- Mix blood -

久悟

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第五章 四種族対立編

美しさの理由

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「離してよ! 痛い痛い!」
「うるせぇ! お前を連れて帰らねぇと俺が困るんだよ!」

 店内の優雅な空気を切り裂くような怒号。
 見ると、ロンが素早い動きで男の腕を極め、強引に店の外へと連れ出していくところだった。
 絡まれていた女の子は涙を流しながら、他の黒服に支えられて店の奥へと下がっていく。

「相変わらず、あぁいうのが来るのか」
「そうね。これはずっと付きまとう問題だと思う」

 エマが溜息交じりにグラスを揺らす。
 すると間髪入れず、今度はボックス席の一角が騒がしくなった。

「あそこには帰らないって言ってるでしょ! しつこいんだって!」

 女性キャストの悲痛な叫び声。
 周りの客は慣れたもので、眉を顰めつつもグラスを傾け続けている。だが、空気は確実に淀んだ。

「ロンはまだ外か。オレが行くよ」

 腰を浮かせかけると、エマがスッと片手を挙げて制した。

「ユーゴ君、大丈夫。座ってて」

 そう言い残し、エマはスッと立ち上がると、問題の席へと向かって歩き出した。その背中には、オーナーとしての凛とした威厳が漂っている。

「ジェニー、他にも追い払ってくれる様な奴がいるのか?」
「ううん、ロン君が鍛えてはいるけど、あのレベルを追い払うのは無理かな?」
「おいおい、じゃあやっぱりオレが行くよ」
「見てて。大丈夫だから」

 ジェニーも余裕の表情で微笑んでいる。
 え……どうするんだ……?

 オレがハラハラと見守る中、エマは男の前で立ち止まった。

「お客様、うちの女の子が何か問題でも起こしましたか?」
「あぁ? こいつを連れて帰るように言われてんだよ。痛い目見たくなけりゃ、女は引っ込んでろ」
「それはできませんね。お引き取りください」
「あぁ? 女のクセにいい度胸だな。その綺麗な顔をぶっ飛ばしてやろうか?」

 男が凄むが、エマは一歩も引かない。

「えぇ、お気の済むまでどうぞ」
「ナメやがって……!」

 男は拳をポキポキと鳴らし、殺気立って大きく振りかぶった。本気のパンチだ。エマの細い首なら折れかねない。

「エマッ!」

 オレが叫んだのと、男の拳がエマの顔面を捉えたのは同時だった。

『ガギィッ!!』

 鈍い音ではなく、硬質な衝撃音が響いた。
 エマは微動だにせず、涼しい顔で立っている。
 対して、男の方は――。

「アダァ――ッ!!!」

 ひしゃげた自分の拳を抱え、床を転げ回り始めた。

「おいおい……エマ……守護術を張ったのか……?」

 一瞬、エマの顔の前に薄い膜のような光が見えた。間違いなく守護術だ。しかもかなり硬質な。

「うん……なかなか良い守護術だね……」

 隣のトーマスも目を丸くしている。
 だが、エマの反撃はそこで終わらなかった。
 彼女はゆっくりと右足を上げると、鋭く尖ったピンヒールに、練気を纏わせた。

「ギィヤァァァ――!」

 男の絶叫が重なる。
 エマは容赦なく、その強化されたヒールを男の太ももに突き刺している。

「お帰りくださいますか?」

 氷のように冷たく、美しい声。

「わっ……分かった! 帰る! 帰るからぁッ!」

 男は半泣きになりながら足を引きずり、逃げるように店を出て行った。
 一瞬の静寂の後、客席からワァッ! と拍手と歓声が沸き起こる。

「皆様、お騒がせいたしました。引き続きごゆっくりお楽しみください」

 エマは舞台女優のように優雅に一礼すると、何事もなかったかのようにオレたちの席へ戻ってきた。

 オレとトーマスは、相当間抜けな顔でポカンとしていたらしい。席に着くなり、エマにクスクスと笑われた。

「おい、エマ……守護術に錬気術まで……いつの間に?」
「うん、ロン君に教わったの。ジェニーも結構強いよ」

 なんてこった……。オレたちが守る必要なんてないくらい、彼女たちは強くなっていた。

「ロン君はあと二年で騎士団に行っちゃうしね。私達だけでこの店を守れるように、みっちり鍛えてもらったの」
「もうすぐAランクの試験受けようかって話してるんだよね!」

 ジェニーが誇らしげに言う。
 狩猟者ハンター登録までしてるのか……。

「ねぇ、ユーゴ君とトーマス君。もし良かったらなんだけど、私達に術の指導してくれない?」
「あぁ……ちょうど明日の午後くらいから、ロンの成長を見てやろうかって話はしてたんだ。まだロンには言ってないけど、一緒に行くか?」
「ホントに!? 私達とニナの三人で大丈夫?」
「ニナ? あぁ、前の店からいる子だよな? 他の仲間二人も来る予定だし、三人増えるくらい何ともないよ」
「やった! じゃ、明日の午後にギルドに行くね! ロン君にも言っとくよ!」

 二人が以前より更に美しくなっている理由が分かった。
 ただ着飾っているだけじゃない。日々の鍛錬で筋肉がつき、身体が引き締まってスタイルが良くなっているからだ。自信と強さが、彼女たちを輝かせている。

 明日の約束をして、強く美しくなった二人と遅くまでグラスを傾けた。

 
 ◇◇◇

 
 翌日。
 朝はゆっくりと起き、ブランチの時間に食事を摂った。昼食は軽く済ませようと、部屋で食べられるようサンドイッチを作ってもらい持ち帰る。

 正午過ぎ、ホテルのロビーに降りると、すぐに三人が出てきた。
 皆、動きやすそうな軽装だ。もちろんオレもだが。

「さぁ、ギルドに行くか。お前ら、もうカジノは飽きただろ」
「ギャンブルに飽きるなんて事は無いよ!」
「あぁ、その通りだ。一つとして同じ勝負は無いんだよ」

 エミリーとジュリアが即答する。
 ギャンブラーの理屈だ。

「へぇ……まぁ、程々にな……」

 トーマスは何も言わず苦笑している。言うだけ無駄な事が分かっているからだ。

 狩猟者協同組合ハンターギルドに到着すると、既に四人は待っていた。

「ロン、今日は寝過ごさなかったな」
「もう昼過ぎだよ? さすがに起きてるよ」

 ロンが爽やかに笑う。

「あれ、女の子三人も? エマもいるじゃん!」
「あぁ、ロンの弟子だよ。そろそろAランクの試験受けようかって話してるみたいだ」

 エマ、ジェニー、そしてニナの三人は、オレたちに向かってビシッと一礼した。
 昨夜の煌びやかなドレス姿とは打って変わり、機能的な革鎧に身を包んでいる。腰には刀を差しており、その姿は完全に戦う者のそれだ。いつもの華やかな雰囲気とのギャップが新鮮だ。

「皆さん、よろしくお願いします!」
「三人とも刀を買ったのか?」
「うん、三級品でも下位のやつだけどね」
「オレたちもみんな刀使いだからな、良い指導が出来そうだ。じゃあ、中で依頼を受けてから向かうか」

 ギルドの中に入り、依頼書が張り出された掲示板へ向かう。
 その時だった。

 あれ……? あの後ろ姿は。

「里長、何してるんですか……?」

「おぉ、ユーゴ達か。四人で狩猟者ハンターの資格を取っておこうと思っての」

 そこには、里長と一緒に、シャオウさん、メイファさん、ヤンさんがいた。
 二枚アタッカーを擁する、間違いなく龍族最強、いや、世界最強クラスのパーティーだ。

「お前ぇらSSSトリプルエスってんだろ? そんな依頼ねぇから、とりあえずSSで我慢しようかって話してんだ」
「……この四人ならSSランクなんて余裕ですよ……」

 トーマスとエミリーも大きく頷く。

「この『ケルベロス』ってのに行ってみようと思うんだが、お前ら知ってるか?」
「いや、初めて見ますね」
「三つ首の犬らしい。まぁ、行ってみるかの」

 まるで散歩に行くような口調で、里長たちは受付へ向かいカードの手続きを始めた。

「あの四人の戦闘……見に行きたいね……」
「うん……後でじっくり聞こう」

 一方、事情を知らないエマたちは目を丸くしていた。

「ねぇ、ユーゴ君達SSSなの……? そんなランク初めて聞いたんだけど……」
「あぁ、死ぬかと思ったよ」
「すごい人達に教えて貰えるんだね……」

 彼女たちのモチベーションも上がったようだ。
 とりあえずは彼女達の実力を見て、苦手を指導するのがいいだろう。

「今日、Aランク昇格試験の依頼受ける?」
「うん! とりあえず見てみようよ」

 依頼書に目を通す。
 懐かしい名前が目に入った。
 ロックリザードの依頼だ。

「オレ達のAランク試験もロックリザードだったんだ。ロンもだよ」
「うん、俺の今の防具はその時のロックリザードの革で作ったんだ」
「へぇ、カッコイイね!」
「別に今日じゃなくても良いし、とりあえず受けとくか?」

 Aランク試験用の『ロックリザード』、練習用にBランクの『アルミラージ』とCランクの『スレイプニル』の依頼書を剥がし、受付カウンターへ向かう。

「おぉユーゴさん、久しぶりだな」

 顔なじみの受付職員が声をかけてきた。彼はチラリと里長たちの方を見て、声を潜めた。

「なぁ……さっきの黒髪の四人組は、あんたの知り合いか?」
「久しぶりです。あぁ、オレたちの師匠ですよ」
「あんたらの師匠か! なら納得だ。カード作っていきなりSSランク受けるって言うから、正気かと思ったがよ……」

 職員が額の汗を拭う。
 オレは苦笑しながら依頼書を差し出した。

「ロックリザードで、この三人のランクアップ試験を受けます。あとは様子見でBとCも」
「了解した。……師匠連中が暴れすぎて生態系壊さねぇように言っといてくれよ?」
「……善処します」

 さて、まずは彼女たちの実力拝見といこうか。
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