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第五章 四種族対立編
Perch
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翌朝、オレは少し早めに起きて朝食を済ませた。
目的地であるレトルコメルスまでは、一泊の野営を挟む距離だ。今回は龍族の精鋭百人との大移動になる。
南門付近の広場には、既に屈強な龍族たちが集結していた。壮観な眺めだ。
「これより南東のレトルコメルスを目指す! 野営地は儂らが決める、それまでは全力で飛ぶように!」
里長の号令が響き渡る。
昼食は各自、携帯食を用意している。準備は万端だ。
合図とともに、百を超える影が一斉に空へと舞い上がった。風を切り、オレたちはレトルコメルスへ向けて飛び立った。
◇◇◇
野営を一泊挟み、眼下には懐かしい景色が広がってきた。まもなくレトルコメルスだ。
空を飛びながら、並走するトーマスに声をかける。
「もう春も終わりかけてるもんな。ここに来るのも約一年ぶりか?」
「そうだね、もう一年近く経つのか。本当に色々あったよね」
感慨深げにトーマスが頷く。
ゴルドホークを出て、最初に滞在したのがこの街だった。
「ホテルはシャルロット女王が連絡して取ってくれてるみたいだ。兵たちの検問も免除だって言ってたな」
さすがは龍王御一行様だ。
門衛たちは、空から降りてくる集団が何者か知らされないまま通すことになるんだろうな。
そして昼前、オレたちはレトルコメルスに到着した。
通行手形所持者用の入口から顔パス状態で町に入り、手配されていた宿泊ホテルの前に集合する。
「この宿を三泊抑えてくれているようだ。四日後の朝ここに集まるように! 各自好きに過ごすが良い! 解散!」
里長の豪快な解散宣言とともに、精鋭たちは三々五々と街へ散っていった。
オレたち四人は高級ホテルにチェックインを済ませると、早速ランチに向かった。
エミリーが鼻を利かせて選んだのは、スパイスの香りが漂う料理店だ。
「マシューに教えてもらってから、カレーがお気に入りなんだよね!」
「うん、僕もエミリーに教えてもらってから、自分で作るくらいハマってるんだ」
店内に入ると、香辛料の刺激的な香りが食欲をそそる。
何度か食べた事があるが、確かに美味かった。個人的にはトーマスが作ったカレーの方が好みではあるが、店の味も悪くない。
ナンのようなパンと食べても美味いが、やはりライスとの相性が抜群だ。腹にたまる感じが、ランチには最適だ。
運ばれてきたチキンカレーをスプーンで口に運ぶ。
スパイスの複雑な辛味と鶏肉の旨味が広がる。美味い。夢中で平らげた。ただ、やっぱりオレはビーフ派だな、と再確認する。
食後のコーヒーを注文し、満腹感に浸りながら一息つく。
「二人はこの後どうする? スレイプニルレースか?」
「そうだな、王都には無かったからな。一勝負してくるよ」
「夜はカジノだね! 腕が鳴るよ!」
エミリーとジュリアは目を輝かせている。
「……まぁ、お前らが無一文になる事はもう無いだろうしな……」
かつてのように路頭に迷う心配はない。オレは苦笑しながら言った。
「オレらはいつも通り飲みに行くか」
「そうだね。あ、ロンは元気かな?」
「明日あたりあいつの成長を見てもいいかなぁ」
あの少年がどう変わったか、楽しみだ。
「え、ロンとどっか行くの? 私も行く!」
「じゃあ、アタシも付き合おうかな」
エミリーとジュリアも食いついてきた。
「あいつの予定を聞いてからになるけど、多分大丈夫だろ。明日の昼過ぎにロビーに集合にするか。ロンは夜の仕事だろうから、朝は多分起きないしな……」
予定を決めて店を出ると、ギャンブラー二人とは別行動になった。
オレとトーマスはホテルに戻り、久々のサウナへ向かった。
熱気で満たされたサウナ室で汗を流し、キンキンに冷えた水風呂に飛び込む。
全身の血管が収縮し、思考がクリアになる感覚。こればかりは何物にも代えがたい快楽だ。
夜は、王都でも行ったいつもの冒険野郎へ。
チェーン店とはいえ、王都の店舗とはメニューが違うからここも楽しめる。地元の食材を使ったつまみを肴に酒を飲み、ほろ酔い気分で店を後にした。
「じゃ、エマの店に行くか」
「そうしよう」
繁華街の呼び込みを軽くあしらいながら、記憶にある場所へ向かう。
「あれ? 店名変わってるぞ?」
「ほんとだね、中で聞いてみるか」
看板が変わっている。とりあえず中に入り、店員に尋ねてみた。
「いらっしゃいませ!」
「すみません、ここの前の店はどこに行ったんですか?」
「あぁ、『Perch』? それなら中心地の方に移転したよ! ここを出て左に真っ直ぐ行ってみて!」
「そうですか、ありがとう」
少しのチップをカウンターに置いて外に出た。
そういえば、店を大きくしないといけない時期だと言っていたな。
『Perch』とは、鳥などの止まり木という意味だ。狩猟者や商人たちがひと休み出来る場所になって欲しいという願いと、籠の中で飼われていた女性が飛んできて、羽を休める事ができる場所という意味を込めたと、エマが語っていたのを思い出す。
教えられた通り、レトルコメルス東の繁華街、ソレムニーアベニューの中心地を目指す。
煌びやかなネオンが増えてきたあたりで、一際目立つ建物を見つけた。
「あ、これか。随分大きな店になったな……」
「うん、規模が違うね……」
重厚な両開きのドアをくぐる。
中に入ると、シックな音楽が流れる広々とした空間が広がっていた。高級感のあるボックス席が沢山並び、洗練された照明が店内を照らしている。かなり客が入っていて、キャストの女の子も多い。
「ほぉ……凄いな、大繁盛だ」
入口付近で圧倒されながら立ち止まっていると、若い黒服の男性が近づいてきた。
「いらっしゃいませ。お席にご案内いたしま……え!?」
黒服が目を見開く。
「ユーゴさん!?」
「ん? おぉ! ロンか! お前、背伸びたな!」
そこにいたのは、かつての小汚い少年ではなく、綺麗に正装した青年だった。
「でしょ? 成長期だから服がすぐにダメになるんだよ。席へどうぞ! エマさん呼んできますね!」
ロンは嬉しそうに笑うと、オレたちをボックス席に案内し、奥へと下がっていった。
「あの小汚かったロンが、爽やかな少年になったもんだな……」
「分からなかったよ……少年の一年はすごいね……」
トーマスとしみじみ話していると、店の奥から気品溢れる女性たちが歩いてくるのが見えた。
見とれる程に美しくなったエマ、そしてジェニーだ。
「ユーゴ君! 会いたかったよ……」
エマはオレの横に座るなり、躊躇なく腕に抱きついてきた。柔らかい感触と甘い香水が鼻をくすぐる。ジェニーはトーマス横に座り、再会を喜んでいる。
「一年近く来てないもんな……お店、相当大きくなったな。頑張ってるな、エマ」
「うん、ロン君も頑張ってくれてるし、他の黒服も鍛えてくれてるからね。見違えたでしょ?」
「あぁ、いい男になった。それよりエマ……元々綺麗だけど、見違えるほど綺麗になったな……」
お世辞抜きでそう思った。自信が人を美しくするというのは本当らしい。
「ホントに? うれしいな」
エマが花が咲いたように微笑む。
ウイスキーの水割りで、久々の再会に乾杯した。琥珀色の液体が喉を潤す。
「私ね、ジェニーと黒服にホールを任せて、この店のマネジメントに回ってるの。ユーゴ君たちみたいに大切なお客様が来られた時は出てくるけどね」
「そうか、こんな大きな店のオーナーだもんな。忙しそうだ……なかなか相手して貰えなくなるな」
「そんな事無いよ。みんな優秀だから私をフォローしてくれるの。だから前の小さい店より楽させてもらってるかな。今が一番楽しいかも」
「そうか、頑張ってるなぁ。オレも見習わないとな……」
あのこじんまりしたカウンターバーも隠れ家っぽくて良かったが、高級店で洗練されたエマが隣に座るのも悪くない。
思えば初めて会った夜も、ボックス席でこうして隣に座っていた。
エマがふと、オレの顔を覗き込んだ。
「ユーゴ君、両目の色が揃ったんだね」
「あぁ、そうなんだよ。バランス良くなっただろ?」
「不思議な色ね、深くて、すごく綺麗な色」
エマの指先がオレの頬に触れる。
甘い雰囲気に酔いしれようとした、その時だった。
『キャァァ――――!!』
店内に、女性の悲鳴が響き渡った。
目的地であるレトルコメルスまでは、一泊の野営を挟む距離だ。今回は龍族の精鋭百人との大移動になる。
南門付近の広場には、既に屈強な龍族たちが集結していた。壮観な眺めだ。
「これより南東のレトルコメルスを目指す! 野営地は儂らが決める、それまでは全力で飛ぶように!」
里長の号令が響き渡る。
昼食は各自、携帯食を用意している。準備は万端だ。
合図とともに、百を超える影が一斉に空へと舞い上がった。風を切り、オレたちはレトルコメルスへ向けて飛び立った。
◇◇◇
野営を一泊挟み、眼下には懐かしい景色が広がってきた。まもなくレトルコメルスだ。
空を飛びながら、並走するトーマスに声をかける。
「もう春も終わりかけてるもんな。ここに来るのも約一年ぶりか?」
「そうだね、もう一年近く経つのか。本当に色々あったよね」
感慨深げにトーマスが頷く。
ゴルドホークを出て、最初に滞在したのがこの街だった。
「ホテルはシャルロット女王が連絡して取ってくれてるみたいだ。兵たちの検問も免除だって言ってたな」
さすがは龍王御一行様だ。
門衛たちは、空から降りてくる集団が何者か知らされないまま通すことになるんだろうな。
そして昼前、オレたちはレトルコメルスに到着した。
通行手形所持者用の入口から顔パス状態で町に入り、手配されていた宿泊ホテルの前に集合する。
「この宿を三泊抑えてくれているようだ。四日後の朝ここに集まるように! 各自好きに過ごすが良い! 解散!」
里長の豪快な解散宣言とともに、精鋭たちは三々五々と街へ散っていった。
オレたち四人は高級ホテルにチェックインを済ませると、早速ランチに向かった。
エミリーが鼻を利かせて選んだのは、スパイスの香りが漂う料理店だ。
「マシューに教えてもらってから、カレーがお気に入りなんだよね!」
「うん、僕もエミリーに教えてもらってから、自分で作るくらいハマってるんだ」
店内に入ると、香辛料の刺激的な香りが食欲をそそる。
何度か食べた事があるが、確かに美味かった。個人的にはトーマスが作ったカレーの方が好みではあるが、店の味も悪くない。
ナンのようなパンと食べても美味いが、やはりライスとの相性が抜群だ。腹にたまる感じが、ランチには最適だ。
運ばれてきたチキンカレーをスプーンで口に運ぶ。
スパイスの複雑な辛味と鶏肉の旨味が広がる。美味い。夢中で平らげた。ただ、やっぱりオレはビーフ派だな、と再確認する。
食後のコーヒーを注文し、満腹感に浸りながら一息つく。
「二人はこの後どうする? スレイプニルレースか?」
「そうだな、王都には無かったからな。一勝負してくるよ」
「夜はカジノだね! 腕が鳴るよ!」
エミリーとジュリアは目を輝かせている。
「……まぁ、お前らが無一文になる事はもう無いだろうしな……」
かつてのように路頭に迷う心配はない。オレは苦笑しながら言った。
「オレらはいつも通り飲みに行くか」
「そうだね。あ、ロンは元気かな?」
「明日あたりあいつの成長を見てもいいかなぁ」
あの少年がどう変わったか、楽しみだ。
「え、ロンとどっか行くの? 私も行く!」
「じゃあ、アタシも付き合おうかな」
エミリーとジュリアも食いついてきた。
「あいつの予定を聞いてからになるけど、多分大丈夫だろ。明日の昼過ぎにロビーに集合にするか。ロンは夜の仕事だろうから、朝は多分起きないしな……」
予定を決めて店を出ると、ギャンブラー二人とは別行動になった。
オレとトーマスはホテルに戻り、久々のサウナへ向かった。
熱気で満たされたサウナ室で汗を流し、キンキンに冷えた水風呂に飛び込む。
全身の血管が収縮し、思考がクリアになる感覚。こればかりは何物にも代えがたい快楽だ。
夜は、王都でも行ったいつもの冒険野郎へ。
チェーン店とはいえ、王都の店舗とはメニューが違うからここも楽しめる。地元の食材を使ったつまみを肴に酒を飲み、ほろ酔い気分で店を後にした。
「じゃ、エマの店に行くか」
「そうしよう」
繁華街の呼び込みを軽くあしらいながら、記憶にある場所へ向かう。
「あれ? 店名変わってるぞ?」
「ほんとだね、中で聞いてみるか」
看板が変わっている。とりあえず中に入り、店員に尋ねてみた。
「いらっしゃいませ!」
「すみません、ここの前の店はどこに行ったんですか?」
「あぁ、『Perch』? それなら中心地の方に移転したよ! ここを出て左に真っ直ぐ行ってみて!」
「そうですか、ありがとう」
少しのチップをカウンターに置いて外に出た。
そういえば、店を大きくしないといけない時期だと言っていたな。
『Perch』とは、鳥などの止まり木という意味だ。狩猟者や商人たちがひと休み出来る場所になって欲しいという願いと、籠の中で飼われていた女性が飛んできて、羽を休める事ができる場所という意味を込めたと、エマが語っていたのを思い出す。
教えられた通り、レトルコメルス東の繁華街、ソレムニーアベニューの中心地を目指す。
煌びやかなネオンが増えてきたあたりで、一際目立つ建物を見つけた。
「あ、これか。随分大きな店になったな……」
「うん、規模が違うね……」
重厚な両開きのドアをくぐる。
中に入ると、シックな音楽が流れる広々とした空間が広がっていた。高級感のあるボックス席が沢山並び、洗練された照明が店内を照らしている。かなり客が入っていて、キャストの女の子も多い。
「ほぉ……凄いな、大繁盛だ」
入口付近で圧倒されながら立ち止まっていると、若い黒服の男性が近づいてきた。
「いらっしゃいませ。お席にご案内いたしま……え!?」
黒服が目を見開く。
「ユーゴさん!?」
「ん? おぉ! ロンか! お前、背伸びたな!」
そこにいたのは、かつての小汚い少年ではなく、綺麗に正装した青年だった。
「でしょ? 成長期だから服がすぐにダメになるんだよ。席へどうぞ! エマさん呼んできますね!」
ロンは嬉しそうに笑うと、オレたちをボックス席に案内し、奥へと下がっていった。
「あの小汚かったロンが、爽やかな少年になったもんだな……」
「分からなかったよ……少年の一年はすごいね……」
トーマスとしみじみ話していると、店の奥から気品溢れる女性たちが歩いてくるのが見えた。
見とれる程に美しくなったエマ、そしてジェニーだ。
「ユーゴ君! 会いたかったよ……」
エマはオレの横に座るなり、躊躇なく腕に抱きついてきた。柔らかい感触と甘い香水が鼻をくすぐる。ジェニーはトーマス横に座り、再会を喜んでいる。
「一年近く来てないもんな……お店、相当大きくなったな。頑張ってるな、エマ」
「うん、ロン君も頑張ってくれてるし、他の黒服も鍛えてくれてるからね。見違えたでしょ?」
「あぁ、いい男になった。それよりエマ……元々綺麗だけど、見違えるほど綺麗になったな……」
お世辞抜きでそう思った。自信が人を美しくするというのは本当らしい。
「ホントに? うれしいな」
エマが花が咲いたように微笑む。
ウイスキーの水割りで、久々の再会に乾杯した。琥珀色の液体が喉を潤す。
「私ね、ジェニーと黒服にホールを任せて、この店のマネジメントに回ってるの。ユーゴ君たちみたいに大切なお客様が来られた時は出てくるけどね」
「そうか、こんな大きな店のオーナーだもんな。忙しそうだ……なかなか相手して貰えなくなるな」
「そんな事無いよ。みんな優秀だから私をフォローしてくれるの。だから前の小さい店より楽させてもらってるかな。今が一番楽しいかも」
「そうか、頑張ってるなぁ。オレも見習わないとな……」
あのこじんまりしたカウンターバーも隠れ家っぽくて良かったが、高級店で洗練されたエマが隣に座るのも悪くない。
思えば初めて会った夜も、ボックス席でこうして隣に座っていた。
エマがふと、オレの顔を覗き込んだ。
「ユーゴ君、両目の色が揃ったんだね」
「あぁ、そうなんだよ。バランス良くなっただろ?」
「不思議な色ね、深くて、すごく綺麗な色」
エマの指先がオレの頬に触れる。
甘い雰囲気に酔いしれようとした、その時だった。
『キャァァ――――!!』
店内に、女性の悲鳴が響き渡った。
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