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三人の雑談 それぞれの復讐
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まだ修復半ばのティリティアの王宮で、アーロン公爵とエクシオ侯爵がフィルベール国王と共に雑談をしている。
エクシオ侯爵はランシアの貴族としてティリティアとの外交を任され、現在ティリティアの王宮に滞在している。
「アーロン公爵、聞きましたぞ、ソフィア王女との結婚を諦めたと」
「諦めたと言うより最初からそのつもりはなかった。彼女には愛する男がいるのを分かっていたからね」
「ソーハン男爵ですかな」
「はい。彼は周りには王女殿下を愛していない振りをしていましたけど見え見えでね、それが面白くって殿下の事でちょっと意地悪を言ったこともあるんです。その時の彼の反応は面白かった」
「彼なりに身分や年齢を気にしていたんだろう」
「刀傷が深くて一時はどうなるか心配でしたが、無事で良かったですな。陛下もよくぞソフィア王女を彼のもとへやる決意をなさった」
「記憶を失っているというのに、戻るまで自分が面倒見るって聞かなかったんだ。まるで押しかけ女房だ。反対したら黙って出て行きそうだったから、ちゃんと私が送り出して見守ることにした」
「ははは。彼女が押しかけ女房だなんて贅沢だ。ソーハンは果報者だな」
「おおそうそう、わしとしたことが、お伝えせにゃいかんかった。ソーハン男爵は記憶が戻ったんですよ」
「なんだって!? それはいつのことだ」
「うーん、半年くらい前ですかの。わしが男爵家に送っている医師と執事から連絡がありまして。これでソフィア王女も安心ですな、フォッフォッフォッ」
ソーハンは国王を捕らえる時にマリオを庇って片方の目を失明し、体に深い刀傷を負った。
それでもなんとか国王を捕らえることに成功したが、その後倒れて一週間ほど高熱が出た。
そして熱が下がると、ソフィアの事、何故自分がそんな戦いをしていたのかということを一切忘れていたのだ。
ランシア国王から与えられた男爵位と領地、旧マクガイアの貴族の邸、褒賞金など、彼には意味が分からない。
だがマリオに貰っておけと言われたのでそうすることにした。
領地には自分が昔住んでいた家がある地域も含まれていた。
因みにマリオはソーハンの侍従として働き、他の盗賊団の仲間はナイトの称号と褒賞金、希望者にはエクシオ侯爵家の騎士として仕えることが許されたが、多くはソーハンのもとで騎士や従者として仕える道を選んだ。
「半年前……。そんな前から戻っていたのか。でもここ半年の間、彼からソフィアに連絡は無かったようだ。記憶が戻るまで待つ必要は無くなったが、彼が受け入れるかどうか……」
「陛下も心配性ですね。彼は殿下にぞっこんですよ」
「本当はお前と結婚させたかったんだぞ。もともと婚約していたし、それが一番いいことだと思っていた」
「いやいや、そんな大昔の事。それを盾に結婚を迫ろうとは思いません。私の為に犠牲になる人をこれ以上増やしたくないですよ」
「犠牲……とは何ですかな。聞いてもよろしいですか」
「もちろん。むしろ彼の為にも多くの人に知ってほしい」
フィルベールの表情が俄かに曇った。
アーロンの公爵家一家は皆処刑されたと風の噂で聞いていた。
だがアーロンは生きていた。
最悪の考えが頭を過る。
「ジョナサンのことか?」
「はい」
ジョナサンはアーロンと同い年の乳兄弟で、彼とよく似たカールした金髪の少年だった。
その彼は、マクガイアにアーロンと間違われて処刑されたのだ。
「私がマクガイアを倒すことに執念を燃やしていたのは単にティリティア王家の復活を願っていたからではありません。それだけならマクガイアを倒す気力は湧かなかったでしょう。実は両親にも怒りがあるのです。捕まったのが私ではなくジョナサンだと分かったはずなのに、そのまま彼を犠牲にさせて。それに、彼も自分はアーロンではないと言わなかったんだ。言っていたら私も指名手配されていたはずだから。まだ九歳の子どもだったのに、彼なりの忠誠心だったと思うとやり切れません。どれだけ恐ろしかったことか……。私はそこまでして生き延びようとは思っていませんでした」
マクガイアが処刑したのは王族と高位貴族の直系、傍系家族で、それ以外の貴族は奴隷に落とし、鉱山での労働を課していた。
山に囲まれたマクガイアは鉱山資源が豊富で、奴隷は多ければ多いほどよかったのだ。
ジョナサンは一応貴族ではあるが下位貴族の子どもだったため、本来なら処刑されずに済んだはず。
アーロンは、それら元貴族を呼び戻すことが出来た今、悔しいことこの上なかった。
「ほう。そのような事がおありでしたか……マクガイアの貴族だったわしとしてはなんとも申し訳ない……」
「だから自分の幸せの為に殿下の気持ちを犠牲にした政略結婚はしたくありません。私が生きているのはジョナサンのお陰です。それ以上を望むと罰が当たりますよ」
「ふぅむ。なかなか謙虚な心持ちですな。どうですか、現在婚約者がいらっしゃらないのであれば、わしの孫娘でも……」
「え? ああ、そういえば陛下の結婚式でお見かけしましたよ。実に美しい女性でした。マクガイアの王太子は酷い男でしたね」
「全くもって、わしはあの男と婚約させることに大反対だった。そもそもあんな腐った王家へ嫁にやるなんぞ考えただけでもおぞましい。だがあの子の父親が承諾してしまった。今じゃわしに感謝してるがな」
「エクシオ侯爵、そういえばなぜあなたは反国王派だったのですか? 私の事も引き渡さなかった」
「それはですね……」
エクシオ侯爵は王家に並々ならぬ恨みを抱いていた。
彼が若かった頃、婚約者を前マクガイア国王――処刑された国王の父親――に無理やり側室として奪われたのだ。
それから数年後、彼女は王妃の毒殺未遂で捕まり処刑されてしまった。
彼女は最後まで無実を叫んでいたと言う。
エクシオ侯爵は嫉妬に狂った王妃の策略に違いないと思い、彼女の無実を信じて国王に調査を求めたが無理だった。
「王家が腐っているからというのはもちろんですが、政治的ではなく個人的な恨みですな。だが個人的な恨みほど尾を引き根深いものは無い」
三人はそれぞれの復讐を終えた今、感慨深い気持ちになった。
エクシオ侯爵はランシアの貴族としてティリティアとの外交を任され、現在ティリティアの王宮に滞在している。
「アーロン公爵、聞きましたぞ、ソフィア王女との結婚を諦めたと」
「諦めたと言うより最初からそのつもりはなかった。彼女には愛する男がいるのを分かっていたからね」
「ソーハン男爵ですかな」
「はい。彼は周りには王女殿下を愛していない振りをしていましたけど見え見えでね、それが面白くって殿下の事でちょっと意地悪を言ったこともあるんです。その時の彼の反応は面白かった」
「彼なりに身分や年齢を気にしていたんだろう」
「刀傷が深くて一時はどうなるか心配でしたが、無事で良かったですな。陛下もよくぞソフィア王女を彼のもとへやる決意をなさった」
「記憶を失っているというのに、戻るまで自分が面倒見るって聞かなかったんだ。まるで押しかけ女房だ。反対したら黙って出て行きそうだったから、ちゃんと私が送り出して見守ることにした」
「ははは。彼女が押しかけ女房だなんて贅沢だ。ソーハンは果報者だな」
「おおそうそう、わしとしたことが、お伝えせにゃいかんかった。ソーハン男爵は記憶が戻ったんですよ」
「なんだって!? それはいつのことだ」
「うーん、半年くらい前ですかの。わしが男爵家に送っている医師と執事から連絡がありまして。これでソフィア王女も安心ですな、フォッフォッフォッ」
ソーハンは国王を捕らえる時にマリオを庇って片方の目を失明し、体に深い刀傷を負った。
それでもなんとか国王を捕らえることに成功したが、その後倒れて一週間ほど高熱が出た。
そして熱が下がると、ソフィアの事、何故自分がそんな戦いをしていたのかということを一切忘れていたのだ。
ランシア国王から与えられた男爵位と領地、旧マクガイアの貴族の邸、褒賞金など、彼には意味が分からない。
だがマリオに貰っておけと言われたのでそうすることにした。
領地には自分が昔住んでいた家がある地域も含まれていた。
因みにマリオはソーハンの侍従として働き、他の盗賊団の仲間はナイトの称号と褒賞金、希望者にはエクシオ侯爵家の騎士として仕えることが許されたが、多くはソーハンのもとで騎士や従者として仕える道を選んだ。
「半年前……。そんな前から戻っていたのか。でもここ半年の間、彼からソフィアに連絡は無かったようだ。記憶が戻るまで待つ必要は無くなったが、彼が受け入れるかどうか……」
「陛下も心配性ですね。彼は殿下にぞっこんですよ」
「本当はお前と結婚させたかったんだぞ。もともと婚約していたし、それが一番いいことだと思っていた」
「いやいや、そんな大昔の事。それを盾に結婚を迫ろうとは思いません。私の為に犠牲になる人をこれ以上増やしたくないですよ」
「犠牲……とは何ですかな。聞いてもよろしいですか」
「もちろん。むしろ彼の為にも多くの人に知ってほしい」
フィルベールの表情が俄かに曇った。
アーロンの公爵家一家は皆処刑されたと風の噂で聞いていた。
だがアーロンは生きていた。
最悪の考えが頭を過る。
「ジョナサンのことか?」
「はい」
ジョナサンはアーロンと同い年の乳兄弟で、彼とよく似たカールした金髪の少年だった。
その彼は、マクガイアにアーロンと間違われて処刑されたのだ。
「私がマクガイアを倒すことに執念を燃やしていたのは単にティリティア王家の復活を願っていたからではありません。それだけならマクガイアを倒す気力は湧かなかったでしょう。実は両親にも怒りがあるのです。捕まったのが私ではなくジョナサンだと分かったはずなのに、そのまま彼を犠牲にさせて。それに、彼も自分はアーロンではないと言わなかったんだ。言っていたら私も指名手配されていたはずだから。まだ九歳の子どもだったのに、彼なりの忠誠心だったと思うとやり切れません。どれだけ恐ろしかったことか……。私はそこまでして生き延びようとは思っていませんでした」
マクガイアが処刑したのは王族と高位貴族の直系、傍系家族で、それ以外の貴族は奴隷に落とし、鉱山での労働を課していた。
山に囲まれたマクガイアは鉱山資源が豊富で、奴隷は多ければ多いほどよかったのだ。
ジョナサンは一応貴族ではあるが下位貴族の子どもだったため、本来なら処刑されずに済んだはず。
アーロンは、それら元貴族を呼び戻すことが出来た今、悔しいことこの上なかった。
「ほう。そのような事がおありでしたか……マクガイアの貴族だったわしとしてはなんとも申し訳ない……」
「だから自分の幸せの為に殿下の気持ちを犠牲にした政略結婚はしたくありません。私が生きているのはジョナサンのお陰です。それ以上を望むと罰が当たりますよ」
「ふぅむ。なかなか謙虚な心持ちですな。どうですか、現在婚約者がいらっしゃらないのであれば、わしの孫娘でも……」
「え? ああ、そういえば陛下の結婚式でお見かけしましたよ。実に美しい女性でした。マクガイアの王太子は酷い男でしたね」
「全くもって、わしはあの男と婚約させることに大反対だった。そもそもあんな腐った王家へ嫁にやるなんぞ考えただけでもおぞましい。だがあの子の父親が承諾してしまった。今じゃわしに感謝してるがな」
「エクシオ侯爵、そういえばなぜあなたは反国王派だったのですか? 私の事も引き渡さなかった」
「それはですね……」
エクシオ侯爵は王家に並々ならぬ恨みを抱いていた。
彼が若かった頃、婚約者を前マクガイア国王――処刑された国王の父親――に無理やり側室として奪われたのだ。
それから数年後、彼女は王妃の毒殺未遂で捕まり処刑されてしまった。
彼女は最後まで無実を叫んでいたと言う。
エクシオ侯爵は嫉妬に狂った王妃の策略に違いないと思い、彼女の無実を信じて国王に調査を求めたが無理だった。
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