- Mix blood -

久悟

文字の大きさ
15 / 260
第一章 旅立ち

港町ルナポート

しおりを挟む
 港町ルナポート。
 父さんの故郷だというリーベン島への船が出ている。魚介類の漁が盛んで、漁港にはかなりの船が停泊している。
 
「うおぉ! これが海かー!」
 
 思わず叫んだ。目の前に広がる青い水平線は、今まで見てきた川や湖とは全く違う迫力がある。
 
「僕も初めて見るよ。これが潮の香りって言うのかな」
 
 トーマスも目を細めて海を見ている。
 
「とりあえず、船がいつ出るのか確認しようよ!」
 
 エミリーが先導して船着場に向かう。漁船の上で作業をしている色黒の男に聞いてみると、一日一往復だけらしく少し前に出てしまっていた。次は明日の昼前に出るようだ。今日はここで一泊する他ない。
 
「オレ、海の魚が食べてみたいんだ。川魚との違いはどうかな?」
 
 遠くからでも目立つ派手な看板の、一際大きいレストランに入った。船乗りが多いんだろう、色黒の男達が昼間から酒を酌み交わしている。家族連れも賑やかだ。女性も子供もよく日に焼けている。

 念願の魚料理が運ばれてきた。白身魚のマリネ、魚のカルパッチョ、魚介のパエリア、見たことも聞いたこともない料理が、テーブルいっぱいに並んだ。
 
「これは酒が進むぞ……夜は飲もう」
「んじゃ、いただきまーす!」
 
 皆の顔に笑顔が浮かぶ。生でも食べられるのは鮮度がいい証拠だ。魚は傷みやすく、街道での輸送はできない。だからここでしか食べられない。
 
「おいしー! 私このパエリアっての好き!」
「オレは断然カルパッチョだな。ワインがすすみそうだ」
「今まで味わったことない味だね。世界を旅するって本当に楽しいよ」

 酒を我慢しつつ、全ての料理を平らげた。食事を終えてもまだ昼過ぎだ。
 
「海水浴でもするか?」
「ユーゴ、私の水着姿見たいんでしょ? スケベだから!」
「残念だったな、オレはグラマーな女が好きなんだよ」
 
「……チッ、スケベ野郎」
「だいたい、エミリーの水着姿はサウナの時に散々見てるだろ」
「あ、そっか」
 
 エミリーは納得して、すぐに水着に着替えた。
 ジリジリと照りつける陽の光が背中を刺す。波打ち際で足に当たる海水はまだ冷たい。意を決して飛び込むと、意外にも冷たさは感じなかった。海水浴には適した気温らしい。
 川遊びと同様に手足をバタつかせるが、波が押し寄せてうまく泳げない。
 
「本当にしょっぱいんだね!」
 
 エミリーは顔を顰めて、海水を吐き出した。
 オレも海水を舐めてみる。
  
「ん? ホントだ!」
 
「海で漂流したら飲水無いね。大変だ」
「何言ってんの? 水魔法で作ったらいいじゃん。トーマスらしからぬこと言うね」
「あ、そうか……」
 
 他愛もない会話をしながら海水浴を楽しんだ。
 
「そういえば、オレら以外一人も泳いでないんだな。シーズンじゃないのか?」
 
 すると、浜辺の方から声が聞こえた。
 
「おーい! 君ら危ないぞ! こんな時期に泳ぐもんじゃないぞー! 早く上がりなさい!」

 中年男性が両手を振って叫んでいる。
 
「危ないって言ってるな」
「あのでっかい魚の魔物とかの事かな?」
「仕留めたら売れるかもね」
 
 好戦的なエミリーが、標的に向けて魔力を込めた手のひらを向けた。
 
『風魔法 強風砲ウインドキャノン!』
 
 小さな手から放たれた風魔法は、海を割って一直線に魔物に飛んでいった。風穴が空いてプッカリ浮かんできた大きな魚を、三人で浜に向け押して泳ぐ。
 
「君ら凄いな。狩猟者ハンターかい?」
 
 浜辺で大声を出していた中年男性が、オレ達に話しかけてきた。
 
「はい、明日リーベン島に向かいます」
「あぁ、その黒髪。なるほど、フドウの人か」
 
 中年の男性は、オレの髪色を見て合点している。
 
「フドウ? リーベン島じゃないの?」
「え? フドウの人じゃないのか? リーベン島には『フドウの里』っていう町があるんだ」
 
 フドウの里。
 目と鼻の先に目的地がある。明日には到着する父さんの故郷の名を、頭の中で反芻する。
 
「なるほど、そういう事か。ところで、この魚って売れますか?」
「このサメかい? 肉は臭くて食べられないけど、歯がそこそこの値で売れるよ」
 
 この魔物のランクは知らないけど、素材が売れるならCランク程度か。夕飯が少し豪華になりそうだ。
 
「おじさん、ありがとー!」
「リーベン島行き気をつけてな! 魔物に襲われたりするから」
「そうなんだ……」
 
 もう少しすると海水浴のシーズンに入るらしく、サメなどが入れないようにバリケードを設置してから海開きをするらしい。
 なんとか海水浴を楽しめはしたけど、オレのもう一つの目的は、水着のお姉さん達を拝む事だった。まぁ仕方ない。
 
 夜はサメの歯を売ったお金で、昼間より豪華に宴会をした。お気に入りのカルパッチョを白ワインで流し込む。
 
「リーベン島はどんな料理が食べられるのかな」
「そもそもどんな町なんだろうな。島って独特な文化を築いてそうだ」
「島でちょっとゆっくりしたら次の旅のプランも立てないとね! 最近強い魔物と戦ってないから、腕なまっちゃうよ!」
「確かに、Aランクの目標クリアして、お金もあるから欲が無くなってたかもな。リーベン島で強い魔物に会いに行くのも良いかもな」
 
 美味い魚を堪能しながら、ほろ酔いでワインを飲み進める。
 
 明日にはリーベン島。オレのルーツがその島にある。父さんは始祖四種族かもしれない。置き手紙の内容が、頭の中を回る。
 
「ユーゴ、どうかした?」
 
 俯き加減にワイングラスを回しているオレに、トーマスが声を掛けた。
 
「あぁ、いや、なんでもない。話は変わるんだけど、二人は始祖四種族を見た事ある?」
「僕はノースラインで魔族は見かけたよ。真っ赤な髪の毛が凄く目立ってたね」
「私も魔族と……仙族には会ったことあるかな。鬼族きぞくと龍族は見たことないね」
 
 ゴルドホークで他種族を見かける事は無かった。他の町で生まれた二人は、さも当たり前のように答えた。
 
「そうなのか……オレはつい最近まで絵本の中の御伽話だと思ってたよ」 
「私も小さい頃はそう思ってたな」
 
 気付けば三人でワインを三本空けていた。
 
「明日はゆっくりだけど、もう出るか」
 
 明日は昼前に出る船に間に合えばいい。良い感じに酔いも回り、店を後にした。
  
 ホテルを選ぶのも面倒だ。レストランを出て一番近い寝床にチェックインし、ゆっくりと旅の疲れを癒した。

  
 ◇◇◇

  
 狩猟者ハンターの朝は早い。遅くまで寝過ぎると体が動かない。早起きが体に染み付いている。重度の二日酔いの日以外の話だけど。
 
 魚をふんだんに使った朝食を腹いっぱい平らげて、紅茶をゆっくりと楽しむ。船出までは少し時間があるけど、早めに船着場まで移動する。
 
「すみません、フドウの里は大陸の通貨で問題ないんですか?」
 
 船着場で切符を買う時に聞いてみた。
 
「あぁ、フドウもブールに統一されたのは大昔の話だ、問題ないよ」
「あー!!!!」
 
 突然エミリーが素っ頓狂な叫び声をあげた。
 
「どうしたエミリー!?」
「ボートレース忘れてたー! ブールで思い出したー!!」
 
 そう言えば、ルナポートといえばボートレースだと楽しみにしていた。
 
「美味しい魚と楽しい海水浴で忘れてた……ギャンブルを忘れるなんて……エミリー一生の不覚……」
 
 エミリーは頭を抱えてしゃがみ込んだ。
 
「リーベン島から帰るときは絶対ここに寄らないといけないんだから。次は少し滞在しようよ」
 
 トーマスがエミリーを慰める。
 
「うん……そうしてくれると嬉しい……」
 
 エミリーの落胆ぶりは相当なものだった。リーベン島にもギャンブルはあるさ、と二人で慰める。いや、彼女ためにはやめさせるべきなんだけど……。
 
 無事に船に乗ることが出来た。大型じゃないけど、割と立派な船だ。黒髪の人も数人いた。父さん以外で初めて見る。
 
 昼過ぎには着くようだ。ホテルで軽食を買ってきている。それを食べようと思った矢先の事だった。突然、船が大きく揺れた。
 
「なんだ?」
 
 船のすぐ近くに、大きなシードラゴンの首が現れた。
 
「魔物だ! 行くぞ!」
「下がってろ」
 
 後ろからの声で振り返る。声の主は黒髪の青年だ。
 
『風遁 嵐塵らんじん
 
 途轍もない風切り音と共に、無数の風の刃が放たれ、シードラゴンが一瞬で斬り刻まれた。それを確認することなく、青年は何事も無かったように操縦室へと戻っていった。
 
「すっご……なに今の魔法……」
 
 エミリーは目を丸くして、青年が去った方向を見ている。
 
「ふうとん、て言ってたな」
「おそらくリーベン島の戦闘方法なんだろうね……習得したいもんだ」
 
 トーマスも感心した様子だ。
 その後は何事もなく船着場に着き、島に上陸した。
 
「ユーゴやシュエンさんみたいに、みんな髪が黒いね」
「本当に父さんの故郷なんだな。この光景を見たら間違いないなって思うよ」
「ここはどんなギャンブルがあるかな」
 
 当面の目的地、リーベン島に到着した。
 
【第一章 旅立ち 完】
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

処理中です...