神守の少女、二度目の人生は好きに生きます〜因縁相手は勝手に自滅〜

雪水砂糖

文字の大きさ
95 / 97

94 婚約4(碧人視点)

しおりを挟む
 家に着くやいなや、執務室に突撃する。今日は、父上に夜の予定はなかったはずだ。

 ドンドンドンッ!
「父上、碧人です。入ってもよろしいでしょうか?」

「ああ、入りなさい」

 侍従が扉を開けるよりも早く、俺は自分で扉を押し開けた。

「失礼します」

「まあまあ、そんなに慌てて。少し落ち着きなさい。お茶を用意して」

 母上も、どこか落ち着きなくそわそわしながらソファに腰かけ、そう言った。

 その二人の様子を見て、張り詰めていた胸の奥が、少しだけ緩む。

「碧人……その様子だと、気持ちは伝えたのだな?」

「はい。婚約の申し込みをして……承諾していただきました」

「きゃあ!あなた!」

「よくやった!」
 二人は同時に声を上げ、満面の笑みを浮かべた。

 特に母上は、いつもなら上大位の奥方にふさわしい上品な佇まいを崩さないのに、こんなにも喜ぶ姿を見るのは初めてだった。

「それで……気持ちは通じ合っている、と考えていいのよね?上位の家格からの申し込みだから断れない、という雰囲気ではなかったわよね?」

「はい。それは、大丈夫です」

「よし。すぐに婚約申込書を送ろう。少し待て」
 父上はそう言うと、迷いなく筆を取り、ものの数分で書き上げた。

「これを水無瀬家へ。そして、返事をもらうまで待たせてもらえ」

「はっ。お任せください」
 侍従は壊れ物を扱うように丁寧に書状を受け取り、優雅かつ素早く執務室を出ていった。

「さあ、返事を持って帰ってくるまで、ぼーっとしていたら時間ばかり過ぎてしまうわ。執務をして待ちましょう。碧人も手伝うのよ」

 母上の言葉に従い、余計な考えを振り払うように執務に集中した。

 何時間か経ったころ、廊下の向こうが急に騒がしくなった。
 バタバタと足音が近づき、コンコンコンッと扉が叩かれる。
 いてもたってもいられず、俺は自分で扉を開けた。
 侍従は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに微笑み、恭しく一通の手紙を差し出した。

「父上……」

「それは特別だ。碧人、お前が開けて確認しなさい」

 震える手でペーパーカッターを受け取り、慎重に封を切る。

 目を走らせるにつれ、胸の鼓動が高鳴る。

「……婚約を承知すると、書いてあります!」

「急いで顔合わせの日取りを決めましょう。そこで両家の署名を行い、婚籍院へ提出するのよ」

「天璽家への報告はよろしいのですか?」

 上位の神守の婚約は、天璽家への伺いと精査を経て認められる。

「天璽家へは、すでに話を通してある」

「あなた……さすがね」

「あとは婚籍院に書類を出すだけだ。もたもたしていると、夢を見る馬鹿どもが湧いてきて、断るのが面倒になる」

「そうね。家格があまりにも合わなければ書状で断れるけれど、微妙な上位家からだと一度は会わないといけないもの。その点、婚約者がいれば話は早いわ」

 母上は、少しだけ悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「それに、婚約者がいると知っていながら申し込んでくる家があれば……今後のお付き合いを控えればいいだけですものね」

 そうして、顔合わせの日取りを決めるための手紙も用意され、再び侍従に託された。

 こうして俺の婚約は、一気に現実のものとして動き始めたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

復讐は、冷やして食すのが一番美味い

Yuito_Maru
ファンタジー
3度目の人生を生きるピオニー・レノドン。 1度目の人生は、愛した幼馴染と家族に裏切られ、無垢で無力のまま命を落とした。 2度目は、剣を磨き、王太子の婚約者となるも、1度目より惨めに死んでいった。 3度目は、微笑の裏で傭兵団を率い、冷たく復讐の刃を研ぐ。 狙うは、レノドン伯爵家、そして王家や腐った貴族たち。 「復讐とは、怒りを凍らせて成就する歪んだ喜びだ」――ピオニーは今、その意味を体現する。 ----- 外部サイトでも掲載を行っております

【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。 文化が違う? 慣れてます。 命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。 NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。 いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。 スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。 今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。 「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」 ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。 そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。

追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

yukataka
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

白い結婚にさよならを。死に戻った私はすべてを手に入れる。

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
商人であった父が、お金で貴族の身分を手に入れた。私というコマを、貴族と結婚させることによって。 でもそれは酷い結婚生活の始まりでしかなかった。悪態をつく姑。私を妻と扱わない夫。夫には離れに囲った愛人がおり、その愛人を溺愛していたため、私たちは白い結婚だった。 結婚して三年。私は流行り病である『バラ病』にかかってしまう。治療費は金貨たった一枚。しかし夫も父も私のためにお金を出すことはなかった。その価値すら、もう私にはないというように。分かっていたはずの現実が、雨と共に冷たく突き刺さる。すべてを悲観した私は橋から身を投げたが、気づくと結婚する前に戻っていた。 健康な体。そして同じ病で死んでしまった仲間もいる。一度死んだ私は、すべてを彼らから取り戻すために動き出すことを決めた。もう二度と、私の人生を他の人間になど奪われないために。 父の元を離れ計画を実行するために再び仮初の結婚を行うと、なぜか彼の愛人に接近されたり、前の人生で関わってこなかった人たちが私の周りに集まり出す。 白い結婚も毒でしかない父も、全て切り捨てた先にあるものは――

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった

今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。 しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。 それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。 一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。 しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。 加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。 レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。

死に戻りの悪役令嬢は、今世は復讐を完遂する。

乞食
恋愛
メディチ家の公爵令嬢プリシラは、かつて誰からも愛される少女だった。しかし、数年前のある事件をきっかけに周囲の人間に虐げられるようになってしまった。 唯一の心の支えは、プリシラを慕う義妹であるロザリーだけ。 だがある日、プリシラは異母妹を苛めていた罪で断罪されてしまう。 プリシラは処刑の日の前日、牢屋を訪れたロザリーに無実の証言を願い出るが、彼女は高らかに笑いながらこう言った。 「ぜーんぶ私が仕組んだことよ!!」 唯一信頼していた義妹に裏切られていたことを知り、プリシラは深い悲しみのまま処刑された。 ──はずだった。 目が覚めるとプリシラは、三年前のロザリーがメディチ家に引き取られる前日に、なぜか時間が巻き戻っていて──。 逆行した世界で、プリシラは義妹と、自分を虐げていた人々に復讐することを誓う。

(完)聖女様は頑張らない

青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。 それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。 私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!! もう全力でこの国の為になんか働くもんか! 異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)

処理中です...