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第二章 リーベン島編
三人の英雄 4
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「……というわけだ。仙神国にこの国の精鋭を送り、共闘して魔王を討つ」
父の屋敷の一室。畳敷きの大広間の奥正面に父が座り、その横には参謀である母が控えている。その前に、国の幹部たちが緊張した面持ちで顔を突き合わせていた。
「当然私とリンファ、この国の古参達で行く。お主ら兄妹にはこの国の未来を託す」
「おいおい、待て待て親父殿。万が一があったらどうすんだよ。相手は魔王だぞ? この国の未来にはあんたが必要だ、誰が纏めんだよ。あと、お袋殿が居なかったら新しい国の有事に誰が指揮採るんだよ」
「その時がお主が龍王だ。お前が国を纏めるがよい」
「それこそ勘弁してくれよ! オレにゃ無理だって。人には適材適所、役割があんだよ。オレの役割は戦闘だ」
「……しかし、移住計画は儂が言い始めた事だ。家でゆっくりなどしておれぬ。老い先短い私達が行くべきだ」
「嘘言ったらだめっしょ父さん。あんたはあと数千年は生きるだろ」
軽口を叩くリンドウ兄さんとは対照的に、広間の空気は重く張り詰めていた。その時、全ての音を掻き消すように、静かだが芯の通った声が響いた。
「先が短いといえば私でしょうね」
皆の視線が、声の主である姉さんに注がれる。
「……どういう意味だ、メイリン」
父の問いに、姉さんは静かに、だが揺るぎない瞳で答えた。
「私は今、病に侵されています。私達は寿命が長くても病には勝てない。私はこの国で一番医術に精通しているから分かる。私の命は、そこまで長くない。残りの時間を無為に過ごすつもりはありません。だから私はこの命、この国のために使います」
「え!? メイリン姉さん、何で言ってくれなかったの!」
私は思わず叫んでいた。信じられなかった。いつも気丈で、誰よりも頼りになる姉さんが、そんな……。
「メイファ、貴方に言ったところで何も解決しない。新しい国が出来たら、私の弟子である貴方が診療所を作りなさい。病を治せるように。約束して」
「……分かったよ」
私は、頷くことしかできなかった。皆が静まり返る中、姉さんの覚悟の重さに、誰も言葉を継ぐことができない。
「メイリン、治らぬのか……」
「はい、原因も治療法も分かりません。ただ、それを記録しているので、それをメイファに託します。この子なら何とかしてくれる。私の命はここで使います、私は魔族と戦う」
私はこの時、固く誓った。新しい国に診療所を作り、姉さんのような人を、皆の病気を治せる術師になるのだと。
「親父殿、言葉が過ぎるかもしれねぇが、あんた等じゃ魔王には敵わねぇ」
「分かっておる。故にお主らに龍族の未来を託すのだ」
「だから言ってんだ。何で死ぬ気で居るんだって。オレ等が行けば死なねぇ。オレは親父殿より強い」
「それは……」
フドウ兄さんの強さは、この国の誰もが認めるところだ。正論をぶつけられ、父の目がわずかに泳いだ。
「じゃあ、安心の材料を与えようか。オレはすげぇ能力を手に入れた」
「またお主は……気休めならば言わぬが良いぞ」
「マジだって。オレはそれを『龍眼』と名付けた」
周りの幹部たちも、またフドウ兄さんの大言壮語が始まったと、疑いの視線を向けている。
「……一応聞こうか」
「オレは敵の弱点が見える、目を瞑っていても背後でも、敵の動きが分かる。これは嘘じゃねぇ」
「何を言うておる……」
「考えてみろよ、あのイバラキの腕を斬ったんだぞ? 誰があいつを斬れる? あの強靭な肉体を。取り巻きが多すぎて仕留め損なったけどな……」
「……確かにそうだが」
「あと、オレは少し先の相手の動きを読める」
「お主、いい加減にするがよい。儂を出したくないのが見え見えだぞ」
語気を強め、父が立ち上がった。
「嘘だと思うなら確かめてみろよ」
二人の間に、火花が散るような緊張が走る。
「いくぞ」
「いつでも来いよ、動く前に何するか当ててやる」
二人は刀を抜き、正眼に構えて対峙した。部屋の空気が一瞬で凍りつき、対峙する二人の息遣いだけが聞こえる。
父が動く。いや、動こうとした。その筋肉の微かな緊張を見逃さず、フドウ兄さんの声が響いた。
「上段に移行しての真向斬りだ」
「!?……偶然だ」
父が構えを変えようとした、その意図を読み取ったかのように、兄さんが再び言い放つ。
「八相からの袈裟斬りだ」
「……」
「横一文字だな」
父が刀を水平に払おうとした寸前、フドウ兄さんはこともなげに言い当てた。
信じられないといった表情を浮かべ、父はカチンと音を立てて刀を鞘に納めた。その音だけが、張り詰めた静寂を破る。
「お主……本当に視えておるのか……」
「こんなとこで嘘なんてつかねぇよ」
父は立ったまま目を閉じ、深く考え込んでいる。
「親父殿、オレが行けば魔王になんて負けねぇ。メイリンも、もう覚悟を決めている」
「おいおい、何で俺が蚊帳の外なんだよ。俺が行かないと始まらないっしょ。誰があんたら守るんだよ」
リンドウ兄さんが、座ったまま呆れたように口を挟んだ。
「決まったな。オレ等で行く」
「待ってよ! 私も行く! 妹一人置いていくなんて酷くないか!?」
「メイファ、あなたは国の未来。残って」
「ふざけるな! 何で私が死ぬって決めつけるんだ! 私は強い!」
私は目を剥いて叫んだ。置いていかれるなんて、絶対に嫌だ。
「……こいつ、言うね」
「分かった。メイファ、お前は後方支援だ。オレ等が潰れたら助けてくれ。大事な役だ」
「分かればいいんだよ。私を子供だと思うな!」
私は、何が何でもこの戦いに参加したかった。兄や姉に、認めてもらいたかった。
「親父殿、お袋殿、そういうことだ。オレたちは魔王を斬って帰ってくる」
目を閉じていた父は、ようやくゆっくりと目を開いた。その瞳には、覚悟の色が浮かんでいた。
「確かに……儂らが行くより生存率が高いのは分かる。だが約束しろ、絶対に帰って来い。それが条件だ」
「当たり前だ。オレ達は死ぬにはまだ早ぇ」
「私も病に負ける気はありません。必ず治療法を確立します。後にこの病に負ける者がいなくなるように」
「分かった……お主ら四人と、信頼する部下を連れて行くが良い。ただし、信頼する部下だと言うて無理やり連れて行くことの無いように」
「もちろん。オレ達にそこまでの強制力は無ぇ」
ずっと黙って聞いていた母が、初めて口を開いた。
「……さっきから聞いてりゃ、小童どもが好き勝手言うね。確かにわたしは戦闘では役に立たないよ。でも作戦の立案は出来る。付いていくよ」
「いや、お袋殿はこの国に残ってくれ。仙族の作戦の元で動いてみたい。オレ達はあんた達に甘えっきりだった。そろそろ独り立ちさせてくれても良いんじゃねぇか? 何百年生きてると思ってんだ」
フドウ兄さんの真っ直ぐな瞳に、母は一瞬たじろいだ。親を超えていこうとする、私達兄妹の強い意志が伝わったのだろう。
「……どうあっても、私達を連れて行きたくないようだね……分かったよ。絶対に帰ってこい。私の作戦はあんたらありきなんだからね」
「任せとけって」
龍族の精鋭部隊の編成は決まった。
私達兄妹四人は、魔王を討つべく、仙神国へ向かう準備を始めたのだった。
父の屋敷の一室。畳敷きの大広間の奥正面に父が座り、その横には参謀である母が控えている。その前に、国の幹部たちが緊張した面持ちで顔を突き合わせていた。
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軽口を叩くリンドウ兄さんとは対照的に、広間の空気は重く張り詰めていた。その時、全ての音を掻き消すように、静かだが芯の通った声が響いた。
「先が短いといえば私でしょうね」
皆の視線が、声の主である姉さんに注がれる。
「……どういう意味だ、メイリン」
父の問いに、姉さんは静かに、だが揺るぎない瞳で答えた。
「私は今、病に侵されています。私達は寿命が長くても病には勝てない。私はこの国で一番医術に精通しているから分かる。私の命は、そこまで長くない。残りの時間を無為に過ごすつもりはありません。だから私はこの命、この国のために使います」
「え!? メイリン姉さん、何で言ってくれなかったの!」
私は思わず叫んでいた。信じられなかった。いつも気丈で、誰よりも頼りになる姉さんが、そんな……。
「メイファ、貴方に言ったところで何も解決しない。新しい国が出来たら、私の弟子である貴方が診療所を作りなさい。病を治せるように。約束して」
「……分かったよ」
私は、頷くことしかできなかった。皆が静まり返る中、姉さんの覚悟の重さに、誰も言葉を継ぐことができない。
「メイリン、治らぬのか……」
「はい、原因も治療法も分かりません。ただ、それを記録しているので、それをメイファに託します。この子なら何とかしてくれる。私の命はここで使います、私は魔族と戦う」
私はこの時、固く誓った。新しい国に診療所を作り、姉さんのような人を、皆の病気を治せる術師になるのだと。
「親父殿、言葉が過ぎるかもしれねぇが、あんた等じゃ魔王には敵わねぇ」
「分かっておる。故にお主らに龍族の未来を託すのだ」
「だから言ってんだ。何で死ぬ気で居るんだって。オレ等が行けば死なねぇ。オレは親父殿より強い」
「それは……」
フドウ兄さんの強さは、この国の誰もが認めるところだ。正論をぶつけられ、父の目がわずかに泳いだ。
「じゃあ、安心の材料を与えようか。オレはすげぇ能力を手に入れた」
「またお主は……気休めならば言わぬが良いぞ」
「マジだって。オレはそれを『龍眼』と名付けた」
周りの幹部たちも、またフドウ兄さんの大言壮語が始まったと、疑いの視線を向けている。
「……一応聞こうか」
「オレは敵の弱点が見える、目を瞑っていても背後でも、敵の動きが分かる。これは嘘じゃねぇ」
「何を言うておる……」
「考えてみろよ、あのイバラキの腕を斬ったんだぞ? 誰があいつを斬れる? あの強靭な肉体を。取り巻きが多すぎて仕留め損なったけどな……」
「……確かにそうだが」
「あと、オレは少し先の相手の動きを読める」
「お主、いい加減にするがよい。儂を出したくないのが見え見えだぞ」
語気を強め、父が立ち上がった。
「嘘だと思うなら確かめてみろよ」
二人の間に、火花が散るような緊張が走る。
「いくぞ」
「いつでも来いよ、動く前に何するか当ててやる」
二人は刀を抜き、正眼に構えて対峙した。部屋の空気が一瞬で凍りつき、対峙する二人の息遣いだけが聞こえる。
父が動く。いや、動こうとした。その筋肉の微かな緊張を見逃さず、フドウ兄さんの声が響いた。
「上段に移行しての真向斬りだ」
「!?……偶然だ」
父が構えを変えようとした、その意図を読み取ったかのように、兄さんが再び言い放つ。
「八相からの袈裟斬りだ」
「……」
「横一文字だな」
父が刀を水平に払おうとした寸前、フドウ兄さんはこともなげに言い当てた。
信じられないといった表情を浮かべ、父はカチンと音を立てて刀を鞘に納めた。その音だけが、張り詰めた静寂を破る。
「お主……本当に視えておるのか……」
「こんなとこで嘘なんてつかねぇよ」
父は立ったまま目を閉じ、深く考え込んでいる。
「親父殿、オレが行けば魔王になんて負けねぇ。メイリンも、もう覚悟を決めている」
「おいおい、何で俺が蚊帳の外なんだよ。俺が行かないと始まらないっしょ。誰があんたら守るんだよ」
リンドウ兄さんが、座ったまま呆れたように口を挟んだ。
「決まったな。オレ等で行く」
「待ってよ! 私も行く! 妹一人置いていくなんて酷くないか!?」
「メイファ、あなたは国の未来。残って」
「ふざけるな! 何で私が死ぬって決めつけるんだ! 私は強い!」
私は目を剥いて叫んだ。置いていかれるなんて、絶対に嫌だ。
「……こいつ、言うね」
「分かった。メイファ、お前は後方支援だ。オレ等が潰れたら助けてくれ。大事な役だ」
「分かればいいんだよ。私を子供だと思うな!」
私は、何が何でもこの戦いに参加したかった。兄や姉に、認めてもらいたかった。
「親父殿、お袋殿、そういうことだ。オレたちは魔王を斬って帰ってくる」
目を閉じていた父は、ようやくゆっくりと目を開いた。その瞳には、覚悟の色が浮かんでいた。
「確かに……儂らが行くより生存率が高いのは分かる。だが約束しろ、絶対に帰って来い。それが条件だ」
「当たり前だ。オレ達は死ぬにはまだ早ぇ」
「私も病に負ける気はありません。必ず治療法を確立します。後にこの病に負ける者がいなくなるように」
「分かった……お主ら四人と、信頼する部下を連れて行くが良い。ただし、信頼する部下だと言うて無理やり連れて行くことの無いように」
「もちろん。オレ達にそこまでの強制力は無ぇ」
ずっと黙って聞いていた母が、初めて口を開いた。
「……さっきから聞いてりゃ、小童どもが好き勝手言うね。確かにわたしは戦闘では役に立たないよ。でも作戦の立案は出来る。付いていくよ」
「いや、お袋殿はこの国に残ってくれ。仙族の作戦の元で動いてみたい。オレ達はあんた達に甘えっきりだった。そろそろ独り立ちさせてくれても良いんじゃねぇか? 何百年生きてると思ってんだ」
フドウ兄さんの真っ直ぐな瞳に、母は一瞬たじろいだ。親を超えていこうとする、私達兄妹の強い意志が伝わったのだろう。
「……どうあっても、私達を連れて行きたくないようだね……分かったよ。絶対に帰ってこい。私の作戦はあんたらありきなんだからね」
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