- Mix blood -

久悟

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第二章 リーベン島編

エミリーの過去 2

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 いつもと変わらない平穏な昼下がり。屋敷内が炎に呑まれた。
 でも、この屋敷は石造り。今の私なら分かる、あれは魔法による炎だった。
 まるで生きているかのようにうねり、襲いかかってくる火炎に焼かれた皆の叫び声が、屋敷内に木霊する。
 
「イリアナ! エミリアを!」
「分かりました! ですが、リヴィア様はここに隠れておいて下さい! 必ず助けに戻って来ます!」
 
 イリアナは私を抱えて屋敷内を走った。
 元王国軍人のイリアナにしか出来ないことだったのかもしれない。火の海の中、敵の攻撃を躱しながら屋敷の外に出た。そのままの足で、街にある屋敷の使用人の寮の倉庫に私を押し込んだ。
 
「エミリア様、ここから絶対に出ないように。必ずリヴィア様とお迎えに参ります。いいですか、絶対に出ないように!」
 
 そう言ってイリアナは屋敷に戻っていった。

  
 ◆◆◆

  
 一日経っても二日経っても、お母さんもイリアナも来なかった。私にも分かっていた。二人共、もう生きてないって。
 お腹が空いた……喉がカラカラだ。絶望的な状況だった。

 外に出てもこの青い眼だ。私みたいな子供が一人で生きていく事は難しい。
 なんで眼の色が違うだけで、こんな目に合わなければいけないのか。私達が何をしたっていうのか。怒りが湧いてきた。全てを憎んだ。
 でも……もうどうでもいい、このまま眠ろう。諦めが私を支配した。 
 全てを諦めた時、倉庫の扉が開き、一筋の光が差し込んだ。
 
「お母さん!? イリアナ!?」
「おいおい、なんて魔力垂れ流してるんだと思ったら子供か? 残念だけど、お母さんでも何とかさんでも無いよ」
「だれ!? 来ないで!」
「落ち着きなって、敵じゃないよ。ほら、見てみな」
 
 そう言ってその女性は、目から何かを外して私を覗き込んだ。
 
「お前と同じ、青い眼のお姉さんだよ。仲良くしてね」
 
 それが、ジュリアとの出会いだった。
 
 ジュリアは何かを私に差し出した。
 
「とりあえずこれを目に入れてみな。お前は目が大きいから入るだろ? 最初はちょっと違和感があるかな?」
 
「痛っ……くない。これは……何?」
「ほら、見てみなよ」
 
 そう言って私に鏡を向けた。
 
「えっ……眼が青くない」
「色付きのレンズだ。元々は視力の矯正用だけど、矯正機能はついてない」
「これで外に出れる……? 色んな世界を見れる……?」
「あぁ、どこにでも行けるよ。世界は広いんだ。とりあえずご飯でも食べるか」
 
 ジュリアは外に出ようとして思い直した。
 
「おっと、その前に。そんな華美な服着てたら貴族の娘だと思われる。そこに子供服売ってたから、ちょっと待ってな」
 
 そう言って、服を買ってきて着せてくれた。
 
「よし、完璧だ。どう見ても平民だよ。ご飯はなんでもいいね?」
 
 私は、この時に食べた食事を今でも忘れる事はない。泣きながら空腹と渇きを満たした。
 
「よし、こんな所でできる話じゃないよな? 人の居ないところに移動しよう」

  
 人もまばらな公園の隅のベンチに二人で座った。
 私は、お母さんが一人で自分を産んで家に戻ってきた事、目が見えない子供を演じてた事、屋敷の皆に青い眼を見られた事、その後に屋敷が火の海になって逃げてきた事。
 全部話した。
 
「そうか。で? お父さんの名前は何だって?」
「アレクサンド……ノル何とかって言ってたよ」
「アレクサンド・ノルマンディか?」
「多分そうだと思う」
「だったらお前ら親子は何にも悪くない。あいつはクズ野郎だ」

 そう言ってため息をついた。 
 
「お姉さん、知ってるの?」
「あぁ、よく知ってるよ。あいつに関わったら皆不幸になる。悪魔みたいな奴だよ」
「そっか、イリアナが言ってたんだ。この綺麗な青い眼を人に見せたら、悪魔が嫉妬するから隠してねって」
「うまいこと言うなその人は、その通りだよ。アタシもこうやって隠してる」
 
 なんでこのお姉さんも眼が青いんだろう。その時は聞くことができなかった。
 
「どうする? 貴族街に帰るか?」
「帰るのは嫌だ……お母さんとイリアナのいない所なんて地獄だよ……知り合いなんて一人もいないんだ」
 
「そうか、じゃあアタシと一緒に来な! お前は……いや、そういえば名前を聞いてなかったな。アタシは『ジュリア・スペンサー』だ。よろしくな」
「私は、エミリア・オーベルジュ」
 
「エミリアか。でもオーベルジュ家は悪魔に燃やされてしまったんだろ? オーベルジュを名乗るのはまずいな……よし、アタシの姓をやろう。お前は今日からエミリア・スペンサー……いや『エミリー・スペンサー』だ」
 
 この日から、狩猟者ハンターエミリーとしての新たな人生が始まった。それは、過去を断ち切るための、偽りの名前だった。
 
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