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第五章 四種族対立編
家族団欒
しおりを挟むその後は部屋でゆっくりと過ごし、夕暮れ時に城の門前で待ち合わせた。
「おまたせユーゴ!」
そこには、綺麗にドレスアップした母さんと、いつも通り地味な服を着た父さんが並んでいた。
母さんはクリーム色のワンピースに身を包み、髪も綺麗に結い上げている。一方父さんは、着慣れたシルクのシャツとズボンだ。
こんな日が来るなんてな。感慨深いな。
「どう? 似合う? 父さんと一緒に選んだの」
「うん、よく似合ってるよ。でもこれ、ほぼ母さんが選んだんだろ?」
「あら、よく分かってるわね。父さんほんと服に無頓着なのよね」
「俺には分からん。動きやすい絹のシャツが一番良いからな」
父さんが困ったように頭をかく。
母さんは、母親と言うよりは年の離れた姉の様だ。見た目は今のオレより少し年上くらいにしか見えない。
「さぁ、行こうか。オレたちがいつも行く大衆酒場だけど、味は保証するよ」
「そう、楽しみね!」
南門に向けて三人で歩き出す。
記憶にある最後のハイキングの時は、オレを真ん中にして手を繋いで歩いていた。
でも今日は、母さんを真ん中にして並んで歩いている。ふと横を見ると、オレの目線が一番高いことに気づく。いつの間にか、父さんの背も追い越していたんだ。
両親から見たら、オレはしっかり成長して見えているんだろうか。二人の横顔を眺めながら、石畳を踏みしめる。
「着いた、ここだよ」
「あら、冒険野郎。懐かしい名前ね」
「知ってるのか?」
「あぁ、俺たちも良く行ってたな。ここのチェーンは他の町にもあったからな。懐かしい、良い店を選んでくれた」
活気あふれる店内に入り、三人ともとりあえずビールを注文した。料理のチョイスは「息子のオススメで」と任された。
運ばれてきた黄金色の液体が入ったジョッキを掲げる。
「あんなに小さかったユーゴとお酒を飲めるとはね」
「あぁ……あの魔神が解放されたと言う事実はあるが、今日くらいは楽しんでも罰は当たらないだろう。マモンやアレクは、案外あの魔神を上手く扱う気もするしな」
「えぇ。シュエン……本当に、苦労かけたわね……」
母さんの声が湿っぽくなる。
いけない、今日はそういう会じゃない。
「はいはい! そんな空気じゃ酒が不味くなるって!」
「あぁ、そうだな。すまん」
「じゃあ、再会と未来に乾杯!」
「「乾杯!」」
ジョッキがぶつかる軽快な音が響く。
喉を通り過ぎるビールが最高に美味い。
そういえば、父さんが酒を飲んでいる姿を見るのは初めてかもしれない。オレの中に魔神を封じていたから、気を緩めるわけにはいかなかったのだろう。
目の下に常に張り付いていた濃いクマも、すっかり消えている。本当に良かった。
「ん! このソーセージ、パリッとしてて美味しい!」
「あぁ、本場のベールブルグの物には敵わないが、ここのも十分美味いな」
「へぇ……あぁ、そうか。二人とも王国内を旅してたんだもんな。オレも行ったことない所ばっかだなぁ」
二人には二人の冒険があったんだ。
「明日から向かうのはレトルコメルスでしょ?」
「あぁ、そうだな。何泊かしようって話だったな」
「良かったね、ユーゴ」
母さんがニヤリと笑う。
「良かった? 何が?」
「何がって、エマちゃんに会えるじゃない」
ドキリとした。
あっ……そうか、母さんオレの中にいたから全部知ってるんだ……!
エマへの感情も、あの時のやり取りも、全部筒抜けだったのか。
「おい! 趣味悪いぞ母さん!」
「フフフッ、あなた結構モテるのよね」
「おいおい、エマって誰だ?」
父さんが興味津々といった様子で身を乗り出す。
「ユーゴの良い子よ。また紹介してもらいましょ」
「ほほう、それは楽しみだ」
「まだ紹介する様な間柄じゃねーよ……勘弁してくれ……」
顔が熱いのは酔いのせいだけじゃないだろう。
でも、あのハイキング以来の家族団欒だ。明るい母さんのお陰で、いつも笑いが絶えない家庭だったのを思い出した。
これからは、いつでもこんな時間を過ごせるんだ。
一通り料理を楽しんだ後、オレは切り出した。
「そうだ。父さん、『春雪』はどうする? 元々、母さんが使ってた刀だろ?」
「でも、あなた今二刀流じゃない」
「ユーゴ、二刀流なのか?」
「あぁ、里長から、リンドウさんが打った刀を貰ったんだ。これだよ」
オレは異空間から取り出した『龍胆』を、鞘ごと父さんに渡した。
ずしりとした重みを受け取り、父さんが少しだけ鯉口を切る。
「これがリンドウ兄さんの……? おいおい、とんでもない物貰ったんだな……」
父さんも流石に驚いたようだ。伝説の刀匠が打った刀だ。
「メインはこの龍胆を使ってるから、もう一本ヤンさんから買おうかなと思ってる。父さんの置き手紙の通り、春雪はオレと里を繋いでくれた。母さんが帰ってきたなら、この刀は母さんが使うべきだ」
「そう? じゃあ、預かるわね」
オレは春雪を母さんに手渡した。
刀が本来の持ち主の元へ戻る。春雪自身も喜んでいるように見えた。
店を出ると、夜風が心地よかった。
「ふぅ……いっぱい食べたわね……ユーゴ、今から父さんとデート行ってくるわね!」
母さんが父さんの腕にギュッと抱きつく。
「あぁ、十五年振りだもんな。ゆっくり楽しんできてよ」
冒険野郎の前で二人と別れた。
二人は腕を組んで、繁華街の路地へと消えていく。その後ろ姿は、どこにでもいる仲睦まじい夫婦そのものだった。
楽しかった。
仲間たちと飲むのとはまた違う、家族ならではの安らぎがあった。
さぁ、城に帰ろう。
部屋に戻り、シャワーを浴びてベッドに横たわる。
天井を見上げながら、今日一日の心地よい余韻を噛みしめる。
本当に、いい一日だった。
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