- Mix blood -

久悟

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第五章 四種族対立編

始祖四種族の真実

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 重苦しい沈黙が会議室を支配していた。
 誰も言葉を発さない中、父さんが静かに口を開いた。その声には、深い後悔が滲んでいた。

「マモンがあの魔神に興味を持っていたのは分かっていました。俺があれを復活させるなんて以ての外だと釘を刺し、ソフィアの救出の為に宝玉の力を試してみよう、と言う話になったんです。ですが……」

 父さんは拳を強く握りしめ、言葉を絞り出す。

「俺以外の三人、マモン、アレクサンド、サランは最初からあれの復活に向けて動いていた……そういう事ですね」

 信頼していたかつての仲間に、最初から利用されていた。その事実は、父さんの心をどれほど抉っているだろうか。
 仙王が、諭すように言った。

「さっきも言ったが、君は魔力障害を患いながらもあの魔神を抑えてくれた。気に病むことはない」

 その言葉に、オレも心の中で深く頷く。
 父さんと母さんが出会っていなければ、あの魔神がこの世界で何をしていたか分からない。今までの平和を守ってきたのは間違いなくこの二人だ。

「ソフィア、儂からもう一つ聞いて良いか?」

 里長が、張り詰めた空気の中で問いかけた。

「はい、何でしょう?」
「天界なる場所には神族と悪魔族がおると言うたな? その二つの種族は、儂ら四種族の祖ではないのか?」

 その問いに、ソフィアは少しの間、沈黙した。
 視線を伏せ、考えをまとめるように息を整えてから、ゆっくりと顔を上げた。

「……魔神ルシフェルがこの世界に降りてしまったのは、神族の責任です。もう私は向こうに帰る事は無い。全てお伝えします」

 母さんの瞳に決意の光が宿る。

「ただ、私は当時幼かった。伝えられるのは神族に伝わる神話のみです。少し、里長の考えとは異なる内容かもしれません」
「十分だ。聞かねば儂らが何者なのかなど、死ぬまで分からんかった事だ」

 里長に促され、母さんは神族に伝わる神話を語り始めた。
 その内容は、オレたちの存在意義を根底から覆すものだった。

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 遥か昔――『仙神せんしんゼウス』と『魔将ましょうサタン』が天界を二分する争いをしていた。
 ゼウスには『神龍しんりゅう』、サタンには『悪鬼あっき』という従者がいた。

 彼等は従者と共に、それぞれの手下となる種族『神族』と『悪魔族』を創り上げた。

 神族にはゼウスの眼の力の一部と、神龍の気力量と俊敏性しゅんびんせいが。
 悪魔族にはサタンの特異能力と魔力量、悪鬼の頑強な肉体がそれぞれに継承された。

 天界の争いは神族と悪魔族の代理戦争へと変わり、二種族は遂に創造主であるゼウスとサタンを超える勢力へと膨れ上がった。

 己が創り出した力に追いやられたゼウスと神龍、サタンと悪鬼は、最期の力で『下界』を創造し、それぞれが新たな種族と『封玉』を創り出した。

 ゼウスの仙族。
 神龍の龍族。
 サタンの魔族。
 悪鬼の鬼族。

 それぞれが封玉を持ち、互いに争う宿命を背負わされた。
 その四種族の争いが終わり封玉が揃った時、ゼウスとサタンの復讐が始まる――。

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「これが、神族に伝わる神話です」

 語り終えた母さんの声が、静まり返った部屋に響く。
 オレは喉が渇くのを感じた。復讐のための道具。それが四種族の存在意義だという。

「この話が事実である事は、天界の皆は分かっています。天界ではこちらを『下界』と呼んでいます。天界の二種族には下界に行こうと思う者はいませんし、方法も分からないのです」

 母さんは少し俯いた。

「なぜ私とルシフェルがこの世界に来れたのかは分からないけど……『下界の種族に会ったら正体を明かすな、復讐されるぞ』と、小さい頃からずっと言われてきました。でも、この世界を旅して分かったんです。天界の事なんて、誰も知らないって」

 当然だ。誰一人知らなかった事実だ。
 今日一番の、重く長い沈黙が流れる。

「やはり……我々は創られた種族であったか……」

 仙王が低い声で呟く。

「うむ……一切の記憶もなく五百人程でこの世界に放り出された。ご丁寧に住居まで用意されてな。儂らが宝玉を……いや、封玉を求めたのはそういう事か。深層心理に組み込まれていたのやも知れんな」

 この世界と始祖四種族の成り立ちを知り、仙王と里長の中で、永年の謎が全て繋がったようだ。

「我々は天界に復讐する為に創り出された。しかし……そう言われてもなぁ……」

 仙王が困ったように眉根を寄せる。

「うむ。それよりもまずは魔族と鬼族であろう。奴らもこの話は聞かされるであろうがの」

 里長が腕を組む。
 この話を聞いたマモンやアレクサンドはどう思うのか。退屈を何より嫌う奴等だ、自分たちのルーツに興味を持つのは間違いないだろう。

 皆が押し黙り、情報の整理に追われる中、父さんが口を開いた。

「あと聞きたかったのは、ミックス・ブラッドの事だ」

 父さんの視線がオレに向く。

「鬼人シュテンは魔力過多で自我崩壊した。魔人マモンは特異能力で魔力を吸収、放出できる為に、魔力過多による自我崩壊を免れた。……ユーゴは今後、大丈夫なのか? まぁ、いざとなれば俺が魔力吸収するが」

 オレの身を案じる父さんに、母さんは一つ頷き、優しく微笑んだ。

「大丈夫よ。エミリーちゃんは仙族と人族の間に生まれたけど、そもそも人族は仙族の因子を持ってる。だから『同系種族』の混血児なのよ。だから魔力の異常な増大はない」

 そして、母さんはオレを見た。

「ユーゴも同じ。龍族は神龍の因子、つまり神族の因子を持ってる。だから魔力の異常増大は無いわ」

 そうか、種族的な相性、あるいは起源が近いのか。

「……なるほどな。俺たちは同系種族だから、子が出来る可能性が高かったのか」
「えぇ。『出来ないとも限らない』って、あの時言ったわよね?」

 母さんが悪戯っぽく笑うと、父さんがばつが悪そうに視線を逸らした。少しだけ、場が和む。

 仙王は目を瞑り、深く思考を巡らせていた。
 誰も発言せず、その判断を待つ。
 やがて、仙王はゆっくりと目を開いた。その瞳には、王としての威厳が戻っていた。

「よく分かった。君がこちらにいなければ、何一つ対策を練る事が出来なかっただろう。ソフィア、礼を言う」

 仙王はソフィアに頷くと、全員を見渡した。

「良し。五年は奴らは動かん。これにて一時的に軍を解体する。しかし、王都の厳戒態勢は崩さぬように。いつでも動ける準備はしておくのだ」

 こうして、長い一日と、歴史を変える軍議は終了した。
 砦に常駐の軍を残し、オレたちは王都への帰路に着いた。
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