- Mix blood -

久悟

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第二章 リーベン島編

Sランク超えの魔物

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「これが、この世界と三人の英雄の話だ」

 メイファさんの話が終わり、オレは自分が拳を固く握りしめていたことに気が付いた。じっとりと汗が滲んだ手のひらを開く。多くの犠牲の上に、この里の平和があるんだ。

「アレクサンドは、クズ野郎の上に変な奴なんだね……」

 エミリーが呆れたように肩をすくめた。その言葉に、メイファさんは遠い目をする。

「まぁ、そうだな……ただ、強かった。今はもっと強いんだろうな。私とほぼ年齢は変わらん」

 一時の静寂。
 沈黙を破ったのはトーマスだった。

「里長の奥様は?」
「リンファはここに移住して百年後くらいかの、病気で亡くなった。メイリンと同じ病気だった。妻も間違いなくこの里の功労者だ」
「そうでしたか……その病気は今は?」
「今はもう治療法を確立できた。姉さんの残した記録と、母さんの協力でな。母さんを救えなかったのが唯一の心残りだ……私より下の子は母親が違うんだ」
「なるほど……」

 トーマスは静かに頷いた。多くの命の上で、この里の皆は生きている。医術も同じだ。多くの症例が、今の治療法を支えている。ずしりとした重みが胸にのしかかった。

「……で、何の話だったかの?」

 里長が話題を戻そうと、茶を啜る。

「ミモロ山の魔物の話でしたね」
「あぁ、そうであった。北のミモロ山を越えるとミワ湖という湖がある。そこには鶏と龍を合わせたような魔物がおる。仙族は『コカトリス』だろうと言うておったが」
「この島には色々な生き物を合わせたような魔物が多いですよね……」
「確かに、ぬえ牛鬼ぎゅうきもそうであるな……ミワ湖の魔物は特に被害が無い故に放っておったが、行くなら止めはせぬ。が、強いぞあれは。毒を持つゆえ気をつけろ」

 間違いなくSランクは超えているだろう。毒は厄介だけど、エミリーは解毒の術も習得している。オレは仲間たちの顔を見回した。

「みんな、どうする?」
「行こうよ! 毒は私に任せてくれたらいいしさ!」

 エミリーは瞳をギラリと輝かせ、好戦的に笑った。その笑顔は、どんな魔物よりも恐ろしいかもしれない。

「うん、自分の力を試したい。行こうよ」

 トーマスも静かに闘志を瞳に宿している。オレも同じ気持ちだ。もっと強くなりたい。三人の視線が交差し、無言のまま頷き合った。

「里長、行ってきます!」
「うむ、斬ってこい」
「体皮が使えるか分からねぇが、持って帰って来い。俺が見てやる」

 ヤンさんの言葉に、オレは力強く頷いた。

「はい!」

 
 ◇◇◇

 
 昼食を済ませ、しばし休憩を取った後、オレたちは修練場から北へと向かった。錬気による高速移動で、山々はあっという間に眼下を流れていく。冷えきった身体を温めるにはちょうどいい距離だ。
 木々を縫うように続く緩やかな山道を進むと、ヘビやトカゲの魔物が多く姿を現した。中でも、大木のように巨大な大蛇が鎌首をもたげ、オレたちの前に立ちはだかった。

「動きが結構速いな」
「ま、速くても燃やしてしまえば一緒だよ!」

 エミリーが叫ぶと同時に、両手を突き出した。

『火遁 紅蓮ぐれん!』

 彼女の両手から、まるで花が咲き乱れるように無数の炎が放たれ、大蛇に襲いかかる。逃げ場を失った巨体は為す術もなく、業火に包まれて一瞬で炭と化した。
 しかし……。

「オマエには学習能力がねーのか!!」

 オレは思わず叫んだ。エミリーの炎が周囲の木々に燃え移り、山火事を起こしかけている。

『水遁 大津波!』

 オレとトーマスは即座に、水の壁を呼び出して消火にあたる。水蒸気がもうもうと立ち込めた。

「ごめんなさい……」

 エミリーがしょんぼりと俯く。

「風遁で刻もうね……」

 その後も、現れる大蛇や大蜥蜴を遁術や剣術で斬り伏せて進む。練気術がなければ、この硬い皮を斬ることすらできなかっただろう。
 そして、オレの目にはやっぱり、斬るべき弱点が視える。これが能力だと言われなければ、一生気付かなかったかもしれない。
 魔石や魔晶石を回収しながら進み、硬そうな体皮も全てエミリーの空間魔法に収納していく。

 やがて山を越えると、眼下に静かな湖が広がっていた。あれがミワ湖だろう。

「ニワトリさん、いないね」

 エミリーが湖畔をキョロキョロと見渡す。

「とりあえず湖を一周してみるか」

 湖の外周をぐるりと歩き始めた、その時だった。目の前の空間に、陽炎のようなモヤが見えた。そして、鼻腔をくすぐる甘く痺れるような匂い……。

「おい! 息を止めろ!」

 叫ぶと同時に、手先にピリッとした痺れが走る。これは神経毒だ。オレたちは即座にその場から飛び退き、息を整えた。

『治療術 解毒げどく!』

 エミリーの治療術で、身体に広がりかけた痺れがすっと引いていく。

「毒霧の類だね、気付かずに歩いてたらヤバかったかもね……」
「二人にはモヤのようなもの見えたか?」
「いや、見えなかったけど?」

 エミリーが首を振る。

「じゃあ、龍眼は毒霧なんかも可視化されるみたいだ」

 オレは驚きと共に、この力の確信を深めた。

「ほほー! 良い能力だねぇ!」
「こういう事もあるんだな。常に観察しとかないと。……とりあえず、近くにいるな」

 オレは眼に意識を集中させ、辺りを見渡す。
 姿は見えない。けど、気配は感じる。あそこだ。

「あの岩裏の茂みに居るな」

 オレは春雪しゅんせつを抜き放ち、茂みに向けて鋭い剣風を放った。

「コォーッ!!」

 甲高い鳴き声と共に、岩陰から巨大な影が飛び出してきた。ドラゴンの強靭な胴体と翼に、ニワトリの頭と脚。異形の姿だが、奇妙な迫力があった。

「毒が厄介だな。毒牙や毒爪とかだと思ったけど、毒霧を吐くとはな……」
「遠距離攻撃で様子見よっか」
「じゃあ、僕も攻撃に回るかな」

 オレたちは三方に散開し、同時に斬撃を放つ。
 トーマスの斬撃を軽々と避けたコカトリスに対し、オレとエミリーの斬撃が左右から襲いかかった。しかし、コカトリスは翼を巧みに使い、空中で身を翻してそれすらも躱す。

「速いな。空中で方向転換するぞ」
「よし、風遁の一斉射撃だ」

『風遁 多段鎌鼬!!!』

 オレたちの手から放たれた無数の風の刃が、一頭の魔物に殺到する。が、コカトリスはまるで未来が見えているかのように、その全てを紙一重で見切り、空を舞っていた。

「おいおい、一個も当たらないとはな……」
「だね、素早さはニワトリさんだ」
「三方向から火遁で行こうか、上に逃げたら同時に風遁だ」
「そうしよう」

 オレたちは再びコカトリスを包囲するように位置を取る。

「行くぞー!」

『火遁 業火殺ごうかさつ!』

 三人の渾身の火遁が合わさり、凄まじい火炎の渦となってコカトリスに襲いかかる。辺りの空気が灼け、湖の水面が蒸発するほどの熱量だ。
 炎が晴れた時、そこにはもう奴の姿はなかった。

「上だ!」

 シナリオ通りだ。見上げると、巨大なドラゴンの翼を広げ、コカトリスが悠々と滞空していた。

『風遁 嵐塵!!!』

 けど、やっぱり速い。嵐のような風の刃も、全て空を切った。
 オレたちの間に、一瞬の沈黙が走る。

「毒霧浴びる覚悟で、斬りに行くしかないかもね」
「だね、解毒はまかせてよ」
「よし、トーマスは盾を頼む! オレは弱点を観察する。なるべく息は止めよう」
「分かった」

「エミリーはヤツの横から、剣風や遁術仕掛けてくれ!」
「はいよっ!」

 エミリーの放つ風遁がコカトリスの側面を薙ぎ、奴の注意を引いた。その隙にオレは龍眼を凝らす。視るまでもなく、弱点はニワトリの部分だ。けど、速すぎる。

「よし、一気に距離を詰めて斬る!」

 オレがそう決意し、地を蹴ろうとした、その時。背筋が凍るような悪寒が走った。

『トーマス!! 皆に守護術を!!』

 オレは反射的に叫んでいた。龍眼が、見えないはずの「次」を捉えた。

『守護術 堅牢・陣!』
『コケェーッッ!!』

 トーマスが守護術を張った瞬間、コカトリスは翼を激しく羽ばたかせ、轟音と共に嵐の様な風魔法を放ってきた。
 降り注ぐ無数の風刃が、トーマスの守護術の障壁に激突し、バチバチと激しい火花を散らす。障壁に亀裂が走るが、なんとか持ちこたえた。守り切れなかった風刃で傷を負ったけど、致命傷はない。

「皆、大丈夫か!?」
「何かが視えたね? 良かった、ユーゴのお陰で間に合ったよ」
「怪我は治せばいい!」

 エミリーが即座に、オレたちの傷に淡い光を宿した治療術を施す。
 好機と見たか、コカトリスは地上に舞い降りてきた。

「よし、トーマス、オレに個別で守護術頼む」
「了解」

「コケェーッ!!」

 コカトリスが再び風魔法を放つが、今度はオレ個人に張られた守護術がそれを完全に防いだ。好機!

『土遁 影縛り!』

 エミリーが地面に手を突く! すると、コカトリスの足元の地面が粘土のように変化し、その脚をズブリと絡め取った。

「エミリー! ナイス!」

 一瞬の拘束、それで十分だ!

『剣技 雷鳴斬らいめいぎり』

 オレは春雪にありったけの練気を注ぎ込む。刀身が雷を纏ったように青白く輝き、バチバチと音を立てた。錬気の高速移動で一気に距離を詰め、もがくコカトリスの首筋、龍鱗の隙間に向かって、渾身の力を込めて振り抜いた。

 ザシュッ、という生々しい音と共に、ニワトリの首が宙を舞う。そして、ドラゴンの胴体が地響きを立てて倒れ込んだ。

「ふぅ、何とか勝った……ちょっと龍眼が進化した感じがあるな。けど、こんなに傷だらけになってたら先が思いやられるな……」
「怪我したら治せばいいよ。腕が飛んでもくっつけられる様になるからさ!」

 エミリーは頼もしく笑う。

「腕が飛ぶとしたら僕だろうね。よろしく頼むよ」

 エミリーに解毒と治療を頼み、オレたちはコカトリスの体皮や爪などを手際よく剥いでいく。火遁で亡骸を火葬すると、跡には小さめの魔晶石が三つ、淡い光を放って転がっていた。今つけているものよりも、見るからに上質だ。

「三つ出たー!」
「これは綺麗だ。ナグモ山の魔物とはランクが違う証拠だね」
「オレ等もう文句なしのSランクだな! よし、帰ろうか!」

 強敵との死闘を乗り越え、オレたちは確かに強くなっている。その実感が、心地よい疲労と共に身体を満たしていた。
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