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第二章 リーベン島編
三人の英雄 7
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「こんなに早く来るとは思わなかったが、まだ体力が有り余ってるから好都合だな!」
フドウ兄さんの声には、強敵を前にした悦びすら感じられた。だが、隣に立つリンドウ兄さんの表情は硬い。
「兄さん、これ、援軍呼んだほうがいいっしょ……」
先程の魔法の威力を見れば、無理もない。
「ですね。アレク様、私達が魔王を抑えます。援軍を要求し、魔族軍と魔王を分断してください」
姉さんは冷静沈着に、しかし有無を言わせぬ強い口調でアレクサンドに命じた。
「分かったよ、メイリン。気をつけるんだよ」
意外にも、アレクサンドは素直に頷き、すぐに伝令を走らせた。
「あいつ、メイリンの言うことは素直に聞くんだな……」
「おい、メイファ! 後方支援頼んだぞ!」
「分かった。危ないと思ったら直ぐに突っ込むよ」
「なるべく我慢だ。お前らの隊は龍族の生命線だ、戦況を俯瞰で見て指示を出せ」
「分かったよ」
腕を組み、一連のやり取りを眺めていた魔王が、静かに口を開いた。
「おい、龍族共よ。相談は終わったか?」
「えらく余裕なんだな、魔王殿」
「その黒い髪を久々に見るのでな。懐かしく思っていただけだ」
「そうか、ではご覚悟を。三対一でも卑怯だと思わないでくれよ、あんたの力を認めての事だ」
「あぁ、構わん。ワシは一人がいい。周りを巻き込まずに戦闘が出来る」
魔王アスタロスは、不敵に笑う。その赤髪が、まるで地獄の業火のように揺らめいていた。
やがて援軍が到着し、戦場の各所で再び激しい戦闘が始まった。その喧騒の中、一際大きな気配が前線に現れた。
「久しいな、アスタロス」
仙王だ。
まさか、王自らが前線に来るとは……。
「ほぉ、臆病者のラファエロじゃないか。貴様が前線に出てくるとはな」
「お前の相手は龍族がしてくれる。安心してお前の部下共をなぎ倒せると思ってな」
「ふん、好きにしろ。こいつらの後でぶっ殺してやる」
空気が張り詰める。世界の運命を決める戦いが、今、始まろうとしていた。
「リンドウ! メイリン! 行くぞォ!」
「よっしゃ、兄さんなら勝てるっしょ。守りは任せろ」
「治療は任せてください。脚が飛んでもくっつけてあげる」
「兄さんを魔王の相手に専念させろ! 周りの奴らを近づけるな!」
私は後方から、部隊に指示を飛ばす。私の隊は、魔族の増援を食い止め、兄たちを魔王との戦いに集中させるのが役目だ。
「デケェの来るぞ。守護術だ」
「「了解」」
『守護術 堅牢・陣』
『治療術 継続再生』
リンドウ兄さんの守護術が三人を包み、姉さんが全員に継続治療術をかける。その直後、魔王が動いた。
『火魔法 煉獄』
天が裂け、灼熱の火炎が豪雨となって降り注ぐ。大地が蒸発し、空気が灼ける。
リンドウ兄さんが張ったはずの堅牢な守護術は、その熱量に耐えられず一瞬で蒸発し、消失した。
「とんでもねぇ魔法だな……来ると分かってても防げねぇ……」
リンドウ兄さんの顔が苦痛に歪む。
だが、炎の奔流の中から、一つの影が飛び出した。
「大丈夫だ、死んでねぇ」
フドウ兄さんだ。全身の革鎧は焼け焦げ、皮膚は爛れていたが、その瞳の光は少しも衰えていない。
『治療術 再生』
「治せばいいでしょう」
姉さんの冷静な声と共に、三人の傷がみるみるうちに塞がっていく。
「あぁ、そうだな」
『剣技 鏖』
フドウ兄さんの刀から、空間そのものを切り裂くような無数の斬撃が放たれる。目にも止まらぬ速さで魔王に殺到するが、魔王は黒い魔力の障壁でそれを防ぐ。いや、その障壁を最後の一撃が突破し、魔王を斬りつけた。
魔王が顔を歪める。
「お前……強いな……」
「特異な能力があるんでね……当然言わねぇがな」
初めて、魔王の顔に焦りの色が浮かんだ。
「魔族軍! こっちに増援よこせーっ!」
「させん!」
私の出番だ。後方支援隊の遁術が一斉に火を噴き、魔王の元へ向かおうとする増援部隊の足を完璧に食い止める。
「良し、メイファ達が止めてくれる。リンドウ、個別で堅牢くれ。メイリンは継続再生かけ直しだ」
「「了解」」
「……来るぞ、三人で水遁だ」
『火魔法 火焔流』
魔王が再び巨大な炎の奔流を放つ。
『水遁 大津波』
兄さん達と姉さんの水遁が炎を飲み込み、凄まじい水蒸気が戦場を純白の霧で包んだ。
視界が奪われた、その一瞬。
『剣技 霧時雨』
フドウ兄さんは地を蹴った。彼には、霧の向こうに立つ魔王の位置が、手に取るように分かっている。
「グフッ……」
霧の中から、魔王の苦悶の声が聞こえた。
フドウ兄さんの刃は、魔力の障壁の僅かな歪みを正確に貫き、その身を深く傷つけていた。
「あっちじゃ仙王殿とその孫が大暴れだ。増援も来ねぇ。あんたは部下を何だと思ってんだ。自分の力を過信しすぎたな、オレは強いよ。終わりだ、魔王殿」
フドウ兄さんは、なぜか刀をすっと鞘に収めた。だが、その瞳は冷酷な狩人の光を宿している。
「おい貴様、この魔王に対して情けか……? ふざけるなよ」
「馬鹿なこと言っちゃいけねぇ。終わりだって言ったろ」
兄さんは刀を収めたまま深く腰を落とし、居合の構えをとった。
『居合術 閃光』
一瞬の白光。
世界から音が消え、時間が引き伸ばされたかのような錯覚の中、閃光が魔王の胴を駆け抜けた。
遅れて、魔王の身体が上下に分かたれる。
「クソぉおー! 貴様らも道連れだァ!」
「――なんだ!? これは……リンドウ! メイファ! 皆を守れェー!」
フドウ兄さんの絶叫が響く。魔王は最期の力を振り絞り、その身を贄とした禁呪を発動させた。
『禁呪 冥府神召喚!』
―――――――――
――――――
―――
―
何が起きた……?
世界が闇に飲まれた。途轍もない爆発音と衝撃が、全てを飲み込んでいく。
やがて闇が晴れ、視界が開ける。
戦いは、終わっていた。辺りは静まり返っている。
魔王の姿は、跡形も無い。
そして……魔王がいた場所に、兄と姉が、まるで巨大な盾となって仲間たちを守るように、立ったまま息絶えていた。
「兄さん! 姉さん!」
駆け寄っても、もう遅かった。治療術の光は、彼らの身体に届くことはなかった。
三人は、その命と引き換えに、皆を守り、そして魔王を葬ったのだ。
悲しみに溺れている暇はない。事実を伝え、味方の士気を上げなければ。
「龍族が……魔王アスタロスを討ち取ったぞー!!」
私は、喉が張り裂けんばかりに叫んだ。
その後、総大将を失った魔族は総崩れとなった。
この戦は、仙龍連合軍の大勝に終わった。あまりにも、大きな犠牲と共に。
フドウ兄さんの声には、強敵を前にした悦びすら感じられた。だが、隣に立つリンドウ兄さんの表情は硬い。
「兄さん、これ、援軍呼んだほうがいいっしょ……」
先程の魔法の威力を見れば、無理もない。
「ですね。アレク様、私達が魔王を抑えます。援軍を要求し、魔族軍と魔王を分断してください」
姉さんは冷静沈着に、しかし有無を言わせぬ強い口調でアレクサンドに命じた。
「分かったよ、メイリン。気をつけるんだよ」
意外にも、アレクサンドは素直に頷き、すぐに伝令を走らせた。
「あいつ、メイリンの言うことは素直に聞くんだな……」
「おい、メイファ! 後方支援頼んだぞ!」
「分かった。危ないと思ったら直ぐに突っ込むよ」
「なるべく我慢だ。お前らの隊は龍族の生命線だ、戦況を俯瞰で見て指示を出せ」
「分かったよ」
腕を組み、一連のやり取りを眺めていた魔王が、静かに口を開いた。
「おい、龍族共よ。相談は終わったか?」
「えらく余裕なんだな、魔王殿」
「その黒い髪を久々に見るのでな。懐かしく思っていただけだ」
「そうか、ではご覚悟を。三対一でも卑怯だと思わないでくれよ、あんたの力を認めての事だ」
「あぁ、構わん。ワシは一人がいい。周りを巻き込まずに戦闘が出来る」
魔王アスタロスは、不敵に笑う。その赤髪が、まるで地獄の業火のように揺らめいていた。
やがて援軍が到着し、戦場の各所で再び激しい戦闘が始まった。その喧騒の中、一際大きな気配が前線に現れた。
「久しいな、アスタロス」
仙王だ。
まさか、王自らが前線に来るとは……。
「ほぉ、臆病者のラファエロじゃないか。貴様が前線に出てくるとはな」
「お前の相手は龍族がしてくれる。安心してお前の部下共をなぎ倒せると思ってな」
「ふん、好きにしろ。こいつらの後でぶっ殺してやる」
空気が張り詰める。世界の運命を決める戦いが、今、始まろうとしていた。
「リンドウ! メイリン! 行くぞォ!」
「よっしゃ、兄さんなら勝てるっしょ。守りは任せろ」
「治療は任せてください。脚が飛んでもくっつけてあげる」
「兄さんを魔王の相手に専念させろ! 周りの奴らを近づけるな!」
私は後方から、部隊に指示を飛ばす。私の隊は、魔族の増援を食い止め、兄たちを魔王との戦いに集中させるのが役目だ。
「デケェの来るぞ。守護術だ」
「「了解」」
『守護術 堅牢・陣』
『治療術 継続再生』
リンドウ兄さんの守護術が三人を包み、姉さんが全員に継続治療術をかける。その直後、魔王が動いた。
『火魔法 煉獄』
天が裂け、灼熱の火炎が豪雨となって降り注ぐ。大地が蒸発し、空気が灼ける。
リンドウ兄さんが張ったはずの堅牢な守護術は、その熱量に耐えられず一瞬で蒸発し、消失した。
「とんでもねぇ魔法だな……来ると分かってても防げねぇ……」
リンドウ兄さんの顔が苦痛に歪む。
だが、炎の奔流の中から、一つの影が飛び出した。
「大丈夫だ、死んでねぇ」
フドウ兄さんだ。全身の革鎧は焼け焦げ、皮膚は爛れていたが、その瞳の光は少しも衰えていない。
『治療術 再生』
「治せばいいでしょう」
姉さんの冷静な声と共に、三人の傷がみるみるうちに塞がっていく。
「あぁ、そうだな」
『剣技 鏖』
フドウ兄さんの刀から、空間そのものを切り裂くような無数の斬撃が放たれる。目にも止まらぬ速さで魔王に殺到するが、魔王は黒い魔力の障壁でそれを防ぐ。いや、その障壁を最後の一撃が突破し、魔王を斬りつけた。
魔王が顔を歪める。
「お前……強いな……」
「特異な能力があるんでね……当然言わねぇがな」
初めて、魔王の顔に焦りの色が浮かんだ。
「魔族軍! こっちに増援よこせーっ!」
「させん!」
私の出番だ。後方支援隊の遁術が一斉に火を噴き、魔王の元へ向かおうとする増援部隊の足を完璧に食い止める。
「良し、メイファ達が止めてくれる。リンドウ、個別で堅牢くれ。メイリンは継続再生かけ直しだ」
「「了解」」
「……来るぞ、三人で水遁だ」
『火魔法 火焔流』
魔王が再び巨大な炎の奔流を放つ。
『水遁 大津波』
兄さん達と姉さんの水遁が炎を飲み込み、凄まじい水蒸気が戦場を純白の霧で包んだ。
視界が奪われた、その一瞬。
『剣技 霧時雨』
フドウ兄さんは地を蹴った。彼には、霧の向こうに立つ魔王の位置が、手に取るように分かっている。
「グフッ……」
霧の中から、魔王の苦悶の声が聞こえた。
フドウ兄さんの刃は、魔力の障壁の僅かな歪みを正確に貫き、その身を深く傷つけていた。
「あっちじゃ仙王殿とその孫が大暴れだ。増援も来ねぇ。あんたは部下を何だと思ってんだ。自分の力を過信しすぎたな、オレは強いよ。終わりだ、魔王殿」
フドウ兄さんは、なぜか刀をすっと鞘に収めた。だが、その瞳は冷酷な狩人の光を宿している。
「おい貴様、この魔王に対して情けか……? ふざけるなよ」
「馬鹿なこと言っちゃいけねぇ。終わりだって言ったろ」
兄さんは刀を収めたまま深く腰を落とし、居合の構えをとった。
『居合術 閃光』
一瞬の白光。
世界から音が消え、時間が引き伸ばされたかのような錯覚の中、閃光が魔王の胴を駆け抜けた。
遅れて、魔王の身体が上下に分かたれる。
「クソぉおー! 貴様らも道連れだァ!」
「――なんだ!? これは……リンドウ! メイファ! 皆を守れェー!」
フドウ兄さんの絶叫が響く。魔王は最期の力を振り絞り、その身を贄とした禁呪を発動させた。
『禁呪 冥府神召喚!』
―――――――――
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―――
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世界が闇に飲まれた。途轍もない爆発音と衝撃が、全てを飲み込んでいく。
やがて闇が晴れ、視界が開ける。
戦いは、終わっていた。辺りは静まり返っている。
魔王の姿は、跡形も無い。
そして……魔王がいた場所に、兄と姉が、まるで巨大な盾となって仲間たちを守るように、立ったまま息絶えていた。
「兄さん! 姉さん!」
駆け寄っても、もう遅かった。治療術の光は、彼らの身体に届くことはなかった。
三人は、その命と引き換えに、皆を守り、そして魔王を葬ったのだ。
悲しみに溺れている暇はない。事実を伝え、味方の士気を上げなければ。
「龍族が……魔王アスタロスを討ち取ったぞー!!」
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