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10 契約の清算(父、叔父視点)
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(父視点)
婚籍院は、婚姻や離縁を司る帝都の機関である。
堂内は白と瑠璃の大理石で飾られ、中央には「縁結の紋」が刻まれた床紋が広がっていた。
私が名乗りと用件を告げると、院吏たちは一瞬ざわめき、すぐに最奥の離縁審議室へと通された。
「浅井家克也殿の離縁申請と伺いました」
白衣の院官が、抑揚のない声で告げる。
私から今回の離婚申請に至った経緯を話した。
「そして、これがその映像だ」
私は克己から預かった映像を差し出す。
映像は無言で再生された。
院官たちは、淡々と視線を走らせるだけだったが、その口元はわずかに引き締まった。
やがて、主審の院長が口を開く。
「確かに、この映像によって初夜に閨をともにしていなかったこと、そして花蓮殿が初夜でできた子であると姫花殿が虚偽を述べていたことが確認できました。親子鑑定も希望されていると伺いましたが」
「はい」と克己が短く答える。
「神具を用いた親子鑑定をすれば、強力な証拠となります。花蓮殿の出生時の神気データは既に保管されており、あなたの神気と照合すれば、親子関係の有無が即座に判別できます」
院官が神具を持ち込み、克己が手を翳す。青白い光が脈打ち、花蓮のデータと照合が始まった。
数瞬後、院官の口から短い宣告が下りた。
「判定──親子関係の可能性、皆無」
部屋の空気が一段と冷えた気がした。
克己は微動だにしなかった。
主審が朱印を押す音が、乾いた響きで室内に広がる。
「これをもって、浅井家克也殿と姫花殿の婚姻は本日付で解消されると同時に、浅井家克也殿と花蓮殿との親子関係も解消されることをここに宣言する」
離縁書類を受け取り、私たちは席を立った。
扉を出た瞬間、克己はわずかに肩を回し、小さく吐息を漏らした。
(叔父視点)
兄と別れ、その足で屋敷に戻り、家令に二人は在宅かどうか尋ねる。
「お二人とも、本日は終日いらっしゃいます」
すぐに応接室へ案内するよう家令に指示し、ソファに腰掛ける。
「何か飲み物をご用意しましょうか?」
「いや、用事が済んだらすぐ戻るから何も用意しなくていい」
「かしこまりました。お二人をお呼びいたします」
しばらくして、二人が入ってきた。
「久しぶりね。結婚の儀以来じゃない?今日はどうしたの?そういえば、花蓮に会うのは初めてよね。花蓮、お父様よ」
「花蓮です。お父様、ごきげんよう」
花蓮を見やると、なるほど、当然だが俺に一つも似ていない。母親似と言えばそうなのだろう。
「今日は重大な話があってきた。先ほど婚籍院にて離縁の手続きが完了した。君との婚姻関係は本日をもって正式に解消された。加えて、花蓮との親子鑑定の結果、親子関係の可能性皆無との結果も出た。そのため花蓮と俺との親子関係も法的に解消されたことを報告する」
二人は言葉を失い、しばらくして姫花が口を開いた。
「ちょっと待ってよ!そんな一方的に。言ったでしょ?花蓮は初夜のときの子だって。なんで今さらこんなことになるのよ!!!」
「俺の寝室には録画機が設置してある。それを確認したら、そういった事実はなかった。そして、神具での鑑定結果は絶対だ。他に父親がいるのだろう」
姫花の顔は真っ赤になり、言葉を詰まらせた。
「でも、でも………」
「それと、この家から遅くとも七日以内には出て行ってくれ」
「そんな……」
姫花は眉をひそめたが、私は続ける。
「そして、最も重要なことを言う。私はもちろん、兄家族にも今後一切関わらないでくれ。お前たちはこれから下中位の家の者となる。家格の差もあり、もはや親戚ですらない。そちらから声をかけるだけでも、不敬にあたるのだ。花蓮も同様だ。子どもだからと甘く見てもらえると思わないほうがいい。これまでは水無瀬家の縁者ということで目溢しされてきたかもしれないが、神守の社会で生きていきたいのなら、そのことを肝に銘じろ」
花蓮の顔から血の気が引き、唇が震える。
「話は以上だ。婚姻期間中に購入したものは、持っていっても構わない。引っ越しの手配はこちらでする。君の実家に責任を持って送り届けよう。では、達者でな」
姫花は呆然と立ち尽くし、心ここにあらずといった様子だった。
「お母様! お母様! 私たち、どうなるの!?」
花蓮が必死に体を揺さぶっても、姫花の瞳は虚空を彷徨うばかりだった。
その光景を背に、私は部屋を後にし、待っていた家令に声をかけた。
「話は聞いていたな。あの親子は早々に出ていく。引っ越しの手配をし、速やかにあの女の実家に送り届けろ」
「かしこまりました」
こうして一つの厄介事は片づいた。だが胸の奥に重く残るのは、兄家族を巻き込んだ事実だった。
婚籍院は、婚姻や離縁を司る帝都の機関である。
堂内は白と瑠璃の大理石で飾られ、中央には「縁結の紋」が刻まれた床紋が広がっていた。
私が名乗りと用件を告げると、院吏たちは一瞬ざわめき、すぐに最奥の離縁審議室へと通された。
「浅井家克也殿の離縁申請と伺いました」
白衣の院官が、抑揚のない声で告げる。
私から今回の離婚申請に至った経緯を話した。
「そして、これがその映像だ」
私は克己から預かった映像を差し出す。
映像は無言で再生された。
院官たちは、淡々と視線を走らせるだけだったが、その口元はわずかに引き締まった。
やがて、主審の院長が口を開く。
「確かに、この映像によって初夜に閨をともにしていなかったこと、そして花蓮殿が初夜でできた子であると姫花殿が虚偽を述べていたことが確認できました。親子鑑定も希望されていると伺いましたが」
「はい」と克己が短く答える。
「神具を用いた親子鑑定をすれば、強力な証拠となります。花蓮殿の出生時の神気データは既に保管されており、あなたの神気と照合すれば、親子関係の有無が即座に判別できます」
院官が神具を持ち込み、克己が手を翳す。青白い光が脈打ち、花蓮のデータと照合が始まった。
数瞬後、院官の口から短い宣告が下りた。
「判定──親子関係の可能性、皆無」
部屋の空気が一段と冷えた気がした。
克己は微動だにしなかった。
主審が朱印を押す音が、乾いた響きで室内に広がる。
「これをもって、浅井家克也殿と姫花殿の婚姻は本日付で解消されると同時に、浅井家克也殿と花蓮殿との親子関係も解消されることをここに宣言する」
離縁書類を受け取り、私たちは席を立った。
扉を出た瞬間、克己はわずかに肩を回し、小さく吐息を漏らした。
(叔父視点)
兄と別れ、その足で屋敷に戻り、家令に二人は在宅かどうか尋ねる。
「お二人とも、本日は終日いらっしゃいます」
すぐに応接室へ案内するよう家令に指示し、ソファに腰掛ける。
「何か飲み物をご用意しましょうか?」
「いや、用事が済んだらすぐ戻るから何も用意しなくていい」
「かしこまりました。お二人をお呼びいたします」
しばらくして、二人が入ってきた。
「久しぶりね。結婚の儀以来じゃない?今日はどうしたの?そういえば、花蓮に会うのは初めてよね。花蓮、お父様よ」
「花蓮です。お父様、ごきげんよう」
花蓮を見やると、なるほど、当然だが俺に一つも似ていない。母親似と言えばそうなのだろう。
「今日は重大な話があってきた。先ほど婚籍院にて離縁の手続きが完了した。君との婚姻関係は本日をもって正式に解消された。加えて、花蓮との親子鑑定の結果、親子関係の可能性皆無との結果も出た。そのため花蓮と俺との親子関係も法的に解消されたことを報告する」
二人は言葉を失い、しばらくして姫花が口を開いた。
「ちょっと待ってよ!そんな一方的に。言ったでしょ?花蓮は初夜のときの子だって。なんで今さらこんなことになるのよ!!!」
「俺の寝室には録画機が設置してある。それを確認したら、そういった事実はなかった。そして、神具での鑑定結果は絶対だ。他に父親がいるのだろう」
姫花の顔は真っ赤になり、言葉を詰まらせた。
「でも、でも………」
「それと、この家から遅くとも七日以内には出て行ってくれ」
「そんな……」
姫花は眉をひそめたが、私は続ける。
「そして、最も重要なことを言う。私はもちろん、兄家族にも今後一切関わらないでくれ。お前たちはこれから下中位の家の者となる。家格の差もあり、もはや親戚ですらない。そちらから声をかけるだけでも、不敬にあたるのだ。花蓮も同様だ。子どもだからと甘く見てもらえると思わないほうがいい。これまでは水無瀬家の縁者ということで目溢しされてきたかもしれないが、神守の社会で生きていきたいのなら、そのことを肝に銘じろ」
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