- Mix blood -

久悟

文字の大きさ
42 / 260
第二章 リーベン島編

三人の英雄 4

しおりを挟む
「……というわけだ。仙神国にこの国の精鋭を送り、共闘して魔王を討つ」

 父の屋敷の一室。畳敷きの大広間の奥正面に父が座り、その横には参謀である母が控えている。その前に、国の幹部たちが緊張した面持ちで顔を突き合わせていた。

「当然私とリンファ、この国の古参達で行く。お主ら兄妹にはこの国の未来を託す」
「おいおい、待て待て親父殿。万が一があったらどうすんだよ。相手は魔王だぞ? この国の未来にはあんたが必要だ、誰がまとめんだよ。あと、お袋殿が居なかったら新しい国の有事に誰が指揮採るんだよ」
「その時がお主が龍王だ。お前が国を纏めるがよい」
「それこそ勘弁してくれよ! オレにゃ無理だって。人には適材適所、役割があんだよ。オレの役割は戦闘だ」
 
「……しかし、移住計画は儂が言い始めた事だ。家でゆっくりなどしておれぬ。老い先短い私達が行くべきだ」
「嘘言ったらだめっしょ父さん。あんたはあと数千年は生きるだろ」

 軽口を叩くリンドウ兄さんとは対照的に、広間の空気は重く張り詰めていた。その時、全ての音を掻き消すように、静かだが芯の通った声が響いた。

「先が短いといえば私でしょうね」

 皆の視線が、声の主である姉さんに注がれる。

「……どういう意味だ、メイリン」

 父の問いに、姉さんは静かに、だが揺るぎない瞳で答えた。

「私は今、病に侵されています。私達は寿命が長くても病には勝てない。私はこの国で一番医術に精通しているから分かる。私の命は、そこまで長くない。残りの時間を無為に過ごすつもりはありません。だから私はこの命、この国のために使います」

「え!? メイリン姉さん、何で言ってくれなかったの!」

 私は思わず叫んでいた。信じられなかった。いつも気丈で、誰よりも頼りになる姉さんが、そんな……。

「メイファ、貴方に言ったところで何も解決しない。新しい国が出来たら、私の弟子である貴方が診療所を作りなさい。病を治せるように。約束して」
「……分かったよ」

 私は、頷くことしかできなかった。皆が静まり返る中、姉さんの覚悟の重さに、誰も言葉を継ぐことができない。

「メイリン、治らぬのか……」
「はい、原因も治療法も分かりません。ただ、それを記録しているので、それをメイファに託します。この子なら何とかしてくれる。私の命はここで使います、私は魔族と戦う」

 私はこの時、固く誓った。新しい国に診療所を作り、姉さんのような人を、皆の病気を治せる術師になるのだと。

「親父殿、言葉が過ぎるかもしれねぇが、あんた等じゃ魔王には敵わねぇ」
「分かっておる。故にお主らに龍族の未来を託すのだ」
「だから言ってんだ。何で死ぬ気で居るんだって。オレ等が行けば死なねぇ。オレは親父殿より強い」
「それは……」

 フドウ兄さんの強さは、この国の誰もが認めるところだ。正論をぶつけられ、父の目がわずかに泳いだ。

「じゃあ、安心の材料を与えようか。オレはすげぇ能力を手に入れた」
「またお主は……気休めならば言わぬが良いぞ」
「マジだって。オレはそれを『龍眼』と名付けた」

 周りの幹部たちも、またフドウ兄さんの大言壮語が始まったと、疑いの視線を向けている。

「……一応聞こうか」
「オレは敵の弱点が見える、目を瞑っていても背後でも、敵の動きが分かる。これは嘘じゃねぇ」
「何を言うておる……」
「考えてみろよ、あのイバラキの腕を斬ったんだぞ? 誰があいつを斬れる? あの強靭な肉体を。取り巻きが多すぎて仕留め損なったけどな……」
「……確かにそうだが」
「あと、オレは少し先の相手の動きを読める」
「お主、いい加減にするがよい。儂を出したくないのが見え見えだぞ」

 語気を強め、父が立ち上がった。

「嘘だと思うなら確かめてみろよ」

 二人の間に、火花が散るような緊張が走る。

「いくぞ」
「いつでも来いよ、動く前に何するか当ててやる」

 二人は刀を抜き、正眼に構えて対峙した。部屋の空気が一瞬で凍りつき、対峙する二人の息遣いだけが聞こえる。
 父が動く。いや、動こうとした。その筋肉の微かな緊張を見逃さず、フドウ兄さんの声が響いた。

「上段に移行しての真向斬りだ」
「!?……偶然だ」

 父が構えを変えようとした、その意図を読み取ったかのように、兄さんが再び言い放つ。

「八相からの袈裟斬りだ」
「……」
 
「横一文字だな」

 父が刀を水平に払おうとした寸前、フドウ兄さんはこともなげに言い当てた。
 信じられないといった表情を浮かべ、父はカチンと音を立てて刀を鞘に納めた。その音だけが、張り詰めた静寂を破る。

「お主……本当に視えておるのか……」
「こんなとこで嘘なんてつかねぇよ」

 父は立ったまま目を閉じ、深く考え込んでいる。

「親父殿、オレが行けば魔王になんて負けねぇ。メイリンも、もう覚悟を決めている」
「おいおい、何で俺が蚊帳の外なんだよ。俺が行かないと始まらないっしょ。誰があんたら守るんだよ」

 リンドウ兄さんが、座ったまま呆れたように口を挟んだ。

「決まったな。オレ等で行く」
「待ってよ! 私も行く! 妹一人置いていくなんて酷くないか!?」
「メイファ、あなたは国の未来。残って」
「ふざけるな! 何で私が死ぬって決めつけるんだ! 私は強い!」

 私は目を剥いて叫んだ。置いていかれるなんて、絶対に嫌だ。

「……こいつ、言うね」
「分かった。メイファ、お前は後方支援だ。オレ等が潰れたら助けてくれ。大事な役だ」
「分かればいいんだよ。私を子供だと思うな!」

 私は、何が何でもこの戦いに参加したかった。兄や姉に、認めてもらいたかった。

「親父殿、お袋殿、そういうことだ。オレたちは魔王を斬って帰ってくる」

 目を閉じていた父は、ようやくゆっくりと目を開いた。その瞳には、覚悟の色が浮かんでいた。

「確かに……儂らが行くより生存率が高いのは分かる。だが約束しろ、絶対に帰って来い。それが条件だ」
「当たり前だ。オレ達は死ぬにはまだ早ぇ」
「私も病に負ける気はありません。必ず治療法を確立します。後にこの病に負ける者がいなくなるように」

「分かった……お主ら四人と、信頼する部下を連れて行くが良い。ただし、信頼する部下だと言うて無理やり連れて行くことの無いように」
「もちろん。オレ達にそこまでの強制力は無ぇ」

 ずっと黙って聞いていた母が、初めて口を開いた。

「……さっきから聞いてりゃ、小童どもが好き勝手言うね。確かにわたしは戦闘では役に立たないよ。でも作戦の立案は出来る。付いていくよ」
「いや、お袋殿はこの国に残ってくれ。仙族の作戦の元で動いてみたい。オレ達はあんた達に甘えっきりだった。そろそろ独り立ちさせてくれても良いんじゃねぇか? 何百年生きてると思ってんだ」

 フドウ兄さんの真っ直ぐな瞳に、母は一瞬たじろいだ。親を超えていこうとする、私達兄妹の強い意志が伝わったのだろう。

「……どうあっても、私達を連れて行きたくないようだね……分かったよ。絶対に帰ってこい。私の作戦はあんたらありきなんだからね」
「任せとけって」

 龍族の精鋭部隊の編成は決まった。
 私達兄妹四人は、魔王を討つべく、仙神国へ向かう準備を始めたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

処理中です...