- Mix blood -

久悟

文字の大きさ
77 / 260
第三章 大陸冒険編

ジュリアとトーマス 2

しおりを挟む
 試着室のカーテンを開くと、トーマスは目を見開き、口を半開きにして、完全に固まっていた。

 やっぱり……おかしいだろ、この格好は……。

 アタシの思いとは裏腹に、トーマスは我に返ると、興奮気味に喋り始めた。

「ジュリア……すごく似合ってる……いや、想像以上だ……。よし、次は靴を選ばないと! いきなりハイヒールはきついだろうから、こっちのかかとの少し高いサンダルにしようか」

 サンダルに履き替え、言われるがままに店内をうろつく。
 まあ、歩けなくはない。

「ジュリア、ものすごく似合ってるぞl! せっかくだからペンダントもつけてみよう! あぁ、それから、もう三着くらい着てみないか!?」

 なんだか、トーマスの変なスイッチが入ってしまった……。

「いやぁ、ジュリア。お洒落をしないのは勿体ない。この服は、全部僕からのプレゼントだ。今からこれを着て、ランチに行こう」
「え!? こんな格好で、外に出るのか!?」
「あぁ。ジュリアは背が高い上に、スタイルが抜群に良い。そして美人だ。街中の男が皆振り返るよ」

 えぇ……水着で歩く方がまだマシだぞ……。
 
 トーマスには「変なスイッチ」が入ってしまっている。こうなったらもう、彼に従うしかないようだ。アタシは観念して、外に出た。

「良さそうな店を見つけたんだ。そこに行ってみよう!」

 買ったばかりのワンピースをそのまま着て、街を歩く。
 道行く人々に、チラチラと見られているのが分かる。中には、物凄く見つめてくる者もいる。

「ほら、皆がジュリアに見惚れている」
「……変なものを見る目で見られているんじゃないのか?」

 その時、身なりの良い太った中年男性が、アタシ達に近付いて来た。

「すみません、お時間よろしいですか? 私、こういうものですが」

 差し出された名刺には、モデル事務所と書いてある。

「もう、どこかに所属してらっしゃるのですか?」
「いや……まあ、所属はしている……かな?」
「そうですか……そりゃそうですよね……。もし、気が変わりましたら、是非ご連絡ください!」

 その後も、三人の似たような中年男性に声をかけられた。

「なんなんだ、これは。すごく面倒くさいぞ」
「モデル事務所が声をかけてくるくらい、綺麗だってことだよ。次からは無視すればいい」

 
 その後も数人の男たちを無視し、ようやく店に着いた。

「ここだ。ジュリアは、辛い食べ物は大丈夫だったよね?」
「あぁ、辛いものは好きだ」
「なら良かった。ここのスパイス料理が、美味しいらしいんだ」

 中に入ると、またしても店内の客が皆、一斉に手を止めてアタシに注目した。

「だから、なんでこっちを見るんだよ……変なものを見るみたいにさ……」
「僕も、今のジュリアが入ってきたら、見てしまうだろうね」

 運ばれてきたのは、スパイスの効いた肉料理やスープだった。

「これは美味いな。辛さがちょうどいい」
「だろ? ここの料理が好きなんだ。さっき、スパイスも買っておいた」
「これを野営で、しかも新鮮な肉で食べられるわけか。贅沢だな」

 鼻に抜けるような爽快感。アタシは、初めてのスパイス料理を夢中で堪能した。

「僕はこの後、特に何も考えていないんだかど、ジュリアは何か考えてたの?」
「いや、今日はカジノまで何をしようかと思っていたくらいだ。全く考えていなかったな。……むしろ、今夜はカジノをやめて、バーというところに連れて行ってもらいたいくらいだ」
「本当に? じゃあ、夜はバーに行こう。夕飯は『冒険野郎』でいいかな? それまで、この街をぶらぶらしてみよう」
 
 店を出て、二人で少し歩いてみた。
 これはデートってやつなのかな。アタシにとっては初めての経験だった。
 
「本当に、ここは賑やかだね。王都には行ったことがないけど、王都もこんなに賑わっているの?」
「いや、王都はもう少し上品な感じがするな。アタシは、こっちの雰囲気の方が合っている。いい街だ」

 レトルコメルスの中心。石造りの立派な建物が見えた。
 
「あそこが、領主の屋敷だね。大きいでしょ? ……あ、そうか。ジュリアはもっと大きな城に住んでいるんだったね……」
「あぁ、あのでかい城に住んでいるわけじゃないがな。仙神国に来たら分かるだろ? アタシには、あの国は合わない」
「そうなのか……。でも、ジュリアには、自分の中にブレない芯がある。格好いいと思うよ。尊敬する」

 ん……? なんだか、胸のあたりに違和感が。
 
「痛っ……」
「どうしたの? あぁ、慣れない履物を履かせてしまったから、靴擦れをしているね」

『治療術 再生』

 傷が綺麗に治った。龍族の回復術は、仙族の術とは効果が違う。これは教えてもらわないとな。

「もう大丈夫だ。慣れるまでは、靴擦れしてしまうかもしれない。……どうする? 着替えるかい?」
「いや、せっかくトーマスが選んでくれたんだ。このまま歩くよ」
「そうか。けど、無理はしないでね」

 まただ。胸のあたりが、きゅっと締め付けられるような感覚。なんなんだ、これは……。でも、すぐに治まる。
 
 このサンダルにも、少しは慣れてきたか。違和感もなくなってきた気がする。
 その後も、色々な話をしながら歩いた。

「あ、ここの紅茶は美味しいんだ。靴擦れのこともあるし、少し休憩しよう」
「ほう、アタシは紅茶にはうるさいぞ?」

 テラス席に座り、紅茶をオーダーする。
 すぐに運ばれてきた紅茶は、すごく良い香りだった。

「……あぁ、これは美味いな」
「でしょ? もちろん、ここの茶葉も買ってある。飲みたくなったらいつでも言ってね」
「抜かりがないな、トーマスは……」

 気配りから何から、本当に何でもできる。トーマスの完璧さに感心すると同時に、自分のだらしなさが少しだけ恥ずかしくなってきた。

「トーマスは、本当に何でもできる奴だな。アタシみたいな奴がパーティに入ってきて、イライラしないのか?」
「イライラ? どうして?」
「いや、アタシは何もできないだろ? 『なんで俺がしなくちゃいけないんだ』とか、思わないのか?」
「ジュリアが何もできない? 何の冗談? 戦闘能力なら、このパーティでトップクラスじゃないか」

 トーマスは、真っ直ぐにアタシの目を見つめて、そう言った。
 
「……いや、そういうことじゃなくてな……。料理は任せっぱなしだし、シャツもズボンも洗ってもらっている。さすがに、下着は自分で洗うが……」
「食材を狩ったり、テントを張ったりしてくれているじゃないか。そんなことは、気にしなくていいんだよ。できる者が、できることをすればいい」
 
「……お前は、聖人か何かだよ、本当に。……アタシも、たまにはシャツくらい洗ってみるかな。ママにも、アタシのだらしなさをずっと注意されてたからな。この旅で直すのも、いいかもしれない。いい手本も、すぐそばにいることだしな」
「んー、まぁ、新しい事にチャレンジするのは良いことだと思う。けど、人には向き不向きがあるからね。僕は、小さい頃から家のことをしていたから当たり前というのもあるけど、基本的に好きなんだと思う。アドバイスはするよ。とりあえず、頑張ってみようか」
「あぁ、よろしく頼む」

 何故だろう。ママに言われ続けても直らなかったことを、自分から「やってみよう」なんて言ってしまった。まあ、何事もチャレンジだ。
 
 トーマスと話すのは、楽しい。アタシが興味を持ちそうな話を、どこからか探り出してきては、楽しませてくれる。博識なこいつに、尊敬の念が芽生え始めていた。
 
「あぁ、色々ショッピングをしていたら、もうこんな時間か。あっという間だったね」
「え? あぁ、本当だ。もう、日が沈みかけている」
「歩いて帰れば、ちょうどいい時間だろう。帰るか」
「あぁ。二人も、多分『冒険野郎』にいるはずだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

処理中です...