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第四章 魔人の過去編
鬼人誕生 3
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オーステンは顔を上げ、頭領である姉ちゃんに向かって大声で話し始めた。
「オレはスズカを初めて見て、心を奪われた! こんなに強くて美しい女がいるのかと、あの時は戦闘どころじゃ無かった! オレがここに来たのは、ただスズカに近づくためだ!」
「……え?」
あまりの事に、オラァを含め皆があんぐりと口を開けて言葉も出ない。
当然、姉ちゃんもだ。鬼の形相で啖呵を切ることはあっても、こんな直球の愛の言葉を投げられたことなんて一度もねぇからな。
「スズカ! 何度もここに来ておまえと話して、更に想いは深まった。オレはおまえを愛している!」
「……えっ……ちょっと……待って、あんた……」
姉ちゃんは顔を真っ赤にしてどぎまぎしている。
オラァの知る限り、超がつく男勝りの姉ちゃんが男から言い寄られたことはねぇ。こんな乙女みたいな反応をする姉ちゃんを見るのも初めてだ。
オーステンは躊躇なくスズカに近づき、手を取った。
「スズカ! もうオレは国には帰らない! オレと一緒になってくれ!」
「はっ……はいっ……」
気迫に圧倒されたのか、それとも満更でもなかったのか、姉ちゃんは蚊の鳴くような声でそう返事をした。
「ぃよっしゃぁ――!!」
オーステンが拳を突き上げる。
一瞬の静寂の後、ドッと歓声が沸いた。
『ゥオォォ――!』
「おめでとうスズカ! オーステン! やりやがったな!」
皆が口々に祝福の言葉を二人にかけた。
人族だの鬼族だの関係ねぇ。この瞬間、オーステンは間違いなく、オラァ達の家族になった。
◆◆◆
姉ちゃんとオーステンが結ばれた事で、オラァ達の状況は少し変わった。頭領の旦那になる男の同族を襲う事に、皆が抵抗を感じ始めたからだ。
「おいおい、気にすんな。オレはスズカの旦那だぞ? おまえらのしてる事も分かって求婚したんだ。山賊はおまえらの生業だろ?」
オーステンはそう言って笑ったが、姉ちゃんが決断した。
「ウチらは本来、人族の町で生活がしたかったんだ。それを王都の門番に出鼻をくじかれて、ヤケになって今の生活をしてただけさ。この大所帯だ、もう今さら町で生活する気はないけど、略奪だけで食っていくのも潮時だろう。なぁオーステン、ウチらの国に来ないか?」
「行っても良いのか……?」
「あぁ、お前が居ても問題ない所がある。そこで皆で静かに暮らそう」
「分かった、オレはどこでもついて行くよ」
次の日から、住処を引き払い鬼国に向けて移動を始めた。
もちろん、差別が蔓延るソウジャに行く訳じゃねぇ。ベンケイ爺さんの所に向かう。
オラァ達鬼族の移動は、闘気を脚に纏い身体能力を爆発的に高めて走る。人族も補助術という技術で身体強化をして移動するらしいが、オラァ達の脚力には及ばねぇ。
一日目の野営。
「ハァ……ハァ……鬼族は速いな……合わせてもらって申し訳ない……」
オーステンが肩で息をしている。それでも、必死に食らいついてくる根性は大したもんだ。
「いや、分かっていた事だ。無理すんな。けど、それだけ速度が出ていれば問題ない。二ヶ月も見れば着くだろう」
焚き火を囲みながら、オーステンは他種族なりの悩みを吐露した。スズカに対して色々考える事があるらしい。
「……なぁスズカ、他種族間では子供は出来ないみたいだ。オレは問題ないが、おまえはどう思ってる?」
「ウチは誰かと一緒になれるとも思ってなかったからな、子供なんて考えたことも無かったよ。正直どうでもいいさ」
「……そうか、それを聞いて安心したよ。それと、これが一番の問題だ。おまえは長寿族だ、千年以上生きるんだろ? オレは生きてもせいぜい百年だ」
「そうなのか。……仕方ないだろうそれは、悲しい事だけどな」
姉ちゃんが寂しげに目を伏せる。寿命の差はどうしようもねぇ。
「でもな、一つ方法があるんだ。オレと一緒にここに来た、眼が緑色の隊長がいたのを覚えてるか?」
「あぁ、お前らの隊の頭領だろ? 強かったね」
「あの人は『昇化』した人族だ。一つの道を極め、昇化すれば寿命が伸びるんだ。オレは今以上に鍛錬を積んで必ず昇化してみせる。そしていつまでもおまえと幸せに暮らしたい」
オーステンの目は本気だった。
姉ちゃんは、オーステンのこの正直で真っ直ぐな所に惹かれているんだな。頬を染めて、嬉しそうに頷いていた。
その後もオーステンは必死についてきた。
鬼族以外の種族では闘気は扱えねぇから、走り方を教える事は出来ない。かと言って、オラァ達は人族の戦闘法を知らねぇから、指導することも出来ない。
オーステンは剣を使うが、オラァ達の武器である薙刀に興味を持ったようだ。
「今から行く所には薙刀術の創始者で、オラァ達の師匠がいるんだ。お前ぇもそこで指導してもらうといい。昇化の糸口になるかもしれねぇ」
行きと違い、迷う事が無かった事もあり、一ヶ月半で目的地に着いた。
「爺さん! 帰ったぞ!」
「おぉ、おかえり。出て行ってから一年と少しか? えらく早かったな。……ん? 人族を連れて帰るとはな」
ベンケイ爺さんが目を丸くする。
姉ちゃんはモジモジしながら報告した。
「ウチの……旦那だよ」
「ベンケイさん、初めまして。オーステンと言います。人族ですがスズカと一緒になりました」
爺さんは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに顔を綻ばせた。
「そうか、あのスズカがのぉ。それはめでたい! ……では、ここに住むということか」
「あぁ、構わないか?」
「前も言ったじゃろ、ワシは構わんと。ここははみ出し者の楽園じゃ、種族など関係ないわ」
「よし、お前ぇら! 改めて祝いに姉ちゃん達の家を作ってやろうじゃねぇか!」
『オォ――!!』
ベンケイ爺さんとその弟子達は、長い間自給自足の生活を続けている。屋敷の改修や増築はお手の物だ。
弟子達の指導で、オラァ達も木を切り出し、家を建てた。自分たちの住処も含めて何棟か建てた上で、一番出来の良かった家を二人に引き渡した。
「皆で建てた家だ、大事にするよ。みんなありがとう!」
こうして、ベンケイ爺さんの屋敷の周りに数件の家が建ち、小規模な集落が出来上がった。
オーステンは、ベンケイ爺さんやその弟子達ともすぐに打ち解けた。やはり天性の人たらしだ。
ある日、彼は真剣な顔で爺さんに頼み込んだ。
「ベンケイ爺さん、オレにも薙刀術を指導して貰えないか? 一つの事を極めると人族は昇化する事があるんだ。オレは、スズカと共に生きるために、薙刀術に全てを捧げたい」
「ほう……剣を捨てて薙刀を選ぶか。そうか、良い目をしておる。お前ならやり遂げそうじゃな。薙刀はワシが打ってやる。早速明日から始めるとするか」
「よろしくお願いします!」
オーステンは剣を使えるし魔法も使える。ただ、剣をこれ以上極めるにも師匠がいない。魔法も然りだ。
彼は愛する妻と同じ時間を生きるため、全てを薙刀術に捧げることを決めた。
「オレはスズカを初めて見て、心を奪われた! こんなに強くて美しい女がいるのかと、あの時は戦闘どころじゃ無かった! オレがここに来たのは、ただスズカに近づくためだ!」
「……え?」
あまりの事に、オラァを含め皆があんぐりと口を開けて言葉も出ない。
当然、姉ちゃんもだ。鬼の形相で啖呵を切ることはあっても、こんな直球の愛の言葉を投げられたことなんて一度もねぇからな。
「スズカ! 何度もここに来ておまえと話して、更に想いは深まった。オレはおまえを愛している!」
「……えっ……ちょっと……待って、あんた……」
姉ちゃんは顔を真っ赤にしてどぎまぎしている。
オラァの知る限り、超がつく男勝りの姉ちゃんが男から言い寄られたことはねぇ。こんな乙女みたいな反応をする姉ちゃんを見るのも初めてだ。
オーステンは躊躇なくスズカに近づき、手を取った。
「スズカ! もうオレは国には帰らない! オレと一緒になってくれ!」
「はっ……はいっ……」
気迫に圧倒されたのか、それとも満更でもなかったのか、姉ちゃんは蚊の鳴くような声でそう返事をした。
「ぃよっしゃぁ――!!」
オーステンが拳を突き上げる。
一瞬の静寂の後、ドッと歓声が沸いた。
『ゥオォォ――!』
「おめでとうスズカ! オーステン! やりやがったな!」
皆が口々に祝福の言葉を二人にかけた。
人族だの鬼族だの関係ねぇ。この瞬間、オーステンは間違いなく、オラァ達の家族になった。
◆◆◆
姉ちゃんとオーステンが結ばれた事で、オラァ達の状況は少し変わった。頭領の旦那になる男の同族を襲う事に、皆が抵抗を感じ始めたからだ。
「おいおい、気にすんな。オレはスズカの旦那だぞ? おまえらのしてる事も分かって求婚したんだ。山賊はおまえらの生業だろ?」
オーステンはそう言って笑ったが、姉ちゃんが決断した。
「ウチらは本来、人族の町で生活がしたかったんだ。それを王都の門番に出鼻をくじかれて、ヤケになって今の生活をしてただけさ。この大所帯だ、もう今さら町で生活する気はないけど、略奪だけで食っていくのも潮時だろう。なぁオーステン、ウチらの国に来ないか?」
「行っても良いのか……?」
「あぁ、お前が居ても問題ない所がある。そこで皆で静かに暮らそう」
「分かった、オレはどこでもついて行くよ」
次の日から、住処を引き払い鬼国に向けて移動を始めた。
もちろん、差別が蔓延るソウジャに行く訳じゃねぇ。ベンケイ爺さんの所に向かう。
オラァ達鬼族の移動は、闘気を脚に纏い身体能力を爆発的に高めて走る。人族も補助術という技術で身体強化をして移動するらしいが、オラァ達の脚力には及ばねぇ。
一日目の野営。
「ハァ……ハァ……鬼族は速いな……合わせてもらって申し訳ない……」
オーステンが肩で息をしている。それでも、必死に食らいついてくる根性は大したもんだ。
「いや、分かっていた事だ。無理すんな。けど、それだけ速度が出ていれば問題ない。二ヶ月も見れば着くだろう」
焚き火を囲みながら、オーステンは他種族なりの悩みを吐露した。スズカに対して色々考える事があるらしい。
「……なぁスズカ、他種族間では子供は出来ないみたいだ。オレは問題ないが、おまえはどう思ってる?」
「ウチは誰かと一緒になれるとも思ってなかったからな、子供なんて考えたことも無かったよ。正直どうでもいいさ」
「……そうか、それを聞いて安心したよ。それと、これが一番の問題だ。おまえは長寿族だ、千年以上生きるんだろ? オレは生きてもせいぜい百年だ」
「そうなのか。……仕方ないだろうそれは、悲しい事だけどな」
姉ちゃんが寂しげに目を伏せる。寿命の差はどうしようもねぇ。
「でもな、一つ方法があるんだ。オレと一緒にここに来た、眼が緑色の隊長がいたのを覚えてるか?」
「あぁ、お前らの隊の頭領だろ? 強かったね」
「あの人は『昇化』した人族だ。一つの道を極め、昇化すれば寿命が伸びるんだ。オレは今以上に鍛錬を積んで必ず昇化してみせる。そしていつまでもおまえと幸せに暮らしたい」
オーステンの目は本気だった。
姉ちゃんは、オーステンのこの正直で真っ直ぐな所に惹かれているんだな。頬を染めて、嬉しそうに頷いていた。
その後もオーステンは必死についてきた。
鬼族以外の種族では闘気は扱えねぇから、走り方を教える事は出来ない。かと言って、オラァ達は人族の戦闘法を知らねぇから、指導することも出来ない。
オーステンは剣を使うが、オラァ達の武器である薙刀に興味を持ったようだ。
「今から行く所には薙刀術の創始者で、オラァ達の師匠がいるんだ。お前ぇもそこで指導してもらうといい。昇化の糸口になるかもしれねぇ」
行きと違い、迷う事が無かった事もあり、一ヶ月半で目的地に着いた。
「爺さん! 帰ったぞ!」
「おぉ、おかえり。出て行ってから一年と少しか? えらく早かったな。……ん? 人族を連れて帰るとはな」
ベンケイ爺さんが目を丸くする。
姉ちゃんはモジモジしながら報告した。
「ウチの……旦那だよ」
「ベンケイさん、初めまして。オーステンと言います。人族ですがスズカと一緒になりました」
爺さんは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに顔を綻ばせた。
「そうか、あのスズカがのぉ。それはめでたい! ……では、ここに住むということか」
「あぁ、構わないか?」
「前も言ったじゃろ、ワシは構わんと。ここははみ出し者の楽園じゃ、種族など関係ないわ」
「よし、お前ぇら! 改めて祝いに姉ちゃん達の家を作ってやろうじゃねぇか!」
『オォ――!!』
ベンケイ爺さんとその弟子達は、長い間自給自足の生活を続けている。屋敷の改修や増築はお手の物だ。
弟子達の指導で、オラァ達も木を切り出し、家を建てた。自分たちの住処も含めて何棟か建てた上で、一番出来の良かった家を二人に引き渡した。
「皆で建てた家だ、大事にするよ。みんなありがとう!」
こうして、ベンケイ爺さんの屋敷の周りに数件の家が建ち、小規模な集落が出来上がった。
オーステンは、ベンケイ爺さんやその弟子達ともすぐに打ち解けた。やはり天性の人たらしだ。
ある日、彼は真剣な顔で爺さんに頼み込んだ。
「ベンケイ爺さん、オレにも薙刀術を指導して貰えないか? 一つの事を極めると人族は昇化する事があるんだ。オレは、スズカと共に生きるために、薙刀術に全てを捧げたい」
「ほう……剣を捨てて薙刀を選ぶか。そうか、良い目をしておる。お前ならやり遂げそうじゃな。薙刀はワシが打ってやる。早速明日から始めるとするか」
「よろしくお願いします!」
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