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第二章 リーベン島編
突然の来客
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更に半年が経ち、俺たちは十九歳になった。この島で季節が一巡し、今は緑が目に眩しい初夏だ。
冬の厳しい寒さを和らげてくれたミオンさんのシルクシャツは、夏の汗ばむ陽気の中でも肌にまとわりつくことなく、すぐに乾いてくれる。
昼食後、オレたちは師匠たちと共に修練場で汗を流していた。
「お主らがここに来て、もう一年ほどか。この里でお主らの相手になる魔物はもうおらぬ様だ。それぞれの武器も、もう自分の物としておる」
「苦無は気に入った様だな。練気を糸状に繋げて振り回す発想はなかった」
メイファさんの言葉に、エミリーは得意げに鼻を鳴らす。この半年でオレたちの術の精度は格段に上がった。そして、相手の魔力量を測れるようにもなった。
「よし、お主らも他人の魔力を測れる様になった。平常時の魔力量から、そやつの能力を見て取る事はある程度可能だ。ただ、それだけで判断せぬ様にな」
そう言うと、里長は全身から魔力を全解放した。
「うぉっ! 突風みたいですね……」
肌を粟立たせるほどの凄まじい魔力の奔流。平常時に感じていたものとは次元が違う。
里長は「そして更に」と言って、その膨大な魔力をすっと霧散させた。
「全く魔力を感じなくなりましたね」
「左様、魔力は一人ひとり違うものだ、人探しには重宝する。ただ、見つかりたくない事もあるであろう。身を隠すことも必要だ」
なるほど。追われている時に魔力を辿られたら、絶対に逃げられない。この技術は必須だ。
「お主ら、儂等の魔力を見てどうだ?」
「質が違いますね……うまくいえないけど、密度が高いというか」
「量だけで言うと、ユーゴの方が多い。私達は年季が違う分、質がいい」
「例を出そう。例えば火遁を放つとき、練り込む魔力量が少なくては威力は弱い。魔力量が多くとも、質が悪ければまた弱い。量と質が高くとも、術の精度が低ければまた弱い。お主らはまだ若いが一年前から見ると質と精度も段違いだ。しかし、魔力、気力の質と、術の精度は、これからも修練で高めるように」
「「「はい!」」」
「あと、各種族で魔力の質が異なる。これは質が良い悪い、高い低いの話ではなく、全くの異質だと言うことだ。私達が青い眼を見ずとも、エミリーが仙族だと分かったのはその為だ」
メイファさんの補足に、オレたちは真剣に耳を傾ける。魔力と違い、他人の気力は測れない。
その時だった。
遠くから、何者かがこちらへ向かって飛んでくるのが見えた。
「おいおい、随分と懐かしい奴が来たじゃねぇか!」
ヤンさんが手を振る方向に視線を向けると、三つの人影が浮遊術で近づき、オレたちの目の前に音もなく降り立った。
真ん中には燃えるような赤髪に派手な化粧をした人物。その左には、流れるような金髪の男。
そして……右側に立つ、黒髪の男の姿に、オレは息を呑んだ。
「え……? 父さん?」
「シュエン! 久しぶりだな!」
間違いない。父さんだ。
家を出ていく前の不健康そうな姿ではない。目の下のクマは消え、顔色もいい。ただ、その瞳は凍るように冷たく、オレを射抜くように睨みつけていた。
「ユーゴか……」
「あら、あれがアナタの子供? アナタに似ず、可愛いわね」
赤髪の女……いや、女のような口調の男が、父さんに話しかけている。
「父さん! いきなりいなくなるからびっくりしたぞ!」
「あぁ、二度と会いたく無かったがな」
「え?」
何だって……?
「二度と会いたくは無かったと言ったんだ。金輪際、俺の前に姿を見せるな」
その言葉は、まるで氷の刃のようにオレの胸に突き刺さった。
「おぃ、シュエン! お前ぇ何言ってんだ!? 息子に冷てぇ上に、久しぶりに会う親友に見向きもしねぇのか!?」
「あぁ、懐かしいなヤン。お前が打った刀で色んな奴を殺せたよ。礼を言う」
「お前ぇ……どうしちまった……」
違う、あれは父さんじゃない。そう思いたかった。
「変わり果てて帰って来るとはの。お主、外で何をしてきた」
「父上よ、俺は別に呑気に里帰りしに来たわけじゃない。要件はこいつが言う、素直に喋ったほうがいい。この里で暴れられると困るだろう」
父さんの言葉を受け、赤髪の人物が前に出た。
「初めまして龍王さん。ワタシは『マモン・シルヴァニア』よ。この赤髪とファミリーネームでピンとくるでしょ?」
「ふむ、魔族が何の用だ」
「魔族ねぇ、半分だけ合ってるわ。ワタシは魔族と人族の間に産まれた『魔人』よ。聞いた事ないかしら?」
「知っておる。まさか、我が息子が従っておるとは思わなんだがな」
「なら良かった。じゃあ率直に言うわね。『翠の宝玉』を出してちょうだい」
翠の宝玉?
聞いたこともない言葉に、俺たちは顔を見合わせる。
「どこで聞いてきたかは知らぬが、この里にそんな物は無い。そもそも、それのせいで四種族は争っておったのだ。横の龍族に聞いておろう。儂等はその争いから降りた、そんな争いの火種をわざわざ移住先に持ってくる訳が無かろう」
里長の言葉に、マモンと名乗った魔人は派手なメイクを施した口元を歪めた。
「……なるほどね、一理あるわ。じゃあ、どこにあるの?」
「元の龍族の土地に埋めてきた。見つけるには骨が折れるであろうの。千年以上前の話だ、儂ですらどこに埋めたかなど覚えておらぬ」
「なるほどね……それは大変そう。でも、流石にアナタからは抜くのは難しそうね。宝玉同士が共鳴するなんて事は無いの?」
「知らぬ。他の宝玉を見たこともない故に」
「そうなのね。じゃあ、翠は後回しが良さそうね……で? アナタはさっきから何をブツブツ言ってるの? 気持ち悪いわね」
マモンの視線が、金髪の男に向けられる。
「……キミは話が長いんだよ。ボクにも話をさせて欲しいね」
「勝手に話せばいいじゃない」
長い金髪を右側に流した垂れ目の男が、優雅な仕草で一歩前に出た。
冬の厳しい寒さを和らげてくれたミオンさんのシルクシャツは、夏の汗ばむ陽気の中でも肌にまとわりつくことなく、すぐに乾いてくれる。
昼食後、オレたちは師匠たちと共に修練場で汗を流していた。
「お主らがここに来て、もう一年ほどか。この里でお主らの相手になる魔物はもうおらぬ様だ。それぞれの武器も、もう自分の物としておる」
「苦無は気に入った様だな。練気を糸状に繋げて振り回す発想はなかった」
メイファさんの言葉に、エミリーは得意げに鼻を鳴らす。この半年でオレたちの術の精度は格段に上がった。そして、相手の魔力量を測れるようにもなった。
「よし、お主らも他人の魔力を測れる様になった。平常時の魔力量から、そやつの能力を見て取る事はある程度可能だ。ただ、それだけで判断せぬ様にな」
そう言うと、里長は全身から魔力を全解放した。
「うぉっ! 突風みたいですね……」
肌を粟立たせるほどの凄まじい魔力の奔流。平常時に感じていたものとは次元が違う。
里長は「そして更に」と言って、その膨大な魔力をすっと霧散させた。
「全く魔力を感じなくなりましたね」
「左様、魔力は一人ひとり違うものだ、人探しには重宝する。ただ、見つかりたくない事もあるであろう。身を隠すことも必要だ」
なるほど。追われている時に魔力を辿られたら、絶対に逃げられない。この技術は必須だ。
「お主ら、儂等の魔力を見てどうだ?」
「質が違いますね……うまくいえないけど、密度が高いというか」
「量だけで言うと、ユーゴの方が多い。私達は年季が違う分、質がいい」
「例を出そう。例えば火遁を放つとき、練り込む魔力量が少なくては威力は弱い。魔力量が多くとも、質が悪ければまた弱い。量と質が高くとも、術の精度が低ければまた弱い。お主らはまだ若いが一年前から見ると質と精度も段違いだ。しかし、魔力、気力の質と、術の精度は、これからも修練で高めるように」
「「「はい!」」」
「あと、各種族で魔力の質が異なる。これは質が良い悪い、高い低いの話ではなく、全くの異質だと言うことだ。私達が青い眼を見ずとも、エミリーが仙族だと分かったのはその為だ」
メイファさんの補足に、オレたちは真剣に耳を傾ける。魔力と違い、他人の気力は測れない。
その時だった。
遠くから、何者かがこちらへ向かって飛んでくるのが見えた。
「おいおい、随分と懐かしい奴が来たじゃねぇか!」
ヤンさんが手を振る方向に視線を向けると、三つの人影が浮遊術で近づき、オレたちの目の前に音もなく降り立った。
真ん中には燃えるような赤髪に派手な化粧をした人物。その左には、流れるような金髪の男。
そして……右側に立つ、黒髪の男の姿に、オレは息を呑んだ。
「え……? 父さん?」
「シュエン! 久しぶりだな!」
間違いない。父さんだ。
家を出ていく前の不健康そうな姿ではない。目の下のクマは消え、顔色もいい。ただ、その瞳は凍るように冷たく、オレを射抜くように睨みつけていた。
「ユーゴか……」
「あら、あれがアナタの子供? アナタに似ず、可愛いわね」
赤髪の女……いや、女のような口調の男が、父さんに話しかけている。
「父さん! いきなりいなくなるからびっくりしたぞ!」
「あぁ、二度と会いたく無かったがな」
「え?」
何だって……?
「二度と会いたくは無かったと言ったんだ。金輪際、俺の前に姿を見せるな」
その言葉は、まるで氷の刃のようにオレの胸に突き刺さった。
「おぃ、シュエン! お前ぇ何言ってんだ!? 息子に冷てぇ上に、久しぶりに会う親友に見向きもしねぇのか!?」
「あぁ、懐かしいなヤン。お前が打った刀で色んな奴を殺せたよ。礼を言う」
「お前ぇ……どうしちまった……」
違う、あれは父さんじゃない。そう思いたかった。
「変わり果てて帰って来るとはの。お主、外で何をしてきた」
「父上よ、俺は別に呑気に里帰りしに来たわけじゃない。要件はこいつが言う、素直に喋ったほうがいい。この里で暴れられると困るだろう」
父さんの言葉を受け、赤髪の人物が前に出た。
「初めまして龍王さん。ワタシは『マモン・シルヴァニア』よ。この赤髪とファミリーネームでピンとくるでしょ?」
「ふむ、魔族が何の用だ」
「魔族ねぇ、半分だけ合ってるわ。ワタシは魔族と人族の間に産まれた『魔人』よ。聞いた事ないかしら?」
「知っておる。まさか、我が息子が従っておるとは思わなんだがな」
「なら良かった。じゃあ率直に言うわね。『翠の宝玉』を出してちょうだい」
翠の宝玉?
聞いたこともない言葉に、俺たちは顔を見合わせる。
「どこで聞いてきたかは知らぬが、この里にそんな物は無い。そもそも、それのせいで四種族は争っておったのだ。横の龍族に聞いておろう。儂等はその争いから降りた、そんな争いの火種をわざわざ移住先に持ってくる訳が無かろう」
里長の言葉に、マモンと名乗った魔人は派手なメイクを施した口元を歪めた。
「……なるほどね、一理あるわ。じゃあ、どこにあるの?」
「元の龍族の土地に埋めてきた。見つけるには骨が折れるであろうの。千年以上前の話だ、儂ですらどこに埋めたかなど覚えておらぬ」
「なるほどね……それは大変そう。でも、流石にアナタからは抜くのは難しそうね。宝玉同士が共鳴するなんて事は無いの?」
「知らぬ。他の宝玉を見たこともない故に」
「そうなのね。じゃあ、翠は後回しが良さそうね……で? アナタはさっきから何をブツブツ言ってるの? 気持ち悪いわね」
マモンの視線が、金髪の男に向けられる。
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番外編①~2020.03.11 終了
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