- Mix blood -

久悟

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第三章 大陸冒険編

エマの夢

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 窓から差し込む柔らかな陽光と、キッチンから漂う香ばしい匂いで、オレは目を覚ました。

「あ、ユーゴ君。おはよう! もうすぐ朝ご飯ができるから、一緒に食べよう」

 昨夜はあれからエマの部屋に来て、一夜を共にした。トーマスも、ジェニーと夜の街に消えていったはずだ。

 広くはないが、綺麗に整頓された部屋だ。窓辺に飾られた小さな花瓶や、壁に掛けられた絵のセンスがいい。

「さぁ、出来たよ。食べようか」
「うん、わざわざありがとう。いただきます」

 一口食べると、その美味さに驚いた。
 家事ができて、料理も美味い。その上、超が付くほどの美人で、スタイルも抜群。出会いは最悪だったが、エマはとんでもなくハイスペックな女性だった。

「ふぅ、美味かった。料理の腕、すごいな。オレも今、仲間から料理を教わっているところなんだ」
「お口に合ってよかった。今日のお昼は、何が食べたい?」
「んー、オレはこの街をよく知らないからな。エマのおすすめの店に連れて行ってくれないか?」
「うん、分かったよ。美味しいお店があるんだ」

 その笑顔が、たまらなく愛おしい。
 まだ朝だ。外出するには少し早い。後片付けをしようとするエマを、後ろからそっと抱きしめた。

「もぅ……朝だよ……?」
「……別に、いいだろ?」
「……うん」

 オレ達は、再びベッドへと戻った。
 

 ◇◇◇
 

 汗だくだ。朝から少し頑張りすぎたかもしれない。軽くシャワーを浴び、オレ達はランチデートに出かけた。

 エマと腕を組んで、目的の店へと向かう。
 遠くから、微かに怒号のような声援が聞こえてくる。競馬場だ。あの二人、負けてないといいが……と思った瞬間、二人の魔力を感じた。オレは咄嗟に魔力を内に留め、エマを置いて路地裏へと身を潜めた。
 エミリーとジュリアが、何やら言い合いながらキョロキョロと辺りを見回し、オレが隠れている路地の前を通り過ぎていく。……どうやら、オレの魔力に気付いたらしい。

「どうしたの? いきなり隠れたりして」
「いや、ちょっとヤバい奴らがいたんだ……もう大丈夫だ」
「え……ユーゴ君が『ヤバい』って。どんな人達なのよ……怖いんだけど……」

 なぜ隠れてしまったのか、自分でもよく分からない。とりあえず、今はランチデートを楽しもう。
 

 入った店は、パスタやピッツァが美味しいと評判の店だった。エマのおすすめを頼む。

「へぇ、美味いな。ここの料理は、ルナポートの料理に少し似ている」
「ルナポートか。港町だよね?」
「あぁ、魚が新鮮で美味かったな。ここも、そこに負けないくらい美味いぞ」
「海の魚なんて、食べたことないや。私、この街を出たこともないから」
「でも、ここは交易都市だから、世界中の物が集まる。良いところだよ。ルナポートは海にも入れるんだ。海の水って、本当にしょっぱいんだ」
「いいなぁ。狩猟者ハンターって、色々な所に行けるんだもんね」

 いつか、エマを連れて旅に出る日が来るのだろうか。いや、まだ付き合ってもいない。気が早いか。
 エマは微笑むと、静かに、真っ直ぐな瞳でオレに語り始めた。

「私ね、夢ができたんだ」
「夢?」
「うん。今のお店をもっと大きくして、前の私みたいに、仕方なく娼館とかで働いている女の子達の受け皿になるんだ」
「……いい夢だな。それは、エマにしかできないことかもしれない」
「こんな夢を持てるようになったのも、ユーゴ君のおかげだよ。心まで荒んで、どん底にいた私を、まだ若いうちにここまで引き上げてくれた。本当に感謝してるんだ」
「いや、オレは何もしていない。むしろ、毎回変な奴らを店に連れてくる厄介者じゃないか……」

 サンディはもう来ないだろうが、ああいう輩はどこにでもいる。

「その全部を追い払ってくれてるでしょ? ユーゴ君は私の王子様なんだから。……王子様に相応しいお姫様になれるように、私も頑張るの。いつか、振り向いてもらえるように……」

 かっ……可愛いことを言うじゃないか……。

「エマって名前には、『多才』とか『博識』っていう意味もあるらしいぞ。エマは頭もいいし、色々と器用だ。その夢、きっと叶うよ。オレもできる限りサポートする」
「私の名前に、そんな意味があったんだ。両親の顔なんて覚えてもいないけど、いい名前を貰ってたんだね……」
「名前か……。オレは、ユーゴ・グランディール。母方の姓を名乗ってるんだ」
「私は『エマ・ベルフォール』だよ。さっきも言ったけど、両親のことは何も覚えていない。物心ついた時から、あの娼館で過ごしてきたから。この姓を口にしたのも、いつぶりか分からないくらい」

 えっ……? ベルフォール!?
 
 仙王から聞いた、ウェザブール王家の姓だ。エマは、その意味を知っているのだろうか。オレは、驚きの表情を隠せなかった。
 
「ん? どうしたの?」
「あ……いや、何でもない」

 仙王が与えた王家の姓など、平民が名乗れるはずがない。だとしたら、エマは王家の血を引いているということになる。

「……うん。その姓は、あまり人前で名乗らない方がいいかもしれないな……」
「そう? どうして?」
「え!? いや、どうしてってわけじゃないけど……その……オレだけが知っておきたい、かな……」
「え? ……ユーゴ君がそう言うなら、誰にも言わないよ。そもそも、名乗ることも滅多にないけどね。……両親が残してくれたのは、この名前と、このペンダントだけなんだ。デザインが気に入ってて、ずっと着けてるの」

 両親が残したペンダント。それは、王家ゆかりの品である可能性が高い。

 ランチデートは、あっという間に終わった。
 ゴルドホークにいた頃には考えられなかったが、オレも、女性とデートができるようになったんだな。トーマスにもいい相手がいることだし、これからは気兼ねなく出かけられる。

「ユーゴ君、今日はありがとう。すごく楽しかった! 私は、お店の準備があるから、もう帰るね」
「あぁ、分かった。今夜も、トーマスと顔を出すかもしれない。頑張ってな」
「本当に!? 絶対に、来てね!」

 可愛い……絶対に行こう。

 オレはホテルに帰り、今夜に備えて、ゆっくりと身体を休めることにした。
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