- Mix blood -

久悟

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第二章 リーベン島編

三人の英雄 6

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 次の日の朝、私達兄妹四人は仙王の長男であるライアンに砦の設備を案内してもらっていた。ここはもはや砦ではない。一つの巨大な城郭都市だ。

「ここが病院です、負傷兵の治療施設ですね。怪我等なら回復術で治りますが、四肢の欠損などはどうにもならない。意識の無い者もここに入院しています」

 数日前の小競り合いで負傷した兵士たちが、苦悶の表情で横たわっている。既に戦は始まっているのだ。砦の総指揮を任されているライアンは、その光景を前に唇を噛み締めていた。

「切断した四肢は残していますか?」
「ええ、氷結させて保管している者もいます」
「ならば問題ありません。私が診ましょう」

 姉さんは静かに言うと、右腕を欠損した患者の元へ歩み寄り、その切断面にそっと手をかざした。

『治療術 四肢再生』

 姉さんの手から放たれた眩い光が、患者の腕を包み込む。光が収まった時、そこには何の傷跡もなく、失われたはずの腕が綺麗に繋がっていた。

「なんと……つながった!」

 ライアンが目を剥いて驚愕の声を上げる。それもそのはずだ。これは、龍族の中でも姉さんにしか出来ない、治療術の完成形なのだから。

「少し違和感はあるでしょうが、数日で落ち着きます」
「ありがとうございます……これでまた戦える……」

 患者は再生した自分の腕を何度も握りしめ、肩を震わせて泣いていた。ライアンは、まるで奇跡を目の当たりにしたかのように、その光景を呆然と見つめていた。

 次に案内されたのは訓練場だった。仙族の戦士たちが、プレートアーマーと呼ばれる合金製の鎧を身に着け、激しい訓練に励んでいる。

「オレ達は魔物の革の防具を好んで装備するが、仙族の戦士の鎧は随分重そうですね」
「昔は全身を鎧で包んでいました。近年は簡素化し、動きやすくするため最低限の装備です。特殊な合金製で意外と軽いんですよ」

 魔法とは明らかに違う術を扱う者がいる。
 私達が興味を向けると、ライアンが説明を始めた。
 
「私共、仙族の戦闘の大きな特徴は『呼吸法』にあります。特殊な呼吸法で、身体能力を飛躍的に向上させ『仙術』を駆使して戦う。浮遊術もその一つです」

 各種族に、それぞれ独自の戦闘法がある。それは互いに決して侵すことのできない領域だ。
 一通り砦内を案内してもらい、私達は決戦のその時まで鋭気を養うことになった。

「決戦の日は近い」

 砦の中を、そんな噂が駆け巡り始めた。魔族との決戦の日が、刻一刻と近づいていた。

 
 ◆◆◆

 
 砦内の一室。仙族と龍族の幹部が集まり、軍議が始まった。部屋の空気は張り詰めている。

「とうとう魔族が本格的に動き出した。この軍議の後、我々も戦場に向かう事とする」

 仙王の言葉に、皆が息を呑む。

「龍族が鬼族共を叩いてくれたお陰で、魔族は鬼族攻めに兵を割いているようだ。こちらに対する兵は減っている。しかも奴等は龍族が来ている事を知らん。という事で今が好機だ。先ずは仙族と龍族の先陣が交互に魔族に当たってくれ。魔王がいなければ問題は無いだろう。魔王が前線に来たときは二隊同時に当たってもらう。その時は援軍を前線に送る。鬼族攻めに行っているかもしれんが、こちらの戦場に来る可能性が高いと見ている」
「「はい!」」

 フドウ兄さんと、あの軟派男が声を合わせたことに、私は少し驚いた。

「無駄な被害は出したくない。ダメだと思ったら引け。後発の隊が入れ代わり当たる。数はこちらが有利だ。戦場は山間の平地だ、波状攻撃で魔族を叩く」

 仙王は話を終え、円卓に両手を置いた。

「では、軍議を終える」

 その声で皆が一斉に立ち上がり、部屋を後にしていく。その時、アレクサンドが姉さんに近づき、声をかけた。

「やぁ、メイリン。今日も美しいね」
「あら、アレク様。貴方様がいればこちらも心強いです」

 姉さんは完璧な笑顔で、彼が取ろうとした手をひらりとかわす。

「キミはボクが責任を持って守るからね。戦場で会おう」
「はい、後ほど」

 アレクサンドは私達に、口づけを投げて去っていった。気持ち悪い……。姉さんがあの軟派男を懐柔するのも時間の問題だろう。

 一方、フドウ兄さんは力強く拳を握り、隊の士気を上げていた。

「よし、オレ達の仕事は最前線で敵さんの出鼻をくじく事だ! 暴れてやろう! オレ達は強い! メイファ、お前の隊は予定通り後方支援だ。オレ等が強すぎて出番は無いかもしれんが、やばいときは助けてくれ!」
「分かったよ」

 龍族と仙族の先鋒隊は、決戦の地へと向かった。

 
 ◆◆◆

 
 戦場に到着した先鋒隊。
 早速、フドウ兄さんとアレクサンドが顔を突き合わせている。

「おう、アレクサ殿。オレ達が先に行こうか?」
「アレクサンドだと何度言えば分かる。ボクはメイリンを守らねばならない。キミらの出番はないよ」
「そうか、まだ魔王は来ていないようだ。この際二隊で攻めて、一気に敵さんの数を減らしてやらないか? 敵さんはオレ等が来ているのを知らんのだ」
「要らんと言っている」

 アレクサンドが不機嫌そうに顔を逸らした、その時。

「アレク様、私も兄の案に賛成です」

 姉さんが口を挟むと、アレクサンドの表情が一変した。

「む? メイリンがそういうのなら共闘もやむなしだな。足を引っ張るなよ、お兄さん」
「誰がお兄さんだ。じゃ、二隊で蹴散らすか!」

 アレクサンド、ちょろいな……。

 広大な平地の向こうに、魔族が赤い塊となって布陣しているのが見える。

「よっしゃ! 先手必勝! 行くぞお前らぁ!」
『ウォォ――ッ!!』

 龍族、仙族の二隊が鬨の声を上げ、一気に駆け出した。大地が揺れる。
 先陣を切ったアレクサンドは、予想以上に強かった。

「さて、ボクの力を見せてやるかな」

 浮遊術で空高く舞い上がった彼は、大袈裟に両手を広げた。その瞳には、もはや遊びの色はない。

『仙術 恒星爆発スターバースト

 彼の頭上に生まれた太陽のような光の塊が、魔族の陣営に叩きつけられる。轟音と閃光が平原を覆い、魔族の陣形に巨大なクレーターを穿った。

「おいおい、アレクサ殿すげぇな!」
「フッ、分かれば良い」
「オレ等も続けぇー!」

『火遁 火炎龍!』

 フドウ兄さんの号令一下、龍族の隊から無数の炎の龍が放たれる。赤黒い龍たちが生きているかのようにうねり、魔族の隊列を焼き尽くしていく。

「ほぅ、キミもなかなかやるな」

 何だかんだで、この二人の相性はいいのかもしれない。
 二隊の同時先制攻撃は、絶大な成果を上げた。しかし、魔族も強い。個々の能力が高く、すぐに陣形を立て直し、強力な魔法の雨を降らせてきた。

「敵さんもやるぞ! 盾役はしっかり守れよー! 皆で一気に風遁で切り刻んでやろう!」

『風遁 多段鎌鼬ただんかまいたち!』

 鎌鼬の一斉攻撃。無数の風の刃が魔族の前衛を切り裂き、断末魔の叫びが木霊した。
 その時だった。

「ん? 何だ……? まてまて、こりゃだめだ……皆! 引けェー!!!!」

 フドウ兄さんの焦りに満ちた怒号が、戦場に響き渡った。
 仙龍二隊が反射的に後退した、その直後。先程まで我々がいた場所を、山を一つ消し飛ばすほどの途轍もない規模の風魔法が通過し、大地を抉り取った。

「おいおい、何だ今の魔法は……」
「キミが引けと言わなかったらヤバかったな……」

 フドウ兄さんの龍眼が、その魔法を事前に捉えていたのだ。
 抉られた大地の向こう、土煙の中から、一人の男がゆっくりと姿を現した。

「おいおい、何で龍族が居るんだ? クリカラの野郎、仙族にくだったのか?」

 魔族特有の、燃えるような鮮やかな赤髪。口元からのぞく鋭い犬歯。
 魔王『アスタロス・シルヴァニア』。
 その男が放つ威圧感は、鬼王イバラキとは比べ物にならない、底なしの絶望そのものだった。
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