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最終章 命を救う魔剣
マリウスのお迎え
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***ランス伯爵
アルマ医師はマリウスをこのまま自分の所で助手見習いとして雇ってもいいと言ってくれており、彼もそのつもりでいた。
しかし私が迎えに行ってクリビアが一緒に暮らすことを願っていると伝えると、マリウスの沈んでいた顔に少し明るさが戻り、彼はサントリナへ行くことを選んだ。
ガルシアから港町タンスクへ行く途中はカラスティア王国の王都を通ることになる。
王都はいつも以上に騒がしい。
行きはマリウスを早く迎えに行かなければと気に留めず素通りしたが、余裕のある帰りは何があったのか気になった。
上空には色とりどりの風船が飛び、広場ではあちこちで大道芸人のパフォーマンスが催され、人々の歓声や拍手が聞こえる。
通りには屋台も立ち並び、お祭り騒ぎだ。
「すみません、ちょっとお尋ねしますが何のお祭りなんですか」
「へ? ロータス国王陛下に御子がお生まれになったんですよ。しかも男の子ですよ」
マリウスはそれを聞いた途端に仏頂面になった。
彼はアルマ医師から姉が付き合っていた男があのロータス国王だったと知らされていた。
姉を捨ててバハルマの王女と結婚した彼に良い印象があるわけがない。
私もそれを聞いた時はびっくりしたものだ。
でも彼はクリビアを愛しているからジュリアナは浮気相手だったのだろう。
マリウスには死んでも言えないが。
とにかくマリウスを元気づけようと、屋台でアーモンドを飴で固めたコンフェッティを買ってあげると、彼はその美味しさに機嫌も良くなって仏頂面が和らいだ。
「ねえおじさん、クリビアお姉ちゃんにも赤ちゃん生まれたでしょう? 男の子? 女の子? 名前は?」
「クリーヴって言って、元気な男の子だよ」
「男の子かぁ。早く会いたいなぁ。僕はクリーヴの叔父さんになるんだよ」
嬉しそうに言っているが、その瞳にはまだ影が残っている。
子どもながらに無理に笑顔を作っているのがなんとも健気で、彼の頭にポンと手を乗せて優しく髪をくしゃくしゃっとした。
そういえばアルマ医師もとても悲しそうだった。
医師として患者を救えなかったというよりも、一人の女性の死に打ちひしがれているような。
彼はジュリアナの事を好きだったのかもしれない。
私は寝ている顔しか知らないが、それでも相当な美人であることはわかった。
一緒に働いているうちに好きになってもおかしくない。
片思いの辛さはよくわかる。
相手はあのロータス国王なのだから尚更で、それはもう月とスッポン。
誰であろうとそうだ。
ワー! っと通りに大きな歓声が上がった。
何事かと見るとたくさんの騎士と馬車が目の前を通り過ぎようとしている。
威風堂々としたその行列に掲げてある旗はバハルマ王国の旗だった。
ふとマリウスの顔を見ると、目を大きく見開いて固まっている。
「どうした」
「あの人……」
彼は騎士に囲まれたひときわ豪華で大きな馬車に乗っている男を見ていた。
窓のカーテンを開けて幸せの絶頂のような満面の笑みを民衆に見せつけている。
娘の出産祝いにやってきたのか。一国の国王が。
クリビアには酷い仕打ちをしておきながらいい気なものだ。
「あれはヴァルコフ国王だ。彼がどうかしたのか」
「僕会ったことあるんだよ」
「え、なんだって?」
「お姉ちゃんは僕に会いに来た時、あの国王陛下に叱られて泣きながら謝っていたんだ」
「思い違いとか見間違いじゃなく? 本当にあの人?」
「そうだよ! だって枢機卿が国王陛下って呼んでいたもん!」
「枢機卿? 名前はわかるか?」
「なんだっけ。えーと……ネベなんとか」
「ネベラウ枢機卿か」
「そうそう、それ。お姉ちゃんはいつもネベラウ枢機卿と一緒に来てた」
枢機卿と国王が懇意なのはわかる。
だがそこにジュリアナがどう絡むんだ。
「ジュリアナはどうして謝っていたの?」
「うーん……」
叱られようがヴァルコフ国王に謁見できるなど普通の事ではない。
「思い出した! 魔鉱石! お姉ちゃんが魔鉱石の場所を聞き出せなかったから」
「魔鉱石……」
魔鉱石と言えばカラスティア王国だ。
とするとジュリアナはただの看護師ではなくヴァルコフ国王の間諜で、そのためにロータス国王に近づいて……?
マリウスは人質だったってわけか。
考えを巡らせているうちに国王の一行は通り過ぎて行き、集まった人々も散り始めた。
「おじさん? 眉間に皺が寄ってるよ」
「ん、ああ」
「どしたの?」
「なんでもない。さあ、先を急ぐとするか」
「うん」
このことをアルマ医師に伝えるかどうか悩みながら、シタールの港町タンスクへ足を進めた。
アルマ医師はマリウスをこのまま自分の所で助手見習いとして雇ってもいいと言ってくれており、彼もそのつもりでいた。
しかし私が迎えに行ってクリビアが一緒に暮らすことを願っていると伝えると、マリウスの沈んでいた顔に少し明るさが戻り、彼はサントリナへ行くことを選んだ。
ガルシアから港町タンスクへ行く途中はカラスティア王国の王都を通ることになる。
王都はいつも以上に騒がしい。
行きはマリウスを早く迎えに行かなければと気に留めず素通りしたが、余裕のある帰りは何があったのか気になった。
上空には色とりどりの風船が飛び、広場ではあちこちで大道芸人のパフォーマンスが催され、人々の歓声や拍手が聞こえる。
通りには屋台も立ち並び、お祭り騒ぎだ。
「すみません、ちょっとお尋ねしますが何のお祭りなんですか」
「へ? ロータス国王陛下に御子がお生まれになったんですよ。しかも男の子ですよ」
マリウスはそれを聞いた途端に仏頂面になった。
彼はアルマ医師から姉が付き合っていた男があのロータス国王だったと知らされていた。
姉を捨ててバハルマの王女と結婚した彼に良い印象があるわけがない。
私もそれを聞いた時はびっくりしたものだ。
でも彼はクリビアを愛しているからジュリアナは浮気相手だったのだろう。
マリウスには死んでも言えないが。
とにかくマリウスを元気づけようと、屋台でアーモンドを飴で固めたコンフェッティを買ってあげると、彼はその美味しさに機嫌も良くなって仏頂面が和らいだ。
「ねえおじさん、クリビアお姉ちゃんにも赤ちゃん生まれたでしょう? 男の子? 女の子? 名前は?」
「クリーヴって言って、元気な男の子だよ」
「男の子かぁ。早く会いたいなぁ。僕はクリーヴの叔父さんになるんだよ」
嬉しそうに言っているが、その瞳にはまだ影が残っている。
子どもながらに無理に笑顔を作っているのがなんとも健気で、彼の頭にポンと手を乗せて優しく髪をくしゃくしゃっとした。
そういえばアルマ医師もとても悲しそうだった。
医師として患者を救えなかったというよりも、一人の女性の死に打ちひしがれているような。
彼はジュリアナの事を好きだったのかもしれない。
私は寝ている顔しか知らないが、それでも相当な美人であることはわかった。
一緒に働いているうちに好きになってもおかしくない。
片思いの辛さはよくわかる。
相手はあのロータス国王なのだから尚更で、それはもう月とスッポン。
誰であろうとそうだ。
ワー! っと通りに大きな歓声が上がった。
何事かと見るとたくさんの騎士と馬車が目の前を通り過ぎようとしている。
威風堂々としたその行列に掲げてある旗はバハルマ王国の旗だった。
ふとマリウスの顔を見ると、目を大きく見開いて固まっている。
「どうした」
「あの人……」
彼は騎士に囲まれたひときわ豪華で大きな馬車に乗っている男を見ていた。
窓のカーテンを開けて幸せの絶頂のような満面の笑みを民衆に見せつけている。
娘の出産祝いにやってきたのか。一国の国王が。
クリビアには酷い仕打ちをしておきながらいい気なものだ。
「あれはヴァルコフ国王だ。彼がどうかしたのか」
「僕会ったことあるんだよ」
「え、なんだって?」
「お姉ちゃんは僕に会いに来た時、あの国王陛下に叱られて泣きながら謝っていたんだ」
「思い違いとか見間違いじゃなく? 本当にあの人?」
「そうだよ! だって枢機卿が国王陛下って呼んでいたもん!」
「枢機卿? 名前はわかるか?」
「なんだっけ。えーと……ネベなんとか」
「ネベラウ枢機卿か」
「そうそう、それ。お姉ちゃんはいつもネベラウ枢機卿と一緒に来てた」
枢機卿と国王が懇意なのはわかる。
だがそこにジュリアナがどう絡むんだ。
「ジュリアナはどうして謝っていたの?」
「うーん……」
叱られようがヴァルコフ国王に謁見できるなど普通の事ではない。
「思い出した! 魔鉱石! お姉ちゃんが魔鉱石の場所を聞き出せなかったから」
「魔鉱石……」
魔鉱石と言えばカラスティア王国だ。
とするとジュリアナはただの看護師ではなくヴァルコフ国王の間諜で、そのためにロータス国王に近づいて……?
マリウスは人質だったってわけか。
考えを巡らせているうちに国王の一行は通り過ぎて行き、集まった人々も散り始めた。
「おじさん? 眉間に皺が寄ってるよ」
「ん、ああ」
「どしたの?」
「なんでもない。さあ、先を急ぐとするか」
「うん」
このことをアルマ医師に伝えるかどうか悩みながら、シタールの港町タンスクへ足を進めた。
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