- Mix blood -

久悟

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第二章 リーベン島編

宝玉

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 エミリーはメイファさんの胸の中に顔を埋め、悔しさに震えている。トーマスは固く拳を握りしめ、その顔には今まで見たこともないほどの怒りが滲み出ていた。

「まさかシュエンの奴があの様な者らとつるんでおるとはの。エミリー、トーマス、すまなんだ。儂等から攻撃を仕掛ける訳にはいかんかった。あやつら三人に暴れられると、この里は壊滅的な被害を受けただろう。奴らから殺気を感じんかったゆえ手を出さんかった。分かってくれ」
「はい、僕らの力不足です……僕は、強くなった気でいただけだった……」
「うん、ここまでの力の差があるなんて……正直、ショックだよ……」

 二人の絞り出すような声が、修練場に重く響く。

「しかし、シュエンの野郎……どうしちまったんだ……」

 ヤンさんの呟きが、オレの心を代弁していた。家を出ていく前の父さんとは、まるで別人だった。ただ、顔色も良く、元気そうだったのが、唯一の……いや、本当に救いなのか? オレにはもう分からなかった。

「トーマスお主、仙人せんじんに『昇化』したな。その緑色の眼がその証だ」
「え? 僕、眼の色が変わってるんですか?」
「あぁ、あの魔人に斬りかかる前にな。あの時あいつに何をされたんだ?」

 オレの問いに、トーマスは右手で頭を押さえ、苦痛に顔を歪めた。

「……分からない。いきなり頭の中に、僕の村の人たちが溶岩から逃げ惑っている光景が……あの魔人の甲高い高笑いと共に、何度も……何度も……! 僕は、あの魔人を絶対に許さない……まさか、怒りで昇化するなんて……」
「あの魔人の記憶をトーマスに映したってことか? そうえば、記憶がどうこう言ってたな……」
「儂から何かをのは難しいと言うておったの。まさかとは思うが、記憶を抜き取ったり、人に見せたりできるのかもしれぬな……少なくとも、抜き取るには接触が必要という事か」
「もし、記憶の操作も出来るとしたら、シュエンさんの豹変ぶりも頷けますね……」

 トーマスの言葉に、一筋の光が見えた気がした。

「なるほどな。そうでも無けりゃあいつの変わり様にゃ納得出来ねぇ」
「それをしっかり確かめなければですね……」

 そうだ、確かめなければ。父さんは操られているだけかもしれない。そう信じたい。

「……私は、アレクサンドには全く敵わなかった……でも、諦めない」

 メイファさんの腕の中で、エミリーが震える声で呟いた。その瞳には、涙に濡れながらも、決して消えない復讐の炎が宿っていた。
 オレたちの目的は定まった。あの三人だ。

「なぁ、トーマス、エミリー。オレ達三人はゴルドホークを出る前から仲間だ。これからもそうだ、今まで通り三人で敵を倒そう。さっきみたいに一人で飛び込むなんて事はもうやめような」

 オレは二人の顔をまっすぐ見て言った。

「そうだね……冷静さを失うと仲間に迷惑をかける……約束するよ」
「うん、ごめんよ。頭に血が上っちゃった……」

 オレの言葉に、二人は少しだけ落ち着きを取り戻したように見えた。

 
「で、里長。宝玉ってのは何なんですか?」

 オレに促され、里長は宝玉について語り始めた。

 鬼族の『の宝玉』
 仙族の『あおの宝玉』
 魔族の『あかの宝玉』
 龍族の『すいの宝玉』

 各国がそれぞれを所持し、これを求めて永い間争ったらしい。

「四つ集めると何が起こるかは分からぬ。誰も集めた者がおらぬ故に。それゆえ様々な憶測がある。何でも願いが叶う、不老不死の力が手に入る、兵器の類が手に入る、等が言われておるな。何も起こらぬ可能性もあるが。しかし、最後は宝玉など関係なく争っておった。何故争いが始まったのか、誰も思い出せぬ程にな……さて、修行中にとんだ邪魔者が入った。精神的な疲れは身体の疲れより重い。今日はゆっくり休むが良い。明日の朝またここにな」

 確かに、三人の顔には深い疲労の色が浮かんでいた。オレたちはそれぞれの屋敷に戻った。

 
 ◇◇◇

 
 里長との夕食の席。重い空気が漂っていた。

「ユーゴよ。飯のあと執務室に来るように」
「執務室に? 分かりました」

 食事を終え、オレは里長の後について執務室へ向かった。部屋に入るなり、里長はオレに語りかけた。

「さて、先程魔人が聞いてきた話だが」
「翠の宝玉と言ってましたね。ここには無いと」
「うむ、そう言って帰した」

 里長は部屋の奥に下がると、丈夫そうな革袋を手に戻り、オレに差し出した。

「それがこれだ」
「え!?」
「あのような奴らに渡す訳が無かろう」

 凄いなこの人……ポーカーフェイスにも程があるぞ……。

「これが宝玉……」
「見ぬがよいぞ。あの魔人は人の記憶を読むことが出来ると思って良い。ゆえに皆には話さなんだ」
「それがいいですね」
「これをお主に託す。エミリーにそれとなく渡して、空間魔法に保管しておいてもらうのが良かろう。お主ならその『龍眼』がある。記憶を抜かれるなどという事はなかろう」
「分かりました」
「この宝玉は後回しにすると言うておった。我ながら上手く騙せたものよな」
「里長の嘘が上手すぎるんですよ……全く表情も変えずに嘘つくって、すごい芸当ですよ」
「内心ビクビクだったがの」

 そう言って悪戯っぽく笑う里長の顔に、少しだけ救われた気がした。
 宝玉を託され、オレは父さんの屋敷に戻った。始祖四種族が血で血を洗う争いを繰り広げたという代物を、今このオレが持っている。その事実がずしりとした重みとなってのしかかり、その夜はなかなか寝付くことが出来なかった。
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