと言うの! 私たちの為に命を懸けた人なのよ! 見損なったわ」
「なんとでも言え。だが彼は駄目だ」
「じゃあ王女の身分なんか捨てて出て行くわ。あっ、もしかしてお兄様が私の手紙を握りつぶしているの!?」
「何のことだ」
「手紙よ! 私からソーハンへの!」
「知らないよ。知っていたとしてもそんなことするわけないだろ」

 だったらどうして返事をくれないのだろうか。
 不安で仕方がない。

「手紙を書いても返事が来ないなら、それが答えなんじゃないか?」
「!」

 あながち違うとも言いきれない。ハッキリ言われるとさすがに堪える。
 目の前が真っ暗になった。
 へなへなと座り込み放心してしまった私にお兄様は困った顔をした。

 そして何か考えるように黙ったかと思うと、躊躇しながら話し始めた。

「まったく、お前は……。言うのを止めようと思っていたけど……。実はソーハンは――」 

 
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