- Mix blood -

久悟

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第二章 リーベン島編

弟子に託す 3

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 陽が遮られた灰色の冬空の下、木枯らしが俺たちの頬を撫でて通り過ぎる。
 露出した顔や手は冷たいけど、ミオンさんから貰った服は驚くほど暖かかった。シルクシャツの上に、ゴルドホークから着てきたジャケットを一枚羽織るだけで十分だ。

 久々の休み。オレたちは二人の師匠の所へ遊びに行った帰りだった。

「この際、里長の屋敷へ遊びに行くか?」
「始祖四王の家に遊びに行くって、普通に考えて凄いことだよね……」
「行ってみたいな!」

 エミリーが無邪気に声を上げる。

「普段、里長は何してるんだろうな……そう言えば見たことないな」

 里の中心にある屋敷の門前に立つ。門番の兵士がオレの顔を見て、軽く手を振った。

「こんにちは。里長はおられますか?」
「おかえりユーゴ。後ろの二人は話に聞く連れだな? 里長は執務室におられるはずだが?」
「執務室ですか。ありがとうございます」

 トーマスとエミリーも、もうこの里の一員として認識されているらしい。咎められることなく、オレたちは門をくぐった。
 玄関で履物を脱ぎ、磨き上げられた板敷の廊下を進む。目的の執務室の前で、豪華な装飾が施された襖を軽くノックした。

「入れ」
「失礼します」
「珍しいな、三人で何事だ?」
「いや、ヤンさんの所で防具を受け取って、メイファさんの診療所に行ったんです。この際、三人の師匠の職場に行ってみようと……お邪魔でしたか?」
「いや、そうでもないが。儂の仕事などあの二人から見ればたかが知れておる」
「お邪魔では無ければ見学させてもらおうかなと……」
「左様か。おい! 茶を四つ淹れてくれ!」
「いやいや! オレが淹れてきますよ!」

 この半年でお茶を淹れるのも手慣れたものだ。オレが淹れた茶を皆で啜りながら、里長の仕事の話を聞く。里の民の声を吸い上げ、施設や法の整備をするのが主な仕事らしい。

「しかし、お主らがコカトリスとやらまで狩って来るとはの。今日受け取ったのはその革の防具なのであろう?」
「はい、ヤンさんもなかなか良い素材だと言ってました。魔晶石も篭手に装備して貰いましたし」
「お主らはそれに相応しい戦士になったからの。相応の装備が必要であろう」

 そう言って、里長はすっと立ち上がった。

「ユーゴ、お主に渡そうと思うておったものがある」

 渡したいもの? 何だろうか。

「リンドウの件で、ヤンガスが言うたことを覚えておるか?」
「刀の件ですか?」
「左様。リンドウが生涯で打った特級品は七振だ。儂ら夫婦と四兄妹に一振づつ、後は誰にも渡っておらぬ刀が一振ある」

 里長はそう言うと、部屋の奥から一本の刀を持ち出してきた。

「奴が最期に打った特級品がこれだ。ヤンガスと違い、リンドウはそれぞれの刀に自分で名を付けた。儂の刀は『倶利伽羅刀くりからとう』と言う。単純に儂の名を冠した刀だ」

 里長は持ち出した刀を鞘から抜き放ち、部屋の照明の下に掲げた。鏡のように磨かれた刀身が鋭い光を放ち、思わず目を細める。

「この打刀はリンドウから託された。名は『龍胆りんどう』だ。自分の名を冠した刀だが、そういう名の花がある。花言葉は『勝利』『正義感』らしい」

 この里では花に言葉を持たせるらしい。独特な文化だな、とオレは思った。

「特に渡したい者がおらぬ故、儂が認めた者に渡せば良いと言われ預かった。先日、リンドウ達の話をしたときに思った。これはお主に渡すべき物だと」
「しかし、そんな国宝級の刀を……それに、オレには父さんからもらった春雪が」

「一つ思った事がある。トーマスもそうだが、お主は我が里の皆よりも一回り背が高い。ということは、刀も短く感じるであろう? それに力もあり、この半年で更に鍛えられた。そして、春雪は短めでどちらかと言えば脇差しに近い刀だ。お主なら特にな。右手に龍胆、左手に春雪の二刀流も良いのではないか?」
「二刀流……?」

「勿論、状況による。一刀で戦うときは長めの龍胆、二刀の際に春雪を抜くのだ。二刀流は攻撃と同時に防御もできる、攻防一体の型だ」
「なるほど……しかしそんな大事な刀を本当に頂いても?」
「うむ、構わぬ。本人から託されたのだ、儂が勝手に決めたところで文句を言われる筋合いは無い。お主はもうこの里を代表する剣士だ」
「ありがとうございます。では、有り難く使わせて頂きます!」

 オレは恭しく龍胆を受け取り、ゆっくりと抜き放った。
 刃紋は「逆丁子さかちょうじ」というらしい。春雪より長く、ずしりとした重みがある。
 確かに、春雪はオレの体格には少し短い。龍胆をメインで使い、春雪を左手で扱う。強化術で剛力をかければ、片手でも全く問題なく振り回せるだろう。

「先日、遁術や剣術の指南書を渡したな? あれに二刀流の心得も載っておる故、目を通しておけ。あと、ヤンガスに手入れをしてもらうがよい。儂はその点素人だ」
「分かりました、ありがとうございます!」

 春雪と共に、国宝級の刀を腰に差す。突然の訪問で、とんでもないものを貰ってしまった。

「ヤンさんの所に預けに行こうかな」
「うん、ついていくよ」
「皆、師匠から大事なもの託されたね!」
「そうだな、素直に嬉しいな」

 ヤンさんの鍛冶場に着くと、オレは早速、龍胆を手渡した。

「おいおい、お前ぇとんでもねぇもん貰ったな……持つのも緊張するぞ……」
「春雪を左手に、二刀流で戦ってはどうだとアドバイスを受けました」
「そうだな。確かに春雪は長さで言うと脇差に近けぇ。この刀があれば脇差として使うべきだ。シュエンも柳一文字と一緒に二本腰に差してたからな。よし、伝説の刀匠の刀だ。責任持って仕上げとく」
「よろしくお願いします!」

 ヤンさんは緊張の面持ちで、恭しく両手で龍胆を受け取ると、奥に消えていった。
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