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◎3話目
しおりを挟む「....と、いう訳なんだけど」
「いや、わかるかよ」
ザザッという音が混じりながらも、的確なツッコミが渡される。
私はさも当然かのような口調で要望だけを伝えていた。
「なんでよ、得意分野でしょう。盗聴」
「今までのくだり何も聞いてねェからな?!察しろってか?!」
「察して?」
「無茶言うな!!!」
あの後、店の片付けを粗方済ませて急用が入ったと店を出た。周りには『病弱な母が体調を崩した』と伝え今は裏道から続く簡素な拠点に来ているところだ。
「相変わらず、機器以外は何もないね」
「ウルセェ。いきなり情報調べろってきた挙句、イヤミしか言わねぇ.....って、それ勝手に触んなぁああ!!」
キャンキャン騒ぐこいつは、組員の一人の【マルチェ】
年は私より下で、なにかと扱いやすい弟分。
この拠点は、潜入員が本部と連携を取りやすくするために、潜入場所からそれほど遠くない場所に設置される簡易拠点。
故に、待機員も数人ほどしか置かれておらず、今回に至っては難易度がそれほど高くないとの判断から、マルチェ一人しか待機していない。
個人的には、とてもやりやすくて助かるが。
「で、『ハルマ』って男だけど、交友周辺リストにあった?」
「お前、そのスピーカー落としたらマジで怒るからな....」
ぶつくさと文句を言いながらも、目に止まらぬ速さで35インチはあるPCを使いこなす。
複数あるモニターの一つ一つに、ボルケの近しい交友リストをあげていくものの、私が見た『ハルマ』という男の姿はどこにも見当たらなかった。
「とりあえず、その『ハルマ』って奴は俺も探っておくけど、本当にただ人懐っこいだけの最近取るようになった花屋だって可能性もあんだからな」
「それは、うん。わかってる。....これ可愛いね」
私以上に小言グセのあるマルチェを聞き流しながら側の机に置いてあったマスコットのような見た目の機器に興味が湧いて、そっと持ち上げながらカバンにしまう。
きっと、何らかの通信機器か何かなんだと思う。
「なら良いけど。....あと、その小型AIは置いていけ」
「まぁまぁまぁ」
「いや、それまだ試作品だから....お前ホント話聞いてる?!」
「まぁまぁまぁまぁ」
見た目の可愛さに惹かれたのと、マルチェの反応が面白いから、小型AIは堂々と持ち帰ることにした。
通常の通信機器は、ゴツくて使い勝手が悪かったので丁度いい。
喚く弟分をいなしつつ、手短に帰る準備を整える。
「じゃあマルチェ、また何かわかったら報告して」
去り際にそう告げれば、少し考えるようにマルチェは言う。
「良いけど、この任務って難易度Dだろ?そこまで気合入れなくても...」
正直、彼の言うことはもっともだ。
ファミリーの仕事の中には、いくつかランク付けがされておりSランク~Eランクまである。
Sランクは、ファミリー同士の内密な仕事やターゲット自体が大物の時。そこから難易度と重要度に応じてランクが下がり、1番下のEランクはお偉さんの機嫌取り系の雑務が殆ど。
今回のランクは、難易度D。
ターゲットが1人に固定されている件と、成果として【殺し】ではなく【失脚】がメイン。
ネタさえ掴めば、失脚ネタなど湧き水の様に溢れ出る相手なのだ。
「私の初仕事よ。どれだけ重要度の低い任務だろうと、完璧にこなすつもりで取り組んでるから。それに、今夜どうしてもカタをつけなければいけない理由があるのよ」
「...お前の個人的な意思は入ってねぇの?」
「....まぁ、最悪な事態になる前にはカタをつけたいと思ってるのは確かよ。でも、私がもう1人でできると証明する良い機会。意思は関係なく、今夜のネタは失脚に繋がる直接的なチャンスでしょう?彼女を囮にする訳じゃないけれど....そこは、マルチェにも最大限に協力して欲しいと思ってる」
「...あの従業員の子なぁ。まぁ、胸糞悪い話ってのは同意するけど、ちょっと急ぎ過ぎてねぇ?」
本来なら、数週間は様子見として周辺捜査、相手の動きや性格を把握する。
けれども、今回の話はまだ1週間程度しか経っていない。花屋のマルクルの件も、前調査では知りえないささやかな部分の一つだと言ってしまえばそれまでだ。
今回の件が目の前で起きた以上、いくら実行が早過ぎると言われても、やすやすと見逃す訳にはいかない。
「私の実力はマルチェだってよくわかってるでしょう?...だからこそ、絶対にヘマはしない。」
強い意志でそう告げれば、ふぅ、と諦めたようなため息が落ちた。
「....わかった、そこまで言うなら協力する。俺も女の泣き顔は見たくねぇし。
...でもな、言っとくけど、そっちのスピーカーは持ち出し許可してねぇからな」
真面目な話をしながら、もう一つカバンに拝借したものはめざとく見つかってしまった。
「...はぁ、アンタやっぱ盗聴してたんじゃない」
「あ、あれは任務を遂行してただけだッ!!話を逸らすな!」
あわよくばもう一つ持ち帰ろうとしていた機器は、あっさりと指摘されて泣く泣く諦めた。
マルチェから簡単に小型AIの操作方法を聞いたあと、今夜に備えて作戦を練る事にし、拠点を出る。
今回の任務は、
《チャン=ボルケの失脚、抵抗を伴うようなら始末も厭わない》
失脚のネタにはイロモノと相場が決まっている。
決戦は今夜、ボルケの待つホテルの中。
....to be continued
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