END OF INFERNAL NIGHTMARE

弥黎/mirei

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:1-3図書館:

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 背後からページを捲る心地よい音が聞こえる。昨夜と変わらずソファの上で目が覚めた。いつの間にかランタンの灯は消されているのが伺え、横たわったまま周囲の気配を探ると、ソファの向こう側にオズの気配があった。
「ん、起きたか」
「......」
「おはよう、その......大丈夫か?」
ゆっくりと身体を起こすと、オズは読んでいた本を下ろして呼び掛けた。二人以外誰もいない図書館にポンと本を閉じる音が木霊する。はっきりしない意識の中で、オズに言われた言葉の意味を探る。
「......大丈夫って?」
「随分うなされてた、夢でも見てたのか」
「見た」
「悪い夢か?」
「ううん、懐かしい夢」
「___その、君......泣いてた」
「そっか、そうかもね」
 ソファから起き上がり、目を擦りながら左手に小さな魔法陣を呼び出す。メアの手に呼び出された魔法陣からは、魔法特有の低い鐘の音が小さく響いている。
「魔界にいた時の夢を見たの......前に話した、魔法使い達の夢をね」
左手から青白い光が膨れ上がり、図書館全体に広がってゆく。メアは青白い光を制御するように辺りを見渡しながら夢の内容を話した。
「......他は?」
「それだけ」
小さく呟いて、光を収縮させていく。図書館中にあった埃や汚れが光に取り込まれて消える。まるで大掃除をした後のように家具や本は本来の輝きを取り戻していた。
「君の魔法は本当に便利だ」
オズが綺麗になった床や本棚に目を向けて独白する。
「......出掛ける準備してくる」
 そう言い残して、メアは隣の部屋へ消えて行った。
「......?」
数分して、足音と共にメアが出てくる。
「お待たせ」
オズの前に現れた姿は、茶色の靴につば広の帽子を被り、肌には血色が戻り、普通の人と変わらない容姿になっていた。だが背中の四翼は存在をアピールする様にふりふり動いている。
「"身体"は普通の人間に見えるが......翼はどうするんだ?」
「もちろん隠すよ」
リュックの背中に空いた穴へ翼を通す。バックの中で翼がもぞもぞ動いているのがオズには見えていた。
「どう?」
メアは身体を左右に振ってオズの様子を伺う、翼が隠れた姿は完全に人間だった。
「なるほど......どこから見ても、人間だ」
「意外と驚くんだ」
「い、いや......そういうのを見たことがなかったから、それだけだ」
「本当に?」
「他になにも感想はない」
そう言って本を開き読書に逃げるが、直ぐに本を閉じてバックを手繰り寄せる。
「朝食にしないか?」
 オズがバッグから茶葉の入った瓶と、魔法陣が焼き印されているサンドイッチの入った籠を取り出して並べていく。
「魔法陣で温めるんだ......へー」
サンドイッチを手に取ると、魔法陣が仄かに光り出し、サンドイッチから湯気がこぼれだし、次第に温まってくる。
「持ってきたポット類と方法は同じさ......全部レオが作ったんだ」
「弟の?」
「もちろん、よく思い付くよあいつは」
オズが自慢とは珍しいと口の中で呟きながら、魔法の光が発しているサンドイッチを手に取り頬張る。
「まぁ、これぐらい思い付いても不思議じゃないか」
「どういう意味だ?それ」
「......昔同じものを見たってだけ」
「ほう、先人様も流石だ」
沸騰し始めたポットの魔法陣を消し、茶葉をポットに入れる。湯気が紅茶の香りを少しだけ遠くへ運んで行く。
「君だって、これぐらい出来るだろう?」
「えぇ、文字通り何でもね」
 メアは置いてある本の山に手をかざすと、彼女の手から鎖の形をした光が幾本も伸びて本に絡まり始める。鎖はメアの意思によって本を不規則に包み、次の瞬間光の鎖が消えて本がバサバサと雛鳥の様に動き始めた。何度か繰り返しテーブル端までくると本が飛び、本棚に巣穴へ戻るようにして本棚へ収まる。
「......面白い」
「これを見るのは何回目だろうね、いい加減飽きると思うけど」
「いいや、飽きないね......君の魔法は興味深い、弟にも見せてやりたい」
「見世物じゃない」
メアが次のサンドイッチに手を伸ばしながら呟く。
「もちろん分かってる」
 サンドイッチ片手に次々と本を飛ばし元ある棚へ戻してゆく。鳥みたいな動き以外に、宙を浮いてゆっくり戻っていく本や、本棚へ一直線に戻ったりと不規則に本棚へ戻っていく。それをメアは特に気にすることはなかったが、オズは近くを通る本を追って左右に首を動かしていた。
「......どちらかと言うと、僕はさっきの"お掃除の魔法"に興味を持ってる」
「あれは、なんて言えばいいのかな、普通の人間が扱ったら、例外なく周辺一帯が消えるよ」
「ぞっとしないな」
「あの魔法単体じゃ空間を抉るだけだから、この"鎖の魔法"で消すものを制限してる......埃とか汚れだけを消すようにってね」
「鎖か......従属の魔法とでも名付けようか、それ」
「大袈裟な名前ね」
「お前は見慣れてるからだろ、他所からすればとんでもない魔法なんだぞ、二つとも」
「もっと呼びやすい名前がいい」
メアが紅茶のカップに手を伸ばしながら呟いた。
「それに二種類を同時に操るなんて......普通の人間には真似できっこない」
「人間じゃないからね」
きっぱりと告げて、オズはため息混じりにサンドイッチを頬張る。
「大昔の......君が言う魔法使い達、全く想像できないな」
「今の人たちとあんまり変わらない、普通の人間だよ」
「そうなのか?僕はゲームやアニメの知識しかないが」
「それよりもっと仰々しかった、力のある人を指す言葉みたいな雰囲気だったよ......物騒な魔法が多かった印象がある」
「意外だな」
「私が魔法使い達と一緒にいた時も、そのゲームやアニメみたいな装いでさ」
「あんなフリフリなやつをか?」
「......あなたが何を見たのかは知らないけど、あなたの何代も前の人も___」
「いや!いい、やっぱり聞きたくない」
サンドイッチを置いていた皿が空になり、銀色がかった日の光が食器を白く反射させる。昨日の朝と同様、冷たい風が開け放たれた窓からゆっくりと館内へ送り込まれてくる。
「___魔法の技術とか都市の生活とか、今の時代が一番好き......懐かしい雰囲気で」
「そうなのか」
「昔とほとんど一緒だから、想像とかしなくていいの......」
「その為にも、魔法使いたちの遺した物を発見しないといけないな」
「ずっと後ろ向いてても新しい発見はできないよ」
「分かってるが、さっきのサンドイッチみたいに言われちゃ何もできなさそうだ」
「次からはもっと言い方を考えるから」
「あぁ、そうしてくれ」
「......技研は過去の記憶片から"再現"しようとしてるけど、あなた達には"新しい発見"として見つけてほしいな」
「詩的だな......身内に伝えるよ」
「......美味しかった」
メアが空のティーカップを撫でながら呟く。
「そうか___」
 早速皿を片付けようとオズが手に取ると食器類は青白く光に包まれていた。
「おぉ......!」
さっきまで光に包まれていた皿を、オズは顔に近付け感嘆の声をあげる。
「......早く片付けて、準備済ませなよ」
手早く食器を片付け、続けてバッグの中から銃をいくつか取り出して分解し始める。せっかく片付いたテーブルがグリースやドライバー等の整備道具であっという間に埋まってしまった。
「......何時に出るんだ?」
銃に語りかけるように、俯いたまま聞く。
「......11時ぐらい」
「分かった......今は___」
「今10時19分、30秒頃よ」
「そうか......時計が狂ってたみたいだ」
メアからは銃をいじっているのか、時計の狂いを直しているのかは見えない。
「待て......今、正確な時間を答えたのか?」
オズが顔を上げ、驚いた表情を向ける。
「そうよ」
「......本当か?」
「昔から一度も狂ったことはない」
「それは一体何年前から狂ってないんだろうな?」
「聞かない方がいいわ」
「......たまに君を恐ろしく思う」
「なにそれ」
「平然と凄いことをするから、褒めてるのさ」
「......」
「......本当だって」
片や読書をはじめ、片や銃を手入れして、時間になるのを待った。
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