- Mix blood -

久悟

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第四章 魔人の過去編

悪しき思想

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 次の日の夕暮れ時。
 いつものように、ベンケイの家で皆と食卓を囲んでいた時の事だった。

「何か来たわね。……多すぎない?」

 箸を止め、窓の外を見る。ベンケイも同じ方向を睨んでいた。

「あぁ、これは鬼族じゃな。それも相当な数じゃ。さぁ、奴らの言い分を聞いてこようか」
「復讐しに来たか? どんだけいてもオラがぶっ殺してやる」

 テンが殺気立つ。

「まてまて、懐かしい魔力も感じる。まずは話を聞いてやろう」

 ワタシ達は村の入口へと向かった。
 そこには、地平線を埋め尽くすほどの大鬼族達がズラリと並んでいた。武器は構えていないけど、圧倒的な質量だ。

 ベンケイとテンを先頭に、ワタシ達はその大群と対峙した。
 群集の中から一人の大鬼族が前に進み出て、深々と礼をした。

「突然の訪問、お許しください。ベンケイ様、お久しぶりです」
「うむ、懐かしいのぉゼンキ。ワシが国を出る前に会ったきりかのぉ」
「はい……あの時は何も出来ず、申し訳ありませんでした。意見をしにいくと鬼王の側近達に阻まれ、声が届くどころか、私達の部下ごとソウジャの最外周付近に追い込まれました」
「そうか……お前も苦労したと見える」

 二人の間に流れる空気は、敵対するもののそれじゃない。旧知の仲のようね。

「で? 大鬼族様がぞろぞろと何の用だ?」

 テンが苛立ちを隠そうともせずに吐き捨てる。
 無理もない。傍目には、自分たちのボスが死んで国が滅びたから、強者である小鬼族の庇護を受けに来た、恥知らずの集団に見えてしまう。

「ここに居る者たちは、ソウジャの外周に追いやられた非大鬼族至上主義者達です。この村の皆様方は、鬼王の居城付近の出身で差別を受けられた方達でしょう。その外周に住む私達も、鬼国の幹部達に煮え湯を飲まされてきた者達です」

 よく見れば、大鬼族の巨体の影に隠れるようにして、少ないながらも小鬼族の姿が混ざっている。

 ゼンキの話によれば、巨大な岩山を背に建てられた鬼王の居城を囲むように、特権階級である幹部の息がかかった鬼族達が居を構え、更にその周りを高い石壁が囲んでいるという。
 ゼンキ達の様な、イバラキの方針に反発する非主流派の鬼族達は、その石壁の外に追いやられ、不遇な扱いを受けてきた。中には圧力に耐え兼ねて、生き残るために差別に加担せざるを得なかった者もいたという。

「ワシが出たあとの話か……テン、詳しく話を聞いてやろう」
「ふん、作り話だったらその首叩き斬ってやる」

 代表として、ゼンキ一人をベンケイの屋敷に招き入れた。小鬼族サイズの屋敷に大鬼族が入ると、天井に頭がぶつかりそうでかなり窮屈そうだ。

「対話の機会を頂きありがとうございます。そして、ソウジャを滅ぼして頂き感謝致します」

 屋敷に入るなり、ゼンキは床に膝を付き、深く平伏した。

「よいよい、頭を上げてくれ。皆座って話を聞こう」
「はい、ありがとうございます」

 サンキチ達が淹れてくれたお茶を啜りながら、話が始まった。

「テンさんと呼ばれてましたね。あなたは、大昔に鬼国を単身で追い詰めた子供に似てらっしゃる」
「似てるんじゃねぇよ、本人だ。オラの名前はシュテンだ」

 ゼンキは飲んだ茶を吹き出しそうになり、目を剥いた。

「え……? あれは五百年程前の出来事だと記憶しておりますが……」
「まぁ、色々あってのぉ、ワシらも信じられんが事実じゃ」
「なるほど……宝玉には時間を超える力があったと言うことですね」

 ゼンキはすぐに理解を示した。宝玉の伝承を知っているらしい。
 
「もしかして、アナタ達がこの子を封印したの?」
「はい……シュテンさん、あなたが何者なのか、どうしてソウジャを攻撃しているのか、何も知らされないまま、私達はただ命令に従ってあなたを抑えていました。私達外側の者を壁にして、ソウジャの内部の鬼族達は安全な場所に篭もり続けました。奴らは私達を、外部からの攻撃を守る肉壁くらいにしか思っていなかったのです」

 テンは何も言わずに、射殺すような目でゼンキを睨みつけている。

「その後、宝玉を渡されました。魔族と共に封印してこいとキドウに言われ、あなたを封印した。後からイバラキ達にあなたの両親が殺されたのが事の発端だと聞いた時、どれほど後悔したか……。でも私は動けなかった……イバラキ達、内側の特権階級に反乱を起こそうと思ったことは何度もあった。けれど……私の指示で多くの民を死なせる勇気がなかった……私は……ずっと逃げ続けた弱い男だ……」

 ゼンキの巨体が小刻みに震え、目から大粒の涙がこぼれ落ちる。

「お前は昔から優しい男だったのぉ。お前が本心で言っているのはワシには分かる」
「で? ソウジャが滅びたからベンケイ爺さんに尻尾を振りに来たのか? 今更?」

 テンの追及は厳しい。

「……私達は数日前のあの時、異種族のあなた達の強大な魔力を感じ取り、武装して外に出たのです。しかし、直後にベンケイ様の懐かしい魔力を感じ、全てを理解しました。これは復讐の合図だと」

「ワタシは違和感を感じてたのよ。鬼王の居城にあれだけ近づいて、あんなに派手に魔力を圧縮してたのに、誰も迎撃に出てこなかったから」

 ゼンキは一度頷き、ワタシに目を向け話を進めた。

「国の幹部達、石壁の中の鬼族達は今まで、魔物など外部からの襲撃を、全て私達外側の者に対処させていました。あの時に武装して迎撃態勢をとったのは私達だけです。奴らはいつも通り、私達に全てを押し付けて動かなかった。あなた達が直接鬼王の居城に術を放ち、壁の中の鬼族達に壊滅的な被害を与えた時、私達には皆に伝令する十分な時間がありました。そして……燃える内壁から逃げてくる鬼族達を、私達が全滅させました。一人残らず」

 それを聞き、テンが驚きのあまり身を乗り出した。

「……え? 鬼族幹部とその取り巻きはオラ達が壊滅させた。その周りの鬼族達も……お前らがやったのか……?」
「はい。奴らの腐った思想は、根絶やしにしなければならない。大鬼族至上主義者は、女子供に至るまで一人残らず討ち取りました。今外にいる鬼族は、奴らの理不尽な嫌がらせに耐え抜き、最後まで魂を売らなかった者達です」

 壮絶な粛清劇ね。
 ワタシ達他種族が口を挟むべき問題じゃない。これは鬼族同士の決着だ。
 この村の小鬼族は鬼国から逃げてきた者たち。外にいる数万の鬼族達は、逃げずに耐え抜いてきた者たち。それぞれの苦悩がある。その場の誰もが押し黙った。

 重い沈黙が流れる。
 それを破ったのは、他ならぬテンだった。

「オラは……ソウジャに住んだことはねぇ。両親を殺されたソウジャに対する憎悪は、五百年の間二つの宝玉に守られてきた。目を覚ましたのはついこの間だ。その長い間、あんた達はイバラキ達の嫌がらせに耐えてきたんだな……それでも、オラ達小鬼族を差別する事無く……」

 テンが背筋を伸ばし、ゼンキの前で膝をついた。

「生意気言って悪かった……謝るよ」

 ゼンキが慌てて制止する。

「頭を上げてくださいシュテンさん! 今こうしてベンケイ様の元に来たのは、諸悪の根源であるソウジャが壊滅したからです。ここの鬼族の皆様方と、新しい鬼族の世を作りたいからです。もう差別や嫌がらせを受ける心配はありません。皆で一からやり直しませんか? それが、外で待つ三万の鬼族達の総意です」

 腕を組んで目を瞑っていたベンケイが、ゆっくりと目を開けた。

「ワシらは明日から東へ進軍し、魔都を落とす。こちらのマモンが言うには、魔族が捨てた廃墟の町があるらしい。皆でそこに移住し、新しい国を造らぬか? そして、ワシらの頭領はこのシュテンじゃ。ワシでは無い」
「魔都を……! 分かりました。私ゼンキ以下三万の同胞、これよりシュテンさんに命を預け従います」

「……おいおい、こんな子供を勝手に頭領に担ぎ上げないでくれよ……」
「何度も言わせるな。お前は鬼族一の戦士じゃ。自覚を持て」

 外にいる三万の鬼族達はさすがに村には入りきらない。彼らは鬼国を捨ててきているから、各自野営の準備も万全みたいね。
 こうして、ワタシ達の軍勢は一気に膨れ上がった。
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