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第二章 リーベン島編
三人の決意
しおりを挟む次の日の朝、誰よりも早く修練場に着いた。刀を振り、心を落ち着かせる。
少しすると、トーマスとエミリーがやってきた。
「おはよう。二人共ゆっくり休めたか?」
「いや、色んな事が頭をグルグル回って、あまり眠れなかったかな……」
「うん、私も」
「実は……オレもだ」
オレたちは顔を見合わせ、力なく笑った。エミリーとトーマスの仇、そして変わり果てた父さん。あの三人がつるんで目の前に現れたんだ。何も思わずに眠れるはずがない。
「エミリー、昨日里長から貰ったものがあるんだ。頻繁に触るもんじゃないから、空間の奥深くにでもしまっといてくれるか?」
「うん、わかったよ。二人の空間は分けてあるんだ、ユーゴの空間に置いとくね」
オレはエミリーに革袋を渡した。
「いつもありがとな」
「いいよいいよ」
受け取ったエミリーは、その革袋をじっと見つめた。まさか、何か気付いたのか? オレは焦りを抑えて問いかける。
「どうした……?」
「……今ふと思ったんだけどさ、私が死んじゃったら、空間の荷物どうなるのかな?」
「おいおい、縁起でもない事言うなよ……」
「仙族の人に会ったら聞いてみよ! あっ、ちょっと思ってた事があるんだけど、次は仙神国に行ってみない? 行って良いものなのか分からないけど……ジュリアに会いたいなぁ」
「オレは勿論かまわない。この島についてきてもらってる。むしろ行ってみたいな」
「僕も賛成、里長に聞いてみようよ」
修練が始まる前の束の間の時間、オレたちは他愛もない雑談で過ごした。
ほんの少しだけ、二人の顔に笑顔が戻った気がした。
遠くから、里長が後ろ手で組んでゆっくりと歩いてくるのが見えた。オレたちは雑談をやめ、その場で姿勢を正して一礼する。
「おはよう。その顔、眠れてはおらぬ様だが。あまり気を落とすな」
「おはようございます。僕達はもう少し修行させてもらった方が良いんでしょうか? 全く歯が立ちませんでした」
トーマスの声には、悔しさが滲んでいた。
「いや、お主らが冷静に本気で連携して掛かったなら、あのような結果にはならんかったと思うがの。冷静になれという方が難しい状況ではあったが」
里長の言葉に、オレたちは何も言い返せない。
少し遅れて、メイファさんとヤンさんもやってきた。
「おうおう、朝からしけたツラしてんじゃねーか」
「お主らはまだこやつらに教え足りぬ事はあるか?」
里長の問いに、二人は静かに首を振った。
「戦闘に関してはもう言うこたぁねぇ。あとは術の精度でしょう。俺ぁトーマスに刀鍛冶の技術を叩き込みてぇがな。武具の整備師としちゃ言うこたぁねぇ」
「本人にも言いましたが、エミリーを診療所の跡継ぎに欲しい。戦闘に関してはありません。全てを叩き込んだ」
里長は二度、深く頷いて言葉を続けた。
「儂もない、ヤンガスの言う通り後は精度だ。お主らはここ半年だけ見ても急成長した。先程も言うたが、お主らが冷静に連携が取れれば昨日の三人に負けることは無かろう」
「私も同じ見解だ。あれだけ冷静さを欠けば誰でもあぁなる」
「信じられねぇ事に、お前ぇらまだ二十歳にもなってねぇときた。凄ぇことだぞこりゃ」
師匠たちの言葉が、オレたちの心に染み渡る。確かに、ここに来て一年で、オレたちの力は何十倍にもなったように感じる。この三人がそう言うのなら、それは勘違いではないんだろう。
「その通り。他種族間の子というのはここまで能力が高いのかと感心する。魔人も三十代くらいであろう……エミリーは仙族譲りの高い能力があり、トーマスにおいては、出生が特殊で基礎能力が高い上に昇化までしおった。末恐ろしい」
あの魔人、マモンは三十代。対等な関係だとすれば、とてつもない強敵だ。
「昨日の三人だが、今すぐ世界をどうこうしようという感じでは無さそうだの。宝玉の話をどこぞで耳に入れて、興味本位で探しておる様に感じた。本物の馬鹿ならこの島についた時点で暴れ回っておったろう。里の民も、殺気も何も感じんかったゆえ素通りさせたはずだ。シュエンがおったのもあろうがの。我が里は観光に来るものを咎めはせん」
「僕達も世界を回りながら力をつけて、奴らを探すのもいいのかもしれませんね。元々僕が旅に出た理由は世界を見て回る事でしたから」
「私、仙神国に行ってみたい! アレクサンドが出ていった理由も聞けないかな?」
「確かにな。クズでおかしなやつだ、追放でもされたんじゃないか?」
メイファさんの言葉に、オレは昨日のアレクサンドのセリフを思い出した。「お祖父様にバレようがどうでもいい」。その言葉の裏には、何か確執があるのかもしれない。
「仙神国に行くのなら、儂が仙王に手紙を書いてやろう。魔力を込めておくゆえ伝わるはずだ」
「里長さん、ホントに? ありがとうございます!」
「では、そろそろここを出るのか?」
「そうですね。あと一週間ほどお邪魔してもいいですか? 二人共、それでいいか?」
「うん、寂しくなるけどね……」
「最後の一週間、しっかり家事仕事させてもらいます、親方」
「こっちとしちゃ、いつまででもいいがな!」
「分かった。では、各々準備をしておくがよい」
一週間後。俺たちは、この島を出る決意をした。
師匠から指導を受けられるのも、あとわずか。その日もオレたちは、日が暮れるまでみっちりとしごかれた。
◇◇◇
残された一週間、俺たちはそれぞれの屋敷で、旅立ちの準備を進めた。
お世話になった皆に挨拶をして回り、必要な物を買い揃える。あっという間に時間は過ぎていった。
そして最後の夜、里長の屋敷に皆が集まり、オレたちのための宴会が開かれた。
「今宵はユーゴ、トーマス、エミリーの三人と、彼らに縁のある者に集まってもらった。一年という短い間ではあったが、三人はこの里の一員として過ごした。皆の家族として過ごした。この家族を、皆で盛大に送り出したいと思う。では、各々楽しんでくれ」
『乾杯!』
里長の言葉を合図に、皆が盃を掲げ、大宴会が始まった。
テーブルには、この里の全ての料理が並んでいるのではないかと思うほど、豪勢な料理が所狭しと並んでいる。
トーマスとエミリーは、それぞれの屋敷で一年間共に汗を流した仲間たちに囲まれ、別れを惜しんでいた。
オレも世話になった人々にお酌をして回る。里長の息子のカイエンさんとコウエンさん、第二夫人のジンリーさん、そして三女のリーファさん。
ふと見ると、里一番の美人、ミオンさんが酌をして回っている。例のごとく、着物を大胆に着崩し、豊かな谷間が惜しげもなく披露されている。男たちの鼻の下が伸びきっているのは言うまでもない。
オレは里長の元へ向かった。
「里長、本当にお世話になりました。いきなり押しかけた孫と、龍族でもない二人に修行をつけてもらって……」
「混血の孫が、仙族と人族かどうかも怪しい者を連れてきたのだ。会わざるを得ぬであろう」
うん、そりゃそうだ。
「会うた時にも言うたが、お主の潜在能力は凄まじい。エミリーも今のトーマスもそうだ。これから更に強くなるであろうな。儂はそれが楽しみでならん」
「オレはもっと強くなりたいです。父さんを正気に戻して、必ず連れて帰ってきます」
「うむ、その時は儂も一言いうてやらねばの」
それぞれの師匠と、一時の別れを惜しむ。
夜が更けるのも忘れ、オレたちは皆と酒を酌み交わし、語り合った。宴はいつまでも続いた。
【第二章 リーベン島編 完】
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