毒を持って制される!

ルル

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◎2話目

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耳障りなエンジン音が聞こえなくなった頃、後ろを振り返り店内の惨状を眺め見る。

従業員達はうなだれている彼女から目を逸らす者やあからさまに我が身でないことに安堵の表情を浮かべる者など様々だ。


ーーこういう時に、本質が表れるな。


潜入調査の為に潜り込んだホテル『マルリッサ』

ホテルのオーナーを兼ねる【チャン=ボルケ】に逆らう者など居ない。ましてやこの状況下だと、誰がどこで話を漏らすかわからない。

皆が疑心暗鬼の中、絶望に打ちひしがれる彼女へ手を差し伸べる者はいないのだろう。


「貴女、そこの椅子へ座っていて。」

「うっ.....ゥ....」


破片の散らばる床面から一向に動く事の出来ない彼女を椅子に寄せる

椅子に座った途端、堰を切ったように溢れ出す嗚咽に目を伏せて、目の前に広がる破片を片付け始めた。


「こーんにちは!花屋のマルクルです!」

「....は?」


カランカランッ


扉の鈴が聞こえるより先に、間の抜けた挨拶が聞こえた。


「え?なんだか空気重くないかな?」


声と同時に入ってきたのは、色素の薄い栗色に緩いウェーブのかかった髪、緑色の瞳に人懐っこそうな笑顔を見せる優男。


「...ハルマ君だ」
「今日マルクルの日だったか?」
「かっこいい...」


さっきまで静まり返っていた周囲が、密かに騒ぎ出す。この男はよくこのホテルに出入りしている様で、細々と聞こえる声は皆、見知った人に対する言葉だった。


花屋のマルクル....?
そんなもの前調査では一切話題に上がらなかったのに。


皿の片付けの手は休めずに、入り口付近でキョロキョロと辺りを見渡している男を観察する。


白の七分袖に『花屋 マルクル』と書いてある薄いピンクのエプロンを付け、納品用の花が入ったバケツを抱える姿は、見るものに警戒心を与えない。


与えないはず、なのだが。


「なんで泣いてるの?」

「オーナーを、怒らせてしまいまして...」

「あぁ、チャンさんかぁ。あの人怖いもんね」

「今夜呼び出しを受けてしまいました。私が、あの時オーナーの前で粗相をしなければこんな事には....」


『ハルマ』と呼ばれた男は、丁寧に話を聞きつつ距離を詰める。


ほんわかとした雰囲気に身を包み、誰も止めることなく店の奥へと足を進める。


わたしの目の前を通り過ぎ、端で座る女性従業員の視線まで屈み込んだ。


「.....大丈夫。きっと君には幸運が降りかかる。」


少し前までハルマの登場でざわついついた周囲が、シンと静まり返る。


一瞬にして、空気が変わり、まるで催眠術でもかけたかのように周りの雰囲気を飲み込んだ。


どう考えても、一般人のには似つかない。


ソレは、ハルマの言葉と雰囲気から伝わる《威圧感》
 

言葉は優しく、誰を咎める訳でもない。
ただ、抽象的な表現になるけれど、私にはどうにも嫌な予感しかしないのだ。


女性従業員は、安堵の表情を浮かべ救われたかのように「ありがとうございます」と呟いた。 


現状はなにも変わっていないというのに、安堵させるだけの力がハルマの言葉にはあった。


「...じゃあ、花も届けたし。彼女も泣き止んでくれたから、帰るね!」


訝しむ私をよそに、更に空気を変えるような明るい声音で立ち上がったハルマは、そのまま荷物を片して出ていった。


花屋のマルクル、『ハルマ』という男。
気にかける必要などないのだろうが、
あとで本部に確認してみるか.....。


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