- Mix blood -

久悟

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第二章 リーベン島編

エミリーの過去

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 私の本当の名前は『エミリア・オーベルジュ』。ウェザブール王都の貴族の家に生まれた。
 オーベルジュ家の分家で、当主イザックの孫娘。でも、お父さんはいなかった。
 
 お母さんのリヴィアは外で私を産んで、この家に戻ってきた。そのまま私を誰にも会わせる事なく、一人のメイドと部屋に籠もる生活を送ってきた。私は、お母さんとそのメイドの前以外では、目を開ける事を固く禁じられていた。
 
「お母さん、何で私は人の前で目を開けたらダメなの?」
「それはね、私達オーベルジュ家の為でもあるけど、何よりもエミリアの為なの。皆の前でも目が見えない振りをしてね。ごめんね……不自由だよね……全部お母さんが悪いの……」
「違うよ、私の眼が青いのが悪いの。ごめんね、お母さん……」
「そんな事言わないでエミリア……」
 
 私には貴族としての教養がなかった。あの心が無い形式だけのやり取りに、心底うんざりしていた。お母さんも私に対する負い目からか、厳しく躾ける様なことはしなかった。
 
 祖父イザックの爵位は男爵。貴族称号は高くなかったけど、プライドは異常に高かった。世間体をとても気にする人だった。
 だからか、外で子供を作ってきたお母さんと、誰の子か分からない教養のない私を毛嫌いしていたんだと思う。そんな事もあって、私は家の皆の前ではほとんど口を開くことは無かった。
 
 唯一言葉を交わすことができた他人は、メイドのイリアナだけだった。イリアナはお母さんのお付きのメイドで、オーベルジュ家に来る前は王都の軍隊に所属していたみたい。
 祖父の奥さん、つまり私の祖母に世話になり、この家に来たみたい。イリアナは私がお母さん以外で唯一目を開いて話ができる、特別な存在だった。
 
「イリアナは、私の青い眼を見ても気持ち悪くないの?」
「何の気持ちの悪いことがありますか。エミリア様の眼はとてもお美しいですよ。その美しさ故に悪魔が嫉妬してしまうのです。ですから、他人には決してお見せにならないように。イリアナがあなたの目になりますから」
「そっか、悪魔が来ちゃうなら見せたらダメだね」

 私はこの屋敷の誰の顔も知らない。 
 外の景色は、窓から見える範囲しか知らない。外の世界を思いっきり見てみたい。でも、それは決して叶うことのない願いだった。

  
 ◆◆◆

  
 私が五歳になったあたりから、定期的にオーベルジュ家の皆と食事をする機会が増えた。私が意識的に目を瞑って生活が出来るようになったから。
 
 それはいつも耐え難い時間だった。
 貴族特有の、無駄な機嫌の取り合い、見下し合い。
 何よりも私を苛立たせたのは、従兄妹のアドンの存在だった。
 アドンは会うたびに私を嘲った。目が見えない、喋れないと、その憎たらしい声で私を罵倒した。
 
 私が七歳になった頃だった。
 
「おい、エミリア。お前の母君は娼婦しょうふなんだろ? だからその子のお前の目は見えないし、口も聞けないんだろ?」
「おい、アドン! 何てことを言うんだ!」
 
 お母さんが……何だって? なんでこいつにそんな事を……。怒りが胸の奥から込み上げ、全身が震えた。 
 私はとうとう堪えきれなくなった。
 
「お母さんに謝れ! お母さんが娼婦なわけ無いだろ! 謝れ!」
 
 固く閉ざしていた青い眼を皆に晒し、アドンに殴りかかった。
 
「こいつ、眼が青いぞ!」
 
 その時の皆の顔が、今も鮮明に焼き付いている。まるで魔物でも見るような、恐怖と嫌悪に満ちた目で私を見ていた。
 そして、祖父イザックの大声が部屋中に響き渡った。
 
「おい! この部屋に誰も入れるな! 誰も出るなよ! 鍵を閉めろ!」
 
 祖父は全身を震わせながら、お母さんに問い詰めた。
 
「リヴィア、どなたの子だ……」
「アレクサンド……ノルマンディ様です……」
 
 お母さんは泣き崩れながら、その名前を告げた。
 
「お前……とんでもない事をしてくれたな」
「申し訳……ありません……」
 
「おい、誰もこの事を口外することは許さん! 我が家の存続に関わる事だぞ! おい、アドン! お前絶対に言うんじゃないぞ!」
 
 祖父イザックの狂気にも似た剣幕に、アドンも恐怖で泣き出した。
 
 その後、私達の扱いは一変し、酷いものになった。部屋から一歩も出る事を許されなくなったから。
 
「お母さん、ごめんね……私が悪魔呼んじゃうかもしれないね……」
「いいのよ、いずれはこうなるのは分かってたから……」

  
 いつも、私達二人に食事を持って来たのはイリアナだった。
 
「リヴィア様、エミリア様。お気を確かに持ってください。必ず日の目を見る時が来ます。イリアナはそれまでお二人の味方です」

 イリアナはなんで、これほどまでに私たちを支えてくれるんだろう。イリアナが悪魔を追い払ってくれるのかもしれない。そう思った。

 
 ある日、いつもの様に食事を持って来たイリアナが、屋敷の中の状況をお母さんと深刻に話しているのを耳にした。
 
「前回の事が家中で噂になり、使用人達が少しづつ辞め始めています。もしかすると、告発する者が出るかもしれません。リヴィア様、逃げる準備をしておいた方が良いかもしれません」
 
 告発? 誰に? 悪魔に?
 何が起こるんだろう。
 
「イリアナ、もしもの時はエミリアを優先して」
「しかし……」
「いいえ、約束して!」
「分かりました……」

 私は急に心配になった。
 
「ずっと三人で暮らせるよね……?」
「エミリア、大丈夫よ。心配させてごめんね」
 
 そして、運命を決するその日は、静かに訪れた。
 
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