- Mix blood -

久悟

文字の大きさ
45 / 260
第二章 リーベン島編

三人の英雄 7

しおりを挟む
「こんなに早く来るとは思わなかったが、まだ体力が有り余ってるから好都合だな!」

 フドウ兄さんの声には、強敵を前にした悦びすら感じられた。だが、隣に立つリンドウ兄さんの表情は硬い。

「兄さん、これ、援軍呼んだほうがいいっしょ……」

 先程の魔法の威力を見れば、無理もない。

「ですね。アレク様、私達が魔王を抑えます。援軍を要求し、魔族軍と魔王を分断してください」

 姉さんは冷静沈着に、しかし有無を言わせぬ強い口調でアレクサンドに命じた。

「分かったよ、メイリン。気をつけるんだよ」

 意外にも、アレクサンドは素直に頷き、すぐに伝令を走らせた。

「あいつ、メイリンの言うことは素直に聞くんだな……」
「おい、メイファ! 後方支援頼んだぞ!」
「分かった。危ないと思ったら直ぐに突っ込むよ」
「なるべく我慢だ。お前らの隊は龍族の生命線だ、戦況を俯瞰で見て指示を出せ」
「分かったよ」

 腕を組み、一連のやり取りを眺めていた魔王が、静かに口を開いた。

「おい、龍族共よ。相談は終わったか?」
「えらく余裕なんだな、魔王殿」
「その黒い髪を久々に見るのでな。懐かしく思っていただけだ」
「そうか、ではご覚悟を。三対一でも卑怯だと思わないでくれよ、あんたの力を認めての事だ」
「あぁ、構わん。ワシは一人がいい。周りを巻き込まずに戦闘が出来る」

 魔王アスタロスは、不敵に笑う。その赤髪が、まるで地獄の業火のように揺らめいていた。
 やがて援軍が到着し、戦場の各所で再び激しい戦闘が始まった。その喧騒の中、一際大きな気配が前線に現れた。

「久しいな、アスタロス」

 仙王だ。
 まさか、王自らが前線に来るとは……。

「ほぉ、臆病者のラファエロじゃないか。貴様が前線に出てくるとはな」
「お前の相手は龍族がしてくれる。安心してお前の部下共をなぎ倒せると思ってな」
「ふん、好きにしろ。こいつらの後でぶっ殺してやる」

 空気が張り詰める。世界の運命を決める戦いが、今、始まろうとしていた。

「リンドウ! メイリン! 行くぞォ!」
「よっしゃ、兄さんなら勝てるっしょ。守りは任せろ」
「治療は任せてください。脚が飛んでもくっつけてあげる」
「兄さんを魔王の相手に専念させろ! 周りの奴らを近づけるな!」

 私は後方から、部隊に指示を飛ばす。私の隊は、魔族の増援を食い止め、兄たちを魔王との戦いに集中させるのが役目だ。

「デケェの来るぞ。守護術だ」
「「了解」」
 
『守護術 堅牢・陣』
『治療術 継続再生』

 リンドウ兄さんの守護術が三人を包み、姉さんが全員に継続治療術をかける。その直後、魔王が動いた。

『火魔法 煉獄パーガトリー

 天が裂け、灼熱の火炎が豪雨となって降り注ぐ。大地が蒸発し、空気が灼ける。
 リンドウ兄さんが張ったはずの堅牢な守護術は、その熱量に耐えられず一瞬で蒸発し、消失した。

「とんでもねぇ魔法だな……来ると分かってても防げねぇ……」

 リンドウ兄さんの顔が苦痛に歪む。
 だが、炎の奔流の中から、一つの影が飛び出した。

「大丈夫だ、死んでねぇ」

 フドウ兄さんだ。全身の革鎧は焼け焦げ、皮膚は爛れていたが、その瞳の光は少しも衰えていない。

『治療術 再生』

「治せばいいでしょう」

 姉さんの冷静な声と共に、三人の傷がみるみるうちに塞がっていく。

「あぁ、そうだな」 

『剣技 みなごろし

 フドウ兄さんの刀から、空間そのものを切り裂くような無数の斬撃が放たれる。目にも止まらぬ速さで魔王に殺到するが、魔王は黒い魔力の障壁でそれを防ぐ。いや、その障壁を最後の一撃が突破し、魔王を斬りつけた。
 魔王が顔を歪める。

「お前……強いな……」
「特異な能力があるんでね……当然言わねぇがな」

 初めて、魔王の顔に焦りの色が浮かんだ。

「魔族軍! こっちに増援よこせーっ!」
「させん!」

 私の出番だ。後方支援隊の遁術が一斉に火を噴き、魔王の元へ向かおうとする増援部隊の足を完璧に食い止める。

「良し、メイファ達が止めてくれる。リンドウ、個別で堅牢くれ。メイリンは継続再生かけ直しだ」
「「了解」」
 
「……来るぞ、三人で水遁だ」

『火魔法 火焔流プレゲトーン

 魔王が再び巨大な炎の奔流を放つ。

『水遁 大津波』

 兄さん達と姉さんの水遁が炎を飲み込み、凄まじい水蒸気が戦場を純白の霧で包んだ。
 視界が奪われた、その一瞬。

『剣技 霧時雨きりしぐれ
 
 フドウ兄さんは地を蹴った。彼には、霧の向こうに立つ魔王の位置が、手に取るように分かっている。

「グフッ……」

 霧の中から、魔王の苦悶の声が聞こえた。
 フドウ兄さんの刃は、魔力の障壁の僅かな歪みを正確に貫き、その身を深く傷つけていた。

「あっちじゃ仙王殿とその孫が大暴れだ。増援も来ねぇ。あんたは部下を何だと思ってんだ。自分の力を過信しすぎたな、オレは強いよ。終わりだ、魔王殿」

 フドウ兄さんは、なぜか刀をすっと鞘に収めた。だが、その瞳は冷酷な狩人の光を宿している。

「おい貴様、この魔王に対して情けか……? ふざけるなよ」
「馬鹿なこと言っちゃいけねぇ。終わりだって言ったろ」

 兄さんは刀を収めたまま深く腰を落とし、居合の構えをとった。

『居合術 閃光せんこう

 一瞬の白光。
 世界から音が消え、時間が引き伸ばされたかのような錯覚の中、閃光が魔王の胴を駆け抜けた。
 遅れて、魔王の身体が上下に分かたれる。

「クソぉおー! 貴様らも道連れだァ!」
「――なんだ!? これは……リンドウ! メイファ! 皆を守れェー!」

 フドウ兄さんの絶叫が響く。魔王は最期の力を振り絞り、その身を贄とした禁呪を発動させた。

『禁呪 冥府神召喚サモンハーデス!』

 ―――――――――
 ――――――
 ―――
 ―

 何が起きた……?
 世界が闇に飲まれた。途轍もない爆発音と衝撃が、全てを飲み込んでいく。

 やがて闇が晴れ、視界が開ける。
 戦いは、終わっていた。辺りは静まり返っている。
 魔王の姿は、跡形も無い。
 そして……魔王がいた場所に、兄と姉が、まるで巨大な盾となって仲間たちを守るように、立ったまま息絶えていた。

「兄さん! 姉さん!」

 駆け寄っても、もう遅かった。治療術の光は、彼らの身体に届くことはなかった。
 三人は、その命と引き換えに、皆を守り、そして魔王を葬ったのだ。
 悲しみに溺れている暇はない。事実を伝え、味方の士気を上げなければ。

「龍族が……魔王アスタロスを討ち取ったぞー!!」

 私は、喉が張り裂けんばかりに叫んだ。

 その後、総大将を失った魔族は総崩れとなった。
 この戦は、仙龍連合軍の大勝に終わった。あまりにも、大きな犠牲と共に。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

処理中です...